〆S32 月明かりに照らされて
■PHASE1■
日は沈み空は黒く淀んでいた。噴水広場の花屋に並ぶ花々が気のせいか草臥れて萎れて見えた。出店のサンドウィッチ屋も店を片付けはじめ、道行く人々の足も気のせいか足早に感じられた。僕の気分のせいだろうか。それもそのはず、あんな最悪な話を聞かされて正常心で居られるはずがない。街を歩いても何か落ち着かない。何者かの嘲笑に晒されているようなそんな気分だった。
「さっきの話どう思う?」
僕の問いかけにフェザは首を傾げた。
「さあな。でも、あれはクーロンが見た事実だろ」
フェザの答えに僕は納得のいかない顔をしていたのだろうか。
僕を諭すように続けてフェザは言った。
「嘘をオレらにつく理由が無い。仮に嘘だったとして、クーロンが何を得るんだ?」
「確かにそうだけど。ならフェザはドナテロが生きてるって信じる?」
僕の問いにフェザは答えなかった。
きっとフェザも同じ気持ちだったんだ。
何故なら、僕らの中でドナテロの死も揺るぎない事実だったから。
「マウス、どこ行くつもりだ。そっちは帰り道じゃないぜ」
「え、あ、うん……そうだね」
僕は何を考えていたのか。その答えはクーロンさんから話を聞いた時から決まっていたのかもしれない。
「あのさ、フェザ……」
僕が全てを語る前にフェザは微笑して言った。
「まったく……考える事は一緒か。行くんだろ?付き合うぜ」
「フェザ……」
中央広場から去る僕らの足が向う先はいつもの拠家とは別だった。
ロザリータの言葉がふと思い出される。
―わたくし……事件後彼に会ってますの―
―偶然街の外れで。遠目ではありましたけど、あれは間違いなく彼でしたわ―
そこに行って得られるものがあるとは到底思えないけど。今のこの悶々とした気持ちを抱えて日々を過ごすくらいなら自分の納得行くところまで調べたい。
行こう、郊外へ。
■PHASE2■
郊外まで歩くには、大通りの終点まで歩き続ける事になる。その距離は時間にして、ここから半日以上。加えて辺りはすっかり闇に包まれている。大通りだからといって中央広場から離れれば離れる程、人通りも少なく治安は悪くなる。結局僕らは数時間歩いて、近場の廃墟に身を寄せる事を余儀なくされた。
「今日はもうここまでかな」
「時間が時間だからな」
大通りの横につけた細い路地をいくつか曲がり、ひっそりと佇んでいた一軒家らしき廃墟の中へ上がり、人の気配が無いか確認する。廃墟には何も無かった。生活感の微塵も感じられないこの空間。
「倉庫か、ここ」
フェザはそう言って何も無い空間の闇にジッポの明かりを掲げた。
幸い荒らされてガラスは散乱しているような跡も無く、僕らが寝そべるには充分な環境がそこにあった。どうやらこの空間も僕らの侵入を受け入れてくれたようだ。
あらかじめ中央広場で買ってきた食糧を部屋の中央に置き、入り口に向かって僕らは座り込んだ。店の残り物として余っていたサンドウィッチを片手に瓶の水を口に含む。部屋の明かりは窓から差し込む月明かりのみ。変に灯りをつけてここに僕らが存在する事を他人に悟られてはならない。それもこの街が教えてくれた生活の知恵だ。
「さてと、やる事もないしな。飯食ったらさっさと寝るか」
フェザはそう言って早々と横になった。
夜はやる事が無かったら寝る。これも生活の知恵だ。無駄に動けばお腹が減るし、起きていてメリットは無い。
フェザが横になった以上、自動的に先の見張りは僕の役目だった。それも、好都合だったかもしれない。時間のせいかこんな陰鬱とした気分のせいか、まるで眠気は無かった。
無音無光の世界に、動いている者は僕一人。ただ佇むだけ、暇という言葉を使えばそれまでかもしれない。ただもやもやしたこの頭を整理するという意味では、この静かな空間はこの上なく適した環境だった。
窓越しに覗く青白い月。
「満月か……」
月明かりに照らされて、長く伸びた影が壁に投影される。
僕は静かにその影を見つめていた。
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