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根雪(友雅編)
 清涼な笛の音が、降り積もる雪の中を泳ぐようにすり抜けて私の耳に届く。
 ああ、これは永泉殿だ。
 振り仰いだ屋敷の屋根にも、雪は降り積もっていく。
 突如沸いたはしゃいだ声に視線を遣る。
「友雅さん!」
 鼻を赤くした可愛らしい少女が、目を細め、私の名を呼びながら駆けてくる。
 永泉殿の笛の音に負けぬほど澄んだ彼女の声が、寒くはありませんかと私へ語りかけてくる。
「寒くなどはないさ。雪は見た目ほど冷たいものではないからね」
 神子殿が大きな瞳をさらに見開かせて私をじっと見る。
「冷たいですよ、だって───ほら」
 桜色の細い指先で、私の手を握り締めてくる。確かに彼女の手は冷たかった。けれど、思いのほか私の手の方が温かいことに驚いた彼女は、不思議そうな顔で、それでいて私の手を離そうとはしなかった。
「神子殿の手は冷たいね」
「雪遊びをしていたから……」
 瞳を伏せて私の手をみつめる神子殿の指先を、今度は私が捕らえる。
 驚いて顔を上げようとした神子殿に、そのままでいて欲しいと願いを口にしたら、彼女は黙って瞳を伏せた。
 黒目がちの神子殿の瞳を縁取っている、長い睫毛に雪が積もっていて、どういうわけだか胸が締めつけられた。
 いつのまにか降り出した雪が彼女の睫毛に降り積もる。
 私の胸の奥にある恋心と同じように、しんしんと降り積もっていく。
 根雪のようなこの恋心は、春になっても溶けずにいてくれるだろうか。
「神子殿の睫毛に──ほら、雪が積もっているよ。とても綺麗だ───」
 私の言葉に、彼女の睫毛が僅かに震えた。
 愛しくて可愛くて。思わず唇を寄せていた。
 私の吐息に睫毛の雪は溶け出して、まるで神子の涙のように彼女の頬を伝い落ちていく。
 私の恋心は、こんな風に溶けたりはしないだろう。
 神子殿の頬を涙のように伝ったりはしない。
 私の恋はすでに溶けぬ根雪になっているのだから───。


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