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パラレルワールドロッテリー


 くっくっく。今から、私は地球を侵略する。今回は単機の任務となるが、その分、前情報は完璧に仕入れてきた。少し迷ったが、やはり降り立つのはは日本がいいだろう。着物とか着たいし。
 後二十分で、地球だ。なんと言っても今回の任務は一人。侵略の第一歩としては、まず、鳩サブレーを買い占めてやる。一人だから、寄り道してもばれないし。一人サイコー。

 泣きたい。

 ※

 夏休み、この俺、立川創也は高校三年生になったというのに、俺は高校の隣に設置されたプレハブ小屋で一人、宝くじのスクラッチをひたすら削っていた。
 虚しい。暑くて頭がボーっとしているのが救いだが、もしも俺の頭が通常どうりに動いているか、IQが高いかのどちらかであれば、俺は涙を流し、高校生活最後の夏をこんな所で無為に過ごしていることを嘆いて首をつっていただろう。
 何故俺がこんなところに居るのか、その答えは部活動があるからだ。何だ青春してんじゃん、違う、俺の入っている部活動は「科学開発部」という電波女が部長を勤める部員数合計二人の、学校にすら認められていない部活動だ。何に打ち込むというわけでもない、そもそもそんな崇高な目的があれば宝くじなんて買ってない。
 その電波女が好きなんだろう? それはまぁ。 

 解った、その話からしよう。あれは夏休みに入る少し前、俺は図書館にいた。そこで見たのが淡い色合いでぼさぼさの髪の女の子。地下に潜っていたのかというほどの白い肌。この場合は真珠とかが褒め言葉として美しい事は知っているが、それほどまでに、まじりっけ無し、全ての色を反射する白だった。それが近づいてきて、
「超ひも理論を知っているか?」
 と言った。  
 いまどき珍しい、女子高校生の宗教勧誘かとすぐに合点した。だがこの女の子の話を聞くためなら、神様だって信じよう。俺とこの子が仲良くなる原因となればそれはすなわち神。無宗教だと嘯く時代は終わったのだ! 口が渇き、声を発するのが躊躇われる。俺はただ首を横に振って、彼女の言葉を待った。
「全ての原子の元となる物質。これを究極原子と呼ぶとしよう、その究極原子は、十数個ほどの原子だと言われているが、その数が多すぎるのではないかというものだ」
 ……カオス。思ったより怖い宗教だ。これはこの後の流れとして、宇宙のエネルギーで幸せに成れるとか言い出しそうだ。女の子は見た目さえ良ければ正義、という意見には両手を挙げて賛成する。しかし、それにも限度と言うものは在ると思う。そう、全てのものには例外あってしかるべき、そしてこの子は例外の可能性がかなり高い。
「そこで、究極原子はたった一つのひも状の原子であり、それは常に振動するものだという考えだ。この振動の仕方によって今言われている究極原子、数十個に分類され」
「あー、すいません。もう良いです」
「いや、待ってくれ。今良いところなんだ、確かにおかしな話だと思う、そもそもそんなひも状の物質は発見されてはいないからな。しかしだ、これはその物質が十一次元に存在すると考え、また、他の八次元の長さがとてつもなく小さく、認識できないほどだと考えれば全ての疑問は解消されるはずだ」
 ……電波の人だ。
 まぁ、そんな上手い話は転がっていないよな。図書館でちょっと本を眺めていたからって、頭のおかしくない可愛い女の子が話しかけてくるわけ無い。逆説的に言えば、俺なんかに話しかけてくる女の子は総じて頭がおかしい。
 読んでいた本を本棚に戻す。何を読んでいたんだ? と屈んだ電波な女の子に気付かれないように少しずつ、図書館の出口に向かう。
 最近奥さんに出て行かれた図書館の司書のおっさんに挨拶をして、図書館の外に出た。熱気で、生きる気力を奪われるようだが、何とか自転車の鍵を開けることが出来る。後はこれに跨って帰るだけでいい。
「ちょっと待ってくれ。その、なにか私は失礼な事をしてしまっただろうか……教えて欲しい」 
 急いで走ってきたのか、息を切らせた、さっきの電波な女の子が、走り出した自転車を掴んで、声を掛けてきた。なんて健気な子なんだろう。
 そういうのはずるいと思う。こいつの話の途中で逃げ出すように帰ろうとした俺が言うのもなんだが、むしろ難にしているのがずるい。これでは懇切丁寧に、話を聞いて、その宗教を妄信的に信仰するしかなくなうではないか。
「いや、話が難しすぎてよく解らないし、もっとちゃんと理解できる人とそういう話題で話をするのがいいと思います」
「その、話を解りやすくするにはどんな事に気を付ければいいんだろう。次は気をつけるから、もう一度だけチャンスをくれ」
 もう無理だ。健気で可愛すぎる。俺はきっとこのあと、隕石の欠片とかを買わされるに違いない。それでも良いじゃないか、俺は負けたのだ。負けを認められずにごねるのは小学生の時に卒業した。
「すまない。自分でも考えよう。興味がある話題だと、やはり理解しやすいだろう、君は何に興味がある?」
 そんな事を聞かないで欲しい。一瞬でもエロい事です! とかを言ってしまいそうになった自分を呪い殺したくなった。
「エロっ、そうか、解った。少し考えてみる。三日後に、またここに来てくれるか?」
「ちょっと待ってそれは違う、口に出したのかもしれないけど、俺の中では出してないんだから、うわぁぁ――よし、死のう!」
「えぇ! どうしたんだ。私のせい? 私のせいか? 何か原因があるのなら」
「うるせぇぇぇぇぇ!!!」
 図書館のおっさんが外に出てきて叫んだ。
「このくそ暑いのに騒いでんじゃねえぞ! 図書館では静かにしろやぁぁぁ!!!」
「いや、今は図書館の外だが」
 女の子が余計なこと言った。
「うがぁぁぁぁぁ」
 もうあれは人間じゃないじゃん。だって吠えてる。こういう時、男子は皆こう言うべきだ。
「逃げろ。ここは俺が引き受けた!」
 しかし言ってみるとこれは恥ずかしい。 

 ※     

 三日後、まさか本当に竹刀で頭をかち割られ、病院送りにされるとは思わなかったが、とりあえず図書館にはこれた。まぁあれは俺が悪いというわけでは決して無いが、おっさんも悪い奴では無いので、病院に俺を車で送っていってくれた事で帳消しにしてやろう。それにおっさんは二度目になるが、奥さんに最近逃げられたらしい、其処を慮る器量も俺は持ち合わせている。
 それにしても女の子は約束通りに目の前にいるんだが、先ほどから顔を真っ赤にして俯いたまま動かない。この前、かっこよくおっさんに立ち向かった身としてはちょっと位賞賛があってもいいのにと思わなくも無いこの頃だ。
「私は今、スカートの中にひもパンをはいている」
「なんて?」
 ぼそっと、今とんでもない事を呟かれた。聞こえてはいたが聞き返してしまう。
「もうその質問には答えないし、しないでくれ」
「履き心地は?」
「……非常にスースーする」
 そうか……スースーするのか。無性に神様とか信仰したくなったな。
「その、昨日のひも理論の続きを聞いて欲しい。私程度では琴線に触れられるかどうか解らなかったのだが、興味がある話に仕上げてみた」
「聞こう」
 この後の話は全てここに書き記してもいいんだが、短編小説なので、割愛する。個人的に知りたいならば、この立川創也宛てに短編小説って二万文字以内だって知らなかった? 馬鹿いってんじゃないよ、常識だろ? とかの罵倒と共にメールして欲しい。 
「ふむ、ここまでで、質問などは無いか?」
「無い。けどちょっとトイレ」
 紙を鼻につめるのも、不恰好なのでトイレで顔を洗う事にする。それにしてもなんかエロい、仕立て上げるってそういう感じか……ひも理論とひもパンの因果関係は無いはずだが、ちょくちょくちなみに――とかで妙に生々しい事を言うので、逆にひも理論の謎が深まってしまってしょうがない。
 トイレから戻ると、女の子は鞄からケータイと、丸い円盤、お菓子を机の上に並べていた。
「あ、帰ってきたか。その、創也。ここに私のケータイがある」
「ん」
「君のケータイを貸してくれたら、この飴か円盤を選んでくれ。どちらもその一番にだな見せたい……ごにょごにょ」   
 よく解らないが、やっと宗教の本格的勧誘が始まったに違いない。だからと言って流石にもう突っぱねるわけにはいかないだろう。
「はい。じゃあ、飴の方をくれ」
 ケータイを渡して、飴の包みを開ける。
「あ、待ってくれ! その飴を食べるのはもっと後にして欲しい。話を聞いた後にして欲しいんだ」
「ん? 解った」
 ぴろぴろりんっとケータイの音がして、俺のケータイに、入鹿ことりを電話帳に保存しますか? と出る。
「その、私の連絡先だ」

 ※

 その日は宗教団体の集会が無かったのか、それでお開きとなった。これはその日帰ってからよく考えた俺の結論だ。連絡先と、俺のケータイに登録された番号とアドレスはきっと、集会の時間と場所を伝えるためのものだろう。そう考えると、彼女の行動に説明が付く。
 そう結論付けたところで、ことりからメールが来た。入鹿ことりなんて、イルカなのか、鹿なのか、小鳥なのか一つにしろって漢字だが、あんなに可愛い子に育つなら俺も子供にああいうふうに名前をつけようかと思う。
「並行世界についてなんだが、やはりタイムトラベルで今最も実現可能だと考えられるのは、ワームホールによって並行世界とこの世界を繋ぎ、どちらかの世界を高速で移動させる事による、相対性理論、俗に言う浦島効果で時間的な差を大きくし、またそれを繰り返す事によって、何時の時間にも自由にいく事が出来るワームホールを作り出す事だと思う。このワームホールというのも、半重力物質で其処を満たさねばならなかったり、重力の発生によって潰れること、もともと、高い重力内でなければいみななどないのだが、其処の半重力物質。全ての物体は重力は重力を発生するというものの逆である事であって、この地球上では存在し得ないものなのだが――」
 メールは三件。全てのメールは、文字数制限最大まで使っている。この大量の文字を、俺のために打ち込んでくれたのだと思うと嬉しいが、内容がこれでは正直読むのが辛すぎてそれも台無しだ。
 やっぱり名前の件は止めよう。自分の子供には、電波を受信して欲しくはない。
「――どう思う? ことりより」
 ことりからメールが着てるのは解ってるっての。それにしてもどう思うと来たか。前文を読むだけでももう頭が痛くなってきた。でもこれで返信しないと無視したみたいで、不本意だ。だからといって、正直にどう思うかを答えれば「訳解んない、この前みたいに相対的に見て、私がここで全裸になれば変だと思われ、また同じく君も含めた周りの人間が皆揃って全裸だった場合、それはごく一般的なものだと思われるとか入れて話して欲しい」となる。
 だが、これを文にするとセクハラにしかならない。
 気の聞いた台詞はないものかと、本棚を漁る。
 俺は活字は嫌いだが、料理本とか、恋愛相談の本とかはたくさん持っているんだ。主に父さんが勝手に俺の本棚に読み終わった本を突っ込んでいくからなのだが。
「女の子攻略! これで君もモテ男」
 何でこんな題名の本を、父さんが買ったのかが気になるが、それは後でいい。ページを捲って、それっぽい項目を探す。
「こんなメールで女の子と仲良くなろう」
 これだ。
「昔から俺、お前の事好きだったんだ/ずっとお前だけを見ていたい/愛してる/などの重要キーワードと、ハートマーク。耳元でささやく事が最も重要だ!」
 メールなのにささやく? それにそんな言葉を吐けるようになるまでに、結構仲良くなってるというか、それはもう攻略済みでいいんじゃないか。あと、耳元でささやくという所にマーカーが引いてあるんだが、これは父さんを俺はぼっこぼこにしないといけないかもしれない。
 まぁ無難に勉強になったよとかでいいか。
「送信っと」
 もう寝よう。意外に頭を使ったのでとても疲れた。
 その日はケータイの音も気にならないほど熟睡した。
 次の日、十八件のメール。何処何処に来てくれというメールが、どんどん心細くなっているのが解る文体で来たことで、俺はもう断れないなということを悟った。

 ※

「これだけ回想してもことり来ないな。もう昨日の時点まで回想したから、回想しようがないぞ。それにしても当たらないな、この宝くじ、期待値いくつ位なんだよ」
 外れくじをポケットにねじ込む。もうことりとの約束の時間はとっくに二時間ほど過ぎている、一旦電話してみよう。
「宝くじは一般的に約50パーセントが賞金として当てられるらしいな。期待値はどの宝くじを買うかで変動はするが、期待値は三百円のものなら百五十円くらいなんじゃないか?」
 暑さで幻覚を見ているわけではないだろう。ほっぺに冷たい手が当たる。
「うわっ」
 驚いて立ち上がると、ことりはそれ以上に驚いて、転んでしまった。
 ことりを見下ろす形となって、スカートだったので、色々と際どい。
「賭け事をしていたのか? おい、何処を見ている。ちょ、ちょ、ちょ、洒落にならない」
 あと少しだったのに、ちょちょちょと三歩後ずさったので、希望は断たれた。っと、ことりの顔が今度は解りやすく真っ赤になっている。でもこれはしょうがないと思う、男子高校生からしてみれば、罠としか言いようが無い。怒るくらいなら、スカートなんて履いてこなければいい。
「おまっ、危ないだろ。後、洒落にならないってなんだ。気になるだろっ」
「なんでちょっとキレ気味なんだ君は……」
 押し切れるかもしれないと思っていたことは秘密だ。それにしても他の信奉者の皆さんは来ないのだろうか。
「まぁいい。それでは君に上げた飴はちゃんと持ってきてくれたか?」 
「持ってきたけど……他の人は?」
「他の人?」
 ことりはまるでそんなものは無いと言ったふうに、首を傾げた。
「今日は集会とかじゃないのか?」
「君は何かを勘違いしていると思う」
 俺は、宗教団体の集会ではないのかと、聞くことにした。
「――まぁ確かに科学開発部という名前は、宗教団体っぽくないといえば嘘になる。しかし、私の話を空想のものといっては失礼かもしれないが、現実のものではないと捉えていたことには遺憾の意を表する」
 ちょっとだけむくれたが、すぐにまぁ、これを見ればそんな事は言っていられないだろうとか、ぶつぶつ言った後、
「まぁいいさ。さぁお待ちかねだ!」
 と声を張り上げた。
 まったくその通りだ。こっちはかなり待った。 
「さぁ、遅れた事は許して欲しい。ちょっと実験のために用意があってな」
「偉そうだな」
「ふふん、私は偉いのだ。まずここに並行世界に行くために必要な機械を用意した」
「電波……」
「君は何かを勘違いしているっ!」
 ことりは怒ると可愛い。
 だが、なかなか本格的なマシンを持ってきた。なんか手品で、人が中に入って剣とか刺されたりしそうな箱にコンセントが付いてるだけにも見えなくないが、ピコピコと変な音がしているし、これはきっとすごいマシンだ。   
「さて、まずは君だ。並行世界に行く前に……何だその目は、もしかして私が痛い奴だとでも思っていそうだな」
「そっつ、そんな事思ってないっすよ」
「いいし、これから私の力を見てもらえばいいし。とにかく説明だけすると、あっちの世界で私たちと会ってしまうと、私たちがこっちに帰れる可能性が50パーセントとなる。その懸念を潰すためにまず、並行世界の私たちを呼ぶ」
 これは俺も少しは歩み寄ったほうがいいんだろうか。この三次元において、時間の概念を無視したその発想ナンセンスだぜとか話をややこしくしてしまってもいいんだろうか。
「さぁ、ここに手を置いてくれ」
 言われた通りに箱の上に手を置いた。もう俺はここで何も起らなくとも、完璧なリアクションを取ってみせる!
 もわもわーっと煙が箱の中から出てくる。そして中から人が出てきた。
「どうも」
 それは俺。まさに鏡を見ているようだと思う。
「ことり、マジか」
「ふふん」
 口の端を、ニヤッとあげ、満足そうだ。この顔を見ていると、この現実が夢のことだとしか思えない。
「あれぇ、僕がいるよぉー」
「ぶふっ」
 ことりに唾を吐きかけられた。大笑いして膝から崩れ落ち、床をバンバン叩き始める。踏みつけてやろうか。
「ふぇぇぇぇ、誰ぇーなんで僕、こんな所にいるのー」
「僕って、ふっははははは」
「おい、俺! もう喋るな!」

 俺は俺に必死に良く解ってもいない事情を話した。
「あぁ、なるほど。あ、なんかすげーじゃん。犯罪し放題。主に性犯罪万歳なわけっしょ? だって此処俺の世界じゃなぇわけだし、後で元に戻してくれんだろ?」
 会って二分で、キャラ崩壊した。ことりの説明だと、パラレルワールドといっても、何もかもが一緒の世界と言う訳ではないらしい。しかし、これは酷い、何故俺と同じ顔で、そんな事になっているのだろうか。最初のキャラはなんだったんだ。
「じゃあ俺、エンジョイしてきちゃっていい? 俺の世界ではさ、俺、超可愛い系男子でいってからさ、そこんとこよろしく。あ、逆らったらマジでぼっこぼこよ? 剣道三段持ってし、マジでぼっこよ」
 とりあえず椅子に縛って今に至る。持ってて良かった剣道二段。それとも将棋アマ一段の方だろうか。とにかくくそ弱かった俺を縛り付ける事に成功した俺は、もう満身創痍だった。 
「おいてめぇ! さっさとこの縄解けよ! どっから出したんだよ、そもそもよー。マジ油断したわー、もう一回やれば勝てる」
 それまで転がりながら笑い続けていたことりだが、やっと立ち上がって、
「ひっひっふー、よし、大丈夫だもうふふっはぁっ」
 もうこいつ駄目だな。
「ことりやれよ、今度は俺が大笑いしてやる」
「もひっ、もちろんだ。だが、君のようにひっ」
「早くしろ!」
 なんで俺のせいじゃないのにこんな恥ずかしい思いをしなければならないんだ。
 またもくもくと煙が出る。並行世界の俺、つまり、パラレル俺があまりに屑だったので突っ込めなかったが、この煙はいったいなんという物質なのだろう。水蒸気ということでいいんだろうか。
 パラレルことりが現れる。ことりはぼさぼさで短めの髪だが、パラレルのほうはとても長い髪の毛だった。見た目的にはこっちのことりよりも格上だ。こんな不公平があっていいいのだろうか。
 数秒沈黙が流れる。
 耐え切れなくなったのか、ことりがパラレルことりに挨拶をした。
「こんにちわ」
「こんにちわ、えっとここは?」
 ことりはガッツポーズをして、俺は舌打ちをする。考えてる事は同じだろう、こいつ、まともだ。      
「あの、すいません。其処の男の人、もちろん縛られて、何かを喚いてるほうではない方」
 ちなみにもはやバックグラウンドミュージックとなったが、パラレル俺は今も、なにやら屑くさい事を喚いている。
「なんですか?」
「なんで敬語なんだ」
 ことりが俺を小突く。扱いの違いに不満があるらしい。だが、逆に考えて欲しい、まともな奴とカオスな奴では扱いに違いが出て当然のことではないか。
「好きですぅ、抱いてください」
 くねっとしなを作って投げキッスされた。
「きゃっ、転んじゃったぁ」
 呆然としていると今度は、抱きつかれ、胸に「の」の字を書かれる。
「ひゃっはー、えっろ。この娘、えっろ! ヒューヒュー」
「……死にたい」
 パラレル俺の下衆な声と、対照的なことりの終末を見たような声で我に返る。ばっと両手で突き飛ばすように距離を――取れない!
「あーん、なにぃ、私の事ぉ、嫌いですかぁ」
「い、いや」
「じゃぁ、好きぃ?」
「もう止めてくれ! 私の気持ちを考えてくれ! 凄い複雑なんだ!」
 俺だって複雑だ。顔はことりなんだから。くっそ可愛いな。って違う、とりあえず離れなくては。
「力強い!」
「ひどーい、私ぃ」
「なっ、今のはわざとじゃ」
「何時までやってるんだ! 短編小説だぞ! そろそろ離れないと話が進まないじゃないか」 
 ことりの天下の宝刀というか、世界の理の力によって、俺はやっとパラレルことりから解放された。少し寂しい気持ちにはなるというか、残念な気持ちというか、最終的にはことりのキャラ崩壊がひどくて、外に出られないかもしれなくなるので、縛らせていただいた。
「あーん、なんでこんな事するのぉ。っていうか私はぶっちゃけちゃったね」
「創也、パラレル私に返事をしてみろ、ただじゃ置かない」
「解ったよ……でもこれ俺のせいじゃないだろ、キャラ濃すぎるんだよ、予想外だよ」
 もうことりも俺も汗だくだ。
「さぁ、さっさと並行世界のたびに出よう」
 もう俺はことりのバイタリティに感心するばかりだ。というか、もうお前凄いよこれ、ノーベル賞ものじゃん。お腹一杯だよ、もうこいつらとワイワイやって終わればいいと思うし。
「さぁ飴舐めて!」
 しかしことりはどうしても、並行世界に旅立たせたいらしい。
「はいはい」
 飴の味はチョコだった。眠気というか、頭がグラッとして――――



――――ファミレスで少しウトウトしてしまっていたらしい。
「お待たせー、何食べる? 私チョコパフェ! でもやっぱり肥ると困るからハーフで!」
「居酒屋じゃないんだから店員を捉まえて注文するなって。ボタンを押せ。後ハーフって何だ、店員さんが泣きそうだぞ。って泣きそうだ! 涙腺ゆるっ!」
「今何回突っ込んだ? ねぇ、今の何突込みって言うの? 流れるような突込みだったけどーナイアガラ突っ込み?」
「うっせ、俺も自分でやりすぎたと思ったけども」
 時間は12時。昼時か、なんで昼飯ここで食おうと――
「そもそもお前誰だ!」
「えっ、創也きゅんの彼女、好きなものは甘いもの、嫌いなものは自分の苗字、天王寺にょっこです」
 一瞬、寂しそうな顔をしたが、すぐに明るく自己紹介をした。彼女に冗談でもそんな事を言うんではなかったと後悔する。
「えっと、ごめんなにょっこ」
 誰だかまったく思い出せないが、とりあえず謝ることにした。
「あ、すいません。にょっこじゃなくて、陽子です」
「なんで嘘付くんだよ、最強のタイミングじゃん。もう殺せよ」 
「ご、ごめん。なんか傷つけちゃったね。で、でもしょうがないよ、ほら、私たち初対面だしさ、私が悪かったからさ、泣かないで~もう~少し~さーいーごまで―」
 帰りたい。
 しかし本当に此処は何処だっけ。

 周りを見渡していると、あの泣いてたウエイトレスが怯えた目でこっちを見ていた。
「あの、パフェです。ははハーフはその無理って言われたんで、私食べます! そしてお金出すんで半額ということでどうでしょうか!」
 見ていると思ったら、どうやらこれを出すタイミングを計っていたらしい。
「陽子さん、店員さんを困らせるなよ」
「あっごめんごめん、大丈夫、彼氏と半分こするし」
 陽子さんがそう言うと、ウエイトレスさんはじっとスプーンを握り締めて言った。
「……その、一口だけ」
 食いたかったんかい! 何だ此処、キャラ濃いの集まりすぎだ。俺の友達か、いや、俺の友達にこんな奴はいない。

「あーん」
 口にチョコの味が広がる。むりやり陽子さんにスプーンをねじ込まれた。それで全てを思い出した。
 そうだ、俺はあの飴を食べてなんかおかしな事になったんだった。
「すいません、陽子さん。今俺ちょっと、色々思い出しました。どうやら俺は並行世界からやってきたらしいです。全てを察してください」
「つまりは、あなたは本当の創也ではなく、私はいまから帰る方法を探すために必要な道案内役なのね」
「ノータイムで察せれると、戸惑う!」
 お会計、といってもパフェの半分の値段なのだが、それを払わされ、外に出た。
 外に出てもそんなには変わった事が無く安心する。ポストがこげ茶色だったのは見なかったことにしよう。
 それにしても、並行世界で何をしようか。ことりを探して、もう一個飴を貰うのはもちろんの事、それだけでは物足りない気がする。並行世界だけで出来ること……一瞬、本当に一瞬だけパラレル俺の性犯罪し放題という、言葉を思い出したが、それは流石に俺のモラルが咎める。
「ねー、何考えてんのっ」
「もう帰れよ……お前の彼氏は俺じゃないって」 
「私の目を見て」
 突然顔を捕まれ、目を睨まれる。見つめられているんだろうなとは思うが、力が入りすぎていて、睨まれている様にしか思えなかった。
「私、実は罰ゲームで君の彼女になったの。正直、顔はいいけど君って気持ち悪いじゃん。主に喋り方が。ふぇぇとかアイドルでもぶん殴られと思うの…………反応なし。本当に並行世界から来たの?」
 パラレル俺のことをもう少し優しく縛ってやれば良かった。あいつ喉とか乾いてないかなと心配になる。
「そうだ。だから、何だ?」
 お前の愛しい彼氏では無いみたいだし、お前の知ってる俺ではない方がこいつにとってはよさそうで困る。 
「面白そうじゃん」
 二ヒヒと嫌な笑い方をする。
「手伝ってあげるよ」

 最初は断った。だが、そうなのとあっさり引き下がってくれたと思ったら、こいつは俺の近くから離れようとしない。走っても追いつかれ、トイレに駆け込んだら、そのまま着いてきた。こっちでは男女共有らしい。
「訳解んない。逆に別々って何の意味があんの? 見られる時は見られるし、そういう気持ちが無ければ見たりしないじゃん個室なんだから」
「音とか……」
「変態?」
 そう言われるともうどうしようもない。
「ねぇ、もう日がくれてきちゃったけど、探し物は何ですか~見つけにくいものですか~」
「お前暇なの?」
 もう無視するのも辛くなってきたので、そう聞くと、
「うーん、私はそれに答えて、君の同情を引くことが出来るけど、聞いちゃう?」
 といたずらをする子供のようにニヤニヤした。 
「聞かない」
 俺は考えるより早くそう答えた。だが実際、聞いていいことなんて無さそうな雰囲気だし、
「あのね、私のお母さんは」
「あれ、話始めんの?」
「うん。私のお母さんは実はいないの。別に珍しい事じゃないんだけど私はクローンって奴でね、クローンの子供なんて差別されるに決まってんだから止せばいいのに、お父さんが作っちゃったんだよ。子供が欲しいって理由で。知ってると思うけどクローンは年を取らないでしょ?」
 思ったより数段階重い! もう本当にこれはなんていっていいか解らない。こっちの世界はクローン技術が発達してるという情報も今初めて知った。 
「なーんちゃって嘘! ささ、ケーキでも奢ってよ。一応これでもあんたの彼氏なんだからさ」
 俺の顔を覗き込むようにして、そう話を打ち切る。
 もしかしたら、俺の顔色が悪くなっていくのを見て、話すのを止めたのかもしれない。同情されているのはこっちの方だって事だ。
「あっ宝くじ」
 お勧めのケーキ屋さんがあるのだーと、こっちの世界でしかきっと食べられないよ? と急かされ、何故か裏通りに案内されて行き、不安になってきた頃、俺が宝くじを買ったのと、同じような店構えの宝くじ屋を見つけた。  
 そういえばポケットに宝くじが入っていたのを思い出す。
「ねぇ、私天才かも」
 突然、陽子さんが頭に手をやって、片足でぴょンぴょン跳ね出す。
 怖いな。
「さぁ、さっきから私に対して同情しまくりの、創也くんでいいんだよね。それとも創也二号とか言った方が良いの?」
「いや、創也でいいよ」
「いやん、名前で呼び合うだなんてっ! この、このっ」
 片足ぴょンぴょんしながら、俺の胸を小突いてくる。
「それで、何か思いついたの? 私天才かもって」
「いや、不意に私天才なんじゃないかって思っただけ」
「馬鹿?」
「酷いよっ、私だって、ミジンコだって生きているのにっ」
 ハンカチを取り出して、きーっとやる。まぁそんな事はもうどうでも良くなってきた。そろそろ帰っても良いかなと思ったが、もしかしたらパラレルワールドの宝くじなら、当たるかもしれないと思って、十枚ほど買う。     
「ねぇ、酷すぎない? スルーはないよ、構ってよ」
「あ、削る?」
「うん、削るー」
 この宝くじは、三つの記号が揃うように9つのマスのうち3つを選んで削るという奴だ。
 俺は右上と、真ん中、右下を削って一千万を狙う! 
 星、星、星と三つの記号が揃った。
 こんな事があっていいのか、さすがパラレル宝くじだ。たしか賞金は五万円だったと思う。
「あ、ハズレじゃん」
 俺のを横から見ていた陽子がそんな事を口にしながら、俺に三つとも絵柄の違う宝くじを見せてニヤニヤ笑っている。
「見て! あったったよ、千円」 
「絵柄揃ってないのに?」
「ばかだなぁ、揃ったら外れだって。全部違う絵柄にならないとあたりじゃないよ?」
 そんな馬鹿な。こんなところで並行世界感を出さなくてもいいというのに。
「まぁまぁ、そんながっかりしないでってば」
 俺の世界のとまったく同じ宝くじなのに、これが現金と交換できないなんてどうかしてる。
 なんかもったいないので、とりあえずそれもポケットに入れておくことにした。
 そういえば、ポケットの中にはたくさんの宝くじがある。それは全部ハズレくじだから、もちろんマークが全部違ったなんてのはざらだ。
「なぁなぁ」
「なに、悪巧み? いきなりフレンドリーになったね」
 俺はポケットの中の宝くじを見せる。 
「ほうほう、これを何処で」
「元の世界で」
 俺と陽子はニヤニヤする。
 合計八十二万。現金と交換するときは緊張した、それも陽子も同じだったらしく、額を汗が伝っている。
「へへ」
「何笑ってんだよ」
「そっちこそ、ニヤニヤしてる」
 とりあえず豪遊してやろうと、俺達はファミレスに入った。
「豪遊するんじゃなかったの?」
「思いつかなかったんだからしょうがないだろ」
 しかし、其処まで腹が減ってるわけでもない。昼飯は食った後だったし、それに今俺は少しだけ後悔している。
「ごっご注文は?」
 さっきのウエイトレスさんだ。俺達が店に入ったときからこちらの様子を伺っていて、多分他の人に注文を取り行くように頭を下げていたが、結局頼めなかったのか、怯えたようにこちらに来た。
「よし、デザート全部頼んでもいいですか!」
「いいけど……食えんの?」
「無理。やっぱ止めよう。ドリンクバー二つでいいよね」
「あっはい、グラスは」
「いいよ、解ってるから」
 陽子も腹は減っていないらしい。俺の分のドリンクバーも頼んで、席を立った。少し待っていると、黄緑のジュースと、差し出してきた。何故か真顔だ。笑いを堪えようと、並べく自然な顔を作ろうとして失敗したらしい。
「なんか混ぜたろ」
「混ぜた、ガムシロップと野菜ジュース、炭酸のオレンジジュースさらに其処にダージリンを、2、2、1、1の割合で混ぜた」
 悪げも無くそう言って、オレンジジュースを啜り始めた。
「ガムシロ入れすぎじゃね?」
「斬新かなって」
 違う、突っ込むところは其処じゃないだろ。
 とりあえずは飲んでみようと、一つ口に含んでみると、なんだろうか、凄い斬新な味がする。ただ、これ以上は飲みたくは無い。
「お前、次は俺が汲んできてやるよ。コップ貸せ」
「いえ、まだ飲んでるんで、お断りします」
 くそう。

「あ、そうそう。そのさ、並行世界? から来たってのは信じたけどさ、何しにきたの? 観光?」
 ちょっと思い出したようにそう切り出してきた。
「いや、なんか成り行きで。ことりって奴に誘われたからかな」
「小鳥? すっごいメルヘンの国からやってきたの?」
 何か勘違いされたみたいだ。だが、飴を舐めたら其処は並行世界でしたなんて、メルヘン以外のなんでもない気もするので、否定もしづらい。    
「あ、そういえばことりを探さないと、元の世界に戻れない」
「ん? 案内しようか? 自然公園行く?」
「ことりは人だ」
 俺達はファミレスを出て、動物園に入った。
「ほら、小鳥が一杯だよ?」
「馬鹿なの?」
 目の前には綺麗な青い鳥が飛びまわっている檻がある。
「人間だって」
「人間の檻は無いよー」
「だからな、俺と一緒にこっちの世界に来た入鹿ことりを探してるって言ってるだろ」
「やっぱり? でもさ自分で言っててそれどうよ」
 無理っぽいな。自分で言ってて、見つかる訳が無いと思える。この世界の何処に言ったか解らないし、町並みは見覚えが無いほどこっちとあっちでは変わってもいる。それに俺はことりが行きそうな場所なんて考えも付かない。
 いや、其処まで解らないわけでもないかもしれない。そもそも、俺とことりが一緒に言った事がある場所なんて図書館とあのプレハブ小屋しかない、とりあえず小屋は無いだろう。同じ名前の高校が在るとは思えない。だが、一応聞いては見よう。
「高宮高校って近くにある?」
「何? ネットで調べよっか」
 陽子がケータイを取り出し、俺は自分で調べればいいかと思って気付く。 
 電話すればいいんじゃん。
 そんな上手くいく訳なかった。ケータイは県外で繋がらない。そもそも繋がっていれば、ことりの方から連絡を寄越すだろう。
「高宮高校は、北海道に一個ある」
「そういえばここって何県?」
「萌木」
 何処だよ……。とりあえず北海道が、日本列島の上部にある巨大な島である事を確認した後で、ため息をつく。 
「まぁ、いいや。図書館近くに無いか」
「えぇー図書館行くの? やだなぁ、私、文字に囲まれると蕁麻疹が出るんだよねー。というか、動物を全て見終わるまで私は此処から動かない!」
「じゃあいいよ、俺だけで行くよ。それにこの動物園やばいだろ。なんで金魚とかザリガニとか展示してんの。しかも超人気だし……」
 そう、パンダとかがいるなら俺も見たい。だが、この動物園の目玉はザリガニ、ミドリガメ、金魚にウサギ。珍しくもなんとも無い。
「えぇー、ザリガニとか絶滅危惧種だよ? 創也君の高い金払ってるんだから見ていこうよー」
「嫌だよ、それに俺の金なんだからいいだろ。というか、半分やるって」
「それはなんか、申し訳ないからいいよ。あっ、アイス奢って」
 よく基準が解らない、とりあえず、俺はジンジャーアイス。陽子はイチゴを頼んで、結局動物園を出た。
「見たかったなぁ、ザリガニ」
 ブツブツ文句は言っているが、図書館に連れて来てくれた。ひんやりとしたクーラーは何処でも一緒のものらしい。
「私、変温動物だから、眠くなっちゃうんだよね……」
 よっぽど図書館が嫌いなのか、そんな事を言っているが、長袖で肌は出ていないし、其処まで寒くは無いだろう。確かに本当に眠そうではあるけども。
 二階に上がると、
「待っていたぞ」
 目を真っ赤にして、号泣していることりが淡々と、俺が来ても驚く様子無くそう言った。
 ……心象表現が解りづらいやつだ。
「君が此処に来ることは、解っていたと言いたいが、大変だったんだ。聞いてくれ、まずだな、私は自分の失敗に気付く。君の居場所が解らないという事と、君に帰りの分のキャンディを渡していないということだ。それで一旦私は元の世界に戻り、君の居場所を聞き出して、そのファミレスに向かった。だが君がいない。それで必死に探して、もしかしたらと、君が行きそうなところに色々なメッセージを残していたところなんだ。本当にぐすっ良かったぁ」
 ことりは、ハンカチで鼻をかんで、さらに話し続ける。
「あ、そうだ。君も私のせいで色々と苦労をかけたと思う。本当にすまなかった、そういうつもりじゃなかったんだ」
 深々と頭を下げることり。ちょんちょんと袖が引っ張られられる。 
「私たち遊んでたね」
「俺、土下座って初めてするんだけど。上手く出来るかな」

 ※

 創也の土下座が終わったところで、悪いんだけどさ。
 ここらへんで、独白をしようと思う。
 私の名前は、陽子。苗字は実は無い。実は地球侵略にやってきた宇宙人だ。SFチックに言うと、UMAだ。私たちの生態は、どちらかというとトカゲに近く、このクーラーというものは、私たちが地球を征服したら即刻取り壊そうと思う。
 私たちの種族の名前はロッテリー。
 洋服と言うもので隠してはいるが、私の体には、ところどころ人間との優劣を決定づけるであろう誇り高いうろこが生えている。
 初めから説明しようか、私はまず、出会い系サイトで自分の情報と、現地人の情報の統合性がどのくらいのものか知ろうと思ったのだ。しかし、男の人というのは怖い。出会い系サイトだからなのかもしれないが、皆が不自然に優しいのが怖かった。そんな事をする事三ヶ月。私が見つけたのは立川創也。彼氏には絶対にしたくは無いが、文面から下心が透けて見え、逆に変な安心感があったのだ。 
 私が集合場所であるファミレスにいった時、創也が思ったよりも普通でものすごく焦った。だが、私のコミュニケーション能力でなんとか、怪しまれずに、いろいろな情報を聞きだすこと出来た。後チョコパフェ奢ってくれてありがとう。美味しかった。
 ザリガニは見てみたかったのだが、まぁいい、侵略した後に飼ってやる。あと、その、ドリンクバーは正直どうやるのか解んなかったというか、一杯入れたほうが美味しいのかなと思ったのだ。
 しかしまぁ、私はなんて運がいいんだろうか。その、パラレルキャンデーを渡してもらおうか! それを使って、私は兵器開発の進んだ世界に行って、ものすごい実績を上げてやるんだ。これで、私の事をボロクソいう同僚たちも、見直して、友達もきっとなってくれる。なに? うん、そうだよ、友達がいないから一人で、一人で地球来たよ、悪い!?

 ※

 突然始まった、陽子の独白が終わった。
「そうか、友達がいないのはきついな。よし! あげよう!」
「お前も友達いないのか」
「ふんっ」
 足を砕く勢いで踏みつけられる。地雷か……ってマジでいったい。
「でも、不味くないか? だって兵器とか、その、地球侵略……って何だよその空気嫁読みたいな目!」
「まぁ、創也さんには解りませんよね、私たちの気持ちなんて、ははっ」
「友達いそうだもんな、はっ」
 こいつら息ぴったりだな! このままでは世界征服の手助けをする事になってしまう。そもそも、なんで俺が悪いみたいな空気なんだ。
「そういえば、ことりは何者なんだ? ノーベル賞もらえるだろ、これ」
「もしかして私の事が解らないのか?」
 あれ? どっかで会った事があったかな。いや、無い。図書館であったのが最初であったはずだ。 
「……小学校」
 ことりは下から俺の顔を伺うようにして、そう小さくいった。
 もしかして、俺と誰かを間違えているのかもしれないなと疑い始める。
「小学校のとき良く遊んだだろ。私は図書館で会ったとき凄く嬉しかったのに」
「あ」
 あー、いた。小学校四年のときに転校してきて、二ヶ月でさらに転向していった奴がいた。名前はイルカちゃんだ。入鹿ことり。
「土下座だね」
 これは仕方ないな。

 ※

「とりあえず、元の世界に戻ろう。他の発明品も沢山ある」
「うう、これでやっと私の苦労が報われる!」
 もうどうでもいいか。二人とも仲よさそうだし、友達出来て良かったねといってハッピーエンドだ。
 立ちくらみがして、下の部屋に戻る。
 俺が縛った二人に、ことりはキャンデーを食べさせて、元の世界に戻っていった。
「よし、私の家に来てくれ!」
 うわぁ、楽しそう。スキップしてる。
 そして、ことりの家だ。でっかいマンション、八桁の数字と、カードキーの入力を経てエレベーターの一番上のボタンをことりが押したとき、俺はもう帰りたくて帰りたくてしょうがなかった。
「ことりさんさぁ、ご両親は何してる人なん?」
「どうした……気持ち悪いぞ、君は関西地方には足を踏み入れたことさえ無いだろう。旅行は千葉と茨城にしか行ったことが無いはずだ」
「えっ何、なんで調べられてんの? お前の方が気持ち悪いわ!」
「友達なんだ当然だろ!!」
「何がだ!」
「まぁ、そんな事はどうでもいい。少し片付けてくるから、君たちはここで待っててくれ」
 そう言って、部屋の中に一人で入っていった。そういえば、さっきから陽子が喋らない、このマンションに入るまでは結構話していたはずだ。様子を見ると、何かうとうととしている。
「眠いの?」
「えっと、私は、気温が二十八度以下になると眠くなるの。だから日本に来た」
 舌っ足らずな口調になっていて、本当に眠そうだ。マンション内のクーラーで眠くなったのだろう。どうでもいい事だが、こいつは日本に冬というものが在る事を知らないのだろうか。こいつはハワイとかで侵略拠点を置いたほうがいいと思う。
「よしいいぞ、入ってきてくれ」
 ドアの向こうから、小鳥の声がする。
 俺は扉を開けて入る。でっかい玄関があり、効きすぎた冷房で、体がぶるっと震える。
 俺の後ろで、どさっと言う音がした。
「よし」
 陽子が玄関で靴を脱ぐ姿勢で、転がっていた。静かな寝息が聞こえて、寝ているだけだと解るが、その前のことりのよしという言葉が気になる。 
「はっはっはー、ついにやったぞ。私は宇宙人を手に入れた! さ、最初はどうしようか、まずは解剖……いやここは拷問から……」
「ことり? お前、さっきまで友達って……」
「何言ってるんだ。宇宙人だぞ? 捕獲、実験、の流れだろ」
 怖いなこいつ。何より奥の部屋に手術台が見え隠れしているところが怖すぎる。
「ちょっと手伝ってくれ。これを手術台まで運んでくれ」
「なぁ、ここの近くってザリガニと採れるとこ知ってる?」
 ことりは少し考えて、
「君の家の裏の沢でも取れると思う」
 俺の家の場所をさも当然のように把握している事には、もう突っ込まない。ただ、今のでもう気持ちは決まった。いや、気持ちは決まってはいたんだろう。ザリガニがいなかったからといって、見捨てる事はありえない。
「ことり、ちょっと其処に座って」
「解った」
 ことりの体をぐるぐる巻きに、椅子に縛る。今日だけで三回目なのでもう慣れたものだ。
「創也?」
 ことりはまだ何が起こったか解っていないという風に、動かない体で、椅子を軋ませている。
「お邪魔しましたー」
「あ、また来てなー」
 俺は陽子を担いで、外に出た。

 ※

「大変! 鳩サブレー!」
 始めのころは、このSF生物を外に出さないようにしていたのだが、どうやら自意識過剰なだけだったらしく、特に問題はない。
 家のクーラーを使えなくなったのと、食費が嵩む位だ。食費は宝くじの金があるからいい。これだけで済んでいるのは、単にことりと、俺の親のせいだ。
 陽子を担いで、とりあえず家に戻った。宝くじの金はあったが、それでもそれを持たせて外にほっぽリ出すと言うのは気が引けたし、何より陽子が泣いて嫌がった。そこで家でだらだらしていたら、母が仕事から帰ってくる。
「こんにちわ、お母さん。行くあてがありません、泊めてください!」
「くっそ、先手を打たれた、帰れ! 星に帰れ!」
 訂正しよう。俺は、帰る方法も、帰りたくも無いと泣いて訴える陽子を無理やり俺の家から追い出そうとしていた。
「あら、もしかして彼女さん?」
「そうです!」
「違う!」
「まぁ、お寿司取らなきゃ」
 俺の言葉を聞いちゃいない!
 さらに其処から、いいから帰れという俺と、お寿司食べたいと言う陽子でリアルファイトが繰り広げられたが、父が帰ってきたときに俺の負けが決定した。
「お父さん、泊めて!」
「良いよ、いくらでも泊まってって!」
 軽い! 軽いよ!
 もういい。親のことを考えてると頭が痛くなる。
 ことりは全然諦めてしまったらしく、時々遊びに来て、そのまま帰ってしまう。そういえば、この前未来にいけるチョコを作ってきたが、その場で叩き潰した。
「くっそ、なんであの時持ち帰ってきてしまったんだ。ことりに解剖してと頼むのも良心が咎める……」
「鳩サブレっ!」
「五月蝿い! なんだよ、こっちはお前のせいでクーラー使えなくてイライラしてんだ!」
「私、鳩サブレをお腹一杯食べるのが、地球での第一目標だったんです、買って?」
「知るか!!!」  



     







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