Zero of the Beowolf(22/24)PDFで表示縦書き表示RDF


Zero of the Beowolf
作:T・K



王女の来訪1


「なるほど、あれがこの国の王女か」
 キョウスケは呟く。
 キョウスケは見張りのために作られた塔から、サバイバルキットに武器と一緒に収められていたスコープを外に向けていた。その視線の先には、学院にやってこようとしている金の冠を御者台の隣につけた四頭立ての馬車と、それを取り囲む群衆の姿がある。その上学院の中でも、彼女が来るのを今か今かと待っている生徒達が大勢いた。
 オスマンから王女が学院に来ることを聞き、シャドウミラーの件もあってこの国の指導者の一員である王女がどれほどの人物なのかという興味が湧いたため、ここから彼女の姿を見ていたのである。
 だが、馬車を囲んでいる国民に姿を見せるために開かれたカーテンの内にある彼女は、キョウスケの世界のある王族ぐらいの人間を期待していたのだが、期待外れもいい所だった。
 均整の取れた体にすらりとした気品のある顔立ちと薄いブルーの瞳は、彼女のために誂えられた純白のドレスに金細工のティアラが引き立てているのだろうが、確かに「美しい」という評判の通りの容姿であった。しかし、キョウスケにとっては容姿などどうでもいい。彼女が為政者として相応しい能力や覚悟があるのかが問題なのである。しかし、キョウスケの見立てでは彼女は、
(……使えんな)
 その一言に尽きた。
 表面上は国民に対する体裁もあるため、微笑んではいる。しかしその実、彼女が馬車を囲んで賛辞と政治に対する期待を向けている国民などどうでもいいと思っていることは、欝を含んだ雰囲気と、不安に揺れている瞳を見ればすぐに分かった。
 思わず、舌打ちを漏らす。
 シャドウミラーの暗躍を警戒しなければならないこのときに、何と言う人間が為政者の中にいるのかと言う考えがキョウスケを苛立たせていた。
 ただの貴族であれば、別段政治に関心が無くてもいい。
 彼女の隣にいる、丸帽と灰色のローブを身に付けた痩せぎすの男は恐らく現在のトリステインで政治上の実権を握っていると噂されているマザリーニ枢機卿だろう。一動作にも窺える隙の無い立ち振る舞いなど、なかなかの人物であろうことは予想できる。彼のような能力を持った人間に任せてしまえばいいからだ。
 しかし王族となると、少し話は違ってくる。
 国を権力で動かせる範囲が、ただの貴族とは次元が違うのだ。その気まぐれで軍が動くことも、どんなにそれが無駄で無意味であろうともできてしまう。今はマザリーニのような人間がいるから良いが、もし彼がいなくなる、もしくは奴らに陥れられるといった事態になり、彼女が今のような状態ではこの国はどうなってしまうのか。
(確かに国内に不安は無いかもしれん。今のところはな。だが将来においては、他の国と同じ位に不安があるように思える……)
 オスマンの言葉を借りるわけではないが、まさしく不安の大盤振る舞いというやつだった。しかもあのような人間が来るためにアルトを動かせなかったのかと思うと、苛立ちが募ってくる。
 これ以上見るものは無いと考え、スコープを懐にしまって塔から降りるキョウスケ。その頭は、これ以後情勢の変化によってどう動くべきかという考えで埋め尽くされていた。

 学院内外の群集がいなくなるには、夜になるまで待たなければならなかった。そして現に夜になった今、ようやくアルトを動かすことができる。
 ただ、一応このことはルイズに伝えておくべきと思い、キョウスケは足をルイズの部屋に向けていた。昼の内にルイズにアルビオンにアルトを使って行くことを伝えようと思っていたのだが、都合が悪く会うことができなかったためだ。
 学院の廊下を歩き、彼女の部屋に向かう。そして彼女の部屋の近くに来たとき、中から話し声が聞こえてきた。
(? 何だ?)
 かすかに聞こえてくる声の一つは、ルイズもので間違いない。もう一つも、どうやらルイズと同様の少女のものらしい。それに声の感じには親密さがあり、どうやらルイズの友人であることは推測できた。だが……
(誰か来ているのか? しかし、確かルイズには友人らしい友人はいなかったはずだが……)
 その疑問が、キョウスケの脳裏に真っ先に浮かんだ。……そういう発想が真っ先に浮かんでしまうのが、少々いたたまれないのであるが。
 ともかく話をしている最中なのは悪いが、こちらも急いでいるのだ。キョウスケは意を決し、ドアをノックして呼びかける。
「ご主人、キョウスケだ。とりこんでいる最中悪いが、話したいことがある。入らせてもらうぞ」
「へ? キョウスケ……て、ち、ちょっと待! 今はダメ! 入るの禁止!!」
 慌てた声が中からするが、お構いなしだ。ドアノブを掴み、さっさとドアを開ける。
 だが部屋の中に入った瞬間、キョウスケは自分の目を疑った。部屋の中にいるのは、あちゃーと額に手を置いているこの部屋の主であるルイズと、もう一人は、
「アンリエッタ、王女……?」
 確かに、スコープ越しに見たアンリエッタ王女の姿をしていた。

 何故王女がこの部屋にいるのかという疑問はあったが、とりあえず何故そこまで二人は親しげなのかと言うことを尋ねたキョウスケであった。そして、それは意外と単純な答えであった。
「なるほど。ご主人と王女は幼馴染だったのか」
「そ、そうよ。何か文句でもあんの」
 ベッドに座っていたルイズが、どこか落ち着かない様子で答えた。それをアンリエッタが引き継ぐ。
「ええ、ルイズの家であるヴァリエール公爵家が王族との血縁なので、幼いころから相手をしてもらっていたんですよ、使い魔さん」
 それにしてもと、椅子に座ったアンリエッタがキョウスケをしげしげと眺めてくる。
「人を使い魔にするなんて、昔から変わっているとは思っていたけど、相変わらずね」
「す、好きで使い魔にしたわけではありませんわ。でもさっきから妙に感心してるけど、私と姫様が知り合いていうのって、そんなに意外だった?」
「……いや、まあ、な。意外なところで接点というものは出てくるものだと考えていたが、ただそう思っただけだ」
「……あんたのその言い方にはすっごく嫌味が感じられるんだけど、それは気のせいかしら……?」
 びき、と額に青筋を立てるルイズ。キョウスケにとっては本当に意外だったという意味でいっただけで、嫌味のつもりはまったく無かったのだが。
「そう言うな。あれは本当に意外だったから言っただけで、別に他意はない」
 キョウスケはひとまず断っておき、誤解を解いておいた。しかしルイズはジト目でキョウスケを睨んだままである。
「そんな言い訳でくらいでごまかされないわよ。あんたには前科がたっぷりあるし、それで怪しむなって言われる方がどうかしてるわ!」
「……そんなに疑われるようなことをやってきたか、おれは」
「してきたじゃないの! まさかどれだけ私の言うこと聞かずに独断専行してたか忘れたわけじゃないでしょうね!! 私に許可なく野宿したりあの馬鹿ボロ剣買ったり『アルトアイ』むぐ!!」
 突然ルイズの口から恐ろしい単語が飛び出してきたため、いつものごとく有無を言わさず口を塞いで黙らせた。
「ふぁによ! ふぁにふんの、よ……」
 徐々に声が小さくなり、視線がつーと横にそれていく。そこにはアンリエッタ王女がぽかんとした顔をなさっていた。
 キョウスケは声をルイズだけに聞こえる音量まで絞り、耳打ちする。
「……おれの言い方が悪かったのかもしれんが、さすがにさっきのは見過ごせんぞ」
「ふぉ、ふぉめん……。ふぉうひひでひょ、ふぇをふぁなひて」
 何となくだが言っていることは分かったため、望みどおりにしてやった。口を尖らせ、なにか言いたげにしているが、とりあえず騒ぎ出すことはなさそうだ。
 くすくす、という笑い声がそこで聞こえてきた。笑っていたのはアンリエッタであった。
「仲がいいのですね、お二人は」
「!! そ、そそそそなことないです姫様! 何を言われてるんですか!!」
 真っ赤になりながらわたわたと否定するルイズ。それを見てますます笑い転げるアンリエッタ。しかしひとしきり笑った後で、一つため息を付いた。
「いけませんね、私は。こんなことではだめだと分かっているのに……」
「? 姫様、どうかなされたのですか? ため息などつかれて」
「いえ、なんでもないのよ。ごめんなさい、こんな姿を見せて」
「そんなことはありません! 昔はあんなに活発だった姫様がため息をつかれているなんて、ただごとじゃありませんわ! よかったら事情を話してはくださいませんか!」
 ルイズの言葉に顔を輝かせるアンリエッタ。
「ああルイズ! やっぱりあなたは私の一番のお友達だわ!」
「姫様!」
 ……二人は自分で言った台詞によっているのか、妙に盛り上がっている。今二人が抱き合った。
 その一方でキョウスケは、ぶっちゃけ白けていた。言葉自体はまあいいとしても、その言葉が出てくるまでの過程が確実に間違っている。
(そもそも自分の醜態を見せたくないのなら、この部屋に来るなと言いたいんだがな)
 つまるところ、自分の哀れな姿を見せてルイズに慰めてもらおうという算段なのだ。こんなものを見せられても感情が動くはずがない。その上昼間の評価に今の醜態が追加され、さらにキョウスケのアンリエッタに対する評価が低くなった。
(……しかし、これですめばいいが……)
 どうもいやな予感がするのである。
 アンリエッタの様子から、ただこの部屋に泣き言を言うために来たというわけではないのは十分推測できる。では何をしにここにきたのであろうか?
(何もなければいいんだが、な)
 しかし、このようなときのキョウスケの勘は悲しいかな、異様なほど当たるのである。そして今回も、その勘は見事に的中することになったのであった。


今回の更新は書き溜めていたのがあったのでできましたが、感想の返事にも書きましたがことによっては書けな苦なる時期が長くなるかもしれません。無論更新は頑張りますが、どうかご容赦を……











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