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REAL GAME
作:野澤 ちか



第5話


──君弱いね

・・・い

君は僕が居なきゃ自分を保てない。

痛い・・・

邪魔する必要も無いみたいだね。

頭が痛い──・・・

「・・・んじ」

重石を頭の上に置かれた様な、小さいヘルメットを無理やり被せられた様な、重かったり締め付けられたり──とにかく頭痛が酷い。

「うーん・・・」

「賢治、朝」

──誰かが僕の名前を呼んでいる。

気だるげに何度か唸り、寝返りを打ちながらうっすらと瞼を開けば、アリアが僕の方を見ていた。

「おはよう、アリア・・・今何時?」

「8時15分」

「あぁ、そう・・・・・・えっ!? 朝食は8時半だろう、急がないと遅刻する!」

こめかみを押さえて頭痛を我慢しながらも、急いでベッドから飛び降り服を着替える。

「エディは?」

「ベッドの上」

「あー・・・っ」

ズボンを穿き終え、一番近くにあるTシャツを掴んで、それを着ながらベッドの方に足早に向かう。

「エディ、起きて」

耳元で少し強めに話し掛けているのに、彼はピクリとも反応しない。

「エディ、朝食に遅刻するんだ! 説明を聞かないとっ」

更に大きい声で怒鳴ってみても、何も変わりはしなかった。

「・・・・・・」

時計の針は既に20分を差している。

いつもはもっと早く起きるのに──何故今朝はこんなに反応が鈍いのか。

だからといってエディを置いていく訳にもいかない。

「仕方ない」

彼の体にくるまっている薄い毛布のなるべく左端を両手で掴み、一気に手前に引っ張った。

ゴツンとゆう鈍い音と、軽い悲鳴が聞こえる。

多分、おでこを木製ベッドのサイドレールにでもぶつけたのだろう。

「ごめん」

エディはおでこを押さえて痛々しく顔を歪める。

「痛いよ・・・」

「そうか、それより朝食まで後8分だ。早く支度してくれないか」

「え、嘘。待って急ぐから!」

刹那、エディは顔色を変え脱兎の如く着替えを始める。僕はその間に洗顔を済ませ、鏡の前で軽く髪を整えていた。

「頭痛?」

後ろからアリアの声が聞こえる。

振り返る事はせず、うん、と肯定した。

「熱や寒気は」

「風邪では無いと思う・・・只の偏頭痛だから平気。時々あるんだ」

如何にも普通を装って説明しているが、本当はかなり症状が重たい。

幼い頃から約4カ月のサイクルで不定期に5回程度訪れるこの偏頭痛は、僕にとってかなり憂鬱な症状だ。

しかし偏頭痛の度に痛みを訴えて周りに気を遣わせるのは嫌だし、面倒くさい──だから偏頭痛が起きた時はひたすら我慢し、鎮まるのを待つ。

「賢治、アリア済まなかった。早くっ、急ごう!」

エディの大きな声が耳に響き、思わず立ち眩みを起こしそうになる。

時計の針は──8時27分。

「痛ぇ・・・」

頭を押さえながら走り出し、食堂へと向かった。

元々部屋から近い場所にあるからたどり着くまで1分も掛からないと分かっていたが、やはり不安にはなる。

中に入れば既に残りの参加者──第4回戦、第7・8会場の生き残りの顔ぶれが集まっていた。

「まぁ、昨日の時点で全員覚えてたけど・・・」



「何せ5人だけだからね」

エディ

「全員、第7会場の人・・・」

アリア

「おはよっ、けんちゃん」

桜雪

「お早う、桜雪」

「あ! おはよーございますっ、けんちゃん」

──そして5人目の勝者。

・・・まさかこの人が残っているとは思わなかった。

桜雪の隣でひらひらと手を振りながら笑顔を振り撒く、怪しい女。

以前に彼女の部屋の前で会話をして以来──魔女疑惑の有る物騒な奴だと定義づけている。

僕は彼女の挨拶に反応せず、直ぐに桜雪達とは少し離れた席に腰掛けた。

「賢治、女性に対してその態度は紳士で無いよ」

エディも後を追って隣に座り、少々顔を曇らせながら隣で耳打ちする。

・・・そうか、エディはイギリス出身だもんな。

「あぁ、良いんだ。俺別に紳士じゃ無いしね。仲良くなる積もりも無いんだ」

僕は適当にその言葉を聞き流し、はっきりと拒絶も示しておいた。

信用出来ない存在とわざわざ交流を楽しむ程、僕は奇特な奴じゃ無い。

それを聞いてエディは何だか困った表情をしていたが、それ以上言及される事は無かった。

アリアはこの話に興味を持たなかったのか、一連の会話に加わる事もせず窓から見える景色に視線を注いでいる。

桜雪は何となく心配顔で、彼女と僕の顔を交互に見やってはオロオロとする。

しかし話の張本人はと言えば、特に気に留めた様子も見せず僕が離れた後も無邪気な笑顔を絶やさなかった。

──誰もかれも、何てぎこちないんだろう。

しかし、そんな事に気を掛ける余裕など全く無かった。

ずっしりとのし掛かる痛みが、まるでピカソの絵のムンクの叫びの様な空間を作り出す。

今の僕に出来る事何て、習慣地味たこの気が遠くなる様な時を一刻でも早く消化する事だけだ。

「──皆様、おはようございます」

奥の中央に案内人が立っている。

1回戦の時からずっと変わらない、あの案内人だ。

「改めて4回戦の勝利、そして5回戦の出場をお喜び申し上げます」

ふん・・・

僕は片手で頬杖をつき、これもデモンストレーションか、と横目で案内人を見ながら感じていた。

別に今更だけど、お喜び申し上げます、の台詞に喜びの感情が含まれてるとは思えない。

本当に喜んでるなら口角を上げる位、すれば良いのに。

思っても無い台詞を毎回言ってて疲れないのだろうか。

そう思いながら、しかしあの女性の様に無駄に微笑みを浮かべられても嫌だと微かに顔を歪める。

どちらの態度も胡散臭い事には変わりないけど。

「皆様には本日の日の入りを合図に5回戦を始めて頂きます──が、その前に簡単な事項とルールを説明しておきます」

事項とルール。

その言葉が耳に入った瞬間──全神経を集中させ、貴重な情報を逃さない様にと僕の思考は切り替わる。

しかし案内人の説明を一通り聞いた後、僕は思わず

「え・・・?」

と、呟かざるを得なかった。

待て・・・今この人何て言った?

自分の耳が、あぁ、たまたま聞き違いしただけだ。

いくら何でも・・・そんな恐ろしいゲームをさせる訳無い。

「あの、すみませんがもう一度説明をお願いします」

乾いた喉が妙に粘りついて鬱陶しいと感じながら──早くあの内容が聞き間違いだったと安心したかった。

「──狼に狩猟されない様に逃げる事がゲーム内容です」

・・・駄目だ、頭がクラクラしてきた。

有り得ない話だと思ったけど、やはり聞き間違いじゃ無かったんだ。

だけど逃げる何て只の体力勝負だし、競走で狼に勝てる訳が無いし・・・いや、そもそもこんなのゲームじゃない。

「5回戦はハントゲームです」

痛む頭で無意識に英語から日本語へ翻訳する。

ハント・・・狩り、追跡、捜す。

狩りと言っても、僕らが狩られるって事か?

ふざけるな。

「日の入りの瞬間に皆様も含め、4回戦の勝者全員が森の何処かにバラバラに移されます。森の範囲は約100平方キロメートル。森の中には100匹の野生の狼が棲んでいます。・・・尚、森から脱出する事は出来ません。明日の日の出までに生きていた者が勝者ですので──健闘を祈ります」

案内人は淀みない口調ではっきりと──しかし淡々と説明をする。

まるで明日の朝食の時間でも教えるかの様に、まるでうろたえる必要何か無いみたいな表情で。

「森と言っても湖や小屋、公園等の個所は幾つかあります。朝食の間に地図を配っておきますので、参考にしてみては如何でしょうか。それから懐中電灯もしくはライターどちらかをゲームの前に渡します。では、朝食をお運び致します」

失礼しました、と一礼し案内人は去っていく。

既に何か言う気力何て失せていた。

文句を言った所でゲームは容赦なく始まるんだ・・・

運ばれた豪華な朝食は眺めるだけで終わり、結局一口も手につかなかった。

──それでも

「美味しいー♪」

あの女性だけは微笑みを崩さなかったのだった。












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