第4話
──その夜、僕は倒れ込む様にベッドに沈んだ。
エディはまだ夕食の最中なのか部屋に居ない。
アリアは相変わらず窓から空を眺めていたけど、それについて何か言う気は起きなかった。
僕の位置から僅かに見える星空は眩しい位綺麗で、濃紺と白色のコントラストがプラネタリウムみたいだと思ったけど、それさえもどうでもよく、数秒後には瞼を閉じる。
深く深く眠りへと誘う疲労感。
じっくり見る程の気力も無かったし、とにかく何にも考えたくなった。
「いっそ、このまま宇宙に還れば良いのに──・・・」
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気が付けば光の通さない闇の中に立っている自分が居た。
宇宙・・・?
見上げれば遠くの方が少しばかり明るい青色に、足元を見れば冷たい砂が地平線にどこまでも続いている。
──否、ここは海の底何だ。
「あれ?」
左腕を挙げれば腕の周りが僅かに光っている。
それは右腕も足も同じであり、体全体が闇の中で自身が分かる程度に光を放っていた。
力を抜いて身を任せば、ゆらゆらと体や腕が揺れる。
それに海中にいるとゆうのに地上に居る時と同じように呼吸が出来る。
「リアルな夢」
勿論喋ったとしても海水は口の中に入らない──まるで体の周りが空気の膜で覆われてる様に。
・・・何だか凄く気持ち良いな。
ゆっくり力を抜き、その状態から仰向けのまま砂に体を預ける。
その一連の動作さえもスローモーションの様で、そのまま瞼を閉じて永遠の眠りにつきたい衝動に駆られた。
何故こんなに安心するのか・・・
『久しぶりだな』
「・・・っえ!?」
聞き覚えの無い声が上から降ってきた瞬間──僕は跳ね上がって直ぐに辺りを見回した。
「・・・・・・」
だが、どこを見ても人影らしい人影は全く確認出来ない。
──否、真っ暗なんだから見えなくて当然だ。
しかしそれなら何故さっきの声の主は光を放たないんだ。
まさか他にも近くに人がいて、僕だけ相手から分かる何て事・・・
と、そこまで考えてこれは夢何だとゆう事を思い出す。
「・・・馬鹿馬鹿しい。全部自分の想像なのに」
『そうゆう訳では無いのだがな』
「はい、はい」
手で追い払う仕草をし、再び仰向けになろうと力を抜く。
いちいち気にするだけ気力の無駄だ。ゆっくり眠らせてくれ──否、既に寝ているが。
「年齢より大人びた思考を持たせた筈だが・・・やはり子どもだな」
「・・・・・・」
「知能と運動神経も余り効果的に使って無いように見受けられる。全く勿体ない話──それに性格が少々歪んで・・・」
「分かりました、分かったから静かにして下さいっ」
煩い奴──本当にこれは夢なのか?
「うむ、少々態度は悪いが良いだろう。それと敬語を使うなら心の内も統一した方が良い」
・・・何なんだ、この上から見た様な物の言い方。
「どこに居られるんですか?」
『いつでも、ここにいる』
駄目だ、この人と上手く会話出来る気がしない。
まぁ、場所が特定出来なくても困る事は無いから別に構わないけど。
どうせ夢の中なのだから。
「それで、あなたは何者ですか?」
『夢の中だと思っておるのに、知りたいのか?』
「・・・・・・」
これには少々面食らった。
余りにも納得の台詞に戸惑って、言い返す言葉が見つからない。
夢だと分かっているのに、何て・・・そんな風に尋ねられたら身も蓋も無い。
分かった上で尋ねてはいけないのか?
「それは・・・」
『夢で無いなら話は別だがな』
「は?」
夢じゃ無いって、まさかだろ。
半信半疑な気持ちで聞き流し、しかし名も知らぬ声の主の次の言葉を何故か真剣に待っていた。
『何者かと問われれば──生きとし生ける総ての誕生を決め最期を見届ける者、と答えるしか無いだろうな』
「・・・あなたは自分の存在を神──とでも名乗るのですか?」
『否、神はそんな事はしない』
「──まるで神の事をよく知っているみたいだ」
暫くの沈黙が、確信に触れた証拠なのか──或いは喋り過ぎたから黙っているのか。
しかし僕も矛盾してる。
僕は神の存在など信じていないし、もし存在するとしたら──先ず人間を世界から消してる。
僕は只、合わせてるだけだ。
人が困った時に神頼みをする様に、来もしないサンタクロースを使ってプレゼントをねだる様に──デモンストレーションを演じるだけ。
空想とも現実ともつかない不思議な夢の中で、一時的に神を信じたフリをしてるだけだ。
『神は、おる』
長い沈黙の後に言い放った主の台詞は断言的で、ひとかけらの迷いも感じられなかった。
『お前は、神が存在するなら人間等消えている、と思っているだろうが、それは少し違う──神は興味が無いだけだ。時々気紛れに観察するだけで、私や他の者に管理を任す。地球も動物も人間も、神は総て同じ創造物としか感じていないのだよ』
──同じ?
神は人間に興味が無い・・・?
「・・・面白い解釈ですね。別に俺はキリスト信者じゃ無いから、神が人間を愛してる何て都合の良い妄想は考えていない──だから何とも思いません」
僅かに目を細め、誰に向けるでも無く、にっこりと冷笑を浮かべる。
──顔も知らない偶像に心酔する何てどうかしてる。
何故人は自分に理解出来ない未知の存在を敬い、恐れるのだろう。
どれだけ歴史を作ったって、進化を続けたって昔からその法則は一向に変わらないのだ。
『うむ・・・やはりお前は、このままでは修正が効かないようだな』
「は?」
『どちらにせよ、この様子ならいずれ元に戻るだろう』
「・・・何の話をしているのですか」
『──さぁ、もう行くんだ。いつか訪れる運命を知る時が来るまで』
「おい、まだ・・・え?」
何か言おうとして、ふと自分の体が先程までの光を放っていない事に気付く。
体が闇に呑み込まれて消える様な、空恐ろしい感覚。
既に足の爪先から肩の辺りまで闇に同化しており、その勢いは止まらず首の方まで侵食してくる。
手をかざしても、全く自分の存在を確認出来なかった。
そうしてやがて──視界がフッと真っ暗になる。
僕の存在は完全に闇に染まり、消えたのだった。
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