〆S21 微笑み
■PHASE1■
翌朝、起きると応接間ではアリスが一人テーブルで珈琲を飲んでいた。ソファーで窮屈な格好で寝てたせいか身体は少しだるかった。横を見るとフェザはまだソファーで眠っていた。顔を洗おうと洗面所へ向かおうとしたその時、ガラス張りの応接間の扉の向こうから一人の少女がやってきた。
「目覚めてたんですね」
栗色の巻いた髪を弾ませ、彼女はそう微笑みかけてきた。
「それはこっちの台詞だよ。もう起きて大丈夫なの?」
「はい。おかげさまで。本当にありがとうございました」
フィアラはそう言って深く頭を下げてきた。
礼をする彼女を見て僕は複雑な気持ちになった。礼をされるような事は何一つやっていない。僕はあの場でただうろたえているだけだったからだ。
「僕は何もやってないんだ。礼ならアリスに言って下さい」
「そんなことないです。本当に心から皆さんには感謝しているんです」
彼女はそう言って僕を真っ直ぐ見つめてきた。
「今お飲み物お持ちしますね。珈琲と紅茶どちらがいいですか?」
「オレ、珈琲で」
僕が答える前にフェザの声がソファーからした。起きてたのか、それとも今起きたのか。フェザはだるそうに頭を掻きながら起き上がった。
「ここどこだ?」
フェザは寝ぼけた様子で呟いた。
「アルバートさんの家だよ」
「アルバート?……ああ」
思い出したのか、フェザは大きく伸びをすると、再びソファーに倒れ込んだ。そんな様子にフィアラは微笑みを溢した。
「ふふ、すぐにお持ちしますね。あ、ええと」
そう言ってフィアラの瞳が僕に問い掛ける。
「マウスです」
咄嗟に僕はそう名乗った。
「あ、すみません。マウスさんはお飲み物どうします?」
「ええと、じゃ僕も珈琲で」
本当は珈琲より紅茶派なんだけど。皆珈琲だし。
「はい、それじゃすぐにお持ちしますね。もうすぐ朝食の用意も出来ますから」
そう言ってフィアラは応接間から去っていった。
洗面所どこだか聞き忘れちゃったな。まあ、いいか。
■PHASE2■
洗面所を探し、顔を洗い戻ってくると、テーブルには珈琲と一緒に朝食が用意されていた。無言で朝食をとるアリスとフェザ。僕は席につくと用意されていたティーカップに手を伸ばした。
「朝食までご馳走になっちゃってなんだか悪いよね」
そう言って珈琲に口をつける。
「いいんだよ、もらえるもんはもらっとけば」
こんがりと焼かれたパンを齧りながらフェザは、思い出したように言った。
「昨日の悪夢が嘘みたいだな。首吊ってたんだぜあいつ」
フェザの言葉にアリスの鋭い眼差しが飛ぶ。その瞳は、彼女の前では口が裂けても言わないで、そう語っていた。
アリスの言葉にフェザはおとなしく「へいへい」と頷いた。
朝食を終えると、再び僕らはテーブルについた。向かいにはアルバートさんとフィアラが座っていた。
「少ないですが、これはほんの気持ちです。受け取ってください」
僕ら三人の前に差し出されたコインケース。中には100ペイン硬貨が十枚入っていた。
差し出された報酬にフェザが手をつけようとしたその時、アリスが口を開いた。
「お気持ちは嬉しいのですが、これは受け取れません。報酬はギルドから受け取る事になっていますので」
アリスの言葉にアルバートさんは当惑した様子で言った。
「ですが、それでは私達の気持ちが」
「お気持ちだけ受け取らせて頂きます」
アリスのはっきりとした態度にアルバートさんは「そうですか」と言ってまた深く頭を下げた。
「皆さんにはお礼をしてもしきれません」
コインケースの前に手を伸ばしたままフェザは机に顔を伏せていた。
「なんでだよ、もらっときゃいいじゃねぇか」
「仕事以上の報酬は善意への対価。善意はお金では買えない。あなた達から教わった事よ」
フェザは「何を訳わかんねぇ事を」と呟きながらおずおずと手を引っ込めた。
「ほんとに、遠慮なさらないでいいんですよ」
「いえ、結構です」
断固言い張るアリスと不貞腐れるフェザ。
そんな光景に思わずアルバートさん達から微笑みが漏れる。
その微笑みに僕も思わずつられて笑ってしまった。
なんだか、よくわからない笑いだったけど。
その微笑みはどこかあったかかった。
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