ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
桜か雪か……君の吐息か(友雅編)
 朝靄の中から珍しい小鳥の鳴き声がする。
 気づけば腕に抱いていたはずの姫がいない。
 さては鳥の主は彼女であると笑む。
 時折屋根を伝う雪ずりの音を耳にしながら、身を起こした。
 聞こえるはしゃぐ姫の足音が、水面ではばたく鳥の羽音にも聞こえる。
 ゆるゆると簡単に身支度を整え、庭へと顔を出すと案の定、彼女は雪まみれになって遊んでいた。

「楽しいかい?」

 小鳥と思えた彼女だが、私の姿をみつけて駆け寄る姿はまるで鞠のようだった。
 息を弾ませて私の元へと駆け寄る君。

「楽しいですよ!
 だって昨日まではなんにもなかった庭なのに、一晩でこんなに積もったんだもん」

 吐く息が丸い輪になり、彼女の唇を紗に霞める。

「走り回るだけがそんなに楽しいのかねえ。
 それよりもこちらへ上がってきて、もう一度私を暖めてはくれまいか」

「!」

 う、と喉を詰まらせて俯く姫君に追い討ちをかける。

「それとも冷えた身体を私が暖めてさしあげようか」

 腰を屈め、彼女の目線へと己の瞳とを合わせた。
 恥ずかしがり、逸らすことを承知でふたつの虹彩を覗き込む。

「運動すれば暖かくなるから大丈夫です。
 友雅さんが心配するほどじゃありません」

「おや、心外だね。
 昨夜の睦言は違うとでも言うのかい?」

 趣味が悪いと鷹通は言うけれど、頬も耳朶も赤くする彼女を眺めるのは楽しい。

「答えがないということは肯定するということだね?
 よろしい。
 ではそこで待っていたまえ。
 ──君が私の元へ来ることを拒むというのならば、私が君を攫うまでだよ」

 驚き、雪の中へ逃げ出す少女の細い手首を掴み取り、胸元へと抱き寄せる。
 素足にかかる雪はひどく冷たいが、かり衣だけのわが身にそそぐ彼女のぬくもりは春の日差しにも等しい。

「さあ、もう一度吐き出しておくれ。
 君のその唇から舞う雪を……零れる桜の花びらを……。
 私の胸を焦がす甘い吐息を」

 しんと降る雪の中。

 かき抱いた姫の温もり。

 新雪が消してしまった私の匂いをもう一度彼女へ移そう。
 細い指にも白いうなじにも私の愛しい存在ものであると知らしめるために。

「君の吐息は……罪だねえ」

 庭の木立から雪がザザと落ちた。



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。