挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おちこぼれエルフは、名探偵をさがしてる〜方舟キーテジ号殺人事件 作者:稲葉孝太郎

事件編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

2/18

第1話 帰ってきた女検史官

 警史庁の狭い廊下を、1人の女が歩いていた。壁のくすみかけた白よりも白い制服を着た彼女は、左脇にファイルを抱え、軽快な靴音を鳴らしながら歩を進めていく。時々すれ違う黒い制服姿の男女が、教師と出会った生徒のように壁際へ避け、軽く会釈を返した。
 女は、ひときわ大きな両開きの扉の前で足を止め、歩兵のように90度向きを変えると、ひと呼吸置いてドアをノックする。
「第9課課長マフデト、参りました」
 空気のシリンダーが音を立て、滑るように扉が開く。マフデトが中に入ると、合計18の瞳が、一斉に彼女を眼差した。
「こんにちは、マフデトさん。局長はまだいらしてませんよ」
 円形の会議室に、同じ円形の巨大なテーブルが置かれ、その入り口に近い席に、マフデトは腰を下ろす。先ほど声を掛けたのは、彼女のちょうど右隣に座っている黒髪の女だった。女の顔は、その右半分が長い前髪に覆われているものの、そこに見え隠れする無惨な火傷の痕は、誰の目にも明らかである。
「ホウセン課長、今回の件、お悔やみ申し上げます」
 マフデトの神妙な悼辞に、鳳仙(ほうせん)は笑って答えた。
「いえいえ……私の課では、よくあることですから……」
 言葉を交わしているのは、彼女たちだけだった。背もたれの高い局長の椅子を12時の方向に置き、時計回りに10人の男女が並んでいる。1時の方向にいるのは、立派な口髭をたくわえた中年の紳士で、姿勢を正したまま書類に目を通している。その隣で腕組みをし、身じろぎひとつしないのは、サングラスにスキンヘッドの黒人男性。
 その黒人男性が醸し出す重苦しい雰囲気の横で、猫背の老人が眼鏡を調整しつつ、書類の小さな文字と格闘している。さらにその隣でも、頬に一筋の傷を持つ迷彩服姿の男が、同じように眉間に皺を寄せて、手帳のスケジュールと取り組んでいた。
 5時の方向には、研究者らしき白衣を着た、比較的若い男が、特に何をするでもなく、ぼんやりと座っていた。その隣にいるのほほんとしたブロンドの女は、魂がどこか別の世界に行ってしまったかのように、ぽかんと口を開け、視線を天井の一点に固定している。
 そして、マフデトの2つ隣で煙草を吸っているニヤけ顔の男が7人目。残すは、鳳仙とマフデト……。いや、もう1人いる。10時の方向、一番端で足を組み、鋭い目付きで周囲を観察している若い東洋人風の男。マフデトは、この男にあまりいい印象がなかった。
 11時の席は、参考人用であるため、誰も座っていない。
「局長がいらっしゃいました」
 局長席の後ろにある小さな扉から職員が顔を出し、1人の老人がその後に続いて来た。定年間近の重役といった貫禄で、局長は席につく。彼を案内した職員は一礼し、再び扉の奥に消えた。
 静まり返った部屋の中で、局長はひとつ咳払いをする。
「遅れて申し訳ない。他局との会議が延びてしまってね。早速、本題に入ろう。今日の会合については、事前に通達があったものと思う……」
 そう言いながら、局長は一同を見回した。全員、了解済と言った顔をしている。
 それに満足し、老人は先を続けた。
「昨日、第8課管轄の事件でトラブルが発生した。検史官およびアドバイザーが行方不明になったのだ。生存の可能性は、極めて低いものと思われる。そこで当局は、捜査規則73条2項にもとづき、合同捜査の決定を下した……。つまり、第8課の単独捜査では、解決しないという判断だ……」
 マフデトは、鳳仙の顔を見た。無表情を装っているが、彼女の瞳が不満の光に燃えているのを、マフデトは見逃さない。
「しかし、合同捜査と言えど、全課に招集をかける必要があったのですか?」
 1時の席の男が、口を挟んだ。
 局長はニヤリと笑い、男の異議申立てを身振りで制する。
「なるほど、第1課から見れば、SFは興味の範囲外かもしれん……。だが今回は、非常に特異なケースなのだ。当局も、厳重に注意を払いたいと考えている」
 局長の言葉に、第1課の課長は口を噤んだ。
「お互いに時間がない。作品のあらましと事件の概要は、書類に書いてある通りだ……。あらましについては、あまり参考にならないだろうがね……。では、規則通り、自己推薦をしてもらおう。第8課との合同捜査に参加したい者は?」
 2本の手が挙がった。局長は、驚いたようにその2人を見比べる。
「第9課と、電脳課か……。他には?」
 誰も追従しない。一見決まりに思われたが、局長は体の向きを変え、マフデトに訝し気な視線を向けてくる。
「マフデト君、第9課は、こういった事件には向いていないのではないかね?」
「お言葉ですが、局長。今回の事件、もともとは恋愛ゲームにおいて発生したバグです。本来ならば、第9課が管轄する作品のはずでは?」
 局長は一旦視線を逸らし、それからマフデトの言い分に軽く首肯した。
「なるほど……一理ある……。キサラギ君はどうかね?」
 マフデトの隣で、キサラギは気取ったように右手を差し出してみせた。
「この作品は、マフデトさんがおっしゃるように、ゲームです。それならば、電脳課の出番でしょう」
 その手の理由付けは聞き飽きたとばかりに、局長は大きく息を吐いた。もう一度、残りのメンバーを見渡す。問い掛けるような局長の眼差しに、その場にいる者たちは1時の方向から時計回りに弁明を始めた。
「サブカルチャーは、本課の担当ではありません」
「同じく、フィクションは俺たちの領分じゃない」
 勢いよく答えた2人の流れを断ち切るように、第3課の老人は口をもごもごさせている。
「えー、我が課の管轄は過去、つまり歴史でありまして、ですから、えー、近未来なるものは……」
 分かったともういいと、局長は右手を上げて老課長をねぎらう。局長の視線は、そのまま第4課へと向けられた。
 軍人風の男は、手帳を眺めながら、困ったように万年筆で額を掻いた。
「分かってます。分かってますよ。本当はうちが出さなきゃいけないんだ。でも、今は戦争映画を3本も扱ってて、人手が足りないんです。勘弁してください」
「専門的な話題なら、第5課が担当しても良いのですがね。書類を読む限り、専門性の高いハードSFとは言えませんな」
 白衣の男が、間髪置かずに言い訳を並べた。
「もっとメルヘンチックなお話なら、よろしかったんですけど」
 ふと我に返ったように、金髪の女が付け加えた。
 煙草を吸っていた7番目の席の男は、局長の視線に肩をすくめる。
「笑いの取れん話は、遠慮させてもらいますわ」
 ふう、と局長は溜め息を吐き、鳳仙に顔を向けた。
「ホウセン君、君の課から殉職者が出たことについては、大変遺憾に思っている。今回派遣する者は、上級検史官なのかね?」
「はい」
 鳳仙は、その検史官の名を伝えた。会議室に、ざわめきが起こる。
「そうか……彼女か……。しかし、別の事件を担当していると聞いたが?」
「課長権限で、配置換えを致します。先の事件なら、別の者でも大丈夫かと」
 少しは希望が見えて来たと、局長は安堵の表情を浮かべた。
「よろしい。では、第8課、9課および電脳課の合同捜査とする。解散」

 ☆
  ☆
   ☆

 霧矢は憂鬱だった。デートと言えば聞こえはいい。相手が幼なじみだというのも、聞く人に寄れば嫉妬にほだされるシチェーションだろう。しかし、三度の飯より本好きの高校生にとって、野外活動ほど面倒なものは他になかった。木陰で読書に耽るならまだしも、買い物に付き合わされた日にはたまらない。少年は暗澹とした気持ちで、今日という日を迎えたのである。
 とはいえ、彼のそんな悩みも、家を出るまでの短い不幸であった。くよくよしても仕方がない。少年はそう気を取り直して、待ち合わせ場所の途中にあるコンビニに寄っていた。別にプレゼントを用意するわけではない。飲み物でも持参しようと、ペットボトル入りのお茶を買いにきただけである。
「140円になります」
 店員の台詞に、霧矢はポケットに伸ばしかけていた手を止めた。どこかで耳にしたことがある声。そう思った少年が顔を上げると、日本人らしからぬ褐色肌の若い女が立っていた。
「ト、トトさん!?」
「お久しぶりです、キリヤさん」
 わずか2週間ぶりの再会なのだが、霧矢は敢えて突っ込まなかった。彼女のおとぼけな性格を熟知しているからだ。
 霧矢は、店内を見回し、他に客がいないことを確認する。あの日の夜と、状況は酷似していた。少年が目の前のトトに連れられ、異世界で推理劇を繰り広げるはめになったあの夜のことを、彼は忘れていない。ひとつだけ違うのは、昼か夜かという、この際どうでもよい事柄だけであった。
 少年は口元に手を当て、トトに話し掛ける。
「なんでここにいるの?」
 少年は、その答えを薄々勘付いていた。けれども、トトの口から直に聞くまでは、自分自身を騙しておきたかったのである。
 たとえそれが、ほんの数秒の間であっても。
「もちろん、事件ですよ」
 品物の値段を読み上げるときと同じ口調で答えたトトに、霧矢は呆れ返ってしまう。
「……他の人をあたってくれない?」
「検史官は、アドバイザーをころころと変えないものなんです」
「ちょっと、トトちゃん、お客さんと話し込んじゃダメだよ」
 そう言って店の奥から出てきたのは、あの小太りな店長だった。トトの催眠弾攻撃を受けたにもかかわらず、彼女をバイトに雇っているところを見ると、よっぽどのお人好しか大物なのだろう。霧矢は、あらためて店長を見直した。
「あ、すみません、店長」
 ぺこりと頭を下げたトトを他所に、店長は時計へと目をやった。
「まあ、もう上がる時間だし、構わないけどね」
 店長の言葉に頷いたトトは、霧矢に手を差し出した。何のことかと霧矢が目を白黒させていると、トトは、おもむろに口を開いた。
「140円になります」

 ☆
  ☆
   ☆

 機械的な音を立てて自働ドアが開き、検史官の制服を着たトトが姿を現す。
「お待たせしました」
 霧矢はトトの格好を、頭のてっぺんから爪先まで観察してみる。くすくすという通行人の笑い声が聞こえてくるようだ。
「なんでもっと普通の服装にしないの?」
「普通? これが検史官の正装です」
「……そう」
 トトの話によれば、2人はこの街でセシャトと合流し、それから転送されることになっているらしい。
 霧矢は、その合流地点がどこなのかを尋ねなかった。既に察しがついていたからである。トトが霧矢をアドバイザーに再任したのなら、セシャトはちはるを選んだはずだ。そして、そのちはるはデートのために、公園で霧矢を待っている。
 目的地は近い。霧矢の手の中で、結露したペットボトルが汗をかいていた。先ほどのコンビニで待ち合わせて欲しかったと、霧矢は心の中で毒づく。
「キリヤさん、『恋愛黙示録ラブマゲドン』っていう小説を知ってますか?」
「ラブマゲドン? ……うん、知ってるよ。ラノベだろ?」
「読んだことは?」
 霧矢は、こくりと頷き返した。
「そこが、今回の現場です」
「ということは……学園モノか……」
「学園モノ? 違いますよ、SFです」
「SF?」
 霧矢の声が上ずった。自分が担当する小説のジャンルも把握していないのかと、少年の中で早速イライラがつのり始めていく。
「SFなわけないだろう。確かに、舞台は架空の近未来だけど、おかしなヒロインたちが繰り広げる学園ラブコメで、SF的要素なんてほとんど入ってないし……」
「キーテジ号ってご存知ですか?」
「キーテジ号?」
 霧矢は、眉間に皺を寄せた。
 だがその仕草とは裏腹に、少年はその言葉を知っている。
「それってまさか……方舟のこと?」
 トトは、賛美のこもった眼差しで霧矢を見つめ返す。
「すごいですね! シナリオが全部頭に入ってるんですか?」
「そ、そうじゃないけど……」
 霧矢は、トトにも分かるように、かいつまんで説明を始めた。キーテジ号というのは、端的に言えば校正ミスである。少なくとも読者の間では、そのように認識されている。地の文に意味不明な一節が挿入されており、そしてそこに登場するのが、キーテジ号という、わけの分からぬ方舟の名前であった。

 方舟キーテジ号。その舟は、いつの日か楽園に向かって出航するのだと言う。

 それが、霧矢の記憶している全文であった。
「そうです、そのキーテジ号です」
 そうですと言われても、少年には全く話が見えてこない。
「どういうこと? ……キーテジ号は、作中じゃ結局登場しないんだよ」
「ヒロイン数名がその舟に乗って、宇宙へ飛び立ちました」
 霧矢は、驚きの声を上げた。
 もはや、トトの奇妙な服装に振り返る通行人たちなど、眼中にはない。
「宇宙……? じゃあ楽園は本当に……?」
「それは分かりません。本庁も混乱してて……あ、セシャトさんが見えましたよ」
 ピクニックにでも来たかのように、トトはセシャトに笑顔で手を振った。セシャトは、真面目腐った顔で、軽くを右手を振り返す。
 そしてその横で両腕を組み、いかにも機嫌の悪そうな顔をしている少女がいた。
 霧矢の待ち人、九鬼(くき)智孟(ちはる)である。
「遅かったじゃない」
 近付いて来るトトと霧矢に向けて、セシャトが苛立たし気な声をかけた。
「すみません。シフトの調整に時間がかかってしまいました」
 悪びれた様子もなく、トトが頭を掻いた。
「キリヤ君、ちゃんとトトのことを見てくれなきゃダメよ」
「僕は保護者じゃないんだけど……」
 霧矢は肩を落とし、ちはるの方を見た。機嫌が収まっている気配はない。
 霧矢の視線にも気付かず、セシャトとトトを交互に睨んでいる。
「取り込み中のところ悪いけど、私は行かないわよ」
 ちはるの言葉に、セシャトが意外そうな顔をした。
「どうして?」
「さっきも言ったでしょ。私はこれからイザムとデートなの。ねえ、イザム」
 突然笑顔に切り替わったちはるが、霧矢に同意を求めた。嘘というわけでもないので、霧矢はためらいなく頷き返す。
 しかし案の定、セシャトは納得しなかった。
「デートなら、事件を解決してからでもいいでしょ。こっちの時間軸とはシンクロしてないんだから」
 この説明には、一理ある。霧矢はそう思った。物語の中へ入っても、現実の時間は経過しないのだ。だとすれば、それがこちらの世界のスケジュールに影響を与えることもない。
 もっとも、この説明には、重大な欠陥があるのだが。
「それは、無事帰って来れたら、の話でしょ」
 そうだ、それが問題だ。霧矢も同じことを言いかけたが、トトが先に意見を述べた。
「大丈夫ですよ。前回だって、パーフェクトだったじゃないですか」
 あっさりとした彼女の言い方に、霧矢は軽い憤りを覚える。
「何度死にかけたと思ってるの? こうして生きてる方が奇跡だよ!」
 ひとつ間違っていれば、生きてこの議論に巻き込まれることもなかったはずである。霧矢は自己の経験を振り返り、あらためて身震いした。
「だからその報酬として、プレゼントがあるんでしょ? ねえ、ちはるちゃん?」
「事件を3回解決したら願い事ひとつなんて、割に合わないでしょ!」
 霧矢は、セシャトたちの会話を理解しかねた。ちはるが分かっていて、自分が分かっていないということは、情報源の正確性の問題である。
 霧矢は、トトのとぼけた顔を見つめた。
「……キリヤさん、私の顔に何かついてますか?」
「プレゼントって何のこと?」
「え……? ああ、アドバイザー報酬のことですか?」
 分かり切った事柄を話しているかのように、トトはそう答えた。
 霧矢が首を左に捻ると、トトもそれに合わせて首を右に捻る。
「あれ……? 説明してませんでしたっけ……?」
「……全然」
 そうは言っても、霧矢には、アドバイザー報酬なるものが何であるのか、おおよその見当がついていた。そもそも、ボランティアで命懸けの仕事を引き受ける奇特な人間が、大勢いるとは思われない。
 水の都で出会った安芸つかさにしても、後でインターネットで調べてみれば、当人のプロフィールが見つかる始末。同年代かと思いタメ口をきいていたものの、どこぞの有名大学法学部2回生だと知ったときには、若干血の気が引いた霧矢である。
 そんなリア充の女子大生が、わざわざ危険を冒して奉仕活動をするだろうか。どこかにからくりがあるはずなのだ。そしてそのからくりを、トトが説明し始める。
「アドバイザー報酬というのはですね……規則のひゃく……ひゃく……」
「175条」
「あ、どうも、セシャトさん。その175条に従い、事件を3回解決したアドバイザーに与えられる、ご褒美なんです。具体的に言うと、願い事をひとつ叶えてもらえるんです」
 霧矢の耳がぴくりと反応する。
 願い事をひとつ叶えてもらう。これほど甘美で曖昧な誘い文句もない。
「な、なんでも叶えてくれるの!?」
 そんなはずがないと、霧矢は咄嗟に気付いた。条件が簡単過ぎる。3回の探偵ごっこで世界征服ができるとすれば、それは値札をつけ間違えているに違いない。
 トトも、困惑したように言葉を返す。
「な、なんでもってわけじゃないです。ちょっとお待ちを……」
 トトは、懐から一枚のおみくじのようなものを取り出した。霧矢が遠目に覗き込むと、何を書くそう、細かい文字でびっしりと書かれたカンペである。
「えーとですね……。報酬の内容は、以下の条件を満たすことを要す。1、人間社会に政治的、経済的混乱をもたらさぬこと。2、当該アドバイザーが所属する国家あるいは共同体の法規に抵触せぬこと。3、報酬の内容を金銭に換算した場合、当該アドバイザーが所属する国家あるいは共同体の平均年収1年分……」
 霧矢は手を振って、もう十分という意思表示を行う。つまるところ、大したことは期待できないわけだ。ちはるの言う通り、割が合わないように思われた。
「あーあ、いいのかなあ。ちはるちゃんの願い事は、叶えられるんだけどなあ」
 セシャトが、わざとらしく溜め息を吐いてみせた。
「しかも、後2回で叶うのになあ」
 畳み掛けるように言葉を継ぐセシャト。
 ちはるは、明らかに動揺している。
「ほ、ほんとに叶うの……?」
「ええ、どの条項にも違反してないわよ」
 非常に嫌な予感がすると、霧矢の理性が叫んでいる。
 しかし、自分から質問する勇気はない。
 ちはるはしばらくもじもじしていたが、意を決したかのように拳を握りしめると、霧矢の方に振り向いた。不退転の決意が、鋭い瞳の奥に燃え上がっている。
「キリヤ! 頑張るわよ!」
「はい、じゃあ話は決まりね」
「あのー、僕はどうなるんでしょうか……?」
 意思確認を無視された霧矢が抗議しようとしたとき、既にトトは例の端末で、どこかに電話を掛けていた。
「こちらトト、転送をお願いします」
《了解》
 霧矢の視界が暗転する。
 人生2度目の異世界旅行に、霧矢は己の不運を呪った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ