〆S26 変化
■PHASE1■
フェザと交代してから明け方までの、その時間は僕にとって酷く長く退屈な時間だった。別段変わった事も無く、強いて言えば、一度少年が起きて外へトイレに行ったくらいだった。このまま何事もなく、時間は過ぎ、朝を迎えるのだろうと思っていたその時、その変化は起きた。
「寒いな」
壁にもたれかかりながら、僕は窓を通して見える夜空を見つめていた。空では無数の星が瞬いていた。星を見て純粋に綺麗だと思えるようになったという事は、それだけ僕が今満たされているのかもしれない。昔では在り得なかった感情、いつからか、少しづつ僕の感性が変化しているように思える。それは、ただの杞憂なのか、考えることではないのかもしれないけど。
そんな事を考えながら、ふと夜空に向って手をすかして見せたその時、僕はその異変に気づいた。
ぼんやりと輝く右の掌。初めは星々の輝きを受けて光っているのかと、そう思った。でも違う。光は確実に自分の掌から漏れていた。
「なんだ……?」
ふと不安に思って、右手を自分の顔元に持ってきたその時。
突然、右手から炎が噴出した。噴き上がった炎はそのまま右手を包み込むように回流を始めると、激しい熱と光を放ちながら燃え盛った。
「なんだよ、これ!?」
あまりの出来事にただ自らの手に纏わりついた炎を必死に消そうと振り払う。何度も手を振り払っているうちに次第に炎は収縮し、僕の掌の中で消えた。
■PHASE2■
「見張りご苦労様」
翌朝、アリスの無感情な労いの言葉を受けながら、僕は自分の右手を見つめていた。昨日の出来事はまだ誰にも話していない。話すべきか話さざるべきか、自分でも迷っていたんだ。
アリス達が起きてもフェザは例によって爆睡していた。挙句の果て、少年に叩き起こされて逆ギレしていた。
「痛ってぇなガキ。何すんだテメェ!」
「寝てる方が悪いんだよ。もう朝だよ」
そう言って微笑む少年の足元では、子犬が尻尾を大きく振りながら元気に吠えていた。
「問題無さそうね」
髪を梳かしながら呟くアリス。
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
「おい、ガキ。見張りしたオレ達の事忘れてねぇか?」
朝からそんな賑やかな会話をしながら、僕等はその朝、少年と別れた。
■PHASE2■
帰り道、アリスは礼拝のため、また途中で消えた。
「熱心なことで、結構だな」
フェザがそう皮肉めいた発言をしてから、僕等が拠家に着いたのは結局、昼頃だった。帰ったら僕等がする事は一つ。ただ貝のように眠るだけ。黒部屋の仕事を請け負って、まだ二日目だけど、身体にかかる負担は以前の比じゃなかった。これならまだ単純な肉体労働の方がマシかもしれない。
唯一救いは、明日から数日間、黒部屋は閉められるという事だった。よくわからないけど、一週間、毎日開いている表のギルドと違って、黒部屋はまばらに休みが振られているらしい。明日から、数日間は少し身体を休められる。そう考えると少し生活は楽になったのかもしれない。つい先日までは、毎日を生きる生活費を稼ぐのに必死で、休む暇なんて無かったけど、僕等の生活はあのドナテロの事件から少し変わった。
10000ペインという大金を手にしてから、食べ物には困らなくなったし、毎日の生活が保障された。この変化は僕等にとっては大きい。
「どうしたんだ、糞でもつまったみたいな顔して?」
「なんだよその言い方」
真昼間から下品なフェザの問いかけに僕は今一度何を悩んでいたのか考える。別段、悩みという程のものでもない。ただここ最近に起こった身の周りの「変化」に頭がついていってないだけなんだきっと。
そう、これは悩む問題じゃない。後は成り行きに任せればそれでいい。一つの変化にいちいち頭を悩ませていたらキリが無いんだ。この世界は一秒単位で変化してる、その中の矮小な存在である僕がその変化に頭を悩ませる必要は、微塵も無い。
今は、ただぐっすり眠りたい。それだけさ。
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