Zero of the Beowolf(13/24)PDFで表示縦書き表示RDF


Zero of the Beowolf
作:T・K



噛み砕かれる『影』


『来るか!』
 そう言ってエルアインスとの通信が途切れた。
 同時にエルアインスとゲシュペンストが距離をとり、アルトを囲むように展開する。そしてマシンガンやメガビームライフル、スラッシュリッパーを乱射してきた。
 轟音と共に飛来する銃弾や熱線が木々を吹き飛ばし、なぎ倒し、焼き尽くす。キョウスケはそれらを避けながら、動きから彼等が何をしようとしているのかを覚った。
(距離をとって取り囲み、一斉射撃で仕留めるつもりか)
 さすがに平行世界のアルトと戦っていただけはある。近距離用の兵装しかないアルトと戦う上では有効な手だろう。しかも事前にある程度の距離をとっていたようで、今ではかなりの距離になっている。ここから相手の周到さが窺われた。
 だが、少々認識が甘かった。
 アルトは確かに近距離用の武装しか装備していない。頭部プラズマホーンと右腕のリボルビング・バンカーは言うに及ばず、左腕の五連チェーンガンや肥大化した肩部に装備した武器も同様だ。だがそれでも相手を撃破することのできる機体であり、そしてそれを完璧に使いこなすことのできるパイロット、キョウスケ・ナンブが操縦しているのだ。
 平行世界のキョウスケの情報がある以上彼等もそのことは知っていただろうし、この戦法も決して悪くは無いため悪く言う必要も無いだろうが、しかし認識が甘いことはどうしても言わざるを得ない。
 更に彼等が知らないことがもう一つある。
 ちらりと、キョウスケは左手に目をやった。そこにあるのは伝説の使い魔、ガンダールヴのルーンである。それが今、輝きながらキョウスケに銃を扱ったときと同じくアルトをより巧く扱うための情報をキョウスケの頭に流し込み、キョウスケの感覚を鋭敏化させていた。
(十分だ。……いけるな)
 キョウスケは後ろを振り返り、目を白黒させて騒いでいる主人達に言っておいた。
「……ご主人達に言っておく。今からかなりの衝撃が来る。そこら辺のものにしがみついていろ」
「……へ? どういう意味……きゃ!!」
 言った直後、前に向き直ったキョウスケはペダルを踏み込んだ。するとアルトの背部に装備されたテスラドライブのウイングが展開し、ブースターが火を噴いて凄まじいGがキョウスケとルイズ達を襲ってくる。アルトが近距離用兵装しかなくとも敵機を撃破できる要因、過激なまでの加速力である。しかもその過程で敵機の攻撃を何発か当たったが、その程度の攻撃では怯みもしないほどの強固な装甲もアルトには備わっているのだ。
 過激なまでの加速性と、そして分厚い装甲と重武装による敵陣突破。この無茶とも言えるコンセプトを実現できる機体、それがアルトアイゼン・リーゼである。
 銃弾を食らいつつも、アルトは恐ろしい速度で一機のゲシュペンストに近づいていく。だが黙ってこちらの接近を許してくれるほど甘い相手では無い。
 こちらが突っ込んでくると知ると、四機のゲシュペンストが今まで撃ってきたマシンガンやメガビームライフルだけでなく、背部に装備している二つのスプリットミサイルを四機とも放ってきた。しかもそれだけではない。残る二機のエルアインスもゲシュペンストと同様、手に持った火器と一緒に自機最大の攻撃力を誇るツインビームカノンを撃つ。
 シャドウミラー隊に近づいてくる今を好機と見て、彼等は持てる最大威力の攻撃を放ってきたのだ。
(……ここでジョーカーを切る、か。まだそれほど消耗せず、全機残っている現時点だからこそこの手が生きることを知っている。なかなかの判断力だな。……だが!)
「止められるなら……止めてみろ……!」
 しかしそこでキョウスケは、言いながら更にペダルを踏み込んだのである。アルトのデュアルセンサがそれに応えるかのように光り、ブースターとスラスターが巨大な炎を吹いてアルトが更なる加速を始める。
「……! ……!!」
「……!? ……!!?」
 顔色が青く、Gで苦しいことが丸分かりであるにも拘らずルイズとキュルケがキョウスケに口をもごもごさせてきた。
 どうやらここでアルトを加速させたことについて文句を言いたいらしい。だが確かに文句を言いたくなるのは分からないでもない。あれだけの銃弾やミサイルの中に加速して突っ込むなど、普通なら自殺行為以外の何者でもない。
 だが、キョウスケとアルトは『普通』ではなかった。
 四方八方から迫り来る銃火の嵐を、キョウスケは加速している状態で機体を操作し、まず左腕のチェーンガンで進行方向上にあるミサイルを落とした。そして機体に致命傷にならないマシンガン等は何発か当たりつつも、アルトに損害を与えうるエルアインスのツインビームカノンは確実に避けてこの嵐を突破して見せたのだ。
 しかし簡単に言ったが、これらは並大抵のことではない。加速している中で機体を操作するというのは暴れ狂うじゃじゃ馬を扱うようなもので、かなりの腕がいる。しかもこの加速だ。難易度は普通の機体とは比べ物にならない。
 だがキョウスケはそれをやってのけた。ガンダールヴの力を借りたおかげでもあるのだろうが、しかしキョウスケ自身のもつ卓越した操縦技術があってこその芸当であった。
 あれほどの銃火を避けてみせたことに、後ろのルイズたちはもはや言葉も無い。
 銃火の嵐を抜けたキョウスケは、アルトをゲシュペンストに肉薄させる。慌てて火器を捨てて左腕のプラズマカッターを抜こうとするも、今のキョウスケにはその動作の全てが遅すぎた。
 キョウスケは必殺の手ごたえを感じ、言い放つ。
「とったぞ……!」
 アルトの右腕が唸りを上げ、リボルビング・バンカーがゲシュペンストを撃ち抜く。しかし、キョウスケはそれだけでは済まさない。
 ゲシュペンストを貫いたままキョウスケはガンダールヴの力も借りて強引にアルトを方向転換させ、近くにいたもう一機のゲシュペンストに向かっていったのである。
 包囲網を抜けられ、先程のような弾幕もできない以上、アルトを止めるのは不可能だった。瞬く間に二機目のゲシュペンストが撃ち抜かれる。
 そしてキョウスケは加速を停止させ、二機のゲシュペンストを頭上に持ち上げてトリガーを引いた。
 腹に響く重低音が周囲に響く。ゲシュペンスト二機にリボルビング・バンカーの杭がたたき込まれ、その衝撃に機体が粉砕された。
 ばらばらとゲシュペンストの残骸が辺りにばら撒かれる。
 与えられた命令のままに行動し、命を捨てることも厭わないシャドウミラーであったが、ここまで早く味方が倒されるとは思ってもいなかったらしい。僅かながら動きに動揺が生まれる。
(これで後四機。……無慈悲なようだが、立ち直る暇は与えん……!)
 この機に敵を全滅させるべく、キョウスケは再びアルトを加速させた。
 アルトを加速させた状態のまま、再び眼前に残り四体となったシャドウミラー隊を捉える。キョウスケはチェーンガンを牽制に乱射しながらアルトを突撃させた。
 すると、ここで彼等は思いもよらない行動に出た。残り二機となったゲシュペンストが、弾幕を再度張りつつも後退を止め、エルアインスの盾となるかのように立ちはだかったのである。恐らく最大の威力を誇るエルアインスのツインビームカノンを当てるために、動きを引き付けようという魂胆なのだろう。
 だが、これは無謀な手だった。
 近距離での戦闘におけるアルトの戦闘能力はゲシュペンストでは及びもつかない。装甲の厚さ、装備、更にはパイロットの質に機体の自身の運動性といった性能まで、ありとあらゆる点で劣っている。現に先程のゲシュペンスト二機は何の抵抗もできずに撃ち抜かれた。しかも今は動揺が抜けきっていないため、動きがはじめと比べて若干鈍い。これでは死ぬだけだ。
(どういうことだ?……いや、構わんか。今はただやつらを仕留めるだけだ。他はどうでもいい……!)
 キョウスケは眉をひそめたが、すぐに考えを切り替えた。相手の方が切る札を間違えてくれたのだ。わざわざそれを逃す手は無い。
 弾幕を切り抜けながら一機にはチェーンガンで牽制して動きを封じ、片方にそのままの速度で迫る。
 そしてアルトの右腕が再度唸りを上げ、ゲシュペンストに襲い掛かる。
 惜しくも直撃と言うわけにはいかず、胴体ではなく肩部にバンカーが撃ち込まれた。ヒットの際上体を反らせ、当たる部分を変えたのだ。
 しかしバンカーが突き刺さっていることには変わりがない。このまま加速し、先程と同じくもう一機を巻き込むだけである。
 そうキョウスケが思った、その直後だった。
 貫かれたゲシュペンストが手に持っていた火器を捨て、明らかにゲシュペンストの限界を超えていることが分かる炎を背後のブースターから吹かせてアルトの右腕にその両腕を巻きつかせてきたのである。
「何……!?」
 その行動に驚くキョウスケ。振り払おうとするも、離さないと言う執念のためかどうしても振り払えない。しかも牽制していたもう一機のゲシュペンストも同じ様に火器を捨て、炎を吹かせつつ今度は左腕に絡み付いてきた。
 ここでついに、キョウスケは彼等の無謀な行動の真意を覚った。
(こいつらもろともおれを葬るつもりか……!)
 間違いないだろう。性能の限界を超えた炎を背から吹かせ、アルトの動きと加速を止めようとしていること。そして眼前に捉えていたエルアインスがテスラドライブによって高度をとり、手持ち火器とツインビームカノンを展開させ始めたことから明らかだ。
 シャドウミラーという部隊の本質を知っていながら、この動きを見切れなかったのは失敗だった。
(……ラミア達から聞いていたが、これがシャドウミラーか……)
 兵士は任務のためなら死も恐れず、ただただ忠実に、機械的に任務を遂行する。それがシャドウミラーという部隊なのだと言う。
 確かにそれは兵士が最もあるべき姿なのかもしれない。軍隊という性質上、上からの命令を下の兵士が聞かなければ作戦も実行できず、統率もとることができなくなってしまうだろう。
 ……だが……!
(そうだとしても……おれは……)
 キョウスケはコンソールを操作し始めた。その表情はいつもの無表情であったが、そこには底知れぬ怒気が現れていた。
「……気に入らん……!!」
 怒気を込めて吐き捨て、そして操作を終えた。すると、アルトのブースターとスラスターが更に巨大な炎を吐き始める。
 キョウスケがスラスターのリミッターを解除させたのだ。リミッターを外したアルトの加速には、ゲシュペンスト二機が食い止めようとしてもまったく効果が無かった。ゲシュペンスト二機を巻きつかせたまま、アルトは再び加速し始める。
 慌てて上空のエルアインスが攻撃を始めるが、加速し始めたアルトにはかすりもしない。アルトは加速とテスラドライブによってエルアインスと同じくその身を空に躍らせる。
 そしてその尋常ではない加速の勢いによって緩み始めた拘束を頭部に据え付けられたプラズマホーンを振り回して一気に振り切り、同時にエルアインスがいる前方に放り投げた。
「……アルトやお前達を動かしすぎた。そろそろ片を付けねばならん」
 戦闘が始まって以来ブースターやスラスター、銃声など轟音がそこら一体に響き渡っている。いくら夜とはいえ、これ以上戦闘を続けていれば人に見られてしまうだろう。大きな残骸は回収するとしても、小さい物や弾だけでは何かは分かるまい。しかし、実物を見られるのはまずいのだ。
 前方に敵機が固まっていることを確認し、キョウスケはFCSにアルトの肩部に仕込まれた武器、アヴァランチ・クレイモアを使う指示を出す。
「総取りでいかせてもらう……!」
 肩部前方のシャッターが開き、そこからチタン製のベアリング弾が大量に撃ち出された。
 大地を、木々を、ゲシュペンストとエルアインスをそれらが貫き、粉砕していく。腕が、足がもげ、そして彼等の機体はついに蜂の巣同然となり、地面に落ちていった。
 墜落の轟音が響き、その後にはただ、加速を止めて空中に浮かんだアルトが炎を吹かせる音だけが残っていた。












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