〜第9章〜第1話
生きる意味が見つからないなら、生きながら探せば良い。
見つからなかった時の事は、死の直前に考えれば良い。
心に闇が巣くって蝕むなら、生きるのが辛いなら何故なのか考えてくれ。
君は独りじゃないとかそんな無責任な事は言えないけど
君に小さな勇気があるなら
見える世界は大きく変わる。
──僕の中で蘇った心がその『勇気』のお陰と呼ぶには綺麗過ぎるけど。
だから君が変わりたいと本気で思うなら──そう、一歩踏み出すだけで良い。
望み通りじゃなくても、死を選ぶよりは確かに価値ある勇気なんだから。
どんなに絶望に打ちひしがれても
どんなに未来に希望が見えなくても
心臓が停止するその時まで──僕は生きる事を止めない。
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「じゃあねっ」
特に何かお別れの言葉を言う事はなかった。
彼は最後まで優しく目を細め、その温かみのある両腕を大きく振って僕に笑顔を振り撒いた。
もしかしたらそこら辺にいる人間より、よっぽど優しいのかも知れない。
彼の姿が視界から消えた時──悲しみに瞳が潤んだけど、それは少し恥ずかしいから我慢した。
彼とのお別れを涙で曇らせたくなかったからだ。
──複雑に絡み付いた感情を胸に抱えて食堂に戻った時、どこを見回しても人の姿は無かった。
中央に施されてある照明は白い光を帯びているし、部屋の造りから見てここが前に食事を取った部屋である事は間違いないというのに、案内人させこの場に姿がない。
「確か・・・俺が最初の勝者だって言ってたよな」
直ぐに人も集まるだろう、と、それ以上深く気に掛ける事はせず、その辺にあった適当な椅子を引いて腰掛ける。
肘をテーブルの上に置き、頬杖をつきながらゆっくりとゲームの事に考えを張り巡らせた。
──確かに今回はゲームと呼ぶにはルールが曖昧だ。
初めはルールも明瞭だったし、特に身の危険性もなかったのに。
そう──回数を重ねる毎にルールは曖昧なものになり、ゲーム性は欠け、対照的に危険性は高まっていった。
何故気付かなかったのだろう?
僕は自分の気性のコントロールに精いっぱいで、ゲームの意味について真剣に考えた事など一度も無かった。
以前にエディが洩らしていた──何故その過程の中であの日僕達が選ばれたのか──と言う台詞が脳裏によぎる。
同時に彼の体が血でまみれた姿が想像されて、息苦しさに鼓動が速まった。
分かってる。簡単に拭い去るなんて出来っこない。
気持ちが沈んでゆく自分に叱咤し、ゆっくりと呼吸を整えて前を見る。
冷や汗でベタついた首もとに少しの不快感を抱きながら、手で拭った。
何故、主催者はゲームをさせたい?
疑問に感じてなかった自分は相当の馬鹿である。
冷静に頭は回らなかったし、感覚が麻痺してたから適当な理由を無意識の内に当てはめようとしていた気もする。
運が悪かったと──それ位にしか。
「あれ、君だけ?」
首を少し動かし声の聞こえた方に顔を向ける。
艶のある黒髪に男にしては白い肌、きつそうな雰囲気は無いが少し細い目が僅かに驚いた視線を僕に送った。
「? ゲームが始まる前に全員の顔を確認した筈なんだけど・・・まあ良いか。君、中国人?」
「あ、いえ、俺は日本人です」
至近距離から見れば端正な顔立ちをしている。
この人もゲームの参加者で──そして今なお勝ち続けている1人なんだ。
「そうか、俺は張 祥(ジャン シャン)。中国人だ」
「僕は瑞希 賢治です」
この人思ったより友好的だ。
否、それとも単に待っている時間が退屈なだけ?
それじゃあさっきからニコリともしないのは元からなのだろうか。
僕に向ける気持ちの窺えない視線が妙に冷たく感じるのも気のせいか。
初対面の他人をそんな真っ直ぐ見ないで下さい、と言いたくなったが、気まずくなっても困ると思い姿勢を戻して視線から逃げた。
「瑞希」
「はい?」
だが予想外に、彼は僕を呼んで再び顔を向かせた。
・・・名字で呼び捨てかよ。
「もし勝ったのが俺と瑞希だけだったらどうなる?」
「さぁ・・・?」
知ってたとしても、話しても混乱を招くだけだ。
知らない方が幸せだと言う言葉があるように、真実なんてわからない方が楽である。
「質問が悪かった。どうなると思う? その場合これで、もしくは次で最後にならないと変だと思わないか?」
「・・・確かにそうですね」
そう──1000人から既に10人に減ったというのに、これ以上ゲームを続けさせるのは変だ。
だから、予定通りにもうすぐゲームは終わる。
「終わりはいずれやってきますよ」
僕は安心させる様に微笑を浮かべ、再び顔を背けた。
彼もそれ以上は言わず、黙って近くの椅子に座る。
胸が傷んだ。
だって彼は何も知らない。
只、頑張っていただけなんだから。
それから長い時間が経ち──誰も戻って来ない事に段々と不安を感じていた時、何かが着地した様な足音が聞こえた。
「アリアっ」
振り返れば彼が立っている。
僕は彼に駆け寄り、抱きついた。
「賢治」
アリアは少し戸惑っていたが、それでも小さく礼を言う声が聞こえた。
「前はごめん。あの時ちょっと・・・おかしくて」
「あの人にも謝った方が良い」
「あぁ、桜雪にもちゃんと・・・」
「・・・賢治?」
聞こえる。
終焉の足音が聞こえてくる。
──全てが無意味な事だなんて思ってはいないけど、せめて彼らの願いだけは聞き入れなければ
そうしなきゃ、余りにも報われない。
只生きたい、帰りたいという思いで必死だったのに
あんまりだろ?
「・・・け」
「──どうもしないよ」
僕はゆっくりと彼から離れた。
笑ったってアリアに心を見透かされる気がしたから無表情に撤する。
「そう」
だけど結局アリアには僕の心情を見透かされていたのかも知れない。
それを知った上で詮索しない優しさが有り難かった。
「アリア」
僕は彼の優しさに甘えていたのかも知れない。そしてそれは今も変わっていないかも知れない。
変わったのは──僕の気持ちだ。
「話したい事があるんだ」
僕はそれでも
前に進まなければいけないんだ。
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