〆S9 ギルド張り紙
ドナテロさんの店を出た僕等は噴水広場へと戻ってきていた。広場に面した三階建ての古びた木造の建物、そこに僕等は用があった。お金が無くなった今、日払いの仕事でもやらない限り生きていけない。毎日ドナテロさんにお世話になるわけにもいかないしね。
両開きの木の扉から請負所の中へ入ると、湿っぽくて独特の匂いが漂ってきた。中へ入るとまず見えるのが仕事の受発注カウンター。両脇には細い枝葉の伸びた観葉植物が置かれ、カウンターの中では二人のギルド職員が忙しなく動いていた。ここで仕事を引き受けたり、依頼したりする事が出来る。
「結構込んでるな。奥行こうぜ」
「うん」
奥へ向かって見えてくるのがロビー。中央にはガラス張りの大きなテーブルとその周りにはくすんだ葡萄色のソファー。ソファーでは数人がくつろいでいた。それからロビーには掲示板がある。掲示板には様々な依頼情報が貼られていて、請負人はこの中から仕事を選んで受注する。僕等が『オーナー探し』の依頼を受けたのもこの掲示板を見たんだ。選んだのは報酬が良かったのもあるけど、ちょっと普段とは違う仕事をやってみたかった。でも、結果は見ての通り。好奇心もほどほどにしないと、ろくな結果にならない。
「とりあえず今日の飯代くらい稼がないとな」
「そうだね、そうなると派遣かな」
派遣という言葉にフェザはうんざりした表情を見せた。
「また派遣か」
『派遣』ていうのは、店の皿洗いとか掃除とか、荷物の運搬とか一時的に人手が必要な場所へ出向いて仕事する。派遣の場合ほとんどが日払いだから、すぐにお金が欲しい時とかに請け負うんだ。
「何にするか。荷物の配達とかしんどいよな」
「だねぇ」
掲示板の依頼に目を通していたその時、フェザが口を開いた。
「なんだ、先月やけに死亡件数多いな」
「ほんとだ」
掲示板には毎月、街の死亡・負傷者の数が張り出される。ここで出されてるのはここ一番街だけの人数だ。下層では毎日、人が死んでるからギルドもきっと正確な情報は出せてないだろうけど。ある程度の目安にはなる。
いつもは百人くらいなのに、先月はその倍だった。
「23人目の変死遺体」
フェザはその隣の張り出し記事を読んでいた。
――二十三人目の変死遺体――
――先月から相次いで発見されている変死遺体だが、今月に入り二十三目の遺体が発見された。場所は一番街、噴水広場。被害者はこれまで報告されてきた遺体と同様に、首を斬られ死亡。遺体は噴水内に浮かんでいたところを通行人によって発見された。この一連の事件による犯人を決定づける手掛かりは今だ見つかっておらず、被害者の唯一の共通点としては『幼児』である事が挙げられる。現在、ギルドの捜査は難航しており、犯行情報を集めている――
「噴水広場ってすぐここじゃないか」
「今月に入りって随分アバウトだな、いつだよ。それによっちゃ危なくて歩けないだろ」とフェザ。
この連続変死事件については知っていた。でも、まさかこんな近くで起きるなんて。
「それで、あの首斬りパフォーマンスか。どこのどいつだか知らねぇけど趣味悪すぎだぜ」
そうか、そういう事か。あのパフォーマンスはこの首斬り事件を皮肉ってたのか。確かに、フェザの言うとおり趣味悪すぎだ。拍手していた観客も気がしれない。
「全く狂ってるな。結局、やる事も配達しかねぇし」
フェザの言葉に、急に引き戻される。
「やろうよ配達」
たとえ危険だろうがなんだろうが、僕らは稼がないことには始まらない。
僕らは二人で話し合い、結局配達の任務を請け負う事にした。
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