〆S24 調査依頼
夕方になった。約束の時間に黒部屋へ向うと、そこには既にアリスの姿があった。
相変わらずの空気感、この感覚にはなかなか身体が慣れてくれない。薄暗い室内に入ると、すかさずアリスが第一声を上げた。
「遅いわよ」
「今日はまだ時間前だろ。お前が来るの早いだけじゃねぇか」
二人が言い争いを始めるのを横目に、張り紙へと視線を移す。
張り紙の内容は一昨日見た時よりも、若干増えているように感じた。
「依頼……増えてるね」
「それは当然よ」
僕の呟きを聞いて、アリスが不毛な言い争いから抜けて言葉を返してきた。
「当然って?」
「だって、ここへ舞い込んでくる黒依頼の数に対して、上級請負人の数が圧倒的に少ないんだもの」
請負人の数が少ない?
「だから、あなた達みたいな素人にまで、こっちの依頼を頼む状況が発生してるのよ」
「誰が、素人だって」とフェザ。
「いちいち馬鹿の一つ覚えみたいにつっかかってこないでよ。疲れるわ」
アリスの痛烈な返しに再び、二人の言い争いが始まる。
僕は張り紙に視線を戻した。
この張り紙の数はこの街が生み出した膿なんだ。僕らの知らないところでこの街はこんなにも病んでいる。そう思うと、どこかやりきれなかった。
その時、一枚の張り紙が目に留まった。依頼の日付は今日のものだった。まだ新しい依頼だ。
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●A-23区画における死亡報告、及び、調査依頼に関する総点
Fende ε 7:55頃、A-23区画中央第三通りにて、路地裏のマンホールに居住していたと思われる推定十二歳前後の少女の遺体が発見された。外傷は見当たらず当該する症例も無し。現場検証により本件は人為・自然的な死亡ではないことから、死因が悪夢に由る可能性が高いものとして、ギルドによるより詳細な検証をここに決定する。
調査依頼に関してはブラックギルドの管理項目とするため請負人は以下の点に留意する事。
○世間的困惑を避けるため、本件についての一切の情報を一般公開する事を禁ずる
本調査にあたる請負人の人数については問わない。ただし、請負人は例外なく上記の守秘義務を負うものとし、誓約を破った場合、3000ペインの違約金を支払うものとする。
なお、本調査においての報酬は以下の通りである。
契約金 1000 ペイン(ただし、報告書の内容に誤り・偽りがある場合没収)
報酬金 5000 ペイン
上記の内容を把握した上で、請負人は本調査にあたるものとする。以上。
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「フェザ、これ見てよ」
「あ?」
言い争っていたフェザは口調を荒げて僕の方へとやってきた。僕の隣で張り紙を読み込むフェザ。
「なんだ、これ。今朝のやつか」
「やっぱ、そうだよね」
僕等の会話を聞いてアリスも張り紙に視線を流す。
「この記事がどうかしたの?」
「いや、実は今日僕らがこの事件ギルドに報告したんだ」
「あなた達が?」
アリスは訝しげに張り紙に目を向けた。
「調査依頼みたいね」
「この依頼請け負えないかな?」
その台詞は確かに安易なものだった。僕がその台詞を吐いた途端、アリスの鋭い視線が突き刺さる。
「無理に決まってるでしょ」
「なんでだよ」
横から入ってきたフェザにアリスは大きくため息をつくと言った。
「調査依頼はただでさえ難しいのよ。大体この依頼については世間的に情報を一般公開出来ないって事は、聞き込みもNGでしょ。調査の過程が全然見えないもの。私達には無理よ」
「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ。聞き込みだって情報が一般公開できないだけで、できないわけじゃない」
フェザの言葉にアリスの眼光が一層鋭くなる。
「じゃあ聞くけど」
「なんだよ」
アリスは一呼吸置いてからその口を開いた。
「あなた報告書書けるの?」
流れる沈黙。決定的なアリスの台詞に僕等は言い返す言葉も無かった。
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