episode.1 -The Priestess-
episode.1-2「傍に」4/17
転校生とは注目を浴びるものだ。
有坂湊も例外ではない。
いや、ある意味例外かもしれない。
初日からクラスのアイドルと一緒に登校し、次の日から一週間学校に来なかったとなればインパクトとしては充分である。
普通であれば一週間で済むはずの転校生フィーバーは、一週間のブランクを経てますます加熱することとなった。
episide.1-2「傍に」
――なんか初日よりも視線が集まっている気が……。
一週間ぶりの学校。
登校してから朝のHRまでのしばらくの時間。
湊は落ち着かない気持ちで自分の席についていた。
玄関付近で声を潜めて話す多くの人を見かけたり。
教室に入るなり、一瞬ざわめきが起き不自然な静けさが訪れたり。
挙句の果てに購買にいったらおばちゃんにまでジロジロと観察された。
「インフルエンザ、ってことになってるはずなんだけどなぁ……」
もちろん学校側に「ちょっと怪物と戦ってたら暴走してその後一週間昏睡してました☆」なんて説明できるわけが無い。
というわけで桐条先輩の協力も得て、突然の長期休みの理由としては充分なインフルエンザを建前としたのである。
だが、好奇心の塊な月光館学園の生徒にはそんなありきたりな理由ではつまらないようで。
「いよう有坂!一週間ぶりだな。この一週間お前がどうして休んでるのかで盛り上がってたんだぜ〜?」
一週間たっても騒々しい人間は騒々しいままのようだ。
相変わらずの順平に率直な疑問を聞いてみる。
「どうして休んでるかって……どんな推論が出てたのさ?」
「ん〜、ゆかりッチと愛の蜜月をすごしてるとか、ゆかりッチに強引に迫ったらカウンター食らって怪我したとか、ゆかりッチに浮気がばれて処刑されたとか、ゆかりッチに……」
「わかった、もういい。全部岳羽がらみじゃん」
どうりで妙な空気が流れているわけである。
「仕方ねえんじゃん?お前がいない間、ゆかりッチずっと上の空だったし、放課後なったら部活にも出ないで速攻帰っちゃうし」
――部活休んでまでお見舞いに来てくれてたのか……。
申し訳ないやら、嬉しいやらで湊の表情が崩れる。
「んで、有坂さんよぉ〜。どの噂が本当なんですkウゴっギャ!!」
「どれも本当な訳ないでしょ!」
容赦ない鉄拳が飛び、変な悲鳴を上げながら順平が崩れ落ちる。
憐れ、立派な葬式に出してあげることにしよう。
その鉄拳の主、岳羽ゆかりがこっちに向き直る。
「おはよ、有坂くん。もう大丈夫なの?」
「おはよ。一週間もベッドに居ればね。全く問題なし」
「……やはり二人ベットの中で蜜月をsフンゴグッ!!」
下で何かが蠢いている。
余計なこと言わなきゃいいと思うのだが。
「ところで、有坂くんなにか運動部入るつもり無いの?」
何事も無かったかのように話を振るゆかり。
当然下ではまだ順平が蠢いている。
「何かやろうとは思ってるよ。いままでも剣道、ボクシング、フェンシング、棒術といろいろやってきたからね」
「どんだけ節操無くやってんのよ」
「武器は使えるに越したこと無いじゃない。次は弓あたりやろっかな?」
特に明確な意思もなく呟いた言葉だったが。
結果的に言質を与えるハメになると想像できなかったのは仕方ないといえるだろう。
「まあいろいろ回ってから……って岳羽?」
ゆかりがキラキラした目でこちらを見ている。
しかもその乙女チックな目と裏腹に背後にはただならぬ気配を感じる。
「有坂くん?」
「な、なんでございましょう」
思わず敬語になる湊。
本能が語っている、これは危険だと。
「いますぐこれに判子を!いや、もう拇印でいいわ!」
「何で!!ってかやめてカッター持ち出さないで血の拇印なんてやくざじゃないんだから!!」
やはりこの一週間の休みは岳羽ゆかりが原因か。
そんな当たらずとも遠からずなことを考えるクラスメイトたちを尻目に。
湊はゆかりの暴走への対応に四苦八苦していた。
「んで、弓道部の男子部が人不足で廃部寸前だから入部希望者をさがしてた、と?」
あの後自分に襲い掛かるゆかりから必死で逃げていると、予鈴が鳴りとりあえずの流血沙汰は回避した湊。
さすがにゆかりも落ち着いたのか、放課後になって状況をしっかり説明してくれる。
聞くところによるとゆかりは弓道部らしい。
「団体戦に出れる人数も居なくてね、男子部のマネージャーに勧誘頼まれてたのよ。なのになかなかいい人見つからなくって……」
人数少なくてもレベルは高いから誰でもいいってわけじゃないしね、と言いながらしんどそうな表情を浮かべるゆかり。
だが一転、笑顔で湊に問いかける。
いや、迫ると言った方がいいかもしれない。
「というわけで、入ってくれるよね♪」
「いや、見学にはいくけどいろいろ回って……」
「さっき『弓あたりやろうかな』って言ったじゃん」
「いやだから……」
「は・い・っ・て・く・れ・る・よ・ね?」
「……」
こうして、湊の弓道部加入が決まった。
別に弓道も選択肢の一つではあったけど、こんな強引に入れられるとはなあ、と嘆く湊であった。
その後ゆかりにつれられ湊は弓道場へ来ていた。
「あ、結子〜!それにミヤくん」
ゆかりが手を振る先には、ジャージ姿の男女ペアがいた。
男の方には見覚えがある。確か同じクラスの宮本だ。
「あ、ゆかり。隣の子が有坂くん?」
「でかしだぞ岳羽!俺の本能がこいつは出来る、って言ってるぜ!」
――ずいぶん都合のいい本能だな。
そんなツッコミを心の中でしていると、ゆかりが向き直って二人を紹介する。
「キミが入る弓道部の二人だよ。ミヤくんは知っているよね?こっちはマネージャーの結子。」
キミが入る、という部分をわざわざ強調して言うゆかり。
「ってかそこまで期待されても僕素人なんだけど……」
「大丈夫だ、お前には才能がある。あとは根性だけだ!」
「そうよ、心配しなくてもすぐ上手くなるって!」
どうやらこの二人も僕を逃してはくれないらしい。
「じゃあ早速だけどちょっと弓引いてみよっか?ミヤ、手本みしたげて」
「ラジャ!」
ゆっくりと的に向う宮本。
宮本のフォームはとても整っていて、普段の姿からは想像もつかない華麗さがあった。
ターーンッと、小気味よい音が辺りに響く。
「うわ、お見事」
湊は素直に感心する。
矢は的の中心部にピタリだ。
「さ、有坂くんもやってみよ」
結子が湊に弓を渡す。
さっきの宮本のフォームをイメージしながら矢を放つ。
放たれた矢は的の中心とは言えないが、しっかりと枠内を捉えた。
「…………」
「…………」
「…………」
「あ、当たった。よ〜しもう一本……ってどしたの、みんな?」
あたりは静寂につつまれている。
不思議そうな表情をする湊。
「いや、普通初めて弓引いた人って的に中るどころかまともに飛んでいかないんだけど……」
結子は本気で驚いているようだ。
「すげーよ!俺の目に狂いはなかった!」
「いや、連れてきたのはあたしだけど。……でも凄いね。」
宮本とゆかりも感心している。
「本当に素人なの……?」
結子は率直に疑問を尋ねる。
当然宮本と比べれば荒削りではあるが、湊のスキルは素人のものとは思えないと感じたのだろう。
「ん〜、昔鹿狩りを」
「いつの時代の人間よ!……ホント不思議な人よね」
ゆかりはツッコミをせずにはいられなかったが、鹿狩りという言い回しで、湊が伝えたかった意図は伝わったらしい。
「よし、俺も負けてらんねえ!練習だ練習!!」
「了解。じゃ、準備するね。」
宮本と結子がいなくなるのを見て、ゆかりは湊に耳打ちする。
「対シャドウに弓も使ってたわけ?」
「まあ何度かね。けど奇襲に使っただけだから普通の実戦に使えるレベルじゃないよ」
軽い口調で話す湊を見て、ゆかりは表情を曇らせる。
寮に来る前から、湊がシャドウに常に追われていたという話をゆかりは聞いている。
おそらく一人でシャドウと戦っていたのだろう。
――あんな、化け物と。
彼はどこまで大きい不安を背負っていたのだろうか。
自分の命を狙う存在から逃げる日々。
いつ終わるか分からないどころか、終わることがあるかどうかもわからない。
彼の日常は、そんな日常だったのだ。
「……岳羽、どうした?」
気が付くと、目の前には心配そうな表情でゆかりの顔を覗き込む湊がいた。
――強いね、キミは。人の心配ばっかり。
「ううん、なんでもない。私たちもいこ?」
せめて、今。
私たちが彼の不安をかき消せるように、信頼される仲間でいたい。
――彼の傍にいよう。
そう決意するゆかりであった。
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