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分析魔に恋して
作:広瀬 由一



再会



 翌日、佳苗はいつもより30分も早めに学校へ行き、由一の机の中に4日分の授業ノートをこっそりと入れておいた。見返りとして、その日の昼休み時間中、3メートル手前に座っている由一から、佳苗の携帯にメールが入った。内容はこうだ。
「ごめん。見込み違いでとても手に負えなかった。詳細はチャットで話すから」
 佳苗は意外な結末に驚いて、危うくクラスメイト全員の目の前で、普通に話しかけてしまうところだった。佳苗は由一の50センチ手前まで歩み寄り、そこではっと気付いて、そのまま由一の隣を鼻歌を歌いながら通り過ぎ、前のドアから教室を出てもう一度うしろのドアから教室に入り直しながら、メールを返信した。席に着くと、両手にメロンパンを持ちながらお食事中の瑠璃に、「散歩?」と、つっこまれた。
【放課後どこかで会わない?】
 しばらくして返事があった。
【この前のマックで。同じ席】
 
 人ごみを掻き分け、佳苗が由一の前に座ると、由一はバニラシェイクをかき混ぜながら、佳苗が今朝由一の机に入れたノートから顔を上げ、にっこり愛想笑いを浮かべた。
「すごく分かりやすい」
「どーも」
 佳苗もにっこりした。それから由一は少しすまなさそうな顔をした。
「お笑い理論なんだけど・・俺には出来なかった。・・18の定義を改良するくらいなら出来るだろうけど、全ての笑い要素を導く法則を作るなんて、少し無謀な挑戦だったよ。危うく頭がショートするところだった。ハードルが高すぎたんだ。なんか、格好いいこと言ってたけどね。徹夜明けで、ちょっとテンションが高かったせいかな・・」
 由一は一気にそう言った。
「やっぱり難しいよね。定義だけでも大したものよ。で、これからどうするの? 」
 佳苗がそう言うと、由一は思わず笑みをこぼした。
「よく考えたら、笑いの基本的要素が強調だけだなんて、見当外れもいいとこだよ。君に送った単発作品も、単なるワラ技の『強調』を駆使しまくっただけの物だったし。笑いはそんな単純なものじゃない。ちょっと自惚れてたよ。もう俺を褒めないでくれ。いや、別に君を攻めてるわけじゃないけど、16歳って、ただでさえ調子に乗りやすい時期だろ? これ以上おだてる必要ないよ。うん。まあ、逆に落ち込んでる奴も大勢いるけどね」
 佳苗は一瞬唖然として、すぐに吹き出してしまった。
「分かった。もう褒めないわ。で、これからどうする? 何かプランでも?」
「・・さあ。特に無いけど。・・レノンを分析する?」
 佳苗はしばらく考え、思い切って言ってみることにした。
「あのさ、由一君って、テレビ見る?」
「いや。情報系番組以外はあんまり見ないな。脳みそが腐りそうな番組が多いし。・・よく見るの?」
 佳苗は首を横に振った。
「瑠璃がね、あ、私の友達だけど、面白いこと言ってたのよ。『おでん』っていうお笑い芸人知ってる? それが司会やってるTV番組・・えーと、『僕らはおでんとムッソリーニー』で、毎回視聴者にエピソード形式の面白い小話を募集してるんだって。昨日ネットで調べてみたんだけど、採用されたら一通に付き5万円も賞金が出るって書いてあったわ。由一君はセンスいいし、定義という武器もあるんだから、そんな話くらいちょいちょいっと簡単に作れるでしょ? どうかな。一緒にやってみない?」
「別にいいよ。賞金は山分け?」
「・・うーん。賞金を貯めて、二人で何かしない? 例えば、何かを取材したり」
「別にいいよ。じゃあ、さっそく今日帰って作っとくよ。メールで送れるの?」
「うん」
「じゃあ、作って送っとくよ。『おでん』で検索すれば見つかるよね?」
「うん。見つかるわ。私も考えて送ってみる」
「分かった。じゃ、また連絡するよ」
「あ、ちょっと待って」
 佳苗はそう言って、立ち上がりかけた由一の袖を掴んだ。
「何?」
 由一は中腰のまま訊ねた。
「ユーモア理論の完全スキャンにさじ投げたって事は、またチャット再開って事よね?」
「・・いいよ。じゃ、明日の朝にでも・・」
 由一がそう言うと、佳苗はパッと笑顔になった。
「うん。連絡するわ」
「分かった。じゃ」
「さよなら」
 
由一は家に着くと、さっそくインターネットにアクセスしてみた。「僕らはおでん」で検索すると、2万件以上のページが挙がり、その中の一つに『僕らはおでんとムッソリーニー』があった。クリックして開けてみると、佳苗の言っていた通り、「今週の小話大募集」という欄があった。由一はそこに書かれている文章を読み上げてみた。
「今週の小話テーマは、密かに拍手喝采してしまった事。葬式場で、ついつい言ってしまった一言。死ぬまでに一度はカマシてみたいと思っている事。の、3本です。規定はいつもと同じく、400字〜800字以内です。ふるって応募して下さい。締め切りは5月31日だから、注意してね。四露死苦」
 その下には『採用されれば一通に付き賞金5万円プレゼントかもね(笑)』という文がピカピカと点滅していた。
「こんなので5万円も貰えるのか・・へえ」
 由一はさっそく考えてみることにした。
(よく分からないけど・・TVで使うネタなのだから、おそらくラジオみたいに読み上げるだけでは無い筈だ。映像化されるに違いない。だから、作るべきは視覚的に見て面白く感じるものだ。時間はおそらく20秒ほどか・・)由一は30分ほど考え、とりあえず7個作成して送信ボタンを押した。全て採用されたら時給70万円の働きとなるが、由一はなるべく賞金については考えないようにした。お金は確かに便利で効率的な制度だが、便利なものというのは必ず何らかのリスクを含んでいるものだ。お金に関しては執着してはいけない。しかし、無駄遣いしてもいけない。要はバランス系のリスクに振り回されないように注意しなければならないのだ。その他多くの制度と同じく、お金も単なる効率追求メソッドの一種なのだということを忘れてはならない。よって、応募したことは一旦忘れることにしよう。さあ、次に何かするべきことはあったっけ? 宿題は済ませたし・・・そうそう、18の定義を改良するんだった。
由一はノートを広げ、ココアを飲みながら分析を続けた。












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