第2話
重い足取りでようやく部屋の前に来た時は、既に全身が疲れきっていた。
「ただいま…」
「お帰り……って賢治!顔色が悪いじゃないかっ、それにその手…帰りが遅かったけど、何かあったの?」
「いや……寝てれば治るから。すまないけど、エディ。コップに水を入れてくれないかな?」
「う…うん」
心配そうにオロオロするエディを尻目にベッドに手を伸ばす僕は、ふと、同居人の数が1人少ない事に気付いた。
「ね、アリア。ミャーヌさんは?まだ帰って来て無いの?」
部屋の隅で体育座りをしながら、ぼーっと遠くを見つめるアリアに訊ねる。
「賢治…アリアは何も喋ら」
「負けた」
同時に、え?!と言う声が重なる。
エディは洗面所から入れてきたコップを僕に渡した後、凄く意外そうな顔でアリアを見つめ
「アリアって喋れるの?とゆうか…ミャーヌさん……が、負けた?って本当?」
と言って、見る見るうちに顔を曇らせた。
「アリア…それ、本当の話?」
アリアがからかい半分に嘘をつく様にはとても思えなかったが、再び確認する。
「──本当。姿を確認出来なかった」
静かに淡々と呟くアリアに、事実だと実感させられる。
確かに、食堂に最後に出たのは僕だし、それに─…
「…そういえば、ミャーヌさんは閉所恐怖症だと言っておられた。狭くて暗い空間に、耐えられなかったのかも知れない……」
そう─ミャーヌさんは閉所恐怖症。
「悲しいね。出会って2日だけど、気さくな良いおじさんだったから……」
呟いた後、瞼を静かに伏せ、両手を絡み合わせて神に祈りを捧げながら、アーメン…と言ったきり、エディは口を重々しく閉じた。
「俺…疲れたから、もう寝るよ。夕食は要らないから起こさないで。お休み」
僕はこの息苦しい雰囲気に耐えきれず、短く伝えてベッドに伏せた。
──正直、本当に疲れていたし、食べ物を詰め込む気にもなれない。
それに…先ほどから手がズキズキ痛んで仕方ないのだ。
「チッ…」
小さく舌打ちする。
自分のせいだとはいえ、あの時の衝動が恨めしい。
せめてもの救いは利き手じゃ無い事だろう、と、痛みに必死に耐え、なるべく体を動かさない様に全神経に気を配る。
“ミャーヌさん、ごめんなさい”
僕はしおらしく、素直に謝りを入れる。
別にあなたが死んでも関係ないしどうでも良い、とまでは思ってませんよ。
短い間だったが知らない仲じゃ無いし、心苦しいとは感じてます。
でも…
僕は子供の言い訳の様に、姿無いミャーヌさんに訴える。
今は…、それ所じゃ無いんです。
ホゥ…と息を吐く。
「…?」
意識を閉ざす瞬間、何故かアリアが僕を見つめている様な気がした。 |