episode.1 -The Priestess-
episode.1-6「抱えるもの(前編)」5/2daytime
朝のホームルーム終わり、一時間目の授業が始まる五分前。
ズカズカと一人のクラスメイトが疲れ果てた様子で教室に入ってきた。
その疲労の理由は間違いなく彼の荷物にあるだろう。
風呂敷に包まれた何かはまるでサンタクロースのプレゼント袋かの如き大きさだ。
――そのヒゲ面で風呂敷の包みを担いだら、泥棒以外の何者でもないよね。あとは被ってるのが帽子じゃなくてほっかむりだったら完璧かな。
そんなことを湊は思っていた。
episode.1-6「抱えるもの(前編)」
「伊織、その荷物は一体……?」
皆の目を惹くほどでっかい荷物を友人が持ってきたら、とりあえず中身を聞いてやるのが礼儀だろう。
湊は嫌な予感がしながらも、とりあえずその礼儀に従った。
「よくぞ聞いてくれた、これは先輩たちの俺への信頼の証だ!」
「またわけわかんないことを……何の話よ?」
高らかに声を上げる順平に対してゆかりは溜息をつく。
「いや〜真田先輩、昨日から検査入院らしいんだけどさ。荷物が運べないから俺ッチにいろいろ持ってきて欲しいって頼まれたのよ。大事な荷物を任せられるなんて俺やっぱ頼りにされてる〜!?」
「いや、あんたがただ暇そうだからでしょ……。けどこんなにたくさん何持ってくのよ?」
ゆかりが風呂敷を広げようとする。
「あ、コラ!勝手に開けん……」
順平が制止するが、時すでに遅し。
無理矢理詰め込んでいたのだろう。
風呂敷の結び目を解いた瞬間、ガラガラと音を立てて中の荷物が散らばった。
「……とりあえず、ゴメン。けどさ、この中身はないよね」
「……俺ッチも正直そう思う」
「……どうでもいい」
三種三様の表現であるが、中身を知っていたはずの順平を含め三人で呆れた顔で呟く。
中から出てきたのは数々の筋トレ器具とプロテイン。
いったいあの人は病院で何をするつもりなのだろうか。
「学校に持ってきたってことは帰り直接病院に行くわけ?」
「ああ、なるべく早くって言われてるからな」
ゆかりは顎に手をあて、考えるような仕草を見せる。
「せっかくだからみんなでお見舞いに行こうよ。あたし今日部活ないし」
「え〜っ、俺が頼まれたのに」
「つべこべ言わない!有坂くんも来るよね?」
確か今日は部活も生徒会も無かったはずだ。
湊は頷く。
「よし、決まり。それじゃ、放課後は玄関に集合ね!」
授業が終わり、ぶつくさ言う順平を引き連れ三人は病院に到着した。
「えっと、512号室512号室……あ、ここか。失礼しま〜す」
ゆかりを先頭に真田明彦と書かれたプレートの病室に入る。
しかし、その病室にいたのは真田ではなかった。
「あ?なんだテメエら?」
不良という表現の似合う青年がそこにはいた。
「え、えっと……ここ真田明彦さんの病室ですよね?」
若干焦りながらもゆかりは尋ねる。
ちなみに順平は俺の後ろに隠れた。
いや、お前その風呂敷もって隠れてもなんの意味も無いぞ。
「お前らどうした、そんな大勢で?」
振り返ると真田の姿が見える。
順平の肩の力がはっきりと緩んだ。
「先輩!頼まれてたものお届けに来ました!」
「あぁ、悪い。だが別に三人で来てもらわなくてもよかったぞ」
「いいじゃないですか、お見舞いですよ」
順平とゆかりが真田と話し込む中、湊は椅子に座る男に釘付けになっていた。
決して面識はない。
だが、引きずり込まれるような彼の雰囲気が気になったのだ。
「シンジ、こいつらが新しいメンバーだ」
「……そうか」
真田がその男の方に向き直って言う。
シンジと呼ばれたその男は品定めするように三人を一瞥する。
特に湊を。
「頼まれてたもんだ。それじゃ俺は帰るぜ、アキ」
「わざわざ済まなかったな」
男は椅子から立ち上がって病室を出て行く。
「何があったか知らねえが……抱えたもんに潰されんなよ、俺みたいにな」
すれ違うとき男は他の人間に気付かれないよう、そっと湊の耳元でそう呟いた。
普段ほとんど変化しない湊の表情がはっきりと強張る。
――この人は……。
男は何事もなかったようにそのまま病室を出て行った。
「あの、真田先輩?今の人は?」
ゆかりが真田に尋ねる。
「あぁ、荒垣真次郎っていってな。俺の幼馴染だ」
「なんつーか、怖い感じの人ッスね……」
「まぁ見た目はな。だが中身は世話好きのいい奴だぞ?」
――荒垣さん、か。きっと真田さんはいろいろ知っているんだろうけど。
彼の過去については気になるが、余計な詮索は湊の好きとするところではなかった。
――まあ、また話す機会はあるだろう。影時間についても知ってそうだし。
真田さんが自分たちのことをメンバーと紹介してたから、おそらく何らかの関わりはあるのだろう。
影時間適正者、という可能性もあるかもしれない。
「さて、真田先輩も元気そうだし、帰りますか?」
「んだな。じゃあ真田先輩、無理しないでくださいね!」
「ああ。復帰までもうすぐだから、それまで頼む」
湊が考え込む間に二人は会話を終えていたようだ。
すでに病室のそとに向かおうとしている。
「お〜い、ぼーっとしてないで行くぞ」
病院にしては大きすぎる声量に顔をしかめながらも、湊は順平を追いかけた。
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