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episode.FINAL -The Universe-
episode.FINAL-7「答え」

全力の一撃だった。
この一ヶ月で切り札として鍛えた、努力の結晶。
ただ限界の出力を出しているだけではなく、それを全員で調和する。
火、風、雷、氷、打、斬、貫、そして無。
対を成す属性を打ち消すことなく、引き立て引き立てられて。
そしてその全力が、確実にニュクスを捉えていた。
これを受けて存在を保てるものなどいない。

そう信じていた。
だが、しかし。

「ぐぁっ!?」

その幻想は、いとも容易く打ち破られる。
跳ね返ってきた圧力に、地面へと叩きつけられる湊。
湊だけではない。
ゆかりが、順平が、美鶴が、真田が、風花が、アイギスが、あずさが、コロマルが、天田が。
避けるという概念が存在しない力に、ただ押さえつけられる。

「残念だよ。運命を理解してもなおもそれに立ち向かう強い意思……皆がこんな風だったら、こんなことにはならなかったのかもしれないね」

さきほどまで戦っていたニュクス。
しかしその後ろに、更に大きな何かがいた。
霞む視界で確認できたのは、赤い瞳。

――なんだよ、そりゃ……。

物理的に有り得ない、理不尽な反撃。
だがこれは紛れも無く現実だった。
絶望が、湊の心を支配する。
所詮刃向かうことすら無謀だったのか。
綾時の言うとおり、立ち向かおうとすること自体が間違っていたのか。
自分の選択は、皆のわずかに残された安息を奪っただけだったのか。

「認めて……堪るかっ!!」

だが、湧き上がった感情を、湊は否定する。
それもまた、湊だけではない。

「何よッ……このくらい!決めたんだから、いの、ち、賭けるって……」
「諦め、ません……絶対!!」
「無駄だって言われても、諦められっかよ!」
「ここまで来て、終われるものか……ッ」

必死でその圧力に立ち向かう。
だが一人、また一人と再び地に這い蹲る。

――どうする?諦めるな、考えろ……。

湊は必死に頭の中で打開策を巡らす。
一つ浮かべ、否定し。

「え?」

それを繰り返す中、何かが聞こえた気がした。
特別課外活動部の声ではない。
綾時の声でもない。

――気のせいじゃない、誰かの声が聞こえる……。

頭の中に直接響いてくる声。
この状況にもかかわらず、心地よい感触。
何を言っているのか、誰の声なのか、それはわからない。
でも、気持ちだけは伝わった。

信じてると。

共に生きていると。

――どうすればいい?僕には何ができる?

その気持ちに答えるために、自分は何ができるのか。

「何もする必要はねぇよ。そこで寝てろ」
「!?」

もう一度希望が沸いたその時、今度は目の前から声が聞こえた。
十年間待ち続けた声。
どんなときも自分を守ってくれた優しい声。
ずっと取り戻そうとしてきた姿がそこにはあった。

「にい、ちゃん……」

いつの間に意識を取り戻したのか。
そして、どうして睦はこの圧力の中で、見上げた位置にいるのだろうか。

「あとは俺がやる。ありがとう、湊。お前のお陰で、俺は生きていられる」

湊に背を向けている睦からは、表情が読み取れない。
昔の通り優しく、昔以上に強いその言葉だけが、湊を支配する。
その言葉の裏からは、彼の意思が響く。

「あー、ちゃん、ダメ……」

声にならない悲痛な叫びは、後ろから。
睦の意思を、明確に感じ取ったあずさが必死に手を伸ばす。

「悪いな、あずさ。ちょっと主人公ヒーローやってくるわ」

軽く振り返った睦は、不敵ないつもの笑みを浮かべて……上を向く。
そして、虚空を睨みつけた睦は、吸い込まれるようにして宙に浮く。

――どうして、なんで。

離れ行く睦の背中を目線だけで追いながら、湊は焦燥する。
何故自分は立ち上がることができないのか。
自分も同様に死神を宿していたのに。
睦を助けるために、この場所にいたはずなのに。

「ああああぁぁぁぁ!!!!」

最後の意地で、体を半分まで浮かす。
だが、容赦なく降り注ぐニュクスの力に、耐え切れず。

「が……はっ……」

またも地面に叩きつけられ、湊は自分の意識が遠のくのを自覚した。
痛みすら感じない。
いや、感覚そのものが既に消失していた。
目を開けているのに、見えるのは真っ白い世界のみ。










「ッ!?」

すんでのところで、湊は意識を取り戻す。
いや、違う。
意識を失わずに済んだのであれば、目の前にはニュクスがいるはずだ。
だが、ここは青に囲まれた部屋。
鼻の長い老人と銀髪の女性……すなわちイゴールとエリザベスがいる、ベルベットルームだ。
なぜここにいるのか。
それよりも、今現実世界はどうなっているのか。

「ご安心を。貴方はまだ生きていらっしゃる」

淡々と語るイゴール。
その台詞に一瞬安堵したことを自覚し、嫌悪する。
この期に及んでも、まず自分の命が気になるのか。

「先程、御兄上様がいらっしゃいました」
「な!?ここにですか!?」

同じ死神を宿した身。
彼もベルベッドルームに出入りしてたとしても不思議はない。
重要なのはタイミング。
なぜこの瞬間に、睦が現れたのかだ。
そしておそらくその後に、彼はニュクスの下へと向かっていった。

「彼は契約を果たされました。命の答えに、辿り着きなさったのですよ」

そういってイゴールが差し出したのは、巌戸台分寮に初めて来たときに署名した契約書。
そこには自分の名、そしてその下には睦の名があった。

「……我、自ら選び取りし、いかなる結末も受け入れん」
「御兄上様は、これから奇跡を起こされるでありましょう。貴方は、何を選択なさいますか?」

自分には、運命を選択し、それを受け入れる義務がある。
睦にとってもそれは同じだった。
そして彼はそれを履行し、これから奇跡を起こすという。

――僕は何をできる……いや、何をする?

もう一度、考える。
自分達は、それが可能だからニュクスと戦うことを選択したのではない。
それが自分達の世界を守るための一番の手段だから、それを選んだのだ。
なら、次の選択は何だ。

――兄ちゃんは何を持っていた?僕には何が足りなかった?

睦は自分より先に、命の答えへと辿り着いた。
命の答えとは何だ。
そもそも命とは何か。
自分がわかっていないのは、何なのか。

――命の答え……それはきっと、生きること。

生きる、ということ。
それが、睦が、皆が選択したこと。

――僕はまだ、生きるってことが何なのかわかってない?

散々考えたつもりだった。
悩んで、苦しんで、やっと出した結論だった。
それが間違ってるとは思わない。
でも、見落としているとしたら何だ。

――生きるって何か、ずっと考えてきた。ずっと、見つめてきた。

自分が巡ってきた思考を、もう一度辿る。
そして、気付いた。
今まで自分が見てきたのは、表側から見たものだったと。
それに気付いた瞬間、自分の世界に一層鮮やかな色が散りばめられる。

「貴方には、聞こえましたかな?貴方が築き上げてきた、絆の声が」
「……はい」

地に伏せてから、聞こえ続ける数多の声。
今もなお聞こえるそれは、自分が戦ってきた理由。

「もう一度問わせていただきます。貴方は、何を選択なさいますか?」

真摯に湊の目を見つめてくるイゴール。
その答えは、既に固まっていた。










「奇跡を起こします……命のために。二人での方が、幸せな未来ベストエンドに近づけられる」









優しい声に答える為に、そう言った。
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