破天荒列伝(29/61)縦書き表示RDF


同性愛関係の話が苦手な方は、読まない方がいいと思います。自己判断でお願いします(平伏)
破天荒列伝
作:竜門弥生



第二十九話 それぞれの夜〜食べられる?〜


「・・・私は君が心配だよ、林山。」

そう言ったのは琥珀だった。遅めの夕食を、三人で摂っている時だった。たわいない雑談の中で、琥珀が安林山こと劉星影にそう言ったのだ。

「心配って?」

豪華な夕食をかきこみながら、星影はのん気な声で尋ねる。そんな相手の姿に、琥珀はため息をつく。

「君のことだよ、安林山殿。本当に君が、陛下のお相手を(つと)めることができるかどうか・・・ね。」
「なんだ、そんなことか。」
「『そんなことか』ではないよ。私は本気で心配しているんだよ?」
「そうですよ、林山。今の琥珀は、からかっているわけではありません。」
「そうなの〜琥珀が?」
「・・・そうだよ。」

星影の言葉に、琥珀の眉間(みけん)にしわがよる。そんな琥珀を見て、慌ててなだめ役に回る空飛。

「すみません、琥珀。私が一言多かったです!」
「空飛、私は別に――――」
「でも、林山は大丈夫ですよ!今上(きんじょう)は、大変お気に召していらっしゃるのですから。」

(・・・それはそれで、困るんだけどなぁ〜)

嬉々として言う空飛に、苦笑する星影。陛下の側にいれるということは、妹・星蓮を探すための近道でもある。だがその半面で―――――

(危ないんだよな・・・。)

陛下が自分を見る目が危なかった。上手く言えないが、あの男の側にいるということは、断崖(だんがい)を目隠しで登るのと同じような感じがした。

(危ないんだよね・・・。)

「危ないんだよね・・・。」

その言葉に、星影の(のど)を通過していた食べ物が詰まる。

「だ、大丈夫ですか、林山!?」
「あ、ああ・・・!」

咳き込む星影の背を、空飛が必死に叩いた。涙目の星影の視線は、介抱(かいほう)する空飛を見ていなかった。

「危ないんだよね・・・。」

自分の心の中の言葉を、口に出した琥珀を見る星影。

「こ、琥珀・・・!」

(私の心を読んだのか!?)

名を呼ばれた琥珀は、星影の方を見る。そして、顔を(くも)らせながら言った。

「君は凶暴(きょうぼう)な性格だから、陛下のお側に行くことは危ない気がしてならないよ・・・。」
「・・・。」
「林山、くれぐれも、陛下に逆らってはいけないよ。」
「危ないって、そっちかよ!?」

琥珀の言葉に、持っていた(うつわ)を乱暴に置く星影。

「そういうところが危険だ。」
「大きなお世話だ!」
「ちょっと、やめてくださいよ二人共!」

そんな二人を、オロオロしながらとめる空飛。

「林山、琥珀はあなたが心配なだけなのですよ!私も、あなたがいじめられないかどうか心配で・・・。」
「大丈夫だよ!いざとなったら殴り飛ばすから。」
「殴るらないでください!!琥珀・・・・私も林山のことがすごく心配になってきました・・・!」
「同感だよ、空飛。返り討ちにあう、高級宦官がお気の毒だね。」
「そっちですか!?」
「まぁ・・・心配なのはそれだけじゃないよ。本当に、お相手が務まるかどうか・・・。」
「しつこいな、琥珀も!大丈夫だよ!陛下の身のまわりのお世話をすればいいだろう!?」

琥珀の言葉に、星影はきっぱりと言い切った。その言葉の本当の意味も知らずに。

「陛下のお世話って言ったって、従者(じゅうしゃ)みたいなものだろう!?」
「林山・・・?」
「役人のやる仕事をするようなものだから、真面目にすればなんとかなるさ!」

言った瞬間、二人の顔がこわばった。

「もしかして・・・君、また(・・)知らない(・・・・)とか?」
陛下(・・・)が(・)お(・・・)に(・)置きたい(・・・・)と言った意味を・・・・!?」
「え?」

二人の凍りついた表情にただならぬものを感じる。

(嫌な予感・・・。)

「どういうこと?」

星影の質問に、二人はバツが悪そうにお互いの顔を見る。
やっぱりな・・・やっぱりですね・・・と(ささや)きあいながら。

「林山、陛下が興味を抱かれる人種は三種類ある。」
「人種〜!?」

怪訝(けげん)な顔をして尋ねる星影。

(人種?三種類?なんのこと?)

「一つは陛下の身内の方に対するもの、もう一つは陛下の家臣に対するもの、そして最後の一つは・・・陛下が愛するもの・・・・以上三つです。」
「ふーん。それで?」
「残念だが林山・・・・・。」

琥珀は、気の毒そうな目でこちらを見ながら言った。

「お前は、陛下にとって、」
「陛下にとって?」


「愛するものに選ばれた・・・!」


「・・・・・・はい?」


アイスルモノ、あいするもの、愛するもの・・・・・・愛するもの!?


その意味を理解した途端、星影の体に旋律(せんりつ)が走る。



「ちょっと待て!!陛下は―――お、お、お、お、お、おおおおお男だぞ!?わ、私も・・・・おおお男なのだぞ!!そんなはずないだろ!!冗談も休み休み言え!!」



「冗談ではありません・・・。」

(冗談じゃないって・・・!?)

琥珀と空飛の言葉に、星影は鳥肌(とりはだ)をたてたまま固まった。彼らの言葉に(いつわ)りはないだろう。二人の性格から考えてこんな嘘をつくような男達ではない。だからといって、からかっている様子もない。混乱(こんらん)する星影を、二人はさらに追い詰める発言をした。


「実は、今の今上は・・・女性の方も好きですが、その・・・男性の方も好きなのです。」

「なっ・・・なにぃぃぃ――――――!!?」

「空飛!好きではないだろう!?」


琥珀のきつめの声に、星影はかすかな安堵(あんど)を覚える。


(なんだ、やっぱり冗談だったのか!!)


大好物(だいこうぶつ)の間違いだ。」

琥珀の言葉で、星影の安堵は吹き飛ぶ。そして激しい眩暈(めまい)が発生した。


「あ、そうでした!ごめんね、林山。うっかりしていたよ。もうちょっとで林山に違ったことを―――」

「だぁぁあぁあ!!意味は同じだろう!!?」


(と、いうことは・・・つまり――――――――!!)


星影はその答えを否定したかった。正確には、否定してほしかった。だから、言葉にしていったのだ。少し、お茶目な口調で。


「もしかして・・・陛下って、男寵(おとこちょう)(同性愛者)・・・・なの〜?」


そんな星影の問いに、同時に頷く二人。


(予感的中!!?)


「正解です、林山。」
「違うよ、空飛。大正解の間違いだよ。」
「だから、意味的には同じだろう!!?」

激しく机を叩けば、汁物が入った器の表面が波立(なみだ)った。

(もしやとは思っていたんだが――――――!!)

まさか、まさか陛下にそのけがあったとは・・・!!

(否定したい!強く否定したい!!)

混乱する星影に、琥珀は現実味(げんじつみ)のある話を始めた。

「李延年という宦官がいただろう?」
「李延年・・・?」

(確か陛下の側にいた宦官のことか!?)

琥珀の言葉で、陛下と親しそうにしていた宦官を思い出す星影。

「あ、ああ。確か、陛下のお側にいた軟弱(なんじゃく)そうな人・・・?」
「あれは、その筆頭(ひっとう)だ。」
「うそぉ!!」

琥珀の言葉に絶句する星影。

そんな・・・!二人は恋人同士だったのか!?道理で、馴れ馴れしいわけだよ!!あの時私が星連と林山のイチャついてる姿を思い出したのも、私の本能が直感的にそのことを感じ取ったからか!?いや、でも・・・男にまで手を出すなんて――――!


不潔(ふけつ)だよぉ!陛下ぁ!!)


彼女の中の皇帝像に亀裂(きれつ)が入った。


「だからって、なんで恋愛関係に・・・!?」
「驚くのも無理ないですよね。今上が李様に興味を抱かれたのは、李様の妹君、李夫人が後宮に入られてからなんです。」
「妹?」
「はい、大きな声ではいえないのですが、李様の家は・・・娼妓(しょうぎ)を営んでいまして、お父上もお母上も、兄弟姉妹すべて芸人でした。もちろん李様も・・・・。ところがある時、彼は罪を犯して宮刑に処されてしまったんです。」
「宮刑に!?じゃ、じゃあ・・・それがきっかけで、陛下の男寵になったわけ・・・?」

星影の問いに、空飛は首を横に振った。

「いいえ、最初は後宮で陛下の(いぬ)(がり)(かか)りの仕事をしていたのです。その同じ頃に、李様の妹君がのお目にとまったのです。」
「その妹君である李夫人が、陛下の御前(ごぜん)で舞を披露(ひろう)したんだ。」
「舞を?」
「それが今上に大変気に入られて、夫人に取り立てられたのです。その妹君のご縁故(えんこ)から、李様も恩賞(おんしょう)(たまわ)りまして・・・。」

「その結果が男寵?」

星影の問いに、無言で頷く空飛。

(なんてことだ・・・・!)

この時代、同性愛の習慣はごく自然なものであった。だから星影も、男同士の愛情があるということは知っていた。知ってはいたが――――――

「陛下に、男の愛人がいるなんて・・・・!」
「他にも大勢いるよ。だが、今一番寵愛を受けているのは、李延年様だ。」
「・・・。」

愛の形とはさまざまある。自分がよく知っている愛といえば、『家族』に対する愛と『恋人』に対する愛がある。だから、今聞いている話は、自分にとってかなり刺激的なものだった。否―――――負の衝撃を受けたといったほうが正しいだろう。

(むか〜し・・・そんな愛の形を聞いたことがあったが・・・。)

藍田にいた頃、都の美しい男娼の話を聞いたことがあった。女性のように美しく、女性以上にしなやかで愛らしい男児。それを聞いた時、いろんな人間がいるんだな、と笑い話で終わらせたことがあったが・・・・。

(まさか、実物を見ることになるとは・・・・!)

それも、超上流階級の愛!!

(高貴な人って・・・わからない。)

そんなことを考えながら、星影はため息混じりに(つぶや)く。

「陛下は・・・あんな弱々しいのが好みなのか?」

星影の言葉に、空飛が血相を変えてしかりつけた。

「林山!めったなことを言ってはいけません!!」
「だって本当でしょう?それとも、なにか気に入られるような特技でもあったわけ?」
「特技ね・・・()いて言うなら、李様は歌に優れているよ。」
「歌?」
「ああ。彼はただのお気に入りってわけじゃないんだ。れっきとした『協律都尉』という官職に就いている。」
「協律都尉に!?」

協律都尉とは、歌や楽器、音楽に関する役職のことである。協律都尉に抜擢(ばってき)されたということは、美術的に優れているということを意味しているた。

「李様は、元・芸人であるうえに、彼らの生家もそれを本業としていた。しかも李様の作る歌は、陛下好みに合う素晴らしいものなんだよ。」
「なるほど、得意の歌で陛下の心を掴んだのか・・・。」

(歌で生活していたのなら、優れているのも納得がいくが―――)

どんな罪を犯して宦官になったのやら・・・。

「なにはともあれ、李様に対する陛下の扱いはまさに『韓媛のごとし』で・・・。」
「韓媛?」
「どなたですか?」

琥珀の話に、今度は星影だけでなく、空飛も聞き返した。

「え!?空飛も知らないのか?」
「ええ・・・初耳ですが。」

そう言って、顔を見合わせる星影と空飛。そんな二人に琥珀は言った。

「ここだけの話なんだが・・・韓媛というのは、陛下の皇太子時代の相手なのだよ。」
「それって・・・・『男寵』とか言わないよね・・・?」

恐る恐る琥珀尋ねる星影。【相手】という単語が出た時点で、答えは決まっていた。それでも琥珀に聞いたのは、その事実を信じたくなから。信じたくなかったからこそあえて聞いてしまった。間違っていることを望みながら。韓媛が何者であるか。無論(むろん)答えはわかりきっていた。

「さすが林山!鋭いな。」
「やっぱりぃぃぃ!!」

頭を(かか)えてうずくまる星影。

(なんで、こういう時だけ間がさえるんだよ!?)

「つまりそいつも宦官かよ!?」

苛立ちながら言う星影に、琥珀は首を横に振る。

「それは違う、林山。韓媛様は宦官ではない。」
「宦官じゃない?」
「どういうことですか?」

空飛の問いに琥珀は言った。

「韓媛様の場合は、最初からそんな関係ではなかったんだ。陛下が『膠東王』だったころのご学友なのだよ。」
「ご学友?」
「韓媛様は騎射(きい)がとても上手で、陛下と狩をご一緒することもしばしばあったんだ。ともに学問に励み、親交を深めておられたんだ。」
「では、そのご自慢の弓で陛下のお心も射止(いと)めたと?」
「あ、例えが上手いですね。林山。」

星影の皮肉に、手を叩きながら上手いと言う空飛。そんな彼の姿に、星影はこめかみを押さえる。

「頼むから・・・そんなことに感心しないでくれ。」

【英雄色を好む】とは言うけれど、陛下がここまで好色とは・・・。この分だと皇后様が気の毒だな。まあ、なにか言ったところで罰せられるのは目に見えているけど。私が親だったら注意するんだけどな。少しは自重(じちょう)しなさいってね。

(親・・・?そういえば―――――)

「ねえ、そのことについて、誰も何も注意しないの?例えば・・・陛下のお母上とかさ。」「王皇太后様ですか?」
「あ、ああ。」

陛下の母親の名前など星影は知らなかった。基本的に、興味のないことは覚えない主義である。ただでさえ、陛下に対して不信感を抱いているので、それを生み出した母親について感心などもてなかった。もっとも、星影は最初から、現・皇帝の生母のことを知らないという有様である。

(あの(・・)陛下の母君か・・・。)

だから彼女は、皇帝の母親について想像するしかなかった。これまでの陛下の行動を思い出し、考えてはみたのだが―――――――

(期待しない方がいいか・・・。)

その結果、星影の思考回路は悪い答えを導き出していた。

「・・・注意したの?」

言っても無駄だと思いながらも、言葉に出してみる星影。それに琥珀が答えた。

「注意したよ。皇太子時代にね。だから、二人の関係は皇太子時代に終わったんだよ。」
「ええ!?」

予想外の返事に、驚きの声を上げる星影。

「じゃあ、韓媛殿とは縁が切れたんだ!?」

(なんだ!ちゃんと、しつけしてるじゃないか〜)

安堵する星影に、琥珀は何度も頷きながら言った。

「そうだよ・・・。おかげで、永遠に二人は会えなくなったけどね。」
「永遠に・・・?」
「ああ・・・風紀を乱したからね。」
「まさか―――――追放されたのですか!?」

空飛の言葉に、星影も同じことを思う。
追放か・・・ありえるかも。宮廷の風紀を乱せば追放ぐらいにはなるよね。確かに、追い出されてしまえば、二度と二人は会えなくなる・・・。

「そうだね・・・追放されたことには変わりないかな・・・。」
「そ、そうなのか・・・。」

(それが本当なら、ちょっと韓媛様が気の毒だな・・・。)

愛し合っていたのを、引き裂かれるなんて・・・・!

(まるで・・・林山と星蓮みたいじゃないか・・・。)

早く星蓮を見つけて、二人を一緒にしないとな。
再決意しながら、シミジミとする星影。そんな彼女に合わせるように、琥珀もシミジミとした口調で言った。

「王皇太后様のお言葉によって、韓媛様は死んだわけだからね。」
「そっかぁ・・・。それは永遠にあえなくなるわ・・・・て!?ええ!?」
「韓媛様が死んだのですか!?」
「ああ。皇太后様が注意なさった結果、韓媛様は死んだんだよ。」
「それって、殺したってことかよ!?」
「いや、正確には王皇太后様によって自殺に追い込まれたのだ。」
「だーかーら!意味的には同じじゃないかぁ!?」

とんでもない話だ!私は男寵を白い目で見ているが、世間ではそうでもない。人それぞれ好き嫌いはあるかもしれないが、なにも殺すことはないじゃないか!?いや、それよりも、王皇太后様自殺に追い込むなんて・・・。

「というか、おかしくないか!?なんで、殺さなければならないんだ!?」
「仕方がない。韓媛様が、殺されるだけのことをしてしまったんだよ。」
「つまり、陛下と恋をするのは命がけってことかよ!?」
「寵愛の奪い合いは、日常茶飯事だからね。」
「子供の問題に、親が口を出すなんてどうかしてるよ!!」
「で、でも林山・・・王皇太后様が死をお命じになったということは―――――陛下に悪影響を与えると判断されたからかもしれませんよ?」
「悪影響?」
「だって、そうでなければ、命を奪うということはしないのでは・・・?」
「それはないんじゃないかな・・・。」

遠慮がちに言う空飛を見ながら、星影はその意見を否定した。

(あの陛下の母親だ・・・。)

息子の行動を見れば、どういう親かは想像がつく。息子である陛下の振る舞いを思い出しながら星影は言った。

「とにかく、王皇太后様を怒らせてしまったという点が、よくなかったんじゃないか?」

理由はともあれ、星影は皇帝の相手である韓媛様が気の毒に思えた。
同性愛は儒教でいけないというけど、相手を思う純粋な愛の形に違いはないんじゃないかな?そう思い、改めて韓媛に同情する星影。

(韓媛様、かわいそう・・・。)

陛下と恋をしたばっかりに、殺されてしまうなんて。それだけ、純粋な愛だったのかな・・・。

しかし、そんな星影の思いは、琥珀の説明ですぐに消し飛んだ。

「別に・・・・王皇太后様だけが悪い、というわけではないよ。皇太子の威光(いこう)をいいことに、韓媛様は好き放題したんだからね・・・。」
「好き放題?」
「韓媛様がですか?」
「ああ。皇帝の同母弟である江都王様に土下座をさせ、後宮の出入り自由をいいことに宮女に手を出したんだ。」
「なに―――――!?陛下の弟を土下座!?」
「しかも宮女に手を出したんですか!?」
「そうだよ。」
「なんてことを・・・・どちらも重罪じゃないですか!?弟君に対する無礼はもちろんですが、後宮の女性は、すべて今上のものとされているのですよ!?」
「そうなのか!?」
「そうですよ!琥珀の話が正しければ、韓媛様は景帝の女性に手を出したことになるじゃないですか!?」
「おいおい!韓媛様は、それを知ってて、父親の女に手を出したのか!?」
「だから、王皇太后様が激怒されたんだよ。」
「それ、自業自得(じごうじとく)じゃん!?」
「そういうことだね。」


(前言撤回!!!)


それは怒って当然だよ!!殺されて当然じゃないか!!
というか、そんな奴と、うちの可愛い星蓮と林山を同列に扱った自分が恥ずかしい!!

(林山と星蓮は、真剣に付き合ってんだ!!)

韓媛と陛下の恋に対して、低い評価をする一方で―――――

(しかし・・・皇帝の同母弟を土下座させるなんて、ある意味たいした男だな。)

韓媛の悪賢さを、高く評価する星影だった。

「でも・・・そんなことをしたら、さぞかし、皇太子時代の今上はお怒りになったのでしょうね。」
「泣いたそうだよ。」
「そりゃあ、泣きたくなるよ!仮にも自分が愛した相手がさ〜」

「『母上、韓媛の命だけはお助けください。』」

「「・・・・はい・・・?」」

「・・・陛下は泣きながら、何度もそう申されたそうだよ。愛する韓媛に死を命じた母君に、泣きながら命乞いをしたそうだ。」


「命乞い―――――――――!!!?」

「しかも、裏切った相手のために、泣きながらですか!?」


「よほど、惚れていたのだろうね。」


遠くを見る琥珀と、目が点になる星影と空飛。陛下の恋愛歴(れんあいれき)を聞き、星影は精神的な疲れを感じる。

(聞かなきゃよかった・・・・。)

後悔の叫びが、星影の心にこだました。そんな心中を察したのか、意味ありげに琥珀が言った。

「だから林山、くれぐれも、陛下の夜伽(よとぎ)粗相(そそう)をしないようにね。」
「なんでそうなるんだよ!?冗談じゃない!私は絶対に、陛下と枕なんかならべないからね!!」
「でも林山・・・陛下の(めい)(こば)むことは死罪を意味しますが・・・。」
「こっちに拒否権(きょひけん)はないってか!?」

冗談じゃない!陛下と閨を共にしてみろ!

(そんなことしたら、確実に女だってバレるじゃないか!?)

涙目になる星影に、空飛は必死で語りかけた。

「落ち着いてください、林山!私があなたを助けますから!」
「空飛!?」
「今度は、私を・・・いえ、私達を頼ってください!私達にできることだったらなんでもします!」
「え?でも、そんなことをしたら―――」
「林山を助けます!だから・・・元気を出してください・・・!」

そう言って、恥ずかしそうに下を向く空飛。

「空飛・・・!」

まさかこの子、死罪覚悟で私を陛下のから守ろうというのか?私があなたを助けたことに恩を感じて、今度は自分の命をかけて助けるって言うの?

(やっぱり・・・空飛はいい子だよ・・・!!)

こんな純情な子を騙すなんて・・・私は本当にひどい奴だよ・・・!!

空飛の態度に、心の底から懺悔(ざんげ)する星影。しかし、彼女がそう思ったのもつかの間だった。


「その・・・あなたの代わりに仕事をしますから・・・!」
「空飛・・・!?」
「あの・・・夜伽で疲れたら・・・代わりに働きますから。」
「空飛ぃぃぃ!!?」


前言撤回!!

悪気があって言ったわけでない彼の一言。しかし、彼女を怒らせるのには十分だった。

「縁起でもないことを言うなぁぁぁ!空飛ぃぃぃ!!」

キョトンとしている空飛の肩を揺さぶる星影。どうやら空飛は、自分の言葉が原因で相手が怒っていることはおろか、怒らせてしまったことを自覚していないらしい。これは俗に天然と言うのだが・・・。そんな二人間に琥珀が割って入る。

「落ち着け林山!!」
「こ・・琥珀!!お前はどうなんだ!?いざとなったら助け・・・」

懇願するように言う星影に、彼もまた首を振りつつ答える。

「宦官にならずに武官になっていれば・・・おしいかな、安林山。」
(なげ)くな!!余計なお世話だよ!!」

(こいつはやっぱり悪者だ!)

「無理を言うな。助けたいと思っても、私たちが一緒に入れるのは今日だけだ。」
「それに宮廷での主導者はあくまで今上です。私たちは逆らえません。」

半狂乱(はんきょうらん)(おちい)っている星影に、とどめの言葉を告げる友達。

(なんだよ!さっきまで味方だと散々言ったのはどこのどいつだ!?)

怒りの収まらない星影は、その場に立ち上がると天を仰いで叫ぶ。


「一体ここは、後宮はどうなっているの――――――!!!?」


命の危機は乗り越えた。しかし・・・どうやら自分は、陛下の愛妾に・・・男寵になってしまったらしい。それってやばくない!?正体がばれんじゃない!?私どうなるの?いや、星蓮や林山はどうなるんだ!?


(私はただ妹を、星蓮を取り戻したいだけなのに――――――――――!!)


自分の不運に、星影は(なげ)くことしかできなかった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!
小話なんですが、漢の武帝って・・・・美形好きなんですね(遠目)私個人の偏見もあると思いますが、美しければ、男女問わずに愛したそうですよ(大汗)小説の中で紹介した「韓媛」は、本当に王皇太后の怒りを買って死を命じられてます。韓媛は、武帝が皇太子時代に愛した男性です。同じ一つの寝台で寝起きし、皇族以外の立ち入りを禁止されている後宮にも、皇太子(武帝)のお気に入りということで、特別に出入りを許可されたという人物でした。文武に優れた人で、将来有望だったのですが、武帝の弟を土下座させたという名目で命を落とします。なんでも、狩の時に「兄上様(武帝)が馬で来られます!」という知らせを聞いた武帝の弟が、平伏して兄を待っていたところ、その前を馬に乗った韓媛が通過。兄でないと気づいた弟は、韓媛を注意しようとしたのですが、韓媛は相手が皇太子(武帝)の弟と知りながら知らん顔をして、そのまま馬で疾走したのです。本来ならば、皇太子の弟が平伏していることに気づいたら、馬から速攻で降りて「失礼しました!どうかお許しください!!」と、謝るところを無視して通過してしまったのですよ!!韓媛が、皇族である武帝の弟に謝らなかったのは、「自分は劉徹様の寵愛を一身に集めている身分だぞ!」と、高慢になっていたからだそうです(大汗)韓媛は、それなりに身分はありましたが、皇族よりは断然下です。完璧に皇太子の威光をかさに、その弟を馬鹿にしたのです。あまりの無礼に、弟は母である王皇太后に泣きつきました。お兄さんでは、話にならないからです(笑)これを聞いて、王皇太后は怒りました。以前から、韓媛が宮中への出入り自由をいいことに、美しい宮女と密通していた情報もつかんでいたので、「韓媛に死を命じます。」と、いう決断をくだしたそうです。これを聞いて、韓媛は武帝に泣きつき、武帝も母の王皇太后に泣きついて命乞いをしたそうですよ(汗)武帝は王皇太后に、韓媛が死ぬギリギリまで、韓媛の命を助けてくれるように頼んだそうです。ちなみに武帝は、韓媛と宮女の密通を知っていました。それでも、愛する韓媛の命乞いをしたそうです。これには、個人的に武帝の愛するものへの寛大さを感じました(苦笑)ただ、王皇太后が韓媛に死を命じたのは、「家臣が主君筋に逆らうような真似をしては、のちのち、兄弟が仲たがいする元になる。」と考えたからこそ、韓媛を死罪にしたそうです。韓媛も最後は、武帝と今生(こんじょう)の別れを交わして、潔く命を絶ったとか。
長々と書いてしまいましたが、権力と愛の両立は、つくづく難しいという話でした(汗)











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう