episode.0 -The Magician-
episode.0-2「分岐点」4/8
――さて、なんだったんだろうな。
ファルロスとの10年ぶりの再会。
それはつまり歯車が再び動き出したということ。
しかしその滑車の全容は、全くわからない。
――とりあえず、自分の部屋を探さなきゃ。
そう思いロビーの方を振り返ると
「誰っ!!??」
階段付近に一人の少女が立っていた。
ピンクのカーディガンを羽織った、茶髪の少女。
しかしそのような情報は、今は関係ない。
重要なことは。
彼女がその手に銃を構えていることだ。
episode.0-2「分岐点」
震える手で銃を、否、銃の形をした召喚器を構える少女。
彼女も自分と同類のようだが、いきなり無抵抗にペルソナを召喚されては一溜りもない。
湊も素早く懐にある召喚器を……
「待て」
少女の後ろから声がかかる。
少女は安心したような表情で、その声のもとに駆け寄った。
湊も同様に安堵する。
仲裁に入った彼女こそが、自分をここに連れてきた張本人。
桐条美鶴であったからである。
「ん?」
その時、いままで消えていた寮の照明が唐突に光りだした。
時計の針は十二時を刺している。
「あの、この人は……?」
先ほどの少女が美鶴に尋ねる。
「彼は有坂湊。今日からこの寮に住むことになった。有坂、彼女は岳羽ゆかり。君と同じ月光館学園の二年生だ」
「え、この寮にですか?ってことは……」
先ほどの少女――ゆかりは怪訝な表情をする。
当然の反応といえるかもしれない。
この寮は影時間に適応するもの、ペルソナ使いのための寮であると聞いている。
そしてペルソナ使いはその辺にいるものではない。
「今日はもう遅い。詳しいことは明日の学校が終わった後にでも話そう。今日はもう休め」
「はい。これからよろしくお願いします」
二人に礼をする。
「岳羽、彼の部屋は203号室だ。案内してやってくれ」
「わかりました。じゃ、有坂くん。行こっか?」
先導するゆかりについていく。
階段を上り、二階の一番奥の部屋へと案内された。
「ここが有坂くんの部屋だよ。一番奥の部屋だからわかりやすいでしょ。あ、鍵はなくさないでね。すっごい怒られるから」
「……鍵なくしたことあるの?」
うっ、と言葉をつまらせるゆかり。
「あ、いや、その。い、一度だけよ。別にオッチョコチョイとか、そんなんじゃ……」
ちょっと恥ずかしがりながら目をそらす。
ずいぶんいろんな表情をする人。
それが湊のゆかりに対する第一印象だった。
――このコ、からかったら面白いかも。
そんなことも同時に思ってたりするのだが。
その予感通りの日常が進むというのは、すぐ先の話。
話を逸らすためか、ゆかりは別の話題を持ち出す。
「ところで寮に来る前、その……平気だった?」
影時間のことを言っているのだろう。
影時間とは、ほとんどの人間にとって存在しない時間。
一日が二十四時間であるのが常識であるが、それとは別に余分な一時間が存在する。
深夜十二時になるとそれは現れ、様々な物体の活動が停止する。
人間、動物、機械……。
先ほど寮の照明がついていなかったのもその為だろう。
適正があるもの以外はすべて、この時間には活動することができない。
それが影時間だ。
だが稀に適正が無いのにも関わらず影時間をイレギュラー的に体験してしまうときがある。
大抵そのような場合発狂、あるいは暴走して人格が破綻してしまう。
ゆかりは僕が適正無しに影時間を体験したのではないかと心配してくれてるのだろう。
もっとも、この上なく影時間に適応している湊にとっては無用な心配であるが。
「ああ、平気だった」
「……ふーん。確かに平気そうだね」
探るような視線を向けながらゆかりは言う。
だがすぐ表情を戻して
「んじゃ、これからよろしくね。あと……さっきのこと、学校のみんなには内緒だよ?」
なんてお願いをしてきた。
いきなり銃を持って現れたときの話だろう。
確かに、そんな話を学校ですれば危険人物認定は間違いない。
「うん、わかった。それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
自分の部屋に入り、ベッドに横になる。
いきなり銃を持つ少女とご対面なんていういらないハプニングのせいですっかり疲れてしまった。
それにファルロスの登場で先行きが不安になったこともある。
――けど、ようやく何かを変えられる可能性も出てきた。
明日美鶴から詳しく説明があるらしいが、この寮には三人のペルソナ使いがいるとのことだ。
おそらく美鶴とゆかり、そしてあと一人いるのだろう。
初めて、ペルソナ使いの仲間ができるのだ。
これでよい方向に行けるかもしれない。
変わっていく兄に何もできない自分が歯痒かった。
でも、ここにいればきっと何かをつかめる。
そんな希望を抱き、湊を眠りについた。
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