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おちこぼれエルフは、名探偵をさがしてる〜方舟キーテジ号殺人事件 作者:稲葉孝太郎

解決編

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第16話 答えをください

 公子の機転とドクターのおせっかいによって、事件は解決した。前回とは異なり、トトたちが本庁との連絡を取るまで時間がかかるというので、霧矢たちアドバイザー組は、地上の公園で束の間の休息を楽しむことに決めた。遠坂の提案だった。
 偽物の青空の下で、人工的なそよ風を受けながら、木陰のベンチに腰を下ろす3人。しばらくは物思いに耽っていた彼らだが、ふいに霧矢が口を開く。
「この物語は、これからどうなるんですか?」
 霧矢の質問は、専ら遠坂に向けられていた。この中で、一番事情に詳しそうなのが、彼女だったからだ。
「そうね……まず本庁に連絡を取って、バグを除去したことを伝えてから、物語の修復を始めるらしいわ」
 遠坂が、ぼんやりと空を見上げながら答えた。
「物語の修復? ってことは、篤穂さんたちはみんな生き返って……」
 霧矢の声が弾んだ。しかし、遠坂は表情を変えず、先を続ける。
「残念だけど、死んだキャラクターは、二度と生き返らないのよ……細かい仕組みはよく分からないけど、被害者と同じ素体のキャラクターに正常な記憶を植え付けて、代用するらしいの……要は、クローンってことね……生存者たちも記憶を消されて、元の生活に帰るんですって……」
「そうなんですか……」
 霧矢はぽつりと呟き、再び口を閉じた。
 遠坂の説明が本当ならば、警史庁という機関が行っているのは、一度壊れた物語を、外観だけ元通りにするという、応急的かつ効率的な治療である。それは、物語を外からしか見ない人間にとっては、必要かつ十分な処置に思えた。しかし、死んでしまったキャラクターには、何の解決にもなってはいない。霧矢は、そんな気がした。
「それにしても、最初の甘野の死がなければ、もっと早く解決してたかもしれませんね」
 事件の全体を回想するように、霧矢はそう呟いた。
「そうね……。結局、甘野くんの死は事故死だった。おそらく、通気口に現れたエイリアン目がけて引き金を引き、暴発で死んだんでしょうね。ところが、そのタイミングが、遊花さん殺害の犯行時刻とほぼ一致してしまった。このことが、私たちを混乱させたのよ」
 遠坂が口を噤む。それを引き継ぐように、今度は公子が唇を動かした。
「そもそも、私たちは最初からサクラさんを疑わなければなりませんでしたわ……。いずれの現場にも居合わせていたのは、彼女しかいないのですから。マザーへの端末は、彼女が監禁されていたB02号室にも当然あったはずなのです。部屋の作りは、ブロックごとに均一なのですものね。篤穂さんを殺害する機会は、いくらでもあったことになります」
 公子が一息吐いたところで、霧矢が問いを放つ。
「篤穂さんに船内の情報をリークしてたのも、サクラさんなんですね?」
「そう考えるのが妥当ね。彼女が死んだ今、もう確認のしようがないけど……。おそらく、茜さんと篤穂さんのライバル関係を煽って、篤穂さんに取り入るフリをしたんでしょう。彼女は、武器庫のことを篤穂さんから聞いたなんて言ってたけど、真相は逆だったのよ」
 そこで、ふいに公子が口を挟んだ。
「それにしても、サクラさんは、どこまで事前に計画を練っていたのでしょうか? トリックが分かってみると、全体としてやや杜撰な印象が拭えないのですけれども……」
 後出しの推理。だが、公子の発言は的を射ていると、少年はそう評価した。
 遠坂も同じ意見らしく、正面を見据えたまま、言葉を返す。
「サクラさんに殺人の経験が無かったのも大きいんでしょうけど……。ただ、この計画は一見完璧過ぎたのよね。登場人物に成り済ます。HISTORIKAは所持している。マザーコンピューターは意のままに操れる……。これじゃ、細部まで煮詰めなくても、9割方成功したも同然よね。唯一計算外だったのが……」
「エイリアンの存在、ですか」
 少年の答えに、遠坂は静かに頷き返した。
「そうなの。現にエイリアンがいなければ、彼女の計画は成功してたわ。私たちも、今頃はみんな死んでたでしょうし……」
 霧矢は、もう一度サクラの顔を思い出す。何が彼女を狂気へと駆り立てたのか、少年には未だに判然としなかった。日常生活の退屈さだろうか。そうかもしれない。霧矢は、これから自分たちが戻る地球を思った。
「あれ、ここにいたんですか?」
 のんびりとした声に、3人の意識が引きつけられる。
 見れば、トトがにこにこしながら、公園の中央をこちらに向かって歩いていた。
「座ってもいいですか?」
 端にいた霧矢が席を詰め、そこにできた空間へ、トトは無遠慮に腰を下ろした。左半身がベンチからはみ出しそうになっているが、トトはちっとも気にしていない様子だ。
「もう終わったの?」
 霧矢が前屈みになり、遠坂の体越しに尋ねた。
「いえ、まだ始まってもないです。あと30分くらいかかるそうなので」
「僕たちはどうなるの? すぐに帰れる?」
「あ、それは大丈夫ですよ。連絡が取れ次第、さくっとテレポートされちゃいます」
 霧矢は、自分たちがここに来る前の状況をにわかに思い出す。こちらへ飛ばされたとき、ペットボトルが無くなっていた。あれは賠償してもらえるのだろうかなどと、霧矢は、つまらない日常的な感覚に囚われ始めた。
 こうなってしまうと、少年の中で、だんだん俗な疑問が湧き始める。
「今回の報酬は、みんなもらえるんだよね?」
 まさか3分割されるのではないかと、霧矢は心配になる。
「えーと……多分大丈夫だと思いますよ」
「多分? 多分って何?」
 霧矢が、ぐぃっとトトに詰め寄った。
 トトは、体を反らしてベンチから転げ落ちそうになる。
「だ、大丈夫ですよ! 共同捜査でも、サボってるアドバイザーがいたら、ポイントは没収されちゃうってだけですから!」
 少年はトトの回答に満足し、体を引っ込めた。
 そう言えば、今回の件は、ちはるが報酬目当てで巻き込まれたのだと、霧矢は今さらながらに回想する。ちはるたちの方は大丈夫なのだろうか。だんだんと、そのことも心配になってくる。
「あら、これでまた3ポイント溜まったわ」
 遠坂が、そっけなくそう言った。10年以上アドバイザーをしていると、何回くらい報酬が貰えるのだろうか。霧矢の好奇心が頭をもたげる。
「何をもらうんですか? やっぱり現金とか?」
「うーん、そうね……マンションは持ってるし、車はまだ1万キロも走ってないし、旅行はついこの間行っちゃったし……いい男は自分で探さないといけないし……保留」
 そう言って、遠坂はにこやかに笑った。プレゼントをもらうときよりも、プレゼントの中身を決めるときの方が楽しいのだ。そんなニュアンスの笑顔だった。
「そう言うあなたたちは?」
 遠坂が、少年たちを見回す。
 最初に答えたのは、公子だった。
「私はまだ1ポイントです。これまでの分は使ってしまいましたので。ただ、今回はエイリアンに食い荒らされた少女の写真も撮れましたし、なかなかの収穫だったと思います」
 公子の発言に、他の3人はドン引きしてしまう。
「き、霧矢くんは?」
「僕はこれで2回目です」
「……もしかして、一度も使ったことないの?」
 霧矢は頷いた。
「正直、何に使えばいいのか……見当もつかなくて……」
「若気の至りで変なことに使わなければ、何だっていいのよ。それに、もし使い道がどうしても思いつかないなら、公子さんにアドバイスしてもらえばいいじゃない?」
 霧矢は苦笑いを浮かべつつ、遠坂の忠告に違和感を抱いた。
「ど、どうして僕と公子さんがもう一度会えるって思うんです?」
「だって、同級生でしょ?」
 これには、さすがの公子も驚いたようだ。霧矢が情報を漏らしたのではないかと、少女は彼を睨みつける。しかし、少年には全く身に覚えのないことだった。
「うふふ、そんなことくらい、お互いの距離感から分かるのよ。あなたたちの関係、とても初対面の少年少女には見えないから。でも、友達ってわけでもない。となると、単なる同級生って可能性が高いわよね」
 遠坂の洞察力に、霧矢は改めて感心してしまった。
 そんな少年の横で、トトの胸元で端末が鳴る。
「あ、拓郎さんですね」
 トトは、画面をスクロールさせ、メールを確認する。
 素晴らしいタイミングだと、霧矢は胸を撫で下ろした。
「本庁と連絡が取れたそうです」
「そっか……」
 霧矢は、急に寂しくなってしまった。
 公子を除いて、このメンバーともいよいよお別れである。トトとも、いつまた会えるのか分からない。再会したいと思う一方で、2度と事件には巻き込まれたくない、そんな矛盾した感情が、霧矢の中で芽生えていた。
「さてと、帰ってひと眠りしますか」
 背伸びをしながら、遠坂が立ち上がる。
「そう言えば、あちらはちょうどお茶の時間でしたわね」
 公子が、誰にとはなしに呟いた。
 霧矢は、最後にもう一度トトを振り返る。
「じゃあ、後はよろしく」
「はい、任せてください!」
 その瞬間、霧矢の目の前が暗転した。
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