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Zero of the Beowolf
作:T・K



新たなる日々2


「いやはや、まったくあなたの世界の『カガク』は恐ろしいですな。あそこまで本物そっくりに映像を作り出し、それで戦闘の訓練ができるとは……」
 アルトアイゼンのコックピットから出ながら興奮気味に、そして少々の怯えを含ませてキョウスケに話すコルベール。ついでに言えば気分が悪そうだ。
 このところキョウスケは機体に搭載されているシミュレーターを使った訓練をしているのだが、それを聞きつけたコルベールは「是非ともやっているところを見せて下さい!」と鼻息荒く押しかけてきたのだ。しかしこの有様を見るに、やはり刺激が強すぎた、そしてシミュレーションといってもアルトの加速が強すぎたらしい。
 彼に続いて出て来たキョウスケは、その様子に苦笑しつつ答えた。
「あれでもまだ荒い方なんですが、ね。本当ならもっと鮮明な画像が出せますし、より練度の高い動きを相手にさせることもできます。……あれでは正直、物足りない」
 最後の言葉を不満げに呟くキョウスケ。だが、コルベールはそれどころではなかったようだ。
「ち、ちょっと待ってください! あれで、あそこまでの砲撃を切り抜けておいてまだ物足りないのですか!?」
 コルベールは驚愕を顔に貼り付けながら、キョウスケに問い詰める。しかし、答えるキョウスケは平然としたものだ。
「あの程度の動きなど、奴らはやってきません。これならこの世界に来た『シャドウミラー』と戦ったほうが、よほどきつかった」
 そして、やらないよりはマシですがと付け加えた。
 先程まで彼等がやっていたのは、アルトアイゼンに残されている『シャドウミラー』の機体データを使用したシミュレーター訓練である。彼等がこの世界に現れ、もしものときはアルトアイゼンで戦わなければならないためにアルトアイゼンのAIを使って訓練をしていたのだ。
(だがこれでは、やつらとの戦いの参考になるとは思えん……)
 しかし先程の言葉のように、キョウスケはやりながらもそんなことを考えていた。
 理由として挙げられるのは、やはり訓練内容自体の甘さがある。本来このような訓練をする場合、その戦場のデータや敵機のデータ、そのパイロットデータを揃えなければならないのだが、しかしそこまでやるとなると膨大な量のデータが必要になる。しかも敵機の動きの制度やバリエーションを持たせるとなると更にデータが必要になってくるため、アルトアイゼンに搭載されているAIだけでは限界があり練度の低い(キョウスケにとっては)相手の訓練しかできないのだ。
「そ、そうなのですか……」
 はあ、と一つ息をつくコルベール。キョウスケにとっては『この程度』だったが、彼にとってはそうではなかったようだ。その顔の眉が下がり、情けない面をさらしていた。
「……前々から聞こうとは思っていたのですが、一体あなたは元の世界でどんなことをしてきたのですか? あなたはただの一兵士と言ってますが、いくら『ガンダールヴ』の力があるとは言え、あんな動きができるなんて私には信じられません。以前見た『シャドウミラー』の巨人達も、あなたほどの動きはしていませんでしたし……」
「……」
 その質問に、一瞬キョウスケは言葉につまった。
 確かにキョウスケはある部隊の指揮官を任されているが、それでもただの兵士であることには変わりは無い。しかし、本当にただの兵士かと言われれば疑問を抱かざるを得ない点がある……というかありすぎる。
 ひとまず言えるのは、その戦績が凄いと言うことだ。……というか、この場合は恐ろしいといったほうが正しいかもしれない。
 地球圏の再統一を図ったDC、ディバインクルセイダーズとの戦いである『DC戦争』。その次は異星人という非常識な存在との戦いである『L5戦役』、この上につい先程まで繰り広げていたインスペクターと言う第二の異星人や『シャドウミラー』との戦い。
 これだけの戦いを生き抜き、活躍してきた時点でただの兵士ではできないような戦果を挙げている。しかもその戦いの中には、彼我戦力差12:1という数字の戦いもあった。極め付けにその戦果を称えられ、実際に『L5戦役の英雄』などと言われていたこともある。
 よって本当にただの一兵士かと言われれば、はっきりそうだなどと答えられるわけが無い。
 だが、だからと言って正直に自分のことを話しなどしたらそれこそルイズたちを混乱させることになるのは目に見えている。そのため一応一兵士であることは変わりようのない事実であるため、心苦しいがここは「そうです」と答えておいた。
 コルベールは納得できないと言う顔をしていたが、それ以外キョウスケが答える気がないことを察したのか、ため息をついて「分かりました」と言った。
「……しかし、今更ですが私がこの『アルトアイゼン』に乗り込んで良かったのですか? いえ、私としては嬉しいのですが、あなたの話を聞いている限りでは……」
 そこでコルベールは、不安げな顔をしてキョウスケに聞いてきた。どうやら以前キョウスケが話したことが気にかかっているらしい。たいしたものだとキョウスケは思う。
(好奇心や知識を備えているにも拘らず、状況を理解して抑えることができる。こういう人間ばかりなら別に隠す必要もないんだが、な)
 そして、だからこそキョウスケは彼には見せたのである。
「心配は要りません。以前も話したことですが、おれたちの世界の技術で作られたものをこちらの世界で複製することは絶対にできません。それはコルベール教諭、いくらあなたが知識があったとしても同じことです。あれを見せたのは、この場所を貸してもらったことへの感謝もありますから、気にしないで下さい」
 言いつつ、キョウスケは首を回す。
 そこは森の中でも開けた場所であり、そこに赤い鋼鉄の巨人、アルトアイゼンは横たわっていた。その上にはいつかと同じ様に周囲の木々に同化する迷彩シートと森の偽装がとりつけられており、また巨体の近くには小屋が建てられ、この場所に人が住むことができるようになっていた。
 あの『シャドウミラー』との戦いの後、キョウスケは『アルトアイゼン』を学院の近くまで飛ばし、ここに着地した。そしてルイズやオスマンに説明した後で再びどこか隠せる場所を探すつもりだった。だが、そこでオスマンが学院の近くにある森を使ってはどうかと提案してきた。
「あの場所なら学院にも近いし、行き来も楽にできる。それに近くにミスタ・コッパゲ……こほん、コルベールの研究室を移動させて管理してもらえばよい」
 彼のことじゃから飛んで嬉しがって引き受けるじゃろうしの、と付け加えて。
 キョウスケとしもこの提案はありがたかった。生体反応を感知するセンサーを搭載しているとはいっても、直接見張ってくれる人間がいるというのはとても心強い。教師としての仕事があるため常時小屋にいられるわけではないのが残念だが、まあそこまで言うのは贅沢と言うものだ。
「なら良いのですが……」
 そこでなぜか、コルベールの顔に暗い影が落ちた。
(……何だ? なぜここでこんな顔をする?)
 だが、それが分からない。今までの話で、彼の気に障るようなことを言ってしまったのだろうか?
「どうかしましたか?」
 そのまま気にしないでいることもできたが、落ちた影の濃さがどうしても気にかかり、キョウスケは声をかけた。
「……いえ、何でもありません。……そろそろ朝食の時間です。戻りましょう、キョウスケ殿。今日はありがとうございました」
 しかしキョウスケが声をかけるとコルベールはすぐに影を消し、笑みを浮かべる。そしてアルトから降りて、学院の方に足を向けた。……どうやらあの影にはあまり触れてほしくないようだ。気にはなるところではあったが、触れてほしくないと言うのであれば仕方が無い。
「……分かりました」
 そう返事をし、キョウスケもアルトから降りて学院に向かう。だがそのとき、
「……おーい相棒、俺の事忘れてるわけじゃないよなー……」
 という、悲哀に満ちた声が近くの小屋の中からした。続けて「ほんとに泣いちまうぞー」という情けない声。
 キョウスケは一瞬顔をしかめ、掌を額に押し付けた。
(……あいつのことを忘れていた……)
 今日は騒がしくなりそうだという予感に肩を落としながら、一旦キョウスケは足を小屋に向けるのだった。












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