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Zero of the Beowolf
作:T・K



お前達を・・・


 ある程度森を進んだ所で、ロングビルが馬車を止めた。そして、
「ここから先にあると言います。しかしもしかしたら罠があるかもしれません。そこでこれから私が先に偵察に行こうと思いますが、どうでしょうか」
 こう提案してきた。
「……偵察は、すばしっこいの」
 タバサが反論し、使い魔を指差した。しかし、ロングビルはやんわりと首を振った。
「わたくしもそこの使い魔の方の実力は聞いています。しかし罠があったとなればどうしようもありません。ここは罠を探る意味でも、今はオスマン氏から貴方達のサポートを任された私が行くべきです。使い魔の方には、その後をお願いします」
 こうまで言われては反論などできようはずがなかった。
 ロングビルは馬車を木々の合間に隠すために馬車を少し進め、そして森の闇の中に消えていった。
「……ミス・ロングビル、大丈夫かしら……」
 ルイズは不安げに呟いた。知らず、視線が使い魔のほうに向く。だが、その使い魔は、
(あれ?)
 いつもの無表情ながら、どこか感じが違うように思えた。ただじっと、ロングビルが消えていった方を向いている。何か気になることでもあるのだろうか? しかも、手に何か持っている。
「どうしたの。じっとミス・ロングビルが行ったほうを向いて」
「……いや、何でもない。気にするな」
 と言ってすぐに持っていたものをポケットにしまい、木に寄りかかった。
 しばらくしてロングビルが戻ってきた。どうやら罠の類は仕掛けられていないらしい。そして彼等はランプを下げたロングビルを先頭にして森の奥まで進んだ。
 すると、開けた場所に出た。森の空き地と言ったところだろうか。魔法学院の中庭ぐらいの広さで真ん中に確かに廃屋があった。元は木こり小屋だったらしく、朽ち果てた炭焼き窯と壁板が外れた物置が隣に並んでいる。
「あそこがフーケのアジトだそうです」
 ロングビルが廃屋を指差しながら言う。
 ルイズたちは相談を始めた。とにかくあの中にいるのなら奇襲が一番である。寝ていてくれたら尚更だ。
 相談の結果、タバサが立てた案でいくことになった。
 まず偵察兼囮役が小屋のそばに行って中の様子を確認する。そして中にフーケがいればこれを挑発して外に出し、魔法で一気に攻撃するというものである。小屋の中にはゴーレムを作り出す土は無く、外に出ない限り得意のゴーレムを使えない。それを利用し、集中攻撃で作られる前にフーケを沈めてしまおうと言うのだ。
 囮役は今度こそ使い魔に決まった。しかし使い魔は文句を言うでもなく、一言
「……了解した」
 と言ってデルフリンガーを抜き、作戦を始めるとすぐに小屋の側まで近づいていった。その動きは卒が無く、手馴れていた。しかも動きにまるで恐怖が感じられない。
 ルイズは思う。
 あの使い魔が怖がることなどあるのだろうかと。そして、一体どんなことをしてきたのだろうかと。
 そんなことを思っていると、使い魔がジェスチャーで中に誰もいないことを伝えてきた。恐る恐る、ルイズたちは小屋に近づく。
「誰もいない。それに、中も少し調べたが罠がはられている様子も無かった」
 近くにある窓を指し、使い魔が言う。
 念のためにと、タバサがドアに向けて杖を振った。
「……あなたの言う通り」そう呟いて、ドアを開けて中に入った。続けてルイズが入り、キュルケは外で見張ってるとタバサと使い魔に言って入り口に残った。
(つくづく嫌味をしてくるわね……)
 盛大に文句を付けたいところであったが、状況を考えて何とか自制した。
 そして残ったロングビルは、まだ何かあるかもしれませんと言って再び森の中に消えていった。
 小屋には炭焼きに使われたと思われる木炭があり、その隣には鉄製のケースが無造作に置かれていた。ルイズとタバサがそれに近づいて取り付けられているプレートを見ると、何と破壊の杖と不壊の鎧を封ずと書いてあるではないか。二人はすぐさまケースを開ける。果たして現れたのは、紛れも無い二品だった。
「これで終わり、なの? ……なんかあっけないわね」
 ルイズが困惑した様子で言い、使い魔も同じ様子を見せた。だが、
「……本当にそれが『破壊の杖』と『不壊の鎧』、なのか……?」
 使い魔が困惑していたのは、これら二品を見たせいであった。しかも無表情を貼り付けた頬が硬くなり、驚きの強さを表している。
 使い魔の様子を怪訝に思いながらもルイズは答えてやった。
「そうよ。私、前に宝物庫を見学したときに見たことがあるし」
「……」
 使い魔が黙りこむ。ルイズは不審に思い、どうしたのかを聞こうとした、その時であった。
 外からキュルケの悲鳴が聞こえてきたのである。続けて何か大きなものが歩く音も。
 外に出てみれば、キュルケがゴーレムと戦っていた。ファイアーボールを打ち出し、懸命に攻撃を仕掛けている。しかし相手は土でできたゴーレムであり、火など物ともしていない。タバサもゴーレムを確認してすぐに攻撃するが、結局キュルケの攻撃同様効果があるようには見えなかった。
「無理よこんなの!」
 キュルケはとうとう攻撃をあきらめ、こちらに向かって逃げてきた。
(ど、どうすればいいの……いいえ、ここで逃げてどうするの! ここで私の実力を示して、皆に認めさせるんだから!)
 ルイズはゴーレムの力を目にして挫けそうになる心を叱咤し、毅然とした表情でゴーレムを睨みつける。杖を取り出してキュルケたちと同じようにゴーレムを攻撃しようとし、駆け出そうとした。
「……そうか、そういうことか……」
 そこで使い魔のこんな声が聞こえてきた。振り向くと使い魔は先ほどと同じように片手で何かを握り、それを覗き込んで操作していた。
 こんな状況になっても悠長なことをしている使い魔に、ルイズが切れる。
「何やってんのよこんなときに! 早く何とかしないと私たち皆あいつにやられちゃうわ、あんたも手伝いなさいよ!」
「……分かっている。だからこそこれを見ていた。……ご主人、きついとは思うが少しの間持たせろ」
「え?」
「おれがこの茶番を終わらせる。……そうはかからんはずだ」
 ルイズは使い魔が何を言っているのかか分からない。しかしそれを問い詰める間もなく、使い魔は背負ったボロ剣を握り、森に向かって走っていった。慌ててルイズも追おうとしたがこちらに迫ってくるゴーレムを見て、
「つ……使い魔の馬鹿ーーーー!!」
 と叫ぶことしかできなかったのであった。

(早く使ってくれないかしら?)
 森の中でフーケはルイズたちが戦う様を見ていた。キュルケとタバサが逃げ回り、ルイズは何か叫んでいる。しかし、『破壊の杖』等を使う素振りは見せていない。
(盗んだはいいけど、使い方が分からないなんてね……)
 だからこそ彼女はルイズたち学院関係者を呼んだのである。そうでなければだれが自分の居場所や盗んだものを返すような真似をするものか。
(特に使い魔君には期待が持てるしね。ヴァリエール嬢が来たことには本当に感謝しているわ)
 薄い笑みを浮かべるフーケ。だがそこで、ふとおかしな点に気づいた。肝心の使い魔の姿が無くなっている。
(……? どうしたのかしら。まさか逃げて……!?)
 驚きにフーケの思考が中断する。頭に、何か硬いものが押し付けられたのだ。しかも、
「そこまでにしてもらおう、ミス・ロングビル。……いや、『土くれ』のフーケと言った方が良いか」
 かけられた声は、あの使い魔の声ではないか! しかも自分の正体に感づかれている!?
(どういうこと!? いえ、今はそんなこと考えている場合じゃないわ!)
 ロングビル、いや、フーケは内心の動揺を抑えつつ、うろたえた様子を作った。
「いきなり何をするんです!? 私はさっきここに戻ってきたばかりですよ! しかも私をフーケだ何て……」
「……確かに大したサマ師ぶりだった。それは認めてやる。元々情報を持ってくるタイミングといい、疑問に思う要素は多々あったが確信が持てる段階までにはいかなかったからな」
 だが、と使い魔が言う。
「場所が悪かった。……ここにはおれ達五人以外誰もいない。この場所ならば、おれにはそれが分かる」
「!?」
「おれを含めた四人にはゴーレムを作るなどできんし、しかも襲わせることなど誰も考えんだろう。となると、自然に答えが出てくるというわけだ。……サマはもう通用せん。その代償を払ってもらうぞ」
「……ッ」
 ぎり、フーケは歯をかみ締める。
 どうやら誤魔化しはできそうに無いらしい。原理は言っていなかったが、この様子から周囲に人がいないことが分かるのは嘘ではないようだ。しかも後ろを取られ、何かを頭に押し付けられている状態では……
(……だからって……このまま捕まるか! これで終わったなどと思ったのは間違いだったと思い知らせてやる!)
 後ろで見えないだろうが薄い笑みフーケは浮かべ、気楽な口調で話す。
「……分かったわ、どうやら本当に見破られてるみたいだしね。観念するわ。私もここで貴方とやりあうなんて馬鹿な真似、する気は無いもの」
「……言葉だけでは信用できん。さっさと杖を落とせ」
 フーケはやれやれと肩をすくめた。両手を上げて杖を落とす。
「用心深いのね。まあ当然だけど……ね!」
 そして落としざま、注意がそっちにいくとすばやい身のこなしで振り返って蹴りを見舞った。盗賊家業で体術もそれなりに鍛えられている。この距離なら当てられるはずだった。
(これなら……え!?)
 しかし足は空を切ったのみだった。慌てて周囲を見るも、この使い魔相手では遅すぎた。
 首に鋭い手刀を当てられ、何が起こったのかを知る暇も無くフーケは意識を刈り取られた。

「……ある意味、予想通りだったな」
 キョウスケは意識を失ったフーケの体を支え、デルフリンガーをしまって肩に担ぎ上げた。
「やるじゃねえか、相棒。あんたを選んで正解だったみてえだね」
 山場を越えたと見たのか、デルフリンガーが口を開く。
「しかし、何でこいつは自分のアジトを教えるような真似をしたのかね?」
「……何となくだが、想像はつく」
「……つうと?」
「恐らく、こいつはあれらの使い方が分からなかったんだろう」
「あれら……ああ、『破壊の杖』と『不壊の鎧』かい」
 キョウスケは無言で頷き、歩き始めた。
 ルイズたちのほうを見れば、ゴーレムは崩れはじめてきていた。あれならもう心配は無いはずだ。
「学校関係者なら使い方を知っているとでも思ったんだろう。……少々浅はかだったがな」
「へえ……なるほどな……しかしよ、相棒」
「何だ?」
「……別にもう敵はいねんだぜ。なのになんでそう身構えてんだ?」
「……」
 デルフリンガーの言うとおりだった。まだキョウスケはその身に入れた力を解いてはいない。まだ不安が消えないのだ。
(……この不安はフーケの罠のことかと思っていた。しかし、フーケを捕えてもまだ消えてはくれん……)
 フーケを捕えた以上、緊張を持続させる意味も無いというのに。一体何に不安を感じているのだろうか。
(……気になるといえば、あれらもそうだが……しかしあれらは……)
 そして考えながら、ルイズたちのいる広場に出た。すると、
「何よ、何がどうなったわけ!? 何でいきなりゴーレムが崩れたの!? しかもあんたは何でミス・ロングビルを担ぎ上げてんのよぉぉぉぉーーーー!」
 ……喚き散らしながらこちらに突進してくる主人と、
「そんなの決まってるわ、キョウスケがフーケを倒したのよ! ミス・ロングビルはどうでもいいわ。やっぱりダーリンね!」
 ここぞとばかりに言い寄ろうとキュルケがルイズと同じく突進してきた。
 途端、思いっきり疲れた気分になる。唯一タバサは周囲にほかに何か無いか見回しており、同じようにこなかったのは良かったが。
 しかし説明しなければ、特にルイズは騒ぎ続けるだろう。一層疲れることになるだろうが、やらなければもっと疲れるにことになるに違いない。
(……おれには考える暇も無いのか……ん!?)
 キョウスケが彼女等に歩み寄ろうとした、そのときであった。突然、体中にぞわりとした感覚が走った。
 そしてそれはルイズたちも同じらしい。何、などと言いながら、先ほどのタバサと同じく周囲を見回し始めた。
「お、おい相棒。こりゃ一体なんだ!?」
 デルフリンガーも感じているのか、戸惑った声を上げる。しかし、キョウスケは聞いていない。なぜなら、この肌を刺すような感覚に覚えがあったのだ。
 まさかと思い、Dコンを取り出してセンサー反応を見る。果たして、キョウスケの考えは当たっていた。
(……馬鹿な……転移反応だと……!?)
 そしてまばゆい光を伴いながら、それらは現れた。

「……う……ここは、一体……次元転移は、成功したのか……?」
 コックピットの中で、彼は目を覚ました。
 彼はシステムXN・リュケイオスにより、平行世界への転移をしたはずだった。事前にこの転移は不安定で、成功する確率はかなり低いと教えられていたのだが、今こうして自分が生きているというのなら成功したのだろうか?
「た、隊長……ご無事ですか……?」
 そこでモニターの一部に隊員の顔が出る。
「無事だったか。他の隊員はどうした?」
「はい。どうやら皆、無事のようです。周囲におりました。……しかし、ここはどこなんでしょうか? 見かけない景色ですが……」
「慌てるな、事前に転移地点が狂うことも大いにありうると教えられていただろう。地形から確かめればすむことだ」
 言いつつ、機体のAIに地形等から現在地を特定するように指示を出した。だが、その結果は……
「何だと!?」
 予想をはるかに超えたものであった。驚愕に彼の顔が染まる。
「隊長? どうかしたんですか」
「こ、こんな馬鹿な……こんな馬鹿なことがあるか!!」
 ただならぬ様子に何かあったのか不安になったのだろう。隊員も緊張した声を上げた。
「隊長、一体何があったんです!?」
「……座標が、特定できん……」
「え?」
「座標が、特定できんのだ!」
 彼は声を荒げる。驚くべき事態であった。
 技術の発展によって全世界の地形のデータは大概入っている。しかもCPUの記憶容量も大幅に向上したため、地上の磁場と言った要素と絡めれば座標を割り出すことができるはずなのだ。しかし、それができない!
「ど、どういうことです、それは!」
「俺に聞くな! 一体どこに出たと……ん?」
 レーダに反応がある事に彼は気付いた。しかも生体反応で、五体ある。近くに人がいるらしい。
「どうしたんです?」
 隊員が聞いてくるが答えず、彼は機体をそちらに向けて外部スピーカーをオンにした。
(この際だ、聞いてしまった方が早い。……しかし、なぜ現在地を割り出すことができんのだ……)
 機体を向き終え、そこにいる者たちの姿を確認する。
(……なんだ、あの姿は……いや、今はそんなことよりも……)
 疑問に思うが気にしていられない。用意した口上を頭に浮かべ、口に上らせる。
「我々は連邦軍の特務部隊である。任務中、AIの故障により……」
 口を開きながら、一人一人を目で追って行く。最後に、そこから離れてた場所に位置する人間に目を移した。
「……現在地を知ることができなくなって……ッ!!!!」
 だが、彼にはそこまでしか言うことができなかった。最後に視界に現れた人物、それには覚えがあったのだ。……言葉では、言い尽くせないほどに。
 しばしの思考停止の後、何故ここにいるのかという疑問を伴って彼は叫ぶ。彼の属する部隊を追い込み、そして世界を崩壊に導く孤狼の名を。
「……ベ……べーオウルフ!!!!」

 現れたのは、グレーのスマートなボディにテスラドライブとツインビームキャノンを搭載したバックパックが特徴の機体と、青いボディに赤いセンサーバイザーと左腕に三本のネオ・プラズマカッターを装備した機体であった。そしてそれらは、キョウスケもよく知る機体である。
(……エルアインスに……ゲシュペンストMK−2だと!?)
 転移してきたそれらの機体を見上げるキョウスケ。だが、これらの機体を保有していたあの部隊は……
(おれ達が全滅させたはずだ。ならば何故こいつらがいる? 生き残りがおれと同じようにあの次元転移したとでも……! まさか……)
 仲間の一人から聞いた話が脳裏をよぎり、それなら説明がつくと気付くキョウスケ。
「おい相棒、一体なんだあのゴーレムは!? あんなモン見たことがねぇぞ!」
 デルフリンガーが騒ぎ出す。ちなみにルイズたちは目の前にいるものに理解がついていかず、呆然としていた。
「土でできていねぇし、しかも魔力で動いているのでもねぇ! 一体ありゃあ……」
 そうしていると、転移してきたエルアインスがこちらに向きを変えて呼びかけてきた。そして、
『……ベ……べーオウルフ!!!!』
 と叫んだのである。それはキョウスケであって、キョウスケでない者の異名であった。
(その名を呼ぶということは、やはりあの部隊か……となると……)
 そして叫んだ直後、腰部ラッチにマウントされていた武器を取り出し、向けてきた。
(そうくるか!)
 しかも悪いことに、向けてきたのはM950マシンガンであった。空いている左手でデルフリンガーを握り、加速する。そのすぐ後、大量に吐き出された弾丸が大地を抉っていった。PTであれば当たっても耐えられるが、人であれば耐え切れるものではない。ショットガンでなかったのは不幸中の幸いだったが……
「おいおい、あれ銃か!? 何て破壊力だよ!!」
「……黙っていろ、死にたくなければな……!」
 初めてこれらを見るために、驚くのは仕方の無いことかもしれないが今は耳元で騒がれていい状況ではない。しかも、
(あちらの方はまだ立ち直らんのか……!)
 ルイズたちはまだ呆然と突っ立っていた。今までの経緯からタバサは何とかなっているかと思ったが、やはり初めてPTを見たショックは大きかったらしくルイズたちと同じく呆然としていた。
 他のPT、ゲシュペンスト四機とエルアインス一機もこちらに機体を向け、武器を取り出している。このままここにいれば、流れ弾に当たって命を落とすのは確実だろう。自分が原因であるのだし、そんなことになったら目覚めが悪い。
 上昇した身体能力に物を言わせてルイズ達に近づき、いつもと同じく有無を言わさずに持ち上げた。……ちなみに、左腕で脇にルイズを抱え、右腕で担ぎ上げているフーケの上にタバサを乗せ、更に背中にキュルケを乗せるというとんでもない状態である。
 いきなり持ち上げられてまたルイズが文句を言おうとする。
「ちょ、ちょっと!」
「黙っていろ!」
「……ッ!」
 しかし即座にキョウスケに黙らされた。今はそんなことを言っている場合ではないのだ。
 他の機体も完全に攻撃態勢を整え、こちらに銃を向けて弾丸を放ってきたのである。
 舞い上げられる土ぼこりと着弾の衝撃、銃撃の轟音にルイズとキュルケが口を揃えて悲鳴を上げた。
 デルフリンガー同様、初めて見るPTの姿や威力に戸惑いを隠せないのも無理からぬことではあるのだが……
(集中を欠いて、こいつ等を抱えたままここにいれば奴らに確実に殺されるだろう。……この世界では、使うまいと思っていたが……)
 だがこの場を切り抜け、ルイズ達を生き残らせるには手は一つしかないとキョウスケは確信し、覚悟を決めた。どの道エルアインスやゲシュペンストを見られている以上、ルイズ達に隠す必要も無いだろう。
 走る方向を変え、森の更に奥に突っ込んでいく。
「ど、どこに行くのよ!? 逃げるんじゃないの!?」
 またルイズが文句を言ってくるが無視。そしてある場所にたどり着き、それを隠していたシートの中にもぐりこんだ。
 そう。これがフーケの正体を見破れた原因であり、現状を打破するキョウスケのジョーカー……
(使わせてもらうぞ……アルト!)
「……何よこれ……ルイズ、一体これって何よ!?」
「し……知らないわよ! なに、これ!?」
「……」
 驚きの連続のためだろう。突然目の前に現れた赤い巨人に三者三様に驚き、叫び、目を丸くしていた。しかし説明などしている暇は無い。
 一足に機体に飛び移り、コックピットに駆け寄ってハッチを開放。ルイズ達を抱えたまま、中に入ってシートに腰掛け、フーケとルイズたちはシートの後ろのスペースに放り込む。……もう何がなんだか分からなくなってきたらしく、ルイズたちはひたすら騒いでいたが。
(……まあ、いざとなったら本気で黙らせるがな)
 ガンダールヴの力も借り、すぐさまアルトを起動シーケンス、更には戦闘態勢に入らせる。
(TCOS起動、各コンディションチェック……機体各部に異常は無い……よし!)
 キョウスケは頭に流れ込んでくる情報を活用し、エンジンとシステムを起動させた。
 グォン、という音と振動がコックピットに響き、コンソール、続いて機体周囲を映す全天候モニターが作動する。そして機体を覆っていたシートを払いながら、遂に異世界の空の下でPTX−003−SP1、アルトアイゼン・リーゼは完全に起動し、その大地に立ったのだった。
 キョウスケは向かってくる敵機群を見ながら、レーダーに目を走らせてその数を確認する。
(熱源から数えてゲシュペンスト四機とエルアインス二機と言ったところか……だが……)
 そこでキョウスケは、直接通信をこちらに呼びかけてきたエルアインスをメインに、他の機体にサブとして回線を入れた。あの言い方から、このPT小隊の隊長機と判断したのだ。
 キョウスケは、その部隊の名を口にする。
「……聞こえるか、『シャドウミラー』」
『! べーオウルフ、貴様か!』
 すると、すぐに先程の男から返事が帰ってきた。
「ああ、そうだ。……だがおれはお前達の言うべーオウルフじゃない」
『何? どういうことだ!』
「おれはその名前で呼ばれたことも無ければ、特殊鎮圧部隊の隊長でもない。お前達が知るべーオウルフとは、何の関係も無い人間だ。……おれは、お前達にとっての平行世界のキョウスケ・ナンブだ」
『……な……に……!?』
 驚きを多分に含んだ声がスピーカーから漏れ、銃口が下がった。他の機体もそれにならう。一方キョウスケは、今までのやり取りからこのシャドウミラーの正体にはっきりとした確信を持った。
(ラミアから聞いた、リュケイオスによる転移に失敗した者達か……)
 彼女の話によると、システムXN・リュケイオスによる転移で二千機近くの機体がキョウスケの世界に転移したらしい。しかしその際、半数以上は不安定な次元転移による時空の歪みに飲み込まれて消滅したという。だがもし、その歪みがこの世界につながっていたとしたら……
(全員が転移してきたとは思えんが、この状況に説明がつく。……ならば、べーオウルフでないおれのアルトも知らんはずだ)
「又聞きだが、お前達の知っているアルトアイゼン……ゲシュペンストMK−3とは色も、形状も違うだろう。これが何よりの証拠になる」
『……た、確かに言われてみればそうだが……ならばここは、我々の目指した……!?』
 息を呑む気配がし、エルアインスが再び銃口をこちらに向けた。
『なぜ我々の存在を知っている! 貴様が平行世界のべーオウルフなら我々の存在を知らないはずだ!』
「……確かに初めは知らなかった。だが、知らざるを得ない状況になったのでな」
『知らざるを得ない状況だと?』
「ああ。……簡潔に言わせてもらう。お前達シャドウミラーは、転移した平行世界でも敗れたということだ」
『何だと!?』
「お前達には信じられんかもしれんが、事実だ。……リュケイオスからの転移に失敗し、ここに流されてきたお前達は知らんだろうがな」
 そしてキョウスケはそれまでの経緯を、そしてこの世界のことも話してやった。キュルケたちに自分の正体がばれてしまうが、もうこの際である。
『……シャドウミラーが、ヴィンデル司令が……そしてここが……平行世界ではない異世界だと……』
 困惑した声が流れる。
「初めは信じられんだろうが、これも紛れも無い事実だ。少し辺りをうろつけば嫌でも分かる。おれ自身、この世界に妙な手段で来させられたに過ぎんしな。……だからこそ、提案がある」
 キョウスケは一呼吸置き、
「戦いを避けることは、できないか?」
 と続けた。通信を入れるときから考えていたことである。
「ここで戦っておれに勝ったとしても、お前達には司令官も、シャドウミラー自体も既に存在しない。そしておれはべーオウルフじゃない。……戦う意味も、もう無いと思うが?」
『……』
 エルアインスのパイロットが黙り込む。いつしか場の雰囲気に飲まれたのか、ルイズたちが騒ぐのを止めていた。
 しばしの間、ただ静寂のみが狭いコックピットの中を包んだ。だが、いきなりキョウスケはレバーを横に倒した。
「「きゃあああ!!」」
 襲い掛かる衝撃に悲鳴を上げるルイズとキュルケ。しかし、キョウスケは聞いていない。
「……これが、お前達の答えか」
 目を細め、低くなった声を相手に投げかける。先程までアルトがいた場所を、弾丸が切り裂いていったのだ。
『そうだ、べーオウルフ……いや、キョウスケ・ナンブ』
「……おれの話を聞いていただろう。にも拘らず、戦うつもりか」
 そこでふ、と言う声がスピーカーから流れた。……冷笑、だろうか。
『その言葉はそっくりお前に返してやる。お前は我らの司令官から、一体何を聞いた?』
「……貴様らの、目的を」
『そうだ。そして我らはシャドウミラーだ。我らは我らの意思で司令の思想に賛同した。そして我らは大いなる覚悟と共にあの方の意思を遂げようとしたのだ! 今一度言えばいいか? われらの目指すものは唯一つ。……闘争の世界だ!!』
 狂気に似た信念と、熱に狂った口調で語るシャドウミラー兵。
『確かにここは異世界らしい。場所を特定しようとしても、データに無いという答えが帰ってきたからな。説明がつく。しかし、だからどうした? 例え世界が違おうとも、例え司令がいなくなろうとも、我々のやることに変わりは無い。戦いの炎で全てを包むのだ。……そして、』
 エルアインスが、ゲシュペンストが、火器をアルトに向ける。
『その障害となるものを、排除する!』
 キョウスケは目を伏せた。
(こうなることは、何となく分かっていたがな……)
 避けられるものならと思って呼びかけてみたが、無駄だったようだ。
(ヴィンデルの考えに賛同し、共に次元を超えようとした、か……)
 仲間の話では次元転移に成功する確率はかなり低いという。それを承知で転移を望むほどの決意を持っているのであれば、もはや何を言っても考えを変えることはできないだろう。
(……今となって考えれば、アルトを壊そうとしたときに感じた不安はこのときを指していたのかもしれんな……)
 キョウスケは覚悟を決めた。目を開き、眼前にいる『敵』を睨みすえる。
「いいだろう、そこまで言うのならな。……だが、おれはこのまま殺される気も、貴様らの思い通りにさせるつもりも無い……!」
 アルトを前傾姿勢にし、ブースターとテスラ・ドライブを起動させる。
「お前達が闘争の世界を望み続ける以上、放置することはできん。それにこの世界をそんなものにされるのも業腹だ。ならば、おれのやることは唯一つ……お前達を……」
 そしてリボルビング・バンカーを前に突き出し、底知れぬ闘志をこめてキョウスケは言う。


 ――――ただ撃ち貫くのみ――――













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