第3話
「………っ」
目覚めたのは、痛みに起こされたから。
どうやらうっかり、ベッドの板に手をぶつけてしまったらしい。
ジンジンと麻痺する右手を恨めしく眺めて、ハァ…、と深く溜め息を吐く。
「さっきより、腫れてるし……」
青紫に変色した右手の甲は、所々に赤黒い点々が浮き出ており、少し擦り切れている。
「骨…大丈夫か?」
正直、心配である。
本当にどうしようかと思案していた時、キシ…と、誰かがこちらに近づいて来る気配がした。
時計は2時半、室内の暗さから夜中であろう。
「誰……?」
なんとはなしに呟いていた。
漆黒に身を溶け込ませるその者は─…
「えっ?」
冷やっこい感覚に、思わず肩を跳ね上げる。
僕の横顔に当たったのは、氷水を入れた透明な袋であった。
そして、それを持つ白い腕の先には
「アリア……」
彼がいた。
「どうしたの?こんな夜中に…」
「これ手に当てて。後、包帯。──それじゃ眠れない。」
僕の言葉は遮られ、アリアは腰に巻いてあったバッグから、救急セットらしきものを取り出した。
その動作を、ポカンと間抜けな顔で見つめ続ける僕。
それに気付いた彼は
「…こっち来て」
と、けしてキツく無いが有無を言わせない態度で促したのだった。
「痛くない?」
「あ…うん」
消毒液をティッシュに浸し、手早く包帯を巻いて固定する。
その動作の速さと手つきの良さに、少々驚いていた。
「いつから…気付いてたの?」
「部屋に入って来た時から。──これ、骨にひび入ってる」
ドキリとする。可能性は考えてたけど、骨にひびって…かなり厄介じゃないか。
同時に、手の様子だけで怪我の具合が分かるこの少年に、益々不思議な物を感じてしまう。
どう見たって、僕と同い年かそれ以下の年齢だろうに、この落ち着きぶり。
いや、僕もそこら辺は人の事言えないけど……
「終わり」
下に視線を落とせば、綺麗に巻かれた包帯姿の右手があった
痛みも幾分と引いている。
「後はその袋、当てといて……」
「ありがとう」
このレベルの医療知識があるなら、ある程度現代に生まれてきたのだろうか?
それとも、医療関係に携わる環境にいたとか?
疑問は浮かぶが、あれこれ詮索をする趣味は無い。
そしてアリアも、聞かれたら億劫と感じるかも知れない。
「お休み、アリア。助かったよ」
だから、聞かない。
アリアはその台詞にニコリともせず、お休み、と呟いて横になった。
直ぐに規則正しい寝息が聞こえる。
僕はその子供らしい反応に、クスリと微笑んだ。
「さて…僕も寝なきゃな」
多くの人はトラウマや痛み、負の感情を抱えて生きていく。
アリアも
アリアも見えない翼に傷を負っているのだろうか?
白い翼が燃やされて墜落するアリアの姿を想像した。
でも、かぶりを振って直ぐに打ち消す。
「何考えてんだろ…」
結局なかなか寝つけず、うとうとし始めたのは明け方になってからだった。
──でも、3回戦は明日だから寝てても良いよな。
丸1日ご飯を抜くのはキツいけど、もういいや。
太陽が微かに差し込むのを感じながら、僕は体を丸めて猫となった。 |