調査報告
ようやく騒動が終わり、食事も済ませたキョウスケは学院長室に向かっていた。(ちなみにルイズたちは現在あの騒ぎを起こした罰としてこっぴどい説教を教師の一人から受けている。)
キョウスケがなぜ学院長室に向かっているのかといえば――
「でもよ、相棒。コルベールのおっさんから何か聞いてねえのかい? 事前になんか話だとか聞いてんだったら教えてくれよ」
「いや、あの人からは何も聞いていない。……話の内容が内容だ。そうそう外で話せるわけでもないということもあるんだろう。いつも通りだ」
「そうかね? あの『アルトアイゼン』の中でだって十分できるんじゃね?」
「できるだろうが、この話はおれとコルベール教諭、そしてオスマン学院長の三人でしたほうがいいだろう。意見も交えられるし、事情を知っている人間全員で話したほうがいいはずだ。……何よりアルトをそんなことに使うな」
「真に受けるなよ。冗談じゃねぇか。まあ、確かにそっちのほうがいいか。……つうかあの爺さん、あの部屋から全然でてこねぇよな。もしかして移動すんのがめんどくせぇとか言ってんじゃ……」
「……」
有り得ない、といえないのがなんとも困るところではある。
「……ともかく、『奴ら』に関する情報だ。周辺の国の動向や国内の情勢には注意しておくにこしたことは無い」
そう、オスマンの調査の報告を聞くためである。あの一件の後、キョウスケ自身も図書館に行くなどして情報を集めていたが、さらに彼の推測に基づいてオスマンもまた自分の持っているコネを利用し、各国の情報を集めてシャドウミラーに関係する可能性を調査していた。
今日は、その報告が上がってくる日なのである。
やってきた学院長室では朝別れたコルベールとオスマンが待っていた。コルベールは今朝の感謝なのか、頭を下げていたが。
「おお、来たかキョウスケ殿。調子はどうじゃね? それか誰か新しい嫁さんになる娘でも見つけたとか?」
「そんな娘はいません。……何か分かりましたか?」
「……せっかちな男じゃのう。何も来て早々本題を切り出すこともあるまいに」
「このことに関してはそうせざるをえません」
冗談を叩ききって早々本題に入ったキョウスケに文句を言うオスマンを、持ち前の無表情と強い口調でたしなめる。
その様子にオスマンも難しい顔になった。
「……むう……そうまで言われるとのう……しかしあんまし雰囲気がきつすぎるとわし、困るんじゃけど」
「あなたの都合に合わせる気などありません」
「おぬし、そんな風に言っとると嫌われるぞ……」
デルフリンガーのようなことをぶつぶつ言いながら、オスマンが机の上に載っている何枚かの書類を取り出した。
「一応調べてみたが、このトリステイン周辺には怪しい動きは起こっていないらしいの。貴族どもは表面的には王家に黙って従っておるしの。それにおぬしの言っていた通り平民の動きも注意して調べてみたが、別段変わった動きも無い。むしろ問題は国外じゃの」
「……」
「細かいのを上げれば切りが無いが、大きいのだけでもガリアの『無能王』に対する不満分子やゲルマニアの皇帝親族同士の争い、アルビオンでは王家に反対する貴族派の反乱がある。まさしく不安要素の大盤振る舞いじゃのう」
「オスマン学院長、それはちょっと……」
オスマンの茶化したような言い方を見かねてコルベールがたしなめた。
「いや、すまんの。じゃがキョウスケ殿の話を聞いた後では言いたくもなるわい。ここまで火種が多いとなるとのう」
その通りだった。戦いの火種は彼等『シャドウミラー』の最も好むものだ。彼等がその火種を利用し、火種から炎に燃え広げることこそが彼等の目的なのだから……
「……学院長。その中で一番可能性がありそうなものは何だと思いますか?」
腕を組んでオスマンの話を考えていたキョウスケが、オスマンに尋ねる。
「……ふむ、そうじゃのう。この中ではやはりアルビオンの一件かの」
キョウスケと同じ様に少し考えてから、オスマンは答えた。
「いくら現王家に不満を持っている貴族が一斉に蜂起したとしても、王家には王家で忠誠を誓った貴族達がついておるはずじゃ。いくらなんでもここまで早く王家を追い詰めるなど考えられん」
「……」
「無論彼等が単純に強かったこと、兵の数や動かし方が優れていたことも可能性として残しておかなければならんじゃろうが、だとしても何か引っかかるんじゃよ」
「あと、これは私の私見なのですが……」
ここで躊躇いがちにコルベールが口を挟んだ。
「オスマン学院長の仰るとおり、私もアルビオンの貴族派の動きが気になります。それに未確認の情報ですが、彼等は新しい火系統の魔法を使うというのです」
「火系統の?」
「はい。火の気配をそれが使われる様を見た者は言っていたのです。ただその使い方が奇妙で、魔力の動きを感じなかったとか。しかもそれでいて使われた相手は倒れている……」
「……魔力を使わない、火系統の魔法……」
考え込むキョウスケ。そして組んでいた腕を外し、コルベールに問いかける。
「それを見ていた人間は、その様子を詳しく見ていたのですか?」
「いえ。戦場で偶然見かけた程度で、はっきりとみたというわけではないようです。しかし、もしかしたらこれが……」
「ええ。……どうやらお二人が言うように、アルビオンの内乱が怪しそうだ」
そういうキョウスケの目はすでに鋭い闘志の光を放っている。
キョウスケの様子を見たオスマンは頼もしそうに頷きながら、問いかける。
「行くのかの? あれに乗って」
「ええ。やつらの影を逃すわけにはいきません」
「うむ。分かった……といいたいところじゃが、今はちょっと待ってもらえんかの?」
「……? 何故です? 『今は』というのが少し分かりませんが」
「まあ、ちょいと都合が悪いというだけじゃよ。学院の内外で、今はちょっと人だかりがあるんじゃ。ほれ、おぬしとしてはあれを見られてはまずいんじゃろ? 昼過ぎか夕方ごろには収まると思うでの。そこまで待ってほしいんじゃ」
なるほど、とキョウスケは納得した。確かにそう人が集まっている状態であればそうそうアルトを動かすわけにも行かない。
「しかし、何か今日あるのですか? 普段ならそうまでの人だかりなどできないでしょう?」
「まあの。しかし、今日は特別なんじゃ。なにしろ王女がお見えになるんじゃからの」 |