〆S10 二つの影
■PHASE1■
配達の仕事を終えると、辺りはすっかり暗くなっていた。
仕事は低賃金の割りに重労働だった。おまけに依頼人の高慢さといったらこの上なかった。
「あの、豚野郎。派遣だと思って鼻であしらいやがって」
「しょうがないよ」
しょうがない、か。口ではそう言ったものの正直納得はいかなかった。
でも、後悔したってしょうがない。この仕事を選んだのは自分達なんだし、大体納得の行く仕事に出会う事の方が少ない。
暗闇の中、建ち並ぶ廃墟を横目に、僕達は疲労した身体をひきずって帰路を歩いていた。
その時だった。
大通りの遠くで何か小さな影が道を横切った。シルエットからして、『子供』、だろうか。続いてそれを追いかけるように、もう一つの影。
「何だ今の」
暗闇に目を凝らした時には、影は路地の方へ消えていた。
一つめは子供のシルエット。もう一つの影は……
「見たか今の」
「うん。子供の影と……」
そう、あれは
『ピエロ』のようだった。
■PHASE2■
拠家についた僕らを待っていたのは、薄ら笑いを浮かべた睡魔だった。
疲労した身体を寝台の上に放り込むと、僕らはそのまま眠りについた。
■PHASE3■
その日僕は夢を見た。
暗い闇の中に浮かび上がったのは、まだ年端もいかない幼い少年だった。どこかで見覚えのあるその顔。
そうだ、今日ネジを拾ってあげた子だ。
少年は僕の存在に気づくと、満面に嬉しそうな笑みを浮かべて近づいてきた。まるで僕に抱っこをせがむように、僕を見上げるその瞳は愛らしかった。
――ごめんよ、もう飴玉は無いんだ――
僕がそう言うと少年は悲しそうな表情を見せた。
――ごめんよ―今度はきっと持ってくるから――
そう語り掛けた時には少年は僕に背中を向け静かに走り出していた。
――待って――
僕の呼びかけに少年は答えない。
僕は必死に少年の後ろ姿を追いかけていた。
――待って――待ってよ――
けれども声は届かない。いつの間にか少年との距離は大分離れていた。
走っても走っても
その少年は遠ざかるばかり。
いつしか少年の姿は点になった。
そして夢は途切れた。
■PHASE4■
目を覚ました僕を迎え入れたのはいつもと変わらぬ朝だった。
夢の事は、目覚めてから次第に虚ろになっていった。
変わらない、日常。
そして、数日が過ぎた。 |