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episode.1 -The Priestess-
episode.1-8「前夜祭」5/8
社長令嬢にとって、誕生日とは社交の場である。
盛大なパーティーが開かれ、参加者はここぞとばかりに自分の名を売り込む。
開催者側も同様だ。

言葉ではめでたいめでたいと言いながらも、誰も誕生日の少女を気にしてはいない。
他の誰もが羨むような誕生会は、本人にとってはこの上なく空虚な誕生会だった。

今年も例外ではない。
既に大人の仲間入りを果たしている彼女は様々な重要人物に挨拶をし、会合をする。
それが自分に与えられた役目なのだから、と。





















episode.1-11「前夜祭」





















「遅くなってしまったな」

昼に始まった美鶴の誕生会、いや大人の近況報告会は終了時間が延びに延び、結局彼女が帰寮したのは夜十一時だった。
美鶴は寮の玄関の大きな扉を開ける。
珍しく、リビングの電球は灯りがともっていない。

――……もう全員部屋にいるのか?

時間的には、まったく不思議ではない。
そう美鶴が結論付けたとき、突如部屋中に破裂音がこだまする。

「なっ…!!」

銃声かと思い、美鶴はその場に素早く伏せる。
しかし、様子を伺って顔を上げた美鶴の目に飛び込んできたのは笑みを浮かべた特別課外活動部の面々だった。

「美鶴!」
「「先輩!」」
「美鶴さん!」

「「「「お誕生日おめでと〜〜!!」」」」












「まったく、祝ってくれるのは嬉しいが敵の奇襲にあったかと思ったぞ」

美鶴は少々呆れ顔である。

「まあまあ、いいじゃないスか。無礼講ですよ無礼講」
「順平、あんた無礼講の意味わかって使ってる?」

ゆかりは順平にすかさずツッコミを入れる。
相変わらずこの漫才コンビの息はぴったりである。

「ちょっ、誰が漫才コンビよ!しかもよりによって相方は日本最大級のバカって!!」
「ゆかりッチひどっ!」

喚く二人はさておいて、湊は次のターゲットに美鶴をおく。

「しかし美鶴さん、クラッカーの音で思わず伏せるなんて、あなた軍人ですか?あんなリアクション初めて見ましたよ」
「確かに、面白いものが見れた。二時間ほど暗闇の中で待ち続けた甲斐があったというものだぜ」

クックッと笑いながら言う湊に真田も同調する。

「む……。仕方ないではないか、用心に越したことはない……って二時間?」

顔を赤らめながら美鶴は反論したが、言葉の途中で真田の言ったフレーズが気になった。
その疑問に真田が答える。

「お前帰るのは九時頃といっていただろう。それに合わせて準備して、灯りを消して隠れてたんだ。あんまり遅いから暇つぶしに横にいた伊織と筋トレをしていたのだが……」
「まじ勘弁してくださいよ、二時間ぶっ続けで筋トレなんて……。ドアが動いたときには救世主が来たとマジで思いましたから」

げんなりした表情で順平が呟く。
四人は左右に分かれて美鶴を待ち構えていた。
真田と順平がドアの右側、湊とゆかりが左側だ。

「悪かったな、遅くなってしまって」

美鶴が申し訳なさそうに謝罪する。

「いいってことですよ。僕は僕で暗闇で神経過敏になる岳羽をいじって楽し……」
「ストーップ!!余計なこと言わない!」

こちらはこちらでいろいろあった。
幽霊だのなんだのが非常に苦手なゆかりに対し、湊が悪質な悪戯をいろいろとしたのである。

怪談話を臨場感たっぷりで語るとか。
怪しげな音を出してみるとか。
「あれ?あそこになんかいない?」とか言ってみるとか。
饒舌に話してたら急に無言になるとか。

それらに対するゆかりの派手なリアクションは湊の加虐心をそそるのに充分だった。
ゆかりはさぞ精神を疲弊させたことだろう。
とどめにゆかりの背中を指ですーっとなぞってみた時にはゆかりは大きな叫び声をあげた。

「とまあこんな感じでした」

ゆかりの静止を聞かず、湊は美鶴に悪戯の全容を語る。
逆側にいたが時折聞こえる悲鳴の意味が分からなかった真田と順平も大声で笑いながら聞く。
美鶴は楽しげな四人を見て、幸せな心地だった。

「ふふ、こんな誕生日は初めてかもな」

小さい頃からずっと大人と生活してきた彼女に、誕生会の楽しい思い出はない。
心から友人と楽しめる、そんな誕生会。
会場は豪華な建物ではないし、豪華な料理もない。
だが彼女のこれまでの誕生日の中で、今日は最も幸せな日だった。













「明彦。今日の首謀者はお前だろ?」

飲み物が切れたと冷蔵庫に向かった真田に手伝うといって美鶴はついていった。
目的は、感謝を伝えること。

「ばれてたのか。まあ、そうだ。去年はしてやれなかったからな」
「ありがとな。嬉しかった」

若干お礼という行為に照れているような美鶴。

「去年、誕生日だっていうのに寂しそうなお前を見て、次の誕生日は絶対楽しくしてやろうって決めてたんだ」

目をそらしながら答える真田。
彼も美鶴と同様、こういう台詞には照れがでる。
その台詞にまた美鶴の顔も赤らむが、意外な部分があったので質問してみる。

「寂しそうに、見えたか?」

彼女は自分の状況を寂しいと思っていたつもりはなかった、今日までは。
自分の誕生日が仕事のダシになるのは当然のこと。
幼い頃からそうだったのだから。

「長い間一緒にいれば、見えてくるものもある」

真田と美鶴は、出会ってからもうすぐ二年になる。
特別課外活動部が二人きりだった時期も長い。
互いに支えあってきた二人なら、互いの暗い部分も見えてくる。

「確かに、いままで寂しかったんだとわかった。今日が楽しかったおかげで。そして、今の自分が幸せということもな」
「そりゃあなによりだ」

二人は見つめあい、互いに笑顔を見せた。















宴もたけなわといったところ、突然寮の明かりが消えた。

「影時間か、今日はもうお開きだな」

真田が片付けを始める。
ほかのメンバーもそれに続くが

「ちょっと待ってください。伝えなきゃいけないことがあります」

メンバーの作業を遮ったのは湊だった。

「どうした、その表情から見るに重要なことのようだが?」

美鶴が湊に尋ねる。
湊は決めていた。
美鶴に誕生日までは、ただ楽しんでもらう。
しかし、影時間になり次第身にふりかかる危険を告げることを。

「満月の日、つまり明日五月九日の影時間に、おそらく前回のような巨大シャドウが現れます」
「何っ!」
「本当か有坂!?」

メンバーは皆驚きを隠せない。
前回のシャドウを見ていない順平は首を傾げているが。

「情報源は、悪いけどまだいえません。ですが、かなり確実な情報です」
「そういうからには確かなのだろう。くっ、明彦もまだ復帰できていないというのに……」

美鶴は苦々しく唇をかむ。

「大丈夫ッス!俺たちがなんとかしますから!」
「またあんたは適当なこと言って……」

とりあえず高揚する順平と、呆れ顔のゆかりを尻目に湊は続ける。

「詳しいことはわかりません。どこに現れるのかも分からなければ、どんなシャドウかも。ですから、いろんな状況に対応できる準備をお願いします」
「わかった。最大限の努力をしよう」

美鶴の答えに、湊は頷いた。
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