挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おちこぼれエルフは、名探偵をさがしてる〜方舟キーテジ号殺人事件 作者:稲葉孝太郎

事件編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/18

第3話 恐怖のカブトガニ

 混乱する霧矢たちが案内されたのは、右手の通路を5分ほど直進したところにある、巨大な船倉だった。コックピット、とドクターが呼んだ体育館大の空間は、名前に似合わぬ大小の荷物で埋まっている。木箱、ドラム缶、金属製のコンテナが壁際に並べられ、視覚的に窮屈な印象を霧矢に与えた。
 霧矢たちの入室と同時に、中央のやや開けた場所から、6人の男女が一斉に顔を向けた。そのうち5人の名前を、霧矢はすぐに思い出す。
 最初に口を開いたのは、先客の中にいる一人の少女だった。
「ドクター、その人たちは……って、キリヤ!?」
 復習する時間も与えられぬまま、霧矢はその少女と目が合った。幸いなことに、霧矢は彼女の名前を覚えている。栗色の髪をツインテールにまとめ、お高くとまった口元の笑みを絶やさない快活な美少女。この小説の中でも、比較的人気の高いキャラであった。
篤穂(あつほ)さん……あなたも乗ってたんですね……」
「ええ、あいつらに巻き込まれてね」
 そう言って、篤穂は奥の面子を睨みつけた。
 少女の嫌みに答えたのは、勝ち気な目に不遜なまでの自信を浮かべるショートカットの女の子だった。年齢は、篤穂と同じくらいに見える。事実、2人は同級生だ。
「ふん、感謝して欲しいわね。わざわざあんたをこの船に乗せてあげたんだから。別に、地球へ置き去りにしても構わなかったのよ」
 ショートカットの少女が、いきなりケンカ腰で話し始めた。
 ツインテールの少女もそれに負けじと、両手を腰にあてて立ちはだかる。
「あーあ、その方が良かったわね。あなたのバカみたいな妄想に付き合わないで済むなら」
 本格的な口論が始まりそうになったところで、一人の若い男が口を挟んだ。
「またその話か。いい加減やめてくれよ」
 金髪に染めた髪をオールバックに決め、端に向かって細くなる眼が特徴的なこの男を、霧矢はどこかで見たことがある。
 ただ残念なことに、名前を思い出せなかった。
甘野(あまの)、あんたは黙ってなさい。ここでは、私が船長なのよ」
 そうだ、甘野だ。少年の記憶が刺激された拍子に、霧矢はふとある疑問にぶつかる。
「船長……? 今、船長って言いましたか? (あかね)さんが船長なんですか?」
 霧矢の疑問に満ちた口調が、ショートカットの少女には気に喰わなかったらしい。茜はもの凄い形相で霧矢に詰め寄り、人差し指で少年の胸をつついた。
「そうよ。……何か文句でもあるの? もともとこの計画は、世紀末倶楽部の部長である私が立てたものなのよ。だから、この船は世紀末倶楽部の所有物で、私が部長兼船長に決まっているじゃない!」
 霧矢は茜の迫力に負け、2、3歩後ろへ引き下がる。
 その後ろで、遠坂がぼそりと呟いた。
「世紀末倶楽部のメンバーが乗ってるなんて、面白くなってきたわね」
 呟いたと言っても、ボリュームは決して小さくはなかった。周囲にわざと聞かせるつもりで言ったのではないかと、霧矢は訝しがる。
 現に茜も、それを聞き逃してはいなかった。
 霧矢の肩越しに、遠坂を睨みつける。
「あんた誰? うちの学校の教師? 会ったことないけど……」
 年上に対する礼を欠いた言葉遣いで、茜は遠坂を凝視した。
 遠坂は、そんな少女の悪態にも全く動じていない。できの悪い不良生徒を手なずけるかのように、ゆっくりと状況説明を始めた。
「私は遠坂よ。茜さん、あなたのことは耳にしてるわ。なんでも、世界の終末が近いから、自分たちが生き残るためにクラブ活動をしてるんですってね。……どうかしら、長年の夢が叶った感想は?」
 遠坂の言葉を敬意と受け取ったのか、茜はふんと鼻を鳴らし、誇らし気に胸を張ってみせる。
「最高の気分ね。私をバカにしてた人間どもは、もうすぐ核の炎に焼かれて、悶え苦しみながら死ぬことになるんだから。今さら謝っても遅いわよ……。残念なのは、世界の破滅をこの目で見られないことかしらね……」
 面白くなったと、遠坂は言った。霧矢の感想は逆である。最悪だと思っていた。7人いるヒロインが登場する多人数型恋愛小説の中で、よりによって一番会いたくない女が乗船してしまったからだ。
 登場人物の壊れっぷりに定評がある『恋愛黙示録ラブマゲドン』の中でも、最狂キャラと言っていい存在。それが、この未羽(みわ)(あかね)だった。
 ヒロインの対処に窮した霧矢を助けるように、奥から別の少女の声がした。
「あの……船長……」
 この手のゲームにしては美しくも可愛くもない顔立ちの眼鏡っ子が、おずおずと茜の背後から顔を出した。この少女の名前も、霧矢は失念している。そもそも、どこで出て来たキャラなのかを、覚えていない有様であった。
「何……? 何か言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
「あの……せっかくいらしたんですし……もう少し仲良く……」
 少女の卑屈な態度が気に入らなかったのか、茜は攻撃目標を変えた。
「サクラ、あんたはそのオドオドした性格を直せって言ってるでしょ。そんなのじゃ、この船に乗っても生き残れないわよ」
「す、すみません……船長……」
 サクラという名で、霧矢の記憶が蘇る。今度は遠坂の助言で恥をかかなくても済みそうだと、霧矢は少しだけプライドを取戻した。
 そこへ、ドクターが会話に割り込んでくる。
「今は争ってる場合じゃないだろう。どこにアイツがいるのか、分からんのだぞ」
 茜はサクラを解放し、ドクターへと向き直る。
 不承不承と言った表情だが、さすがの茜もこの老人には一目置いているらしい。作中でもそのような描写が多いことを、少年は今さらながらに思い出す。
 茜は口をすぼめると、霧矢たちの方を軽く一瞥した。
「そうね……人数は多い方がいいかも……」
 しばらく思案した後、茜はグイッと顎を上げ、居丈高にこう宣言する。
「ようこそ、私の船キーテジ号へ。暫定的に乗船を許可するわ。一丸となって、アイツの侵入を阻止しましょう」
 まるで自分に決定権があるかのような言い草だが、そんなことを霧矢は気にも留めなかった。本日2度目の「アイツ」という言葉が、彼の好奇心を虜にしている。
「アイツって誰ですか……? まだ他に誰か……?」
 霧矢の質問に、船倉が静まり返った。
 何か禁忌に触れてしまったのかと、霧矢は心配になる。
 最初に口を開いたのは、甘野だった。
「教えてやれよ。隠すことないだろ」
 誰に向けられたアドバイスなのか判然としないが、甘野は茜に向けて話しているようだ。少なくとも、霧矢にはそう感じられた。
 どうやら霧矢が思っている以上に、この場は茜を中心に回っているらしい。全員が、彼女の指示を待っているように見受けられた。
「そうね……ドクター、案内してあげて」
 ドクターは黙って頷くと、霧矢たちに目配せする。
「なーに、歩かせやせんよ。あの扉の向こう側だ」
 そう言うと、ドクターは銃を構え直し、おもむろに歩き始めた。
 最前列にいた霧矢は、後ろを振り返る。トトはおどおどするばかりで、どうしていいのか分からないようだ。この場を収拾するように、サダコが少年の目を捉えて頷き返す。
「では、そのアイツとやらを拝見しましょうか」
 サダコの一言を合図に、一同はドクターの後を追った。

 ☆
  ☆
   ☆

 霧矢たちが案内されたのは、船倉の左側の壁であった。中央部から十数メートルしか離れていない。2つのドラム缶で左右を挟まれた扉の前に立つと、ドクターは銃を構え直して、開閉スイッチを押す。
 もったいぶった鈍い音を立てながら、鉄の板が開き始めた。未知の空間が全貌を現すにつれ、霧矢の鼓動が速まって行く。
「なに……これ……?」
 サダコと公子を除くその場の誰もが思ったことを、霧矢は口にした。
 検史官とアドバイザーたちの前に現れたのは、SF映画でよく見る研究室のような風景。用途の知れぬ薬品や機材が、収納場所もわきまえずに散乱していた。
 しかし、霧矢の視線を釘付けにしたのは、そんな小道具ではなかった。ラボの中央に位置する2つの巨大なガラス管。その中に浮かぶ奇妙な物体に、霧矢は感覚と思考の全てを奪われてしまう。
「カブトガニさんですか?」
 室内の緊張を破ったのは、トトの間抜けなコメントだった。
「胴のあるカブトガニなんて、聞いたことないよ……」
 霧矢が突っ込みを入れる。
「まあ、似てなくもないかな」
 ドクターがそう言って、指の関節でガラス管をこつんと叩いた。なるほど、そう言われてみればカブトガニに見えなくもない。霧矢は謎の生物の頭部を見て、そんな印象を抱く。
 ひとつ問題があるとすれば、その頭部から首が生え、甲殻類特有の堅さを帯びた胴体が、人間のように四肢を持っているということだった。ザリガニのような一枚の帷子を背負い、蛇腹に割れた腰と腹がそれに続いている。足は哺乳類のそれというよりも、むしろ昆虫に類似しており、腕の先にあるのは指ではなく3つ鎌の鋭い刃であった。
「どうやら、説明していただく必要がありそうですね、サダコ検史官」
 拓郎の呼びかけに、ドクターが反応した。
「ん? 何だい、こいつを知ってるのか?」
 自分のミスに、拓郎は数ミリほど眉をしかめる。
「……いえ、こちらの話です」
 老人は納得したようなしていないような顔で、ガラス管をもう一度小突いた。
「こいつの正体なんて、誰も知らんだろうな……。地球外生命体、とでも言うのかね。もしかすると、この船の持ち主が飼ってたペットかもしれん」
 本気でそんな仮説を立てたのか、それとも場を和ませるつもりで冗談を言ったのか、ドクターはくくっと笑う。それに釣られて笑う者は、さすがにいなかった。
「ドクター、その壊れたシリンダーは?」
 エイリアンに気を取られている他のメンバーとは違い、公子は床に視線を落としていた。
 霧矢がその視線に歩調を追うと、床一面に散らばったガラスの破片が目に留まる。その先には、根元まで割れてもはや原型を留めていない3本目のガラス管の残骸があった。
 霧矢は、一瞬にして恐ろしい推論に至る。
「も、もしかして、1匹逃げ……」
「ああ、そういうことよ」
 老人の乾いた笑いに、レストランでの会話がありありと蘇ってくる。単なる事故死の可能性は低いと、サダコは言った。異形の生物に殺されることを事故死と呼ばないならば、その発言は全くもって正しい。少年はそう思う。
「まずいことになったわね……」
 最後尾でそう囁いた遠坂の声が、その場にいた全員の心境を代弁していた。
「……何か聞こえませんか?」
 トトが、耳をそばだてながらそう言った。確かに倉庫の方から、やかましい女の争い声が聞こえてくる。何事かと色めき立った霧矢たちは、急いで倉庫へと戻った。
 中心部へ足を踏み入れたとき、茜の罵声が炸裂する。
「ここでは私が法だって言ってるでしょ! 逆らうなら出て行きなさい!」
 思わず身をすくめた霧矢とは対照的に、口論の相手は毅然とした態度を保っている。
 篤穂だ。心無しか上位者の余裕すら垣間見せている彼女は、サッと後ろ髪を掻き上げて茜に微笑み返した。
「ええ、だから出て行くって言ってるのよ。この狭苦しい倉庫からね」
「船から降りろって意味よ! 宇宙空間で内蔵ぶちまけて死ね!」
「お断りするわ。じゃ、私は客室に戻るから、よろしく」
 篤穂はツインテールを揺らし、他の面子を見回す。
「私と一緒に客室へ戻る人は?」
「客室? 客室って何?」
 霧矢が皆の疑問を代弁した。
「船員用の小部屋だよ」
 ドクターが、憮然とした表情でそう答えた。
「まあ、正確なことは知らんがね。シャワールームにトイレ、ベッドがあるんだ。ホテル並とはいかないが、寝るには十分なスペースさ」
 ドクターの説明を聞き終えた霧矢は、すぐさま別の疑問にぶつかった。そんな快適な空間があるのなら、どうして先客の7人は、倉庫で顔を突き合わせているのだろうか。部屋の数が足りないとでも言うのか。
 答えは、すぐに分かった。
「これは死亡フラグですよ。ホラー映画でも、最初に群れから離れた人が死んじゃうんですよ」
 トトが、怯えたように呟いた。なるほど、確かに見事な死亡フラグだと、霧矢も思わず頷き返す。
 それを聞きつけた篤穂は、小馬鹿にした顔でトトを振り返った。
「ああ、エイリアンの話? あんなの、ただの死骸よ」
「で、でも、1匹逃げたんだよね?」
 霧矢は、先ほどの壊れたシリンダーを思い出しながら言った。
「キリヤ、あなたもドクターのジョークにやられたのね」
 篤穂は、くすりと笑ってドクターを見やる。
 ドクターは、バツが悪そうに頬を掻いていた。
「ど、どういうことですか? 何がジョークなんです?」
「いや、別に嘘を吐いたわけじゃない。念には念を入れて……」
「私が代わりに教えてあげる。エイリアンなんて、実際には誰も見てないのよ。いるって根拠は、あの割れたガラス管と、急にいなくなった男女の2人組だけ。死体が見つかってないところを見ると、あの2人、今頃はこの船のどこかでよろしくやってるんでしょ」
「ド、ドクター、本当ですか?」
 少年の問い掛けに、ドクターはしぶしぶ頷いた。
「だが、万一ってこともあるだろう……。そう思わんかね?」
 老人は、木箱の上に腰掛けた第三の少女に同意を求めた。霧矢がここに来て以来、ずっと沈黙を保っていた彼女は、無表情にこう答える。
「あたしは、エイリアンなんていないと思うな」
 あっけらかんと異星人の存在を否定したのは、少しばかり頭の足りなさそうな、赤毛のポニーテールだった。
 今居(いまい)遊花(ゆうか)、それが彼女の名だ。
 霧矢は、遊花の人物評を思い返しながら、茜と篤穂の出方を伺っていた。
 先に手を打ったのは、篤穂だった。
「他には? 遊花さんだけ?」
「俺も行くぜ」
 銃身でポンと手を叩き、甘野が前に進み出た。
「あんた、裏切る気!?」
「いや、だって遊花は俺のカノジョだしさ」
 喰ってかかる茜を他所に、甘野は遊花に寄り添う。彼の言う通り、少女は甘野の恋人である。ヒロイン候補にもかかわらずだ。
 寝取れと言っているわけではない。この遊花という少女、多夫多妻主義者で、彼氏を何人作ってもいいという恋愛思想の持ち主なのだ。
「遊花! あんた本気で言ってるの!?」
「はい、やっぱりベッドで寝たいですしぃ」
 遊花の返事に、茜はぐっと奥歯を噛んだ。
 小説の設定では、遊花は茜の天敵ということになっている。何を言っても動じない暖簾に腕押しな遊花の性格を、茜はコントロールできないのだ。
 お互いを相殺し合うキャラクターがいて良かったと、霧矢は内心ほくそ笑む。
 しかし、これで問題が解決したわけではなかった。このままでは、内部分裂が確実になってしまう。あれこれと和解案を模索する霧矢を出し抜いて、意外な人物が声を上げた。
「私も、篤穂さんが正しいと思うわ」
 そう言って篤穂サイドに立ったのは、遠坂だった。
 何が何やら分からぬ霧矢には眼もくれず、遠坂は先を続ける。
「さっきのシリンダー、あれはここ最近壊れたものじゃないわ。床は完全に乾いててカビも生えてない。破片の切り口は、少し丸みを帯びてた。どう短めに見積もっても、ガラス管が割れたのは数ヶ月前ね。もしエイリアンが徘徊してるのなら、ここの食糧が荒らされていないのも妙よ」
 遠坂の説明に、ドクターは賛嘆の眼差しを向ける。
「ほお、言われてみればそうだな……」
「ちょっと待って。どうしてエイリアンが人間と同じものを食べるって断言できるの?」
 茜が食い下がる。
「ロボットでもない限り、アミノ酸などの必須成分は人間と同じはずよ。ましてや、外観が甲殻類に似てるんですもの。タンパク源やミネラルを必要としてなきゃおかしいわ」
 遠坂の分析は、強烈な説得力を持っていた。
 だが、霧矢には見えてこない。なぜ遠坂は、この場を仲違いさせるように仕向けているのだろうか。こんな話をすれば、倉庫を離れて個別行動しようとしている篤穂たちに、口実を与えているようなものだ。
 そんな霧矢の焦りを察したのか、遠坂は少年にこっそりウィンクを送った。そして、隣にいる拓郎の脇腹を小突いた。
「ねえ、拓郎くん、私たちも個室で寝ましょうか」
「はい……?」
「エイリアンなんているわけないわ。こんなところで一夜を過ごすのは嫌よ」
 遠坂と拓郎の間で、微妙なアイコンタクトが交わされる。
「……そうですね。そうしましょうか」
 気付けば、メンバーが二分されていた。
 そして、その瞬間、霧矢は遠坂の意図を読み取る。
「おお、怖いですねえ、公子さん。私たちは、ここに残りましょうか」
「そう致しましょう、サダコさん」
 白々しい芝居が続く。
 そう、これは全て芝居なのだ。茜と篤穂の対立が決定的である以上、登場人物は袂を分かたざるをえない。だとすれば検史官とアドバイザーも、それぞれの側を見張るため、二手に分かれる必要がある。
 その戦略を、一人だけ理解できていない人物がいた。
「キ、キリヤさん、どうしましょう……?」
 トトが、おろおろしながら尋ねてきた。
 この状況からして、霧矢の返事はひとつしかない。
「僕らは、ここに残ろうか……」
 人数合わせだ。本当は霧矢もこんなところで寝たくはなかったが、仕方がない。
箕蔵(みのくら)、あんたはどうする気!?」
 倉庫の隅っこで隠れるように座っていた少年が、茜の声に顔を上げた。手入れのされていない髪型と影のある顔、どろんと濁った瞳が、いやおうにもネクラという印象を植え付けてしまう。
 けれども、実際には気さくでいい奴なのだと、霧矢は心の中で付け加えた。箕蔵はモブ夫の1人で、主人公に色々と情報を流してくれるお助けキャラである。
「サクラさんは、どうするんですか?」
 自分の処遇を決める代わりに、箕蔵はサクラへ質問を振った。
「わ、私は部長と……」
「いいえ、あんたは篤穂と一緒に行きなさい」
 予想外の命令に、サクラ以外の面々も驚きの表情を浮かべる。
「何を驚いてるの? サクラ、あんたが篤穂を監視するのよ。いいわね」
「そ、そんな……」
 サクラは、茜と篤穂を交互に見やる。
「私は構わないわよ。さあ、いらっしゃい」
 篤穂は、寛大にサクラを受け入れた。スパイされる情報などないと考えたのか、それとも彼女を籠絡して仲間を増やすつもりなのか。いやむしろ、鈍臭いサクラでは何もできないだろうと、タカをくくっているように霧矢には思われた。
「それなら、僕はここに残ります」
 箕蔵が、独り言のようにそう言った。それなら、という出だしにどのような意味が込められているのか、霧矢には分からない。
「……これで8対7ね。後で吠え面かくといいわ」
「茜こそ、床で寝て風邪を引かないようにね」
 篤穂が背を向ける。
 セシャトは、霧矢に目で合図をした。こちらの監視は任せたという意味なのだろう。霧矢は、そう解釈して頷き返す。
「おやすみなさい、世紀末の似非預言者さん」
 そう言い残して、篤穂は船倉を後にした。その背中に張り付くように遊花と甘野が続き、少し距離を取って遠坂たちが追従する。
 扉が閉まり、船員を半分に減らした空間は、霧矢に寂し気な印象を与えた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ