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第14章


美しく飾り立てられた大広間では色とりどりの仮面で素顔を隠した来賓たちが楽団の音楽に合わせて蝶の様に舞っている。

「……はぁ」

壁際でわたしは羽扇に隠れて小さなため息を漏らした。

仮面で素顔を隠しているとはいえ場違いな雰囲気に仮面舞踏会を楽しむ余裕なんて全くない。

頼みの綱のヴューイ様と言えば……

「今宵こそはわたしくしと踊ってくださいませ」

「あら!今宵はわたしくしと……」

少し離れた場所で沢山の黄色い声に囲まれてる。

ヴューイ様は仮面を着けていても仮面からのぞく美しい紅眼と漆黒の髪で正体がバレバレ。

仕方ないと言えば仕方ないけど……。

「ずっと側に居てくれるって言ったのに……」

ため息と共にポロリと零れた言葉に自分自身が驚く。

これじゃ、まるで構って貰えない子供が拗ねてるみたいじゃない!

そう思うと急に恥ずかしくなりわたしは熱の集まった顔を伏せ、羽扇で隠した。

伏せた眼に映るのは胸元に輝くヴューイ様からいただいた首飾り。

紅と漆黒の宝石はまるでヴューイ様みたいで身に着けているだけで更に顔に熱が増してしまう。

「……暑いわね」

ごまかす様に羽扇を扇ぎながら呟くと熱を冷ます為、バルコニーに向かって歩き出した。

バルコニーに出て誰もいない事を確認してからわたしは手摺りに身を預けた。

「風が気持ちいい」

春の涼やかな風が熱を持った頬を優しく撫でる。

「こんな所でどうしたの?」

そんなわたしの耳元で聞き覚えのある声が響いた。

「ひめ……!」

「シー!この舞踏会で名前を口に出すのはルール違反よ?」

名前を出しそうになったわたしの口元を仮面を着けた姫巫女様がやんわりと人差し指で押さえる。

「………申し訳ありません」

「ふふ、そんなに畏まらないで。今はお互い身分も名前もないただの女の子なんだから」

そう言って笑う姫巫女様は仮面で素顔を隠していてもやっぱり綺麗でわたしは見惚れてしまう。

「突然、こんな舞踏会に招待してごめんなさいね。身体の方は大丈夫なの?」

「あ…はい、ヴューイ様のお陰ですっかり良くなりました」

「ヴューイのせいで風邪を引いたんでしょ?ヴューイにはちゃんとお説教しておいたからね」

巫女様の言葉に何故かわたしの胸がチクチクと痛み出した。

ヴューイ様がわたしとの事を姫巫女様に報告してても別に不思議じゃない。

でも……

「どうかしたの?」

胸の痛みを吐き出す様に深いため息を漏らすわたしに姫巫女様が心配そうな眼差しを向ける。

「いえ、慣れない場所で少し気後れしてるみたいです」

「そう、そう言えばヴューイは何処にいるのかしら?」

作り笑いを貼付けたわたしを姫巫女様は不思議そうに見つめる。

「……ヴューイ様は大広間で御令嬢様たちに囲まれて困ってらっしゃいました」

先程のヴューイ様と御令嬢たちのやり取りを思い出し、またチクチクと痛み出す。

今日のわたしは何だかおかしい。

まだ風邪が治りきってなかったのかしら?

「そんな顔しないで?」

「え?」

正体不明の胸の痛みに悩むわたしを姫巫女様が少し困った表情で覗き込んでいた。

「ヴューイも困った人ね。あなたにそんな顔させるなんて」

……わたし、どんな顔してるのかしら……?

姫巫女様の言葉にわたしは恥ずかしくなり慌てて両手で顔を隠す。

「……賭けはあなたの負けかしら?」

「…………」

わたしの態度にクスリと笑いながら尋ねる姫巫女様に前の様に即答出来なかった。

負けるなんて絶対ありえません。

頭ではそう思っていてもわたしの口は言葉を紡いではくれない。

「あなたは正直ね」

無言で俯くわたしに姫巫女様はポツリと呟いた。

「わたし……正直なんかじゃありません」

「そんな事ないわ。もし、あなたが正直じゃなかったらきっと前と同様に否定したんじゃないかしら?」

「……」

「すぐに否定しなかったのはあなたが正直で自分自身ヴューイへの気持ちがわからないから…違う?」

……そうかもしれない。

この何日間、ヴューイ様にご迷惑をかけたけど一緒に過ごして楽しかった。

楽しかったのと好きという気持ちが繋がるかはわからないけど一緒にいて嫌だとは全く感じなかった。

むしろ…アヴィスの事がなかったらもっと一緒にいたいと願ったかもしれない。

だから、わたしは否定の言葉を口に出せなかったんだ。

わたしは……ヴューイ様をどう思っているんだろ?

「わたし……」

「失礼いたします」

思い悩むわたしの言葉を慌てた声が遮った。

慌てた声に驚いて視線を向けるとわたしたちの背後で深々と頭を下げる王宮侍女の姿があった。

「お話し中のところ申し訳ございません。早急にお伝えしなくてはならない事がございます」

「……何かあったの?」

「はい。あの……」

少し表情を曇らせる姫巫女様に王宮侍女は言葉を濁しチラリとわたしに視線を向けた。

「わかりました。すぐに自室に戻るわ。それとヴューイにこの方のお相手をする様に伝えてちょうだい」

「え!?」

「かしこまりました」

姫巫女様の言葉に驚くわたしを余所に王宮侍女はまた深々とお辞儀をして足早にその場を去ってしまった。

「あの……?」

「今日はあなたと沢山お話出来て楽しかったわ」

恐る恐る声をかけるわたしに姫巫女様はニッコリと微笑む。

「……わたしこそお話出来て光栄でした」

「本来ライバルのわたくしがこんな事言うのもおかしいかもしれないけれど……色々考えるのは止めて単純に考えるのはどうかしら?」
「単純に…?」

「そう、人の気持ちなんて案外単純なものよ?じゃ、また会える時を楽しみにしてるわね」

そう言って微笑むと姫巫女様は来賓客で賑わう大広間に向かって歩き出した。

「……単純に……か」

姫巫女様を見送って一人になったわたしはベランダの手摺りに頬杖をついてポツリと呟いた。

好きか嫌いかで言えば至極単純かもしれない。

でも賭けの事を考えると単純には考えられない。

賭けに勝っても負けても所詮ヴューイ様にとってわたしは『期間限定』で姫巫女様やイリアス様の様に未来を期待出来るワケでもないんだから。

「こんな事なら王宮なんて来なければよかった……」

ため息と共に零れた本音は春の涼やかな風に攫われる様に消えて行った。

「おい?」

「え!?」

不意にかけられた声にわたしは弾かれる様に振り返とそこには見覚えのある護衛がニヤニヤと薄笑いを浮かべながら立っていた。

この人、以前かわたしが懲らしめた……。

わたしの脳裏にあの夜の出来事が思い出される。

「……何かご用かしら?」

「あんた……あの時の侍女だろ?」

正体がバレないように羽扇で顔を隠すわたしに護衛は薄笑いを浮かべたまま尋ねる。

「………」

沈黙を肯定と受け取ったのか護衛は薄笑いを深めると突然わたしの手首を掴み背後から羽交い締めにした。

「何を…!」

「少し静かにしてろ!」

そう言うと護衛は怒鳴ろうとするわたしの口元に布を押し付けた。

「!」

逃げなくちゃっ!

必死で護衛から離れようともがきながらも押し付られた布から香る薬品の様な匂いにわたしの意識がぼやけ手足の力が抜けていく。

助けて…!

薄れゆく意識の中で脳裏に浮かんだのはヴューイ様の顔。

助けて…ヴューイ……さ…ま…

心の中でヴューイ様に助けを求めながらもわたしは深い闇に吸い込まれる様に意識を手放してしまった。







今回はヴューイはちょっとお休みです。お話的にはルイーゼの心情が急性だった様な気がしますが…どうぞご勘弁を(;^ω^)
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