かたばみの花(景時編)
僅かに盛り上がった土の上に、小石がひとつほど乗せてあった。傍らにはかたばみの黄色い花びらが色を添えていた。
「もしかして……お墓……ですか?」
「ん? まあね」
景時さんの大きな掌から、たくさんの黄色い花びらが滑り落ちていくのが見えた。あのかたばみの捧げ主は景時さんだったんだ。
「景時さん……なにか、飼っていましたっけ? あ、もしかして式神のサンショウウオちゃんが?」
「ははは。式神は死なないよ……。これはね、猫。さっき立ち寄った村でね。女の子が泣いているからどうして泣いているの? って訊いてみたら、猫が死んじゃったんだって。どうしていいかわからないって言っていたから、それじゃあおじさんが預かるよってね」
すべて落ちていった黄色い花びらを、小石の周りに絶え間なく敷き詰めていいながら景時さんは言う。
落ち着いている声音からは何も推し量れない。
「泣いている女の子のために、生き返らせてあげようとか……思いませんでしたか?」
意地悪をしたつもりはないのに、私を見上げた景時さんの辛そうな表情が、口にしてはいけないことを言ったのだと悟らせた。
自嘲気味に笑う景時さんが、静かに視線を空へと移した。
「泰山府君の祭りを指して言っているんだったら、大きな間違いがあるよ?」
「間違い?」
「うん、だって……あれには差し替える命が必要だから……それに」
景時さんが大きく息を吸って、振り返った顔には笑顔が満ちていた。
「死して帰す……だと俺は思うんだ」
晴れ晴れとしたその笑顔にしばらくの間、見とれてしまっていた。
柔らかい景時さんの言葉が、初夏の風に乗って運ばれていく。
「死んだら確かに終わりだけど……あるべき場所に帰るんだと思う。この世界に存在するすべてのものが当てはまる場所。そこに還るだけなんだ。そうして、姿こそ違えど、きっと戻ってくる。だから俺は……これまでに失ったものは等しく自分の元へ還ってくると信じているから、すべてのものを───すべての存在を愛しいと思ってる。ううん、思わないといけない」
思い出したように、景時さんの指がかたばみへと伸びた。味気ない盛り土を、寂しくないよう飾り付けていく。
俯いたせいで声が少しくぐもった感じになっているけど、それでも私の耳にはきちんと届いた。
「空も海も川も、水滴ひとつ、木の葉一枚だって、大好きだった人かもしれないと思ったら───とっても大切で愛しいよね?」
うんと頷くのが精一杯で、あとは泣けてしようがなかった。
たくさんの思いを込めて発したその言葉の重みを、私はきちんと受け止めてあげているんだろうか。
「望美ちゃんが泣かないでよ」
いつもの困った顔で微笑みかけてくれる。
何も答えられない私は、大袈裟に首を横に振るしかなかった。ただ、景時さんの横に腰を下ろして、かたばみの花を摘む手伝いをした。
たくさんの花を添えてあげようと思った。でも、この花も大切な誰かの違う姿なのかもしれないと思ったら、また涙が溢れた。
優しい陰陽師が横から手を伸ばしてきて涙を拭い、ありがとうと自分のことのように礼を言う。
それがまた切なくて───。
「黄色い花でいっぱいにしてあげよう」
盛り土は、黄色い花びらの山になった。
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