VSジューコフ (前半戦)
「もう一発!」
ダン!
「ギャイン!」
真は、近代兵器操作術によるものと、強靭な精神力により、安定した精神、そして、何十メートルも離れた場所からの遠距離射撃でも、驚異的な命中率を叩きだした。
「グルルルル、ガゥ」
真の遠距離射撃により、5匹まで数を減らした人面オオカミは、すぐさま、敵である、真の姿を認識したのか、真のいる場所めがけて突撃してきた。
「ちっ」
いくら真と言えど、全速力で走る人面オオカミを遠距離から狙いを付けて射殺するのは無理がある。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン
仕方ないので、命中率は悪い物の、少しでも真のもとにやってくる人面オオカミを減らすべく、真はヘンリー銃を人面オオカミめがけて連射する。
「ギャイン!」
「ギャ!!」
「ギャアイ!」
ヘンリー銃の弾が当たったのか、人面オオカミ3匹が撃たれたらしき場所から血を出しながら倒れる、
「ちっ」
しかし、残っている人面オオカミはまだ2匹いる、しかも、真との距離は10メートルもない、正直言って、この距離であんなに速く走りまわっている人面オオカミを、現代の銃ならともかく、19世紀末位の銃では倒すことは無理だろう。
真はこのような状況下においても、冷静でいられる精神でそのことを即座に導きだし、すぐさま、接近戦に備え、ヘンリー銃に銃剣用の刃物を付ける。
「まさか…」
真は呟いた。
「ファンタジーな世界で最初に使う刃物での武器は、刀でも剣でも弓矢でもなく、銃剣とか…考えもしなかったぜ!!」
真はそんな頭に浮かんだ事を叫びながら、もはや目の前にいる人面オオカミに対して、銃剣をもってして、白兵戦を挑んだ。
「ガウ!」
先頭を走っていた人面オオカミは、何処にそんな脚力があるんだ?ともでも質問したいほどの高さを跳躍し、真めがけて突っ込んできた。
「おっと!」
真は確かにその跳躍力には驚いたが、今はそんなことはどうでもいいので無視、すぐさま力具の短剣のおかげで上がっている俊敏力を生かして、人面オオカミの攻撃を避けた。
「バウ!」
しかし、人面オオカミは一匹だけではない、2匹目もまた、真に向かって飛びかかってきた。
(…よし…いまだ)
真は直後感じた良く分からない直感と共に、銃剣を握りしめ、俊敏さを生かして2匹目の人面オオカミの攻撃をかわすさいに、同時に横から銃剣を使って切り裂いた。
「ギャ!」
ぴちゃり
と…人面オオカミの真っ赤なグロテスクな血が、切り裂かれた人面のオオカミの腹より飛び散り、ダンジョン内と、真の服を汚した。
「…」
しかし、真はそんなことなど気にも留めなかった、それと同時に、人面オオカミの腹の中から内臓らしきものもでも目に映ってしまったとしても。真の弄られてしまった精神は、戦闘中そんなものに対する、思考を完全に封じ去ってしまっていた。
(さて、次だ次)
血に濡れてしまったボディーアーマーなどには気にも留めず、機械的に真は次の人面オオカミへと目を向けた。
「グルルル」
どうやら、ついに自分ひとりになってしまったからか、うめき声をあげながら、人面オオカミは真を睨めつけていた
「ガルルル!!」
そして、ついに真に対して睨めつけているだけではいってもたってもいられなかったのか人面オオカミは真に向かって突撃した。
「…」
真はただ冷静に、自らが持っている銃剣と、自らの俊敏さから、先ほどの人面オオカミを倒した時の様に、どのようにすればこの人面オオカミを倒すのに最もふさわしい動きが自らの頭の中に自然と思い浮かぶ、その思いは、果たして、近代兵器操作術が生み出したのか、はたまた自らの、弄られてしまった精神力によるものか、真にはそんなことなど分かるはずもなく、そして、戦闘中、そんなことなど、考えていることもなかったのでもあった。
(終わりだ)
真は心の中でそう呟き、銃剣を突撃してきた人面オオカミに向かって振り下ろした。
ぐちゃ…
「ぐ…ぎゃ…」
脳天を銃剣でぶち刺された人面オオカミは、頭からどくどくと血を流しながら、断末魔の様な小さな声を上げ、どさっと…息絶えた。
「…」
かちゃっと、真は血だらけになりながら倒れている人面オオカミを見ながら、ヘンリー銃を下した。
(…なんだか…俺おかしくねーか)
ようやく、自らの犯した事を改めて認識し、真はそう思った。
(…一応顔は人間なんだぜ、なのに、何の疑いもなく、俺はその顔に銃剣をぶち込んだ、しかも、今もその銃剣によってぐっちゃぐちゃになった人面オオカミの顔を見ても何も思わねえ…)
「…はぁー」
真は頭を抱えながらそうため息をついた。
(…ボディーアーマーにも血が飛び散っている…それを見てもなんとも思わない…ちっ、ああもう、そんな、心と自分の意志とのギャップに苦しんでたって、何もはじまらねえ、この事はさっさと忘れよう)
真は、とりあえず後見が悪くなりながらもそう思い、自らが助けた少女の元へと、歩いて行った。
「ほぁー」
ミミは見事、人面オオカミの集団を倒した真に対して、驚きと、驚愕に満ちていた。
(なに…あの攻撃…魔法?でも呪文を暗唱した形跡みたいな、魔術的要素もなかった…でも…あの剣さばきもすごい)
ミミは自らの体に走る痛みやら、薄れていく意識の中、自らのその状態をも忘れ、自らを死へと導こうとした人面オオカミを全滅させた、真に対して、うっとりと、それこそ病的なまでに見とれていた。
カツッカツッ
(あ…)
ミミは思った。
あの人が近づいてくると…それと同時に、ミミは自らの顔が熱くなっていくのを感じていた。
「…あの、大丈夫ですか?」
真は少しばかりどう話しかければいいのか分からず、少しだけ間をとった後、結局このまま話しかけないわけにもいかず、思い切って、この少女に話しかけた。
「…」
少女はなんだかまるで半分意識がないみたいで、ただじぃ~と、ほを赤めながら、真の顔を見つめていた。容姿は激しい戦闘を行っていたのか、砂やら泥に汚れていたが、それでも綺麗にしていれば白くきめ細やかな肌になるであろう白い肌と、虚ろ下に此方を見つめてくる薄緑色の瞳、そして泣いていたのか、潤んでもいる、そして、肌と同じように少々薄汚れている、炎の様に真っ赤な髪を、腰にまで垂らしたポニーテール、うん、ソラ程ではないが、美少女だ。真は分析したのか、そう思った。
「…」
しかし、相変わらず、その少女は真の顔をじぃ~と見つめるだけで、返答はなかった。
一瞬、ファンタジーになりがちな、返事がない、ただの屍の様だ、と言ってみたくなる衝動に駆られたが、我慢する。
(聞こえてないのか?それとも、話せるほどの体力がないのかも)
真は目の前にいる少女の虚ろ下な顔と、少女の綺麗な足にある内側の肉が見える程に傷ついた足からどくどくと流れ出る血を見ながらそう結論付け、真はそう思った。
「あの、話せますか?なんか反応をしてもらわないと、俺は困るのだが」
真はまさか初対面の相手を乱暴するはずもなので、普通に、平年に言った。
「…」
しかし、少女はほを真っ赤に染めたまま真の顔から眼を離さず、うっとりした感じで真の顔を見つめ続けていた。
(…ン?なんだ?何でこいつ俺の顔をほを赤く染めながら見てるんだ?)
真はいつまでも自分を見つめてくる少女の顔を改めて観察し、ようやくその事に気づいたのであった。
「…ミミ」
「は?」
真は少女の突然の発言にちょっとばかり間抜けな声を上げた。
「私ぃの…名前ぇ…ミミぃ」
少女はどうやら上手く舌を回すことすらできないのか、まるで赤ちゃんが甘えているかのような声でそう言った。
「…」
何故にこのような状況下で自己紹介!?普通は私は大丈夫ですとか、そう言う体の異常状態とか言うだろう!!真は結局、少女の顔が赤く染まっていた事など、忘れ、心の中で、そう叫んだ。ダメなやつである。
「…」
ミミは薄れゆく意識の中で、少しでも自分を助けた少年の顔を覚えようと、自らを心配そうに見つめる男の顔を見つめた。
(…この服装、ダンジョンの入り口で見た変な人)
ミミはこの派手な服装が、自らの頭に印象付けたのか、すぐさま、目の前の人物がダンジョンの入り口であった男だと言う事に気づき、そう思った。
(…この人、こんなに強い人だったんだ)
ミミは当時抱いていた印象を転換し、すぐさま、その思想を変更した。
「…」
ミミは自らを助けた男の顔を見続けた。
年齢は私と同じくらいで、目と髪の色は黒…やっぱり遠い異国の人だろうと、ミミは思った。
「…ッ」
ミミはついに自らを支え切れなくなったのか、目の前に座って自分を見ている少年の元へ倒れこんだ。
「ちょっ、おい、大丈夫か?ミミさん、大丈夫ですか?」
「…」
ミミは自らをやさしく受け止めながら、心配そうに声をかけてくる、男…あの人の声を聞きながら、意識を手放した。
(…この人の胸の中…あったかい…)
気を失う直前にミミはそう思った。
「…で」
真はこう呟いた。
「どうすればいいのこれ?」
真は自分の胸の中に倒れこむように飛び込んできた挙句の果てに、意識を手放した少女を抱えながら、誰もいない空間に向かってそう呟いた。
「ソードレストショックウェーブ!!」
ズゴゴゴゴ!!
「ギャ」
「ギャズガ!」
「ヘブハ!」
ヨセフが自らの大剣より放ったソードレストショックウェーブ…簡単に言えば剣から発生した衝撃波みたいなものが、眼の前を埋め尽くすがごとく、大量に居る人面オオカミたちに直撃、一気に数十匹単位が消し飛んだ。
「はぁっはぁッ…ガハッ」
しかし、自らの体を蝕む毒に苦しんでいた、お陰で、体が鈍ってしまい、結果的に人面オオカミの攻撃を許し、体中から血を流しながら、ヨセフは戦っていた。
「はぁ…はぁ…まずい…これは死ぬかもしれん」
気を一瞬でも許せば意識が飛びかねない中、ヨセフそう言った。
「…だが」
ヨセフは同時に思っていたことが有った
ズズズズズ
ダンジョンを埋め尽くすほど大きな、スライム、通称ビックスライムが、その巨体を引きずりながら、ヨセフの元へと接近する。
「はっ!!」
ヨセフはすぐさま、此方へと向かってくるビックスライムに対して、すぐさまソードレストショックウェーブを放つ。
ズゴ!!
ヨセフが放ったソードレストショックウェーブは、見事、スライムを真っ二つに切った、しかし…
ズズズズズ
二つに分かれたスライムは、すぐさま一つに戻り、何もなかったかのようにまた一つとなった。
「ちっ、ビックスライムは巨体の癖して、核が数センチしかない、そんなちっこいものをこんな巨体の中から見つけるのは困難だ、丸ごと吹き飛ばすしかないのだが…」
しかし、今のヨセフにそのような魔法を使う事は困難であり、例え使ったとしても、時間はかかり、その間にまだ生き残っている人面オオカミ等に襲われる確率が有るのである。
「ちっ…くそが!!」
結局ヨセフは目の前のビックスライムに対して、有効な攻撃をくらわせることができず、逃げることにしたのであった。幸いにもビックスライムの移動速度は遅いため、逃げることは可能だと、ヨセフは思った、だが…
「ドゴゴゴゴゴゴ!!」
突然、天井が崩れ、ダンジョンの天井まである大きなスライム、ビックスライムが、ヨセフに立ちはだかるようにして現れた。
「まっまずい!!」
ヨセフは後ろを見る
ズズズズズズズ
後ろにもまた、まるで壁が迫ってくるかのように、ダンジョンを埋め尽くすビックスライムが居た…
「くっ…」
ズズズズズズズ
そして、前にも、先ほど現れたビックスライムが、ヨセフに向かって接近する。
そう、ヨセフは前と後ろと、ビックスライムに囲まれてしまったのである、もちろん右と左に、抜け道などなかった。
「ちくちょがー!!」
「ガウ!!」
「ふんぬ!!」
ドガガガ!!
ボルトがまるでバットでも振り回すかのように、2メートルもあるハンマーがボルトに噛みつこうとした人面オオカミを、吹き飛ばした。
「ぎゃ…が…」
その衝撃で全身の骨を砕かれ、5メートルくらい、人面オオカミは吹き飛んで行った。
「ぐっ…がはっ」
しかし、相変わらず毒を仕込まれたことによる激痛が、ボルトの戦闘能力を下げていた。そして…
「がうっ!!」
がぶり!と、人面オオカミの強靭な歯が、激痛によって隙を生み出してしまったボルトに対して襲いかかった。
「ぬあ…」
一瞬、ボルトは痛みにうめきながらも、すぐさま、腕に噛みついた人面オオカミを、自らの腕に噛みつけたまま、地面にたたきつけた。
「ギャイぃ…」
筋肉マッチョな大男であるボルトにそんなことされてはたまらなく、脳震盪を起こしたのか、噛みついたボルトの腕を離し、そのまま動かなくなった。
「らちが明かないでごあす、しかも、この人面オオカミ、何か人為的な奴が働いているのか…噛みつくと同時に、精神をマヒさせる毒を放ってくるでごわす…長くは持ちそうにない…」
「…そうね」
同じく腕をかまれてしまったのか、ラベルは血をだらだらと流す腕をもう片方の腕で抑えながらそう答えた。
「グルルルルル」
「…まだ10匹もいるわ…このままだと、本当に死ぬわね」
「…」
ボルトはもはや反応を見せない、おそらく、もはや自分たちがこの後どのような運命をたどるのか、すでに分かり切ってしまったからである。
「…そもそも、こんなこと起きるはずないのに…もともと、このダンジョンに入るときは視察程度で済ませようかと思っただけで、ちゃんとした装備で来なかった…きちんとした装備であれば…こんなことに…」
ラベルが痛む手を押さえながら、悔しそうにうめいた。
「今更そんなこと言っても、意味がないでごわす、今一番大事な事は生き残ることでごわす」
ボルトは座ってうなだれているラベルを元気づけるように言った。
「…ん?」
その時、ボルトはある事に気づいた。
「人面オオカミが退いていくぞ…どういう事でごわすか?」
そう…いまにも、弱り切っているボルトとラベルを襲わんとした人面オオカミたちが、ゆっくりと、彼らから後退していったのである。
「…うそ…これはどういう事?」
ラベルも信じられない物を見るように、そう言った。
カツッカツッ…
「おやおや、どうやら間にあった様で」
足尾と共に、ボルトとラベルの後ろから、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
「…ラテ…」
その声を聞き取り、すぐさま、その声の持ち主の名前を瞬時に導きだし、その声の持ち主である、ラテの名前を言いながら、ラベルは振り返った。
「おおっラテか、良かった、お主はどうやら毒から逃れたようだな、どんな術を使ったかは知らぬが、助かったでごわす」
ボルトが何も気づいていない様に言う
「ボルト…ちょっと貴方は黙ってなさい」
ボルトとは違い、何かに気づいたラベルは、うるさいボルトを黙らせようとした。
「え…ラベルどういう…」
「いいから…だまってて…」
ラベルが真剣な目で、ボルトを見つめながらそう言った。
「…分かったでごわす」
ボルトはその目を見て、怖じ気づきながら、ラベルから離れた。
「おやおや、如何したんですか?せっかく助けに来たのに…もうちょっと喜んでいだだくては、私は悲し…」
「いい加減、猫を被るのをやめたらどう?」
ラベルが、ラテに対してギロリと見つめながら、そう言った。
「…なんの事でしょう?猫を被る?どうして私がそのようなことを」
ラテがトボケたようにそう言う。
「ふざけんじゃねーぞ!!てめーがダンジョンにいるモンスターを操れる魔法を使えると言う情報はないし、そのうえ、なぜ同じ飯を食っているのに、お前だけ毒から逃れたのか、そして、なぜ、モンスターがあんなにも私たちがそばにいる所に、正確に召喚できたのか…その答えは…お前が一番よく分かっているでしょ?」
「…」
「…」
一瞬、沈黙が訪れた。
「ふふっ、そうさ、さすがラベルさん、そこの筋肉馬鹿と違って、察しがいいな、まあ、気づくのも当然か…そうさ、毒を仕込んだのも、ビックスライムや人面オオカミを召喚し、お前らに襲わせたのも、すべて俺の仕業さ!どうだ?すごいだろ?俺強ェェェェェェ!!だろう!?」
ジューコフは不敵ににっこりと笑いながら、自慢げにそう言う。
「…おまえが…こんなことを仕出かしたでごわすか?」
ボルトが驚きながらそう答えた。
「うっせえよ、筋肉馬鹿!!さっきそう言っただろ?この俺が、お前らを殺すためにした事だよ!分かったか?それとも、耳の中まで筋肉で出来てて聞こえないのか?」
相手をこけにするかのようにジューコフが言った。
「ぐっ…おのれ!!ならば貴様を!!」
ボルトはすぐさま、自らのハンマーを持ち上げる。
「はいっ雑魚で馬鹿で幼稚な筋肉馬鹿!!おまえ、この毒が遠隔操作型の毒だと言う事を忘れたのか?はい死ね!!」
「ぐっ!!!がはっ!!」
「ボルト!!」
ジューコフのその声と共に、ボルトが自ら持っていたハンマーを手放し、口から血を吐き出しながら、地面をのたうちまわった。
「この毒は俺様が独自に作った超特殊な毒でな、俺の一言…いや思うだけで、その毒を飲んだものは、さまざまな毒へと変わる、神経毒から、体中痛みを伴う毒まで…そして、その毒の強さもな…ふふっ、つまり、俺は今すぐにでもお前らの体に流れる毒を、最大限にまで上げ、すぐさま殺すことだって可能なんだよ!しかも、俺様が作った奴だから、そこらの毒消しの薬草どころか、専門のポーションだってきかない、つまり、直す事さえできないんだよ!!フフフッすごいだろうっ、俺って天才?」
「くっ、あなた何が目的?」
ラベルが苦しんでいるボルトを宥めながらジューコフに言った。
「別になにも、目的と言ったら何だろうな、有るとしたらお前らを殺すだけだ、それ以上でもそれ以下でもないな」
ジューコフは笑いながらラベルに言った。
「もしかして…誰かに頼まれたの?」
ラベルが何かに気づいたように言った。
「へー、さすがラベル、そう察するか、別に隠せとは命令されていないから言うよ、そう、俺は、3年前、ヨセフに奴隷を逃がされると言う屈辱を味わった、ヤルトーに雇われてお前らを殺しに来たのさ、いや…どちらかと言うと、殺すより捕縛…かな?」
「やっぱりそう…私たちをどうするつもり、命令通り、私たちを捕縛するの」
「そうだな、最初は全員捕縛ってな感じで終わらせようと思ったんだけど、手加減してたら、てこずってな、めんどくさいから、リーダーのヨセフ以外、殺すことにしたよ」
「え…」
ラベルは恐らく、ジューコフの目的は捕縛だろうと思っていたため、殺されることはないだろうとも思い、そして、ジューコフのその言葉に驚きを覚え、ラベルの顔色が段々と悪くなっていった。
「別に、我が依頼主のヤルトーはな、リーダーのヨセフだけは絶対に捕まえるようにて言ってな、てゆことは逆に言うと他の連中は捕まえなくてもいいってことだ、どうだ?まちがいないだろ?」
ジューコフは顔を青めながら後ずさるラベルに向かって、段々と迫りながらそう言った。
「いいの…そんなことしちゃって…殺すよりも生かした方が」
「嫌だよそんな、それに俺は捕まえるより殺すほうが性に合っているんだ、今までだって、俺の相手はみんな殺してきたし、やっぱり、捕まえるより殺した方が楽しんだと、俺は思うんだよね」
「…あんたの報酬金が下がるかもしれないよ」
「別に、すでに俺は他の依頼によって得た金でホクホクだ、今更報酬金が減ろうが別にどうだっていい、俺は殺したいんだよ、ただそれだけだ」
「…くっ」
ラベルは痛む右腕を押さえながら、顔を下げた。
「お…お願い…生きたいんだよ私は…なんでもするから…命だけは」
「おいおい、玉砕覚悟で掛かってくるのかと思いきや、命乞いかよ、ヤル気失せるな…それともそこまでして生きなきゃならねー理由でもあんのか?」
「…お願い…何でもするから」
ラベルは涙を流しながら、そう言った。
「…ほう…いいぜ」
「え?」
ラベルは驚いたようにそう呟いた。
「でも…その代り条件だ」
ジューコフはそう言うと同時に自らの懐より、短剣を出すと、それをラベルの元へと放り投げた。
「ふふっ、所でラベル、疑問に思わなかったか?どうせおまえを殺すなら、何故俺は、一番簡単な方法である毒のレベルを上げることをしなかったのか…それはな…俺は殺すにしても残虐な殺し方が好きだからだ、ふふっ、それだけが、俺の唯一の楽しみと言っていいほどのものだからだ、まあこの気持ち、お前に分かってもらえるとは思ってないがな…まあ、とりあえず、手始めにラベル、お前の仲間であるボルトを自らの手で殺せ、そうすればお前の命だけ助けてやる」
「ッ!!!!!」
ラベルは驚いたように目を見開きながら、そして、その意味を悟り、体を震えさせた。
「さあ、俺を楽しませてくれよ、いままで沢山残虐な方法で殺してきたけどな、まだこの方法だけやっていなかったんだ、さあやれよ、自分の仲間を、いままで人面オオカミから一生懸命に君を守ってくれたボルトを、その短剣でブスリとな…ふふっ、やべぇ…俺頭いい!!」
「…」
ラベルは自らの目の前にある短剣を見ながら、あまりの屈辱に体を震わせていた。
「…でも…貴方がその約束を守ってくれるかどうか分かんないじゃない、私がボルトを殺した後で私を殺すかも知らないじゃない、し…信用できないわよ」
ラベルがもっともらしい事を言う
「…なあラベル、お前自分の立場わかってんのか?俺は別にお前が死のうが生きようが興味はない、ただ殺した方が楽しいだけだ、つまりだ!お前が俺を信じようが信じないだろうが、それと同じように、どうだっていい、このこと分かるか?つまり、お前には選択肢は残されてはいないんだよ、信じないで殺されるか、信じて生きるのか、すべてはおまえの判断だ、俺は別にどうだっていいんだよ!!ラベルさんよ!!」
「…くぅぅ」
ラベルはあまりにもの悔しさに、腕がつぶれるあと言う程、握りしめた。
「…」
ラベルは短剣を握りしめた。
少しの沈黙の後、ラベルは決心したように呟いた。
「…ごめん…ボルト…」
ラベルはあまりにもの苦しさに、未だに悶えているボルトに対してそう言った。
「ぐぐ…ぐぐぐぐぐぐぐ!!!」
ボルトもラベルがしようとしている事に気づいたのか、苦しみもがきながら、ラベルから離れようとした。
「ごめんね…ぐす…ボルト…」
ラベルは、両目がら大粒の涙を流しながら、そう言った後、短剣を高々と上げ…
ぶちゅり…
と、ボルトの心臓めがけて、突き刺した。
「…どさ…」
と、さっきまでラベルの魔の手から逃れようと、必死にもがいていたボルトの体が、それと同時に、ぐったりとして…そのまま、動かなくなった。
「ふふっ、…すばらしい…凄いよラベル!!嬉しい、俺をこんな気持ちにさせてくれる君に感謝したいぐらいだよ!!最高だよきみ!もう凄すぎるよラベル!!ハハハハッ」
口が裂けるのではないと思えるほど、ジューコフは口を釣り上げながら、笑っていた。
「うぐっ…うぐっ…」
「カンッカララン」
と、ラベルは大粒の涙を流しながら、ボルトの血がべっとりと付いた短剣を、力なく、腕から落とした。
「うぐ…はあ…ああ」
ぽた…ぽた…と、ラベルの大粒の涙が、動かぬくなったボルトに向かった注いだ。
「ふふっ、それじゃあ、この俺を楽しませてくれた君には、それ相応の褒美をあげなくちゃな…」
そう言って、ジューコフは何か短い呪文を言った後
「エアーカッター!!」
ギショ!!
と、ジューコフが放ったエアーカッターが、ラベルの右腕を吹き飛ばした。
「ああ…」
ラベルはなくなった自らの右腕を見つめた。
見えるピンク色の筋肉、その真ん中に、白い骨が…
「ああ、あああああああああああああああああああああ」
ラベルはもはや半分狂いながら、苦しみの叫び声をあげた。
「ふふっ、ホント凄いよラベル、俺の為に仲間を殺したどころか、見事に裏切られてくれるだなんて、はぁ、ホントに凄いよラベル、ハハハハッ」
「ああが…」
ぽたぽたと、ラベルの切断された右腕から、血がぽたぽたと流れ出る。
「…さてと、別に恨まないでね、だって、何でもしていいんだろう、じゃあ、殺してもいいじゃないか、そう言う事、じゃあ、殺すか」
そう言って、ジューコフは、ラベルのそばに落ちてある短剣を拾った。
「よし、じゃあ、君がボルトを殺した時に使った短剣で、君を殺してあげよう、きっと、ボルトも喜ぶだろうな、なにせ、自分を殺した奴が、死んでくれるんだからな、いや…
それどころか俺ボルトに感謝されるかも、何せ俺はボルトのかたきを討った奴になるのだからな…ふふふふ」
「あ…あが…」
ラベルはもはやろくに声を発することさえままならなかった。
「…いやまてよ、良いこと思いついた」
そう言ってジューコフはなにをした。
「ああ…はぁ…はぁ…ああぁぁぁ」
それと同時に、なぜかラベルの息が、なぜか色っぽくなっていった…
「ふふっ、どうだ?実は俺の毒、神経毒として、媚薬と同じ効果を起こすことができるんだ、すごいだろ?しかも、超強烈!!アハハハ、淫乱になりながら殺されるって屈辱的だよね?ふふっ俺って天才?もう、あり得ないほど天才だぜ!最強だぜ!もう!!ハハハハッ」
「はあはっあああああああ」
ラベルは体中に走る激痛と、自らの体の芯から巻き起こる性的欲求に、もはや自我すら失いかけていた。
「…さて、淫乱になり、そして、自らを守ってくれた人を殺した際に使った短剣によって、殺されるがいい!!」
楽しそうな笑みで、ジューコフが短剣を振り上げ、ラベルに向かって振り下ろそうとしたその時!
バシュ!!
「な!!」
突然、ジューコフに向かって、何やらエアーカッターの簡易版みたいなものが飛び出してきた。
サッ
と、ジューコフはそのエアーカッタ―を寸前の所で交わした。ツーと、エアーカッターが、ジューコフのほを掠ったのか、血が出ていた。
「…」
ジューコフはエアーカッターが飛び出してきた方向を向いた。
そこには、ロウンから聞いた、自らの捕縛対象の容姿である、青髪青眼の、少女が立っていた。
「…へー、まさかここで、お前に合うとは、青い瞳に、青い髪、お前、あの例の少年少女の、少女の方か…面白い」
ジューコフは面白可笑しげに、そう言った。
「楽しましてくれよ、お嬢ちゃん」
ジューコフは目の前にいる少女が放ったさいのエアーカッターモドキがかすった際に出来た傷跡を舐めながら、そう言った。
「はぁ…なんとか間に合った…」
ソラは間一髪のところで、男のラベルに対する攻撃を阻止することができ、一安心のため息をつきながらそう呟いた。
ソラはあの後、気づかれないように、男の後を付け、そして、彼らの話を聞き、あの男が裏切り者で、ドゥットルーズを殺そうとしている事を知ったのであった、しかし、ソラはジューコフから自らとは比べ物にならない程の差の魔力を感じ、まともに戦っては勝てない…そう思い、一旦、彼らから離れた後、ある対策を打ち、その後また彼らのもとに行き、間一髪のところで、ソラの攻撃が間にあったのであった。
「…だけど、驚いている暇じゃないわ、さっさとあの男をドゥットルーズから離さないと…」
ソラはとりあえず、ドゥットルーズがもしかしたら人質に取られる可能性を考慮し、相手がその事を考えさせない内に、引き離すのと、自らの対策のために、男を引き離すことにしたのである。
「…よし、今まで見て来たあの男の性格から考えれば、これで簡単に引き離せるはず」
ソラはすぐさま、その方法を実行した。
その方法とは…
「ダッシュ!!」
逃げることであった。
「…おいおい」
ジューコフは目の前の少女が逃げた事に愕然としながらそう呟いた。
「俺に攻撃仕掛けておいて、逃げるとは…ホント可笑しなお嬢ちゃんだな、それとも怖じ気づいたのかな?」
ジューコフは逃げるソラを見つめながらそう言った。
「だけどよ…」
ジューコフは構えた
「逃がすわけねーだろ」
ゴ!!
その音と共に、ジューコフもまた、凄まじい勢いで走り出した。