〆S37 同異人物
立ち尽くすその男。その瞳は僕らの存在に疑問を投げ掛けていた。
「どうして……」
言葉に詰まる。予期せぬ邂逅に饒舌な台詞を期待する方がおかしい。
目の前に現れた人物のその存在が理解できずにただ立ち尽くす事が、精一杯の所作だ。
「……ドナテロ」
僕の言葉に男は静かな反応を見せる。そして男から出た次の言葉に僕らは言葉を失う事になる。
「弟を……知ってるのか?」
弟……今彼は……何と言った……?
双子の弟、生き別れた弟が居ると、クラウスと名乗ったその男はそう告げた。
そんな馬鹿げた話を信じろと言うのか、だが紛れも無くそれは現実。目の前にはドナテロと瓜二つの姿をした人物が確かに存在するのだ。彼が自身をドナテロである事を否定するならば、何だというのか。
実際、彼から受ける印象はドナテロのものとはまるで異質。彼はドナテロでは無い。ドナテロの姿をした別の人物なのだ。
クラウス、そう名乗った男は泥だらけのミニーの姿を見ると、優しい表情で彼女と僕らを招き入れてくれた。
「ミニー、欲しいものはあるかい?言ってごらん」
優しい問いかけにミニーは用意してもらった着替えの裾をいじりながらその小さな口を開く。
「ミルクティー」
「今すぐに用意するから、待ってるんだ。お二人にも今温かい飲み物を」
沈黙を保つ僕らにもクラウスはそう言ってそれからすぐに温かいミルクティーを用意してくれた。
机を囲んで沈黙を切り崩したのはクラウスだった。
「弟は……今どこで何をやっているんです?」
その質問に答えるべきか。僕とフェザは顔も見合わせず顔を俯ける。
ドナテロが犯した罪、その事を伝える事が正しい事なのか。そして、ドナテロは既にこの世には居ないという事を。
沈黙の果てに僕らは重い口を開ける。
ドナテロという一人の人物の軌跡を、正確に彼に伝える事がせめてもの責任だと、そう感じたからだ。
ドナテロの愚行、そして何よりドナテロの死にクラウスは動揺を隠しきれない様子だった。
「そうですか、ドナテロは……死んだんですか」
その言葉に、僕らは無言で頷いた。
「弟が犯した罪は許されるものではない。お二人に手を掛けようとしたその罪も、彼に代わってここでお詫びさせて頂きたい。こんな言葉では到底償えるとは思っていませんが、本当に申し訳無い」
深々と頭を下げたその謝罪から、クラウスの誠意は伝わってきた。
「弟とは生まれた時から離居しています。けれども、その存在はどこかでいつも感じていたんです。それがいつからだろう。急に胸に穴が開いたような空虚感に襲われたのは。ですが、その理由が今わかりました。お二人のお陰です。本当にありがとうございました」
それから、僕らは一晩クラウスの家に泊めてもらう事になった。
柔らかなベッドの上で眠るのも、随分久しぶりのように感じた。
ベッドの上で、僕はなんとも言えない感情に包まれていた。
――わたくし……事件後彼に会ってますの――
――偶然街の外れで。遠目ではありましたけど、あれは間違いなく彼でしたわ――
ロザリータが残したあの言葉は嘘じゃなかった。
彼女が見たドナテロの残影は、クラウスのものだったんだ。
偶然に偶然が重なる事で、僕らは一つの答えを得る事が出来た。
だが、何故だろう。この気持ちは。
一つの答えを得たのに、心の中には霧がかかっているかのようにモヤモヤとしていた。
その理由を探る事で、僕は自分自身気づいていなかった感情に気づく。
そうか、自分がドナテロの残影を追う理由が今やっと分かった。
――僕は……ドナテロに生きてて欲しかったんだ――
静かに瞳を閉じる。
瞼の裏の残影には、まだあの優しかったドナテロの微笑みが映っていた。
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