〆S29 赤傘の女
■PHAZE1■
クーロンさんとの話を終え、噴水広場に出ると空は雲に覆われていた。
広場の石畳は影に落ち、昼だというのに薄暗かった。
僕らは噴水広場を抜けて、拠家を目指して大通りを歩き始めた。
大通りには今日は昼だというのに、やけに閑散としていた。
「今日、なんか歩いてる人少ないね?」
「皆、連続変死事件で少なからず警戒してるんじゃないか」
――赤薔薇か――
確かに、相手の動機が不明な上、無差別殺人とくれば恐怖は煽られて仕方ない。僕らだってこんなに余裕に構えている場合じゃない。僕らは犯人を一応追う立場にあるとはいえ、義務は無い。フェザの言う通り、自分達から進んで請ける話じゃないんだ。被害者の人達には悪いけれども、そんなに危険な人物が絡んでいる事件ならば素直に関わりたくはない。
「クーロンさん、なんであんな話してくれたんだろうね」
「さあな。ただ気遣ってくれたんだろ、たぶん」
そう言ってフェザは懐から煙草を取り出した。
ふと、その時、フェザが目線で何かを訴えかけてきた。
「あ、火?ごめん、今持ってない」
フェザは無言で自分で火をつけると、煙草を口にする前に、静かに口を動かした。
―つけられてるぜ―
「え?」
僕が振り向こうとした瞬間、フェザがそれを制してきた。一瞬、振り返った時に、その姿は一目で分かった。何故なら、今この通りを歩いているのは、僕ら以外にそいつしか居なかったからだ。おまけにその姿は一目みたら目に焼きつくほど特徴的な姿だった。
真白なシルクのドレスに、血のように真っ赤な日傘。日傘に隠れてその表情までは見てとれなかったけど、その姿と気配は明らかに不自然だった。
ふと脳裏に一抹の不安が過ぎる。
―赤薔薇―
たった今その話をしていただけに、でもまさかこんな事ってあるのか。
不安を抱えながら通りの角を曲がると、そいつはしっかりと後をついてきた。
どうやら、つけられているのは確実らしい。
―どうするフェザ?―
―次の角を曲がったらダッシュで巻くか―
僕らはお互い顔も合わせず小声でやりとりしながら、なるべく自然を装って歩き続けた。
次の角が近づいてきた。女との距離は約15メートル程。僕らが角を曲がってダッシュすればかなりの距離を稼げるはずだ。
あとは路地に入って細かく曲がっていけばきっと見失うだろう。
角がやってきた。
なるべく自然に角を折れ曲がった瞬間、僕らは解き放たれた矢のように駆け始めた。後ろを確認するとまだ彼女は角までやってきていなかった。
「路地入るぞ」
「うん」
フェザの言葉にすかさず路地へと逃げ込む。依然後ろに注意しながら、後は拠家まで僕達は路地を必死に駆け続けた。
■PHAZE2■
それから15分後、僕らは拠家へとなんとか辿り着いていた。相手の目を攪乱させるために敢えて遠回りしていくつもの路地を分岐してきたんだ。これなら、まさか追ってくる事はないだろう。
「あの人なんだったんだろうね。明らかに普通じゃないよねあの格好……思い出しただけでぞっとする」
あの人物がは、本当に赤薔薇だったんだろうか?
「深く考えるな。考えるの止めようぜ。気分悪いだろ」
「そうだね」
そうして、僕らがベッドに腰掛けようとしたその時だった。
―コンコン―
部屋の扉がノックされる音。
何故だか理由はない。ただ本能的に僕らはその音を拒絶した。僕もフェザも無言だった。今までにこの部屋を訪れてきた人などいない。
―コンコン―
再び扉がノックされる。
全身に寒気が走った。もし扉の向こうにいる人物があの赤傘の人物だったら。
おそるおそる僕は腰を上げて扉の前へと移動した。
―コンコンコン―
ドアに手を掛ける僕の手は震えていた。
扉を開く前に必死に恐怖を抑えながら、覗き窓へと視線を移す。
―あれ?―
覗き窓が曇っているのか、向こうの様子は真っ暗で何も見えなかった。
じっと目を凝らして暗闇の向こうを覗いていたその時、突然、暗闇がまばたきをした。
―真っ赤に充血した眼―
その眼は覗き窓の向こうからじっとこちらを見つめていた。
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