〜第6章〜第1話
ゆらゆらと
さざ波の様に体が揺れ動くのを、他人事の様に感じていた。
意識はあるのに、体は言う事を聞いてくれない。
──無重力体験ってこんな感覚なのかな・・・?
自分が軟体動物みたいで、何か変。
そして私はゆっくりと瞳を開いた。
わぁ・・・
目の前に広がる光景は、美しい海の底。
澄み切った青色も色鮮やかな魚群も、写真やテレビでしか見た事が無くて
言いようの無い感動に体中が震えそうになる。
──そっか、私いま海中に居るんだ。
ゆらゆらと揺れるこの不思議な感覚にも納得がいく。
でも、何で息してない筈なのに苦しく無いんだろう。
『まだ生まれて無いからだ』
えっ?
その瞬間──水中に浮かんでいた私の体は、底に沈んだ。
「喋れる・・・」
それに、手足も自由に動かせる。
私はゆっくりと立ち上がり、声の主を探した。
「どこにいるんですか?」
『いつでも、ここにいる』
・・・答えになって無い。
夢か現実か確かめようと、ほっぺを強くつねる。
「ひ、ひひゃい」
『何をしておる』
「いえ! な・・・何でも無いですっ」
ジンジンとした痛みにうっすらと目に涙を浮かべ、頬を労る様にさする。
うー、ちょっと強く引っ張りすぎたかも・・・・・・あれ?──って事は
「夢じゃ、ない?」
海中の中で息出来てる何て変だけど、変何だけど! こんな生々しい夢、見た事無いし・・・
──でも待って、じゃあ私は何でここにいるの?
「あの、私がどうやってここへ来たか知っていますか?」
姿も見えない、声の主に尋ねる。
『お前がここに来るべきだったから居る、のだろう』
また答えになってない回答して・・・
「私は手段とか来るまでの経路を知りたいんですっ」
『そんな事柄に大した意味等無い。強いて言うとするならば──決まっていた運命だ』
駄目だ・・・イマイチこの人との会話は要領を掴めない。
でもこの人以外に話せそうな人は居ないから、ここで諦める訳にはいかないんだよね・・・
「──当たり前か。海何だから、人が居る方がおかしいんだよね」
そう、私の今現在の状況が激しくおかしいんだ。
「じゃあ、えと。他に人を見かけたりしましたか?」
まさかそれは無いよね、と思いつつ僅かな希望を掛けて尋ねてみる。
『あぁ。数えるとキリがない位多くの者を見かけた』
「えっ、本当?」
それはちょっと大袈裟な気がします。
『本当だ。全員の顔を覚えている』
えーと益々嘘っぽい気がするんですけど・・・
「キリが無い位多くの人を見かけて、その人達の顔を全員覚えてるんですか? いくら何でも無理ですよ」
私は疑いを込めた瞳で訝し気な表情をしながら、どこに居るか分からない声の主に意見した。
・・・だって流石に有り得ないもん。
『まぁ、お前には無理だろう』
声に若干馬鹿にした笑いが含んであると思うのは、多分気のせいじゃ無い。
「殆どの方が無理だと思います!・・・検証した事無いですけど」
ほっぺを膨らませ、ついつい棘のある口調で喋ってしまう。
『そう拗ねるな。お前の記憶力はけして悪く無い筈だ』
「・・・何でそんな事解るんですか?」
しばし沈黙が流れた後、んー・・・、と言う唸り声が聞こえる。
『記憶力は良いが、理解力は今ひとつと言う事か』
「あの、失礼です」
『今まで見かけた人間の顔は全員覚えている、と言っただろう?』
小さな子供を諭す様に語り掛ける。
「もしかして」
その言葉の意味が示す結論は──
「私あなたと会った事があるの?」
『・・・・・・』
「最後まで言って下さい」
変な確信がする。
この人はきっと重大な事を知っているって・・・
『お前には、しなければならない事がある筈だ』
「はぐらかさないで下さいっ」
『さぁ、もう行くんだ。いつか運命を知る時が来るまで』
いつの間にか、海の底が消えている。
どこまでも
どこまでも体が沈んでゆく。
『──約束だ』
何故だか
得体の知れない懐かしさに涙が出そうになった。 |