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episode.0 -The Magician-
episode.0-4「新たな基礎(後編)」4/9night
多くの人間には自分の居場所というべきものが存在する。

自分の居場所があることで自分の存在を初めて積極的に認めることができる。

有坂湊は居場所を持たなかった。

ずっと一人でいた人間に、支えができたとき。

どれほど心強く思えるだろうか?




















episode.0-4「新たな基礎(後編)」




















「君か、おかえり」

教室で騒ぎ続ける二人を尻目にさっさと帰ってきた湊をでむかえたのは美鶴だった。
ソファーに腰掛ける美鶴の向いには、メガネをかけた男性の姿が見える。

「理事長、彼です」
「やぁ、話は聞いているよ。有坂湊くん、だったね」

確認しながらその男性は続ける。

「初めまして。月光館学園の理事長、そしてこの特別課外活動部の顧問をしている幾月だ。い・く・つ・き。言いにくいだろ?だから自己紹介は苦手だよ。下手すると噛みかねん」

微笑みながらそう語る理事長に一礼する。

「よろしくお願いします。ところで、今日いろいろ説明を頂けるとのことでしたけれど。」
「ああ、岳羽くんが帰り次第始めようと思っている。彼女にも君について説明しなければならないしね。……おっと、帰ってきたようだ」

玄関の大きなドアが開く。
その奥からいろいろ使い果たしたようなゆかりが現れた。

「ったく、順平のヤツ……ってあ、理事長、いらしてたんですか?」
「グットタイミング。岳羽くんも掛けたまえ。今後の活動について説明するとしよう」

その後幾月から現在の状況からこの部の目的まで様々な説明を受けた。

今この世の中には影時間が存在すると同時に、人間の精神を食らう生き物、シャドウがいること。
そのシャドウに精神を食われ、抜け殻となってしまった精神破綻者=影人間が増えていること。
この部の活動はシャドウの数をできる限り減らすこと。そして将来的には影時間を消すこと。
そして、人手不足のため適正をもつ人間を探していて、湊をみつけたということ。

「とまあこんなところかな。何か質問はあるかい?」
「一番大事なところですが……影時間を消す具体的な手段についてはわかっているんですか?」

ここだけはしっかり聞いておかなければならない。
何も分かっていないのならば自分がここへきた意味が無い。

「残念ながら、確実なところはまだだ。しかし、手掛かりがあるであろう場所はわかっている」
「それは?」
「我々がタルタロスと呼んでいる場所だ。残念ながら今までは人員不足で手が出せなかったが、君が来てくれたおかげでようやく捜索ができる」
「タルタロス……ですか。」
「言葉で説明するより見たほうが早い。明日にでも、君を連れて行こう」

そう口を挟んだのは美鶴だ。

「わかりました、是非お願いします」

影時間の殲滅へ、充分とはいえないが無策ではないということが分かり若干安堵する湊。
何をしていいかわからず、自分一人でひたすら耐えていたあの頃とは違う。
そう思えるだけで、自分への活力となる。

「もう影時間だな。せっかくだ、この寮の作戦室についても説明しておこう。ちょっと来てくれ」

美鶴が時計をチラリと見て、階段の方へ歩いていく。
ゆかりと幾月とともについていくと、四階の一室へ案内された。
大きなモニターやパソコン、その他様々な機器が設置されている。

「皆が現場に行くとき、僕がここで指揮を執ることが多い。というか、影時間に適正はあるけどペルソナは使えないからこんなことしかできないんだけどね」

苦笑しながら幾月が言う。

「ここの機器には影時間中でも使用できるように特別な処置がしてある。もし何か危険な状態になった時にはここに連絡を……」

そのとき、だった。
美鶴の説明を遮るように、警告音のようなものが聞こえてきた
赤く光るランプは、おそらく緊急であることを示している。

「な、これは……明彦か?」

スピーカーから男の声が聞こえる。

「美鶴か?面白いものを見つけた。今まで見たことも無いほど巨大なシャドウだ。ただ生憎追われててな……。もうすぐそっちにつく!」
「って真田先輩、じゃあシャドウもこっちに来るってことですか!?ちょっ・・・先輩、返事してください!」

どうやら通信は途絶えたようだ。
美鶴がすぐに指示を飛ばす。

「とりあえず、明彦の保護が先だ。岳羽、有坂、玄関へ向うぞ!理事長はここでバックアップをお願いします」













有坂達が玄関につくと、同時にあわただしくドアが開き、腕を抱えながら一人の男が倒れこんできた。

「明彦っ!!??」

心配そうに声をかける美鶴。どうやら左腕を骨折しているらしい。

「大丈夫だ。それより、来るぞ!」

ドアの奥から衝撃音が聞こえる。
もうすぐ近くまで来ているらしい。
その時理事長から通信が入った。

「桐条くん、聞こえるか?今玄関にシャドウの集団がいるが、屋上付近にもシャドウの反応があるようだ。そちら側の防御も頼む!」
「くっ……一箇所じゃないのか。しかたない、有坂と岳羽は屋上に向ってくれ!ここは私が食い止める!」
「了解」
「了解です!」










屋上にでると、明らかに異質な空気が広がっていた。
身の毛がよだつような寒気がする。

そして

空から巨大なシャドウが舞い降りてきた。

「……本命はこっちか」

湊は苦々しげにつぶやく。
十年前の事故以来、様々なシャドウに襲われてきたがこのような巨大なシャドウは初めてだ。

「有坂くん、下がって!」

湊を庇う様にゆかりが前へでる。
そして召喚器をとりだし、自分の頭を打ち抜こうと……

打ち抜こうとして、一瞬躊躇した。
その一瞬は、シャドウの攻撃が届くのには充分だった。
電気の塊が、ゆかりの手元に向う。

「キャア!」

ゆかりの悲鳴が響く。
そして彼女の召喚器が、床に転がった。

「チッ!!オルフェウス!!」

遅れて湊も召喚器を取り出し、自分の頭を打ち抜く。

――倒せなくても、なんとか救援がくるまで凌がなきゃ……ん?

使い慣れたペルソナ。
しかし何かがおかしい。
ペルソナだけじゃない。
自分の体も、燃えるように……熱い。

数秒後

もがくようにして

オルフェウスの中から

複数の棺桶を

首飾りのようにぶら下げた

何かが現れた

そして次の瞬間

目の前のシャドウが爆発した

――しにが、み……

薄れ行く意識の中、敵を破壊した『死神』が、ゆかりの方へ向うのが見えた。

「待て!」

しかし死神は止まらない。目の前のゆかりに照準を合わせ、牙をむけようとする。

「オルフェウス!そいつを戻せーーっ!!」

絶叫に似た命令は、湊の最後の精神力を発揮させる。
徐々にオルフェウスの中に死神が戻っていく。

元に戻ったオルフェウスが、その日の湊の最後の景色だった。

満月が輝く不気味な夜が、終わった。
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