新たなる日々1
ルイズは目を開け、窓から差し込んでくる朝日に顔をしかめた。起き抜けに朝日はなかなかにきつい。しかし、今のルイズにはそんなことに気を回している余裕はなかった。
「……何だったんだろう、今の夢……」
毛布を払いながらベッドの上で身を起こし、ルイズは呟いた。なぜあのような夢を見たのだろう?
今の夢の光景はルイズは見たことが無いし、知りもしない。しかもあのように鉄の巨人が大勢いる場所など、この世界のどこにもありはしないだろう。となると、今の夢は使い魔の記憶ということになるのだろうか?
(確か、使い魔が見た光景を主人は見ることができるって言われてたっけ。それに似たようなものって考えればいいのかしら?)
というか、可能性として考えられるものなどそれくらいしかなかった。夢を見た理由など推察することしかできないし、それで納得する以外なさそうである。それにそんなことよりも、気にすることがルイズにはあった。
ルイズの脳裏には、先程までの夢の光景がこびりついている。……いや、こびり付いているものを厳密に言えば、夢の中の使い魔の姿だ。他の事はぼやけているくせに、そのことだけははっきりと思い出すことができる。
(あんなキョウスケ、初めて見た……)
あの殺気と気迫は忘れられるものではなかった。今でも思い返すと体に震えが走る。そして夢の最後に見せた、まさに電光石火としか言いようが無い一撃も……
(でも、なんであそこまで怒ってたんだろう?)
そこがルイズには分からない。確か、槍みたいなもの持った白い巨人だっただろうか? それを見たときから様子が変わり始めていたような……
ルイズがそこまで考えた、そのときであった。ふと移した視線の先には時計があり、それを見てルイズの顔色がさっと青ざめる。もう朝食の時間ではないか!
慌ててベッドから跳ね起き、身支度を整え始める。
夢の内容も気にはなったが、それよりも現実にあることのほうが重要である。自分より早く起きているのなら起こしてくれても良いではないかと、扉近くに転がっている使い魔の寝床――それは大きな袋のようなもので、寝袋と言うものらしい――を見ながら心の中で愚痴る。
使い魔との関係はあの舞踏会の後もあまり変わらなかった。以前のように使い魔としての仕事を押し付けようとして使い魔がばっさりと断り、口論し、そして何だかんだ言って使い魔はルイズをフォローしてくれると言う毎日である。
ただ、確実に変わったこともあった。彼の名前を呼ぶようになったこともそうだが、それ以上に受け答えの感触が多少滑らかになり、ほんの少し、ほんの少しではあるが、彼との距離が近くなったような気がすること。
そしてルイズ自身においては、以前から立派なメイジになることは目指していたが、そこに彼のこの世界での『役割』について自分ができる限りで助けていこうという強い決意が加わったことだ。
(このまま差を開かれたままじゃ、貴族としての沽券に関わるからよ! そうに決まってるわ!)
……このような言い訳を考えるあたり、ルイズの性格はまったく変わっていないようだが。
また、この場には使い魔はいないが、今の時間のことであれば気にすることはなかった。彼が今の時間、何をしているかルイズは知っていたからである。
ルイズは身支度を整え終えた後、窓に一瞬目を向けて部屋を出て行った。
「ひぃえええええええええ!!!!」
狭いコックピットの中に、素っ頓狂なコルベールの声が響く。
「……コルベール教諭、少し黙ってください」
そこにすかさず入る、この場所の主であるキョウスケの突っ込み。
「し、しかしいくらこれが現実で無いといってもぉぉぉぉ!!!!」
だがその甲斐もなく、再びコルベールは素っ頓狂な声――悲鳴と言っても差し支えない――を上げた。
キョウスケやルイズたちは知らないが、コルベールは過去に軍においてある部隊の指揮官を務めていたことがあった。そのため戦場と言うものを知っているつもりではあり、更にキョウスケに見せられた映像のこともあって大丈夫と思っていたのであるが、どうやら見通しが甘かったらしい。
やはり、異世界の巨人達の争いは桁が外れていた。しかも、段違いに。
コルベールの眼前に広がっているのは、家々が立ち並ぶハルケギニアのある都市の光景、そしてそれを蹂躙するあの鋼鉄の巨人達である。しかも今回は前のものと比べて規模が大きく、全部で十二機もいる。その上新しい巨人も混ざっており、ライムグリーンのボディを持ったその機体は上下に展開して『エルアインス』とかいう巨人が放ってくる光よりも大きい光を放ってくる銃を持っていた。
数が増していることもあるのだろうが、それ以上により大きな範囲を攻撃できる手段が相手に加わっていることもあり、砲撃が激しいことこの上ない。コルベールはその光景に、ただ恐怖するしかなかった。……まあ口を利くことができる分、口を利けても放心していたであろうルイズ達に比べれば遥かにマシではあったのだが。
そんな地獄とも言える光景の中を、キョウスケの操る『アルトアイゼン』は潜り抜けていく。建物を盾にし、加速によって切り抜け、弾幕の合間を縫うようにして。
そしてそれを続けているうちに、一瞬であるが砲火が途絶えるときが訪れた、その瞬間である。コルベールからは見えなかったがキョウスケの目が鋭い光を放った。続けて、何かを踏み込むような動作をする。すると、
「!? うわぁぁぁぁあ!!」
三度目となる悲鳴をコルベールは上げた。敵にめがけて、凄まじい速度で『アルトアイゼン』が突撃し始めたのだ。
とんでもない重圧がコルベールに襲い掛かる。しかし、むしろ気にするべきはそれでは無い。敵に向かって飛び出したと言うことは当然火線が集中して『アルトアイゼン』めがけて飛んでくると言うことだ。
そして、現にそうなった。光が、銃弾が、雨あられと『アルトアイゼン』めがけて集中する。
コルベールは思わず目をつぶった。しかし、何も起きない。耳に聞こえてくる砲火の音も相変わらずだ。まさか、と思い恐る恐る目を開いてみる。すると――――
(こ、これは……!)
思わず目を疑いたくなるような光景がそこにはあったのである。何と『アルトアイゼン』はこの銃火の嵐の中をかいくぐっていたのだ。しかし、そのことがコルベールには信じられない。
確かに以前もこの世界に現れた『シャドウミラー』相手にこのような銃火をかいくぐる様を『遠見の鏡』越しに見た。だが今目の前で行われているそれは以前の比ではない。敵は倍の数、その上攻撃にいたっては更にバリエーションに富、より多くの『ミサイル』やら『ビーム』やらが飛び交っている、まさに銃火の壁とも呼べる代物だ。だが、この男はそれすらも――――!
思わず、彼はキョウスケを見る。その顔にはいつもとまったく変わらない無表情だけがあり、現実ではないとはいえこれだけの銃火にさらされていてもまるで動じていなかった。
そしてついに、『アルトアイゼン』はその銃火の嵐を抜け、敵機に接近する。だが接近してもキョウスケは加速を続け、『アルトアイゼン』にあの『クレイモア』とかいう前方に弾を大量にばら撒く武器を使わせた。
弾幕を張るために一箇所に固まっていた敵部隊が、大量に打ち出された弾によって蹴散らされていく。しかし、それを見てもキョウスケは『アルトアイゼン』の速度を落とさない。
『クレイモア』を撃つのは先程の敵を蹴散らした時点で止めたが、今度は『アルトアイゼン』左腕に装備されているという『チェーンガン』を放って残りの敵機を牽制し、動きを止める。そこにキョウスケはアルトアイゼンを突撃させた。
懐に飛び込まれた時点で、もはや敵機にキョウスケと『アルトアイゼン』を止めることはできなかった。
次々に撃ち抜かれ、倒されていく巨人達。コルベールはその様を目の当たりにして呆然としながら、最後の敵機を『リボルビング・バンカー』で撃ち抜いたキョウスケの呟きを聞くのだった。
「……状況終了」
そしてその言葉と共に、周囲の画面が切り替わった。 |