〆S6 一つまみの善行
空は青く澄んでいた。僕らの部屋から地上へ降りるにはこの錆びた鉄骨の階段を使う。毎度のことだけど、この踏みしめる度に崩れそうな音を立てるのはなんとかならないものか。錆びた鉄骨の階段を降りると、いつもの腐臭が漂ってきた。原因は分かってる。この階段の脇にあるでかい鉄桶。全長三メートルはあるだろうか。この廃墟に住んでる住人の公共のゴミ捨て場になってるんだ。なんでもかんでも捨てるから、既にもう生ゴミが鉄桶から溢れて山のようになっていた。フェザは無言で鉄桶に蹴りを入れると、大通りに向かって路地を歩き出した。
「朝ご飯どうしようか?昨日報酬出てないからお金ほとんどないよ」
「こういう時は使える奴を使うんだよ」
フェザの心当たりは僕もよく知っていた。
「ドナテロさんとこ?」
フェザは煙草を一本口に加えて頷いた。
一週間に一度は必ずと言っていいほどお世話になってるけど。でも、それしかないか。
「あんま吸いすぎると早死にするよ」
「死期が早まろうが遅まろうが関係ねぇよ。誰だって死ぬときゃ死ぬさ」
死ぬときゃ、死ぬか。まあ、そうかもね。
大通りに出ると、今まで建物に遮られていた眩しい陽光が視界を包んだ。
同時に、走る衝撃。見ると、一人の幼い男の子が目の前で転んで僕を見上げていた。
「ごめん、大丈夫だった?」
五才前後だろうか、その子は手の中に持っていたものをすっと見せてきた。
「ネジあつめてたの」
ネジあつめか。昔僕もやったな。どんなにたくさん集めてもわずかなお金にしかならない。とても割のいい仕事とは言えなかった。でも、それしか仕事が無かったんだ。
男の子は落としたネジを懸命に拾い集めていた。僕も一緒になって拾ってあげると、男の子はたどたどしい声で「ありがと」と言った。フェザは黙ってその様子を見つめていた。
「あ、そうだ。お詫びにこれあげるよ」
そう言ってポケットの中にしのばせていた飴玉を少年の手に握らせて上げた。
少年は手の中の飴玉と僕の顔を交互に見つめながら何か言いたそうだった。
「いいんだ、遠慮しなくて。ただ一個しかないけど。さ、持っていきな」
少年はコクリと頷くと、その場から去っていった。
「ただの自己満足だぜ」とフェザ。
「いいんだ」
ただの自己満足かもしれないけど、少なくとも後悔はしていない。
だからそれで良かった。 |