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分析魔に恋して
作:広瀬 由一



オーバーヒート



3日後、由一はひたすら考え続けていた。
(・・要するに、笑わせれば勝ちなんだ。だから、人はなぜ笑うのかとか、笑いのメカニズムがどうとかなんて考える必要は無い。・・強調。・・そう、考えるべきは強調の手段だ。何をどう強調すれば面白いのか。焦点はそこにある。だから・・・18の定義をもっと上質な物に改良する・・強調を意識しながら。・・・・あー、つまり・・・何だ? ・・ああ、あれがこれで、それがそうなって・・・。よし。・・・うん。・・で、収束する。ゆえに、全てを網羅すれば良いわけで、同時にそれを証明する必要がある。・・いや、無理だな。だから、大体まとまればいい事にしよう。とにかく面白ければいいんだから。時代と共に笑いの形も変わっていくだろうし・・。認識に基づく予測的流れを変えることによって発生するユーモアを、ああしてこうして、そうなる。言い換えると、光の三原色・・なんだっけ? ・・・のように、基になるものを抽出すればいいのだ。知恵の輪や手品のネタなんてのも、いくつかの基本的な技を組み合わせることによって無限に作り出されるというのを、どこかで読んだことがある。それと同じなんだ。・・・強調は言わばヒント。・・ピエール・・誰だっけ? ・・じゃなくて、よし、一度まとめてみよう)
 由一はノートを広げ、そこに『ユーモア理論(作成法)』とタイトルを打ち、まず18の定義を一行ずつ間隔を取りながら書いてみた。
(組み合わせて広がると仮定すると、こいつらも組み合わせて出来ているということになる。何と何の合成が『不意打ち』的な面白さを導くのか。『特徴』はどうだ? 『ボケ』『ツッコミ』『擬態』『極度』・・・・・。難しいな。一体どうやって・・・・強調は? ・・強調が基本とすると・・・・他にもあるのかな? ・・強調+X+Y=『ノリツッコミ』だとすると、XとYは何なんだろう・・。ボケは独走。独走とは・・無理やり、矛盾、無駄、不可解。・・えーと、強調はどこへ行った? ・・強調は・・ゲート? 通過すれば強調的にならざるを得ない、そんな特殊な門をどこかに設置して・・いや、待てよ? ・・・そもそも、『ボケ』と『ツッコミ』なんて、誰が定義したんだ? その定義は正しいのか? ・・・厳密に言うと・・定義というのは成されていないか・・。ただ、漫才に使用する道具として、名称が必要だった・・・。漫才とは? ・・特殊な状況・・一般的な状況・・明らかに特殊だよな。状況自体が異なる場合において、共通項を移行してもそれは無駄だということ。数学的に。だから、まずは場の統一から始めなければならない。よって・・・何だ? ・・・えー・・・ああそうだ。漫才自体が人を笑わせる一つの手段だということ。つまり、ああ分かった。分類すべきは状況だったのだ。いつ、どこで、何人(誰)が、何を、どういうふうに行っているのか、これによって発生する笑いの形は決まってくる。だから、笑いとはその時の状況に支配されるものであり、状況とワラ技の組み合わせ方を考え、そこから何らかの法則を抽出するのがベターだな・・・。いや、しかし・・・『不意打ち』はいつどこで起きても面白くないか? ・・もちろん強力な限界効用逓減の法則が付きまとっているというリスクも含んではいるが、それは不意打ちの不意打ち性が減少するためであり、一回一回方法を変えれば・・・いや、それは『繰り返し』か。・・・もう一度考え直しだ。・・・不意打ちは何の強調だっけ? ・・驚きの強調か? ・・構えている奴を脅かすより、無防備な奴を脅かす方が、より大きな反応が得られる。だから・・変化が大きいということだから、強調的要素は必ず含んでいるはずだが・・状況によって何が強調されるのかは異なる。よって、これ以上は特定的な定義は出来ない・・。強調は強調でも広義の強調なのか・・。どのように軸を取ればいいのだろうか? 今のところ分かっているのは、何らかの軸を強調することによって、様々なユーモア現象が生じるということ。・・これでいいのか? ・・人間の心理的行動の中で、『笑い』以外の反応は・・驚き、興奮、失望、喜び、恐怖、悲しみ、恥じらい・・・苦痛、・・・判断不能、・・無反応、・・飽き、その他もろもろ。・・何となくだけど・・こいつらが軸じゃないのか? 何かそんな気がする。だとすると、不意打ちは「驚き」が軸。・・・いや、『不意打ち』やら『未知との遭遇』やらは、まだ正しい定義と決まった訳ではない。ここは逆に導くべきだ。『驚き』を強調の軸とするのが「不意打ち」。『興奮』を強調軸とするのが・・・何だ? ・・えーと、そうか。興奮にも色々と種類がある。興奮は・・本能的性質・・「性格」と置き換えようか。『性格』を強調軸とするのが・・・・『キャラクター』。・・そのままだな。でも、これしか無いよな・・。『失望』を軸とするのが・・『ダメージ』。『喜び』を軸とするのが・・・あー、分からない。こんがらがってきた・・・・・)
 由一は考えるのをやめ、ノートに一行こう書いた。

《面白ければ面白い》

 3ヵ月後、これが結論だよと言ったら、佳苗はどんな顔をするだろうか。
「難しいな・・。出来るのかな?」
 由一は呟きながら、気分転換をしようと、窓の外を眺めた。いつの間にか日が落ちていた。風が強かったせいか、今夜は星が良く見えた。
「・・人は2種類に分けることが出来る・・・何と何だっけ?」
 状況もこういう風に分ければいいのかもしれない。観客がいる状況、いない状況。大勢いるのか、数人しかいないのか。司会者がいるのか、いないのか。
「・・・飽きた。もうやめよ。やめやめ」
 由一はあっさりと諦めることにした。とてもエジソンの真似なんて出来なかったのだ。さすが偉人といわれるだけあって、桁違いの忍耐力の持ち主だ。
「まあ、せめて定義だけでも改良するか・・」
 由一は強調理論を捨て、ワラ技の具体化強化を、なんとなく進めることにした。












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