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episode.2 -The Empress and The Emperor-
episode.2-5「怨霊の徘徊」6/6
どこの学校にも七不思議、といった怪談は存在するものだ。
深夜になると増える怪談。
真夜中に音楽室から聞こえてくるベートーベン。
動く人体模型など。

月光館学園にも怪談なるものは存在していた。
それこそ、無数といえるほどの数の。
その数多くのうちの一つに状況が酷似した怪事件が起これば、瞬く間に噂が校内を駆け巡ることは当然の帰結といえる。





















episode.2-5「怨霊の徘徊」





















放課後、湊は校舎中を回っていた。
普段の湊であれば放課後は部活か生徒会、あるいは友人と一緒にすぐ学校を後にするのだが、今日は違った。
上級生下級生問わず手当たり次第に話しかけている。
目的は今学園で起きている怪事件の調査だ。
ここ最近、月光館学園の生徒が玄関前で意識不明の状態で倒れている、という事件が三件続いて起きていた。
生徒の間では昔から学園に伝わるという怪談に似ていることから怨霊の仕業じゃないか、などという噂でもちきりだ。
そして、何故そのような探偵じみた活動をしているかというと……

「昨日のこと忘れてないよね?真面目にやらないと許さないよ!」

放課後になるなりそんな台詞を残して勢いよく教室を飛び出していった、お化けの苦手な勝気少女のせいだったりする。
















それは昨日リビングに寮生全員が集まっていたときのことだった。

「そう言や、ゆかりッチさ。学生用のネット板とか、見てる?先週、E組の子が校門で倒れてんの見つかったっしょ?あれ、怪談に出てくる『オンリョウ』の仕業じゃねーかってサ」

順平がふと思いついたように話をふる。

「オンリョウとかマジやめてよ…ウソくさい!」
「その怪談というのは、どんな話だ?」

キッ、と目を鋭くするゆかりを尻目に真田が先を促す。

「ちょっ!?どうせ、作り話に決まってるし、き、聞かなくていいと思いますが!」
「興味ある。話してみろ」
「う……」

あわてるゆかりだが、真田にそう言われては反論のしようが無い。
それを見て順平はどこから持ち出したのか懐中電灯で自分の顔を照らし、話を始めた。

「どうも、こんばんは。伊織順平アワーのお時間です」

なんだそりゃ、と湊はツッコミを入れたくなるが話が進まなくなるので堪える。

「……世の中には、どーも不思議なことってあるようなんですよ。ご存知ですか?遅くまで学校にいると……死んだはずの生徒が現れて食われるよ、って怪談……」

何かのバラエティ番組のような口調で話す順平。

「私の知り合いに、まあ、仮にAとしておきましょうか。Aがね、言うんです。『伊織さあ、オレ、変なもの見ちゃった』って。あんまり真剣なもんだから、『なにが〜?』って、私聞きました、彼に。彼、首かしげながらね、『実は例のE組の子なんだけどね……事件の前の晩、学校来てるとこ見たよ』って言うんです!『うそだ〜、そんなんあるかい、うそだ〜』って、私、彼に言ってやりましたよ。E組の子、夜遊びするような人間じゃない。でも、彼、真っ青なんだ、顔。確かに見たって、ガタガタガタガタ震えてる……」

安っぽい順平の演技はさておき、怪談の内容は気になる。
前日の目撃談、そして次の日に玄関で意識不明で見つかる。
今朝方玄関前に倒れていた女生徒と状況的には酷似していた。

「……私、考えましたよ。そうなんだ、倒れていたE組の彼女ぉ?……食われたんですよ、死んだはずの生徒に!夜中に学校にいたから食われて、だから倒れていたんだ!…って。私、ぞくーっとしました。ドゥーーっと、冷や汗が溢れ出ました……」

ふと隣をみると、ゆかりが強張った表情で俯いている。
この程度の怪談でも怖がれるのはある意味得をしているのではないだろうか?

「世の中には、どーも不思議なことって、あるようなんですよ……まあ、全部私の推測なんですがね」

冒頭と同じ台詞を使って伊織順平アワーとやらは締めくくられた。

「どう思う、明彦?」
「調べてみる価値はありそうだな」

三年生組みは当然怖がりもせず冷静に話を分析する。
ゆかりは明らかに不満げだ。

「……こんな噂気にしても仕方ないと思いますけど?」
「ゆかりッチ、怖がっちゃって。お化けが苦手、っていうのはちょい情けないよな〜」
「な、情けないって言った!?い〜わよ、順平。調べようじゃないの!これからテッテーテキに怪談について調査して、報告し合おうじゃないの!」

――安い怪談だけじゃなくて安い挑発にまでのっちゃって……。

特に口を出していない湊だが、ゆかりのフォローをする気はさらさらない。
暴走型の人間を端から見るのは湊の趣味なのかもしれない。

「それは助かる、気味の悪い話だからな」
「じゃ、頼んだぞ、岳羽。あ〜、怖い怖い」
「……」

三年生コンビの台詞にいまさらながら墓穴を掘ったことに気付いたゆかりだった。
とまあそんなこんなで怨霊の正体を暴くべく、調査を開始したのである。
















――しっかしこんな適当な調べ方でもいろいろでてくるもんだね。

湊は集めた情報をメモにとりながらぼんやりと考える。
高校生のオカルト熱というのは今も健在らしい。
比較的関係のありそうな話から突拍子も無いものまで。

「友達に聞いたんだけど、今度はC組の子が倒れてたって……。また無気力症だったんでしょ?よ、よかった……自分のクラスじゃなくて……」
「ユーレイってのは確かに怖いけどさ、でも『モノ』にもよるぜ?カワイイ女の子の姿とかしてたら、結構まんざらでもないかも」
「何かあると思って調べてみたんだけど、ダメダメ、さっぱり分かんないよ。三人とも似たようなケースで倒れてるのに、学年も違う、クラスも違う。もひとつオマケに部活も違う。ついでに言えば調査も上手く進んでないしね。だって彼女らの友達、揃いも揃ってガラ悪いのばっかりでさ。そーゆー連中とは関わりたくないワケ」
「倒れてた娘の一人、ウチのクラスなんだけれど、家出みたいな事よくしてて、夜中に路上オールとかしてたみたいなの。だから、何か事件とかに巻き込まれたんじゃないかな……」
「私の妹のクラスでもどうやら被害者が出たらしいんだけど、やっぱりよく家出してたみたい。溜まり場とかで不良グループとつるんでたって話もあるみたいだし……、その辺りで何かあったのかもね」
「ネットで見かけたんだよ。ウチの学園に伝わる怪談話。不運にも学校で死を遂げた生徒が、オンリョウと化して人を食っちまうとか……って、んん?食われたら跡形も残らないよな……」
「……校舎に一番最後まで残ってるといつもと違う校内放送が流れるの。スピーカーからお婆さんのすすり泣く声がね。その声を聞いたら四十二秒以内に学校から出ないと……全身血だらけになって死んじゃうって!」

そしてもう一つ気になることがある。
E組の前の廊下にいた真面目そうな女生徒たちが話していた内容だ。

「山岸さん、休み始めてもう一週間になるよね……。大丈夫かな?」
「江古田先生はしばらく病欠、って言ってたからね〜。結構長くかかるのかも」

病欠している山岸という女生徒。
湊はこの名前に聞き覚えがあった。
山岸風花、まだ可能性の段階だが影時間の適正者である。
先日真田が荒垣にもらったリストを再確認したところ、彼女の名があった。
他にも候補者はいたのだが、イレギュラー的に影時間を経験した者ばかりで、ペルソナ使いは確認できていない。
山岸風花はコンタクトがとれず、まだ未確認だった。

――彼女が学校を休み始めたのは、最初に校門前で倒れている生徒が見つかった日の前日。……偶然か?

偶然なら、構わない。
だが偶然でないとしたら。
彼女が影時間適正者で、なんらかの形で影時間の関与を受けたとしたら?
明後日は満月だ。
急がないと、まずい。

「岳羽もなんかいい情報掴んでればいいけど……」

できれば満月になる前に決着をつけたいが、時間が無い。
冷静に考えると厳しくなる現状に、湊の表情は苦くなった。
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