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躊躇いがちのほか2編(頼久編)
 避けておいでではありませんか?

 どうして頼久さんは、あの時──。
 今にも泣き出してしまいそうな顔で、言ったのかしら。
 避けているつもりは、まったくないの。───ただ。
「ほんと。頼久は鍛えるのが好きだな」
「天真。神子を護衛する者の務めだ」
 流れていく汗を拭こうともしないで、感心している天真くんに笑いかけている頼久さんを見て、言葉がでなかったの。
「頼久。こんな時間にどこへ行くのだ」
「泰明殿。私はこれから屋敷の外を見回りに行くところなのです」
「ご苦労なことだな」
「いいえ。神子を鬼から守る為故、当然のことです」
 そう言って暗闇の中に消えていく頼久さんに、ありがとうの一言も言えなかったのは、とってもドキドキしたから。
 いつも視界の中にはいたの。──頼久さん。ただ、声をかける後一歩がでなくって…。
だから?
「最近の神子殿は、私を避けておいでではありませんか?」
 避けてなんかいません。そうすぐに答えればよかったのに、胸のドキドキが収まらなくって…。だから私は俯いてしまって───。
 気がついた時には、泣きそうな顔の頼久さんが立っていた───。
 ふいっと部屋を出て行こうとした頼久さんの上着…。急いで手を伸ばしたのに届かなくって…。
 今度は私が泣きそうになる番。
「頼久さん」
 躊躇いがちに呼び止めてみた。
 かたん、と音がして。廊下に頼久さんが立っていた。
「危ない時も、危なくない時も───いつでも頼久をお呼びください。私はいつでも神子殿の傍におります故───」
 躊躇いがちに、頼久さんが手を伸ばしてきた。私もそれに応えてみる。躊躇いがちに───その手を取る。
「避けていたんじゃないの──私──私───」
 頼久さんが首を振る。言ってはいけないのだというように。言葉にしてはいけないと言うんなら。
 せめて───と、頼久さんの胸に額を寄せた。
 頼久さんの手が、躊躇いがちに私の髪を梳くように、撫で上げてくれた。

 <<抱擁>>

 どたどたとけたたましい足音に、さすがの藤姫も驚いた様子。
 おまけにそれが頼久であったことは、殊更に驚かせた。
「まあ、頼久殿。どうなされたのですか」
 息を切らして立ち尽くす頼久は、まず藤姫に突然の来訪を謝った後、呑気に朝食をパクついているあかねに目を遣った。
 はあ〜と大きな溜息を吐きながら膝をついた頼久は、
「神子殿のご容態が悪化したと伺ったもので」と声を詰まらせながら言った。
 あかねはきょとんとした顔で、はい熱が出ましたと、これまた呑気に答えた。
 頼久は両手で顔を覆っているから表情がまったくわからない。怒っているのか、手がかたかたと震えている。
「それが何か?」
 あかねの言葉が引き金になったのか。面を上げた頼久の顔は怒っていた。
「あなたの容態が悪くなったと聞いた時、私は…私は…」
 頼久は唇を噛み締めて、最後の言葉を飲み込む。そして───。
 がたがたと倒れる食器類。
 頼久の取った行動に言葉を失う藤姫。部屋に飛び込み、あかねを抱き締める頼久。あまりの突然の出来事で、あかねは箸を持ったまま抱き締められていた。
 意外に情熱的な抱擁をしてくる頼久に、あかねは微笑む。
 数分後─。
「お二人で後片付けなさいませね」
 藤姫のきつい一言が降ってきた。




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