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episode.0 -The Magician-
episode.0-3「新たな基礎(前編)」4/9daytime
長期休暇は学生にとっての天国である。
しかし短期だろうが長期だろうが終わりはやってくる。

そしてその終焉となる始業日というのは、一年で最も辛い一日の一つだ。
なにがあろうと従って布団から出たくなくなるのも、至極一般的なことである。

ただ、この男の場合その「一般的」に含まれるかどうかは甚だ疑問である。




















episode.0-3「新たな基礎(前編)」






















「あの〜、岳羽ですけど開けてくれる〜?」

部屋の中からは返事がない。
さすがに昨日が初対面の寮の仲間を無視するということはないだろう。

(桐条先輩に学校まで案内しろって言われたけど、まさか起きてすらいないんじゃ……)

「有坂く〜ん、起きてる〜?」

ちょっと強めにノックしながら声をかけてもやはり反応はない。
ため息をつきつつ何気なくドアノブに手をかけると、ガチャという音が鳴る。

「ガチャ?」

どうやら鍵は開いていたらしい。
これは好都合と中に入るゆかり。

――勝手に入るのはまずいかなぁ……でも仕方ないよね。

もし文句を言われたら鍵を閉めない方が悪いと開き直らせてもらおう。
完璧な盗人理論だがそれは気にせず、ベットの方へと足を進める。

――へ〜結構可愛い寝顔……じゃなくて!

「有坂く〜ん、学校遅刻するよ?」
「あと五分……」

ようやく反応があったが明らかなる寝ぼけ声である。

「いや、それ絶対五分で起きないし。もう、起きなさい!」

被っている布団を剥ぎ取る。
さすがに目が覚めるのが普通であるが

「あと十分……」
「って増えてるし!!」

こんどはうつ伏せになって枕に顔をうずめてしまった。

「ちょっ……仕方ないなぁ」

湊を抱きかかえるようにしてひっくり返す。
その時、ゆかりはベットに引きずりこまれた。

「なっ!!??」
「ふとん〜〜」

もちろん犯人は湊である。
しかしゆかりの反応は素早くかつ派手であった。
物凄い勢いで湊の拘束を解き、反撃に転じる。
結果的に、湊は頬の激しい痛みで起床することとなった。

「ふにゃ、いたたた……あれ岳羽さん。なんで僕の部屋に?それになんか顔赤いよ?」
「な、何でもない!それより早く準備して!今日は学校だよ!今時間は……」

そういいながら腕時計を確認する。
現在八時ジャスト。
ちなみにここから学校まで、電車に乗って約三十分。
そして朝のHRの開始時刻は八時半である。

「――!!??ヤバイ、遅刻ーっ!!」

その叫び声に自分の置かれている状況が理解できた湊は、慌てて学校に行く準備をした。









「危ない……はぁっ、ギリギリ、セーフ」
「なんで、新学期、早々、全速力で、走らなきゃいけないのよ……」

玄関先に張ってあったクラス分けをみると、湊とゆかりは同じ2年F組だった。
息を整えつつ教室のドアを開けると、もう全員そろっているようだった。

「は〜い、みんな。私が担任の鳥海です。……っとキミは転校生君ね」

自分が閉めたドアがもう一度開き、後ろから三十代行き遅れ独身女性っぽい声が聞こえる。

「今なんかものすごい失礼なモノローグが聞こえた気がするけど……まあいいわ。有坂くんよね?軽く自己紹介して頂戴」
「あ、はい。初めまして、有坂湊です。今月からお世話になりますが、よろしくお願いします」

教室からパラパラと拍手が聞こえる。

(おい、あいつ岳羽さんと一緒に登校してきやがったぞ、どういう関係だ?)
(まさか俺のゆかりちゃんに彼氏がっ!?)
(ちくしょーっ!転校早々なんてことを!!)

……拍手に加えて何やら不穏なヒソヒソ話も聞こえるが、とりあえず放っておこう。

「よし、上出来!じゃあこれから始業式だからみんな体育館へ移動して」












「よう!転校生!」

始業式が終わって教室に戻り帰る準備をしていると、ハイテンションな感じの男に声をかけられた。
見ると鍔つき帽子ににヒゲという妙な人間が。

「……誰?」
「お前の右っ側に座ってた伊織順平。順平でいいぜ!お前転校したてでなんもわかんねーだろ?俺っちがなんでも相談にのるぜ。かーっ、俺っていい奴!」
「まったく、相変わらずよね。少しは迷惑ってものを考えたら?」

一人自己陶酔に浸る順平に冷静につっこみをいれたのはゆかりだ。

「おーうゆかりッチ、また同じクラスになったな」
「もう飽きたよ。はぁ、こういうのを腐れ縁っていうのかな?」

ゆかりは湊のほうに向き直る

「けど、偶然だね。同じクラスになるなんて」
「そうだね。助かるよ」
「……俺と扱い違くない?ってかお二人さんよ〜。今日仲良く二人で登校してきたじゃん。クラス中お前らの話題で持ちきりだぜ?詳しい話聞かせてくれよ〜」

明らかにゆかりが慌てた様子になる。

「ちょっ、やめてよ。彼とはたまたま寮が一緒ってだけ。なんでもかんでもそんな話に結び付けないでよ……」

噂の広がる速さに不安になったのか、湊に釘をさす。

「昨日の夜のこと……誰にも言ってないでしょうね?」
「ん、もちろん」

昨日の銃の件だろう。
これがバレたら自分にだって火の粉がかかる。
だから当然秘密にしておくつもりだが……

――今のがとても語弊のある発言だってこと気付いてます、岳羽さん?

「へっ……昨日の夜って、え?」

順平が驚愕の表情を浮かべる。

「ち、違う!順平なんか変なこと考えてない?彼とは昨日初めて会ったばっかで何にもっ……」

何にもない、といいかけたところで今朝の出来事を思い出してしまい、途中で押し黙ってしまう。

「やっぱりゆかりッチ、大人の階段を……」
「だから違うってばーーっ!!??」

無事順平とゆかりの混乱が収まったころには、もう夕方になっていた。
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