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遥かなる時空の中で1「源頼久」編です。
スノウ・ドロップ(頼久編)
 ──朝。
 目が覚めて、吐く息がとても白かったから何だか心が弾んだ。
 今にも振り出しそうな曇天の昨日。
 藤姫ちゃんが、明日は雪になるやもしれませんねと空を見上げながら呟いていたことを思い出した。
 勢い良く雨戸を開ける。凍みているせいか、少し立付けが悪い。えいえいと強引に開け放ったその先には、一面の雪が朝陽に照らされて眩い光を放っていた。
 けれど、そこにはすでに足跡が付いていて、がっくりと肩を落とした。できれば縁側からジャンプして、全身の型を取りたかったのに。
 口を尖らせてその足跡の行方を目で追う。私の楽しみを奪った憎いヤツ。
 足跡は庭先へ続いているみたいだった。
 いったい誰なのかな?
 好奇心に狩られて裸足のまま庭へ下りた。
 冷たい、と肩を竦めたけれど、近くに履物がないから一気に駆けて行くことにした。
 大きな足跡に続く、私の小さな足跡。
 椿の下を潜って行き着くと、足跡が終る。そして、引き返すようにその足跡は別のルートを辿ってその場を後にしたみたい。足跡は横道に逸れるようにして、更に続く。
 足跡が立ち止まった場所には一枚の布が落ちていた。
 薄紫の……布?
 近づいてみたら、それは布ではなくて文に使う紙だった。
 何だろう?
 そう呟いて、紙を持ち上げてみると──。
「蕾!」
 今にも開きそうな蕾が、解けた雪で花弁を濡らしながら首を傾げていた。
「この紙で雪を凌いでいたんだ……」
 じゃあ、この足跡の人がこれを───?
 薄紫の……この色の紙は……!
 ふいに浮かぶ、はにかんだ笑みの人。
 紫苑の紙が好きなのですと呟いた人。
 他にこの花を守るものがなくて、きっとこの紙を使ったのだろう。
 しゃがみ込み、さりげなくこの紙を雪避けに置いた彼の姿を想像する。
 私の頬が自然に緩む。
 さくっと雪を踏みしめる足音がして振り返ると、裸足の私の姿に驚いた彼が慌てて駆け寄ってきた。
「神子! そのようなお姿で庭へ出ていらしたのですか?」
 怒っているけれど、それは心配の裏返し。
 守りたいものが目の前にある時、迷わず自分のすべてを投げ出せる人。
 私を抱え上げながら彼の説教は続くけれど。
「頼久さんはやさしいんですね」
「なにを仰っているんですか! いいですか、神子?」
 私はくすくすと笑って、頼久さんは「神子!」と怒る。
 頼久さんの肩で身体を揺らしながら、蕾を見た。
「後少しで咲きますね、頼久さん!」



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