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木こりの王様

作者:A99
 ある所に、大きな森が広がる場所がありました。そこは、昔から森が広がっておりました。
 大きな木。小さな木。濃い色の木。薄い色の木。葉っぱの色もさまざまな、それはそれはたくさんの木がある森が広がっておりました。
 そんな森に、一人の木こりがやってきます。その木こりは、まだまだ若い青年でした。
 森に入った木こりは、森の中を歩きます。どこまでもまっすぐ歩き続けると、やがて森の真ん中にたどり着きました。
 すると木こりは、そこで不思議なものを見つけます。それは、壁です。木こりは、森の真ん中で高い壁を見つけたのでした。
 木こりは不思議に思います。どうして壁があるのだろう。
 首をかしげながら、木こりは壁に触ります。すると、今度は木こりは驚きました。その壁からは、とても強い生命の力を感じたのです。
 慌てて木こりが壁を見上げます。そこでようやく木こりは、壁だと思っていたものの正体がわかりました。
 それは、木こりが今まで見たこともないほどに大きな木でした。何年生きたのでしょう。木こりにはわかりませんが、しかしその大木のあまりの大きさに、木こりは驚くとともに感動していました。
 この木を切れば、どれだけの木が取れるだろう。木こりはそう考えると、この木を切ることに決めました。しかし、すぐに切ろうとはしませんでした。
「大木よ。お前は最後に切ってやろう」
 木こりはそう言うと、周りの木々を切り始めました。そして、切った木を使って、大木の下に小さな小屋を作りました。
 その日から、木こりの木を切り続ける日々が始まりました。木を切っては寝て、木を切っては寝るという日々の繰り返しです。
 やがて切った木も多くなってきた頃のこと。木こりは友人の大工を呼びました。大工は久しぶりに木こりに会えるということで、意気揚々とやって来ました。
 しばらくの間、再会を喜び合っていた二人でしたが、木こりは大工にあるものを見せました。それは、木こりが今までに切った木で作った丸太の山です。
 あまりの丸太の量に驚く大工でしたが、その瞳はキラキラと輝き、まるで子どものように興奮していました。そして、大工に丸太の山を見せながら木こりは言いました。
「家を建ててくれないか?」
「もちろん引き受けるとも。こいつは素晴らしい木だ。良い家になるぞ」
 大工はそう答えると、すぐにその場を走り去ってしまいました。そして、数日後に大工の仲間を引き連れて、もう一度やって来たのです。
「さあ! 腕の見せどころだぞ!」
「おー!」
 大工とその仲間たちは威勢のいい声を上げると、すぐに家造りをはじめました。その仕事はとても早く、あっという間に家を一軒建ててしまいました。もちろんそこで終わるはずもなく、大工たちは次々と家を完成させていきました。
 そうして家を数軒建てる頃には、大工たちの家族もここに住むようになっていました。最初は木こり一人だけで住んでいたこの場所も、今では小さな集落です。
そうなると今度は、商人がやって来ました。良質な木が取れるといううわさを聞きつけてやって来たのです。
 幸い、ここの木は商人のお眼鏡にかなったようで、商人は諸手を上げて喜んでいました。これには集落のみんなも大喜びです。
「ここの木は素晴らしい。ぜひとも売っていただきたい」
「喜んで売るとも」
 商人のお願いに、木こりはすぐに返事をしました。お金が必要なのもそうなのですが、それ以上にここの木の素晴らしさをみんなに知ってほしかったのです。
 そして、木こりの期待していたとおり、みんなここの木の素晴らしさを知ってくれました。商人が持っていった木が素晴らしいと、みんなわかってくれました。
 ここの木のうわさは徐々に広がって、木こりの仲間もやって来ました。大工もどんどんやって来ました。木を買いに商人もどんどんやって来て、ここに住む人もどんどん多くなっていきました。
 そうして人が集まった結果、ここはすっかり村のようになってしまいました。木こり一人だけだった頃とは打って変わって、たくさんの人たちの声が響き渡ってにぎやかです。
 そうなると、今度は商人が買い付けだけでなく、物を売るようになりました。ここにはないさまざまな珍しい商品を売ってくれる商人も多いため、ここの人たちも大喜びです。
 物を売る商人が多くなるにつれ、ここに何日も滞在する商人も多くなってきました。そんな商人たちは、毎日のように何かを相談しています。
 住人たちもそれが気になり始めた頃、木こりの前に商人たちがやって来ました。それは、ここに何日も滞在する商人たちです。
 木こりは何かあったのかと尋ねますが、商人たちは首を横に振るだけです。では何なのかと問うと、一人の商人が代表して木こりに言いました。
「私たちもここに住みたいのです。どうか商売をさせてくれませんか?」
 商人たちは、ここをすっかり気に入ってしまったのです。何日もいたいけれど、何回も往復するのは大変です。
 そのため、商人たちはここを拠点にできないかと考えたのです。同じ考えの商人は多かったため、そんな人たちが集まって毎日相談していたのでした。
「それは助かる。ぜひよろしく頼む」
 木こりとして、もここに住んでくれるというのは大歓迎でした。人は多くなりましたが、ここにはお店がないのです。商人も来てくれるとはいえ、それも毎日ではありません。お店がないのは不便なのです。
 こうしてお店ができたことで、ますます人が集まるようになりました。お店がないことで住むことを遠慮していた人たちが、どんどん集まってきたのです。
 そして、数年もするとここもすっかり大きくなり、今では小さな国として扱われるようになりました。他の国との交易も盛んに行われて、ここの木は世界中へと広がっていきます。
 最初にここに来た木こりは、この国の王様として頑張っていました。木を切る時間が減ってしまったのは残念ですが、国が大きくなって、ここの木の良さを世界中に知ってもらえるのはうれしい事でした。
 国には木を切る音が響きます。木こりの奏でる美しい音色が響きます。たまに王様も混じって音色を響かせています。
 ですが、全てが順調なわけではありませんでした。お金を使えばなくなるのと同じように、木も切ればなくなるのです。
 国ができて数十年。王様にも子どもが何人も生まれました。その時になって、初めて王様は気が付きました。
 木が少なくなっていたのです。
 王様が一人の木こりとしてやってきた時は、それはそれはたくさんの木が生えていたものです。ですが、木こりとして王様がやってきて、大工がやってきて、商人がやってきて、そして村が、国ができました。
 国を守るためには、お金が必要です。そのお金をもらうために、この国では昔から木を切って売っていました。この国の木は人気があるため、大量に売れたのです。
 そのために木を切った結果、この国の木は少なくなってしまいました。このままでは、木がなくなってしまうのも時間の問題です。
 王様は悩みました。今更木を切るのを止めるわけにはいきません。この国の人たちを守るためにも、木を切るのは必要なのです。
 ですが、木を切り続けてしまえば、いずれ木はなくなってしまうでしょう。そうなれば、この国の人たちを守ることもできません。
 王様はあてもなく歩きます。悩み続けたまま歩きます。そして、高い壁にぶつかりました。
 いえ、壁ではありません。それは、とても大きい一本の木でした。
 王様の前には、天を貫くような大木が立っていました。この数十年でさらに成長した、この国の象徴ともいえる大木です。
 この大木を切れば……。王様は一瞬だけ考えましたが、すぐに考えることをやめました。そして、そんなことを考えた自分が恥ずかしくなりました。
 この大木は、国の象徴であり、みんなの安らぎの場所なのです。そんな大木を切るなど、そんなことはとてもできません。
 王様は大木に触れました。大木からは、最初に触れた時と同じように、とても強い生命の力を感じました。
 それはまるで、王様を暖かく包み込むようでした。王様は、まるでお母さんに抱かれているような気分になりました。そのため、王様はちょっとだけ自分に素直になって、大木に話しかけていました。
「大木よ。わが友よ。どうか私の話を聞いてくれ」
 王様の声は震えています。
「木を切りすぎて、どんどん木が少なくなっている。このままではこの国はおしまいだ。友よ、どうすればよいのだろう? 勝手なお願いなのはわかっているが、どうか答えてくれないか?」
 王様は大木に問いかけますが、答えはありません。大木なので話すわけがないのですがが、しかし王様は大木が答えてくれるのではないかと、心の何処かで思っていました。
 ですが、大木は答えません。王様は悲しそうにため息をつきました。
「そうだな、私たちの招いた結果だ。今まですまなかった」
 王様は大木に頭を下げました。大木がわかっているとは思いませんが、王様はそうする必要があると考えていました。
 王様が頭を下げていると、不意に強い風が吹きました。今まで感じたことのないほど強い風です。そして、風で落とされたのか、何かが地面に落ちました。
 王様が落ちてきたものを見ると、それは苗でした。たった数本の苗です。でも、王様はそれだけでわかりました。大木の優しさがわかりました。
「大木よ。友よ。ありがとう。君の気持ちは無駄にはしない」
 王様は、もう一度頭を下げました。しかし、それは謝罪の気持ちではありません。それは、感謝の気持ちです。
 大木は答えてくれたのです。この国の人たちが木をいっぱい切ったのに、それでも答えてくれたのです。王様はそれがうれしくて、暖かくて、言い表せないほどの感謝の気持ちで頭を下げました。
 その後、王様は落ちてきた苗を拾うと、すぐにみんなに全てを話しました。木が少なくなっていること。国が守れないこと。でも、木を切る必要があること。そして、大木に全てを話して、苗を落としてもらったこと。
 王様の話を聞いた人たちは、すぐに木の苗を植え始めました。そして、木が育つまでは、あまり木を切らないようにしようと決めました。
 他の国に迷惑をかけてしまいますが、そこは納得してもらえるまで話すしかありません。これから先もこの国の木を愛してもらうためには、今から変えていくことが大切なのです。
 みんなは木の苗を植えて、その苗を大切に育て始めました。みんなが育てている苗は、希望なのです。未来なのです。
 未来を守るためのこの活動は、何年も何十年も続きました。この国の人たちだけでなく、他の国の人たちもそれぞれ苗を持ってきて、植えるようになっていました。
 そして、王様がおじいちゃんになる頃には、数多くの木が育つ森が広がっておりました。王様がやって来た頃に比べればまだまだ少ないですが、みんなが植えた苗は立派に育ってくれたのです。
 王様は思いました。もうこの国は大丈夫だ。みんなが幸せに暮らすことができるだろう。
 その日の夜、王様は体調を崩して寝込んでしまいました。家族には大丈夫だと言いましたが、そんなのはうそです。王様はわかっていました。
 王様は、長くありません。
 木と一緒に歩いてきた人生だと、王様は思いました。木を切って、木と友だちになって、木を植えて。王様の人生は、常に木と一緒にありました。
 今までの人生を思い返して、王様は一つのことを決めました。
「私はもう長くない。私が死んだら、大木の……わが友の近くに埋めてくれ」
 次の日、王様は心配してやって来た家族のみんなにそう言いました。家族のみんなはそれを聞いてぼうぜんとしていましたが、やがて悲しそうな顔をしながらうなずいてくれました。
 そして、数日後。王様は静かに息を引き取りました。王様がいなくなったことを知った人たちは泣いて、悲しんで、王様が天国へ行けるように祈りました。
 王様のお墓は、王様の願いどおり大木の近くに作られました。王様は、友だちの大木と一緒に、ずっとこの国を見守ってくれているのです。
 王様がいなくなった後も、この国の人たちは木を切り続けました。そして、切ってしまった分だけ苗を植えました。
 その様子を、国の真ん中にある大木が、そして王様が見守っています。
 今日も、木こりは木を切ります。木こりの奏でる美しい音色は、今日も国中で響き続けています。

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