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おちこぼれエルフは、名探偵をさがしてる〜方舟キーテジ号殺人事件 作者:稲葉孝太郎

事件編

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第13話 死者からのメッセージ

 トイレに行くと嘘を吐いて、中央制御室を出た霧矢は、曲がり角のところに身を潜め、端末の通話ボタンを押した。辺りに人がいないことを確認し、機体を耳元に寄せる。
「もしもし?」
〈もしもし? キリヤさんですか?〉
 通話口から聞こえてきたのは、公子の声だった。
 何か発見でもあったのか、声音が少し弾んでいる。
〈そっちはどのような進捗具合で?〉
 あくまでも公子らしいやり方。自分から情報を吐き出す前に、霧矢から情報を引き出そうというわけだ。霧矢は、それをとりたてて不快に思わず、彼女にこれまでの経緯を伝えた。
 通話口の向こう側にいる公子の表情は見えないが、霧矢が期待したほどには驚いていないようだった。むしろ、トトが方舟破壊の発案者だという事実の方が、彼女にはショックだったらしい。
 そんなおかしなところでライバル意識を持たなくてもいいのにと思いつつ、霧矢は公子からの指示を待つ。
〈そちらの状態は、おおよそ把握しました。ただ、そうなると、こちらの調査はあんまり役立たなかったようですね〉
「どういう意味?」
〈こちらの成果は、そのメインエンジンを見つけただけということです。どうも、Cブロックは機関部になってるようですわ。他にも、細かい設備が並んでて、全部は調べ切れてていないのですけれども……〉
 そこで、公子は話を切った。どうやら、本当に収穫がないようだ。
 そう判断した霧矢は、とりあえず思いつきの案を出してみる。
「もう一回集まらない? みんなで話し合った方がいいと思うんだ」
〈……そうですね。サダコさんに、そうお伝えします。場所は?〉
「いつもの倉庫とか?」
 とは言ってみたものの、船倉は人目につき易い。少なくとも、サクラはあそこに留まっているはずだ。
 霧矢は、脳内で他の可能性を検索する。
「A9号室? それともいっそ医務室とか?」
〈いえ、倉庫で結構です〉
「え?」
 霧矢は、一瞬、雑音が入ったのかと思った。
「でも、倉庫には他のキャラクターが……」
〈いっそのこと、全員集めてしまいましょう。ここまできたら、後はエンジンを壊す方法を考えるだけですから。登場人物の一人一人に見張りをつけて、犯人の出方を待ちます。地球に帰れて犯人も捕まえられる。まさに、一石二鳥かと〉
 本当にそうだろうか。霧矢は、首を傾げた。全ての諺には、その対句となる諺があるという。急がば回れかと思えば、先手必勝であり、鶏口となるも牛後となるなかれと説けば、長いものには巻かれた方がいい。
 セシャトは、一石二鳥だと言った。二兎追う者は一兎も得ずの間違いなのではないだろうか。捜査方針のブレ具合に、霧矢は不安を抱く。
〈それでは、サダコさんには私の方で話をつけます。また後ほど……〉
 おつかいでも頼んだかのような気軽さで、公子は通話を終えた。
 霧矢は、しばらく端末を耳に添えたまま、その場に固まってしまう。彼女と2人切りで今後の方針を決めてしまった自分に、軽い嫌悪感を抱いたのだ。これでは、先ほどの遠坂との口論で自分が言っていたことは何だったのか、さっぱり分からなくなる。
 いずれにせよ、トトたちを中央制御室に残しておくことはできない。善し悪しはどうであれ、船倉に集まると決めてしまったからだ。
 少年はおぼつかない足取りで、来た道を引き返し始める。
「あれ、キリヤさん、どこ行ってたんですか?」
 コンピュータールームに戻る途中で、霧矢は肝心のトトたちと鉢合わせになった。
「も、もう話し合いは終わったの?」
「ええ、とっくにね」
 茜が、不服そうに言った。何か文句でもあるのかという顔だ。
 霧矢は彼女に恭順を示し、大人しく後をついて行く。
「どこへ行くの?」
「倉庫に戻るのよ。全員で集まって、今後の計画を練るの」
 幸か不幸か、茜たちを説得する手間は省けたようだ。
 霧矢は、ほっと胸を撫で下ろす。
「ドクターは?」
 遠坂が横合いから尋ねた。
「ドクターは、Aの04号室に寝かせてあるわ。怪我人だから別にいいでしょ?」
 霧矢は迷った。公子は、登場人物を全員集めろと言っていたからだ。
 しかし、怪我人を連れ出す口実が、どうしても思いつかない。霧矢は、未練がましくA04号室の前を通り過ぎる。
 船倉に到着すると、案の定サクラの姿がそこにはあった。彼女は食事の用意をしながら、霧矢たちの帰りを待っていたのだ。
「み、みなさん、そろそろ、お、お腹が空いているかと思って」
 サクラが、相変わらずの怯えた態度でそう呟いた。
「僕も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます」
 調理を終える間もなく、公子たちもCブロックから帰って来た。公子は、霧矢が茜たちをここへ誘導したものと誤解したようだったが、少年は敢えてそれを訂正しなかった。単純に面倒だったというのもあるが、マザーの前で行われた議論を蒸し返したくないという気持ちの方が強かったのである。
「これで全員分ですね」
「そうだね。サクラさん、これを茜さんに」
「はい」
 各人に、タッパーとプラスチック製のスプーンが配られる。
「はい、公子さんの分」
「ありがとうございます」
 霧矢からタッパーを受け取ったちはるの目は、心なしか回復しているように見えた。
 飲み物はセルフサービスということで、久々の会食が始まる。しばらく何も口にしていなかった霧矢は、早速タッパーの中の人参に食らいついた。
「えー、お食事中で申し訳ありませんが、ひとつよろしいでしょうか?」
 サダコの子供っぽい声に、全員がスプーンを持つ手を止めた。
 彼女はドラム缶の上に座ったまま、先を続ける。まるで人形のようだ。
「茜さんがキャプテンに復帰したということで、ひとつ提案があります。この中の何人かは既にお聞きかと思いますが、私たちはこの船のエンジンを止めて、地球へ避難することとなりました」
 サダコの発言に、倉庫の隅から悲鳴が聞こえた。声の主は、サクラだった。
「ち、地球へ帰れるの?」
 サクラは、信じられないと言った顔でサダコを見つめ返している。
「そうよ、メインエンジンを壊せば、緊急プログラムが働いて、地球へ帰れるの」
 まるで自分の手柄のように言う茜。
 だが、サダコは少しも気を悪くせず、話を本題へと戻す。
「しかし、です。残念ながら、エンジンを壊す手段が見つかりません。そこで、何かいいアイデアがないか、皆さんで検討したいと思うのですが……」
 その先を牽制して、茜が立ち上がる。
「いい提案ね。じゃあ、食事をしながら、気軽にアイデアを出してちょうだい」
 誰も口を開かない。当然だ。マザーの攻略に向かった霧矢たちは、万策尽きてここに帰って来たのである。それに、サダコたちの方で話がついているのなら、わざわざこんな提案はしないだろう。用意しておいたアイデアを、ずばり披露すればいいのだ。
 となると、残っているのはサクラだけということになる。
「……」
 霧矢は、サクラをこっそり盗み見た。じっと何かを考え込んでいた。それは、アイデアをひねり出しているというよりは、人前で話すのを躊躇っているような素振りだった。
「……ねえ、サクラさん、何か思いついてるんじゃない?」
 霧矢の指摘に、全員がサクラの方へ目をやる。
「え、あ、あの……」
 サクラはスプーンを落としそうになるほど身を屈め、その視線から逃れようとした。
「何? あんた、いいアイデア持ってるの?」
「わ、私は……」
「はっきりしなさい!」
 茜の怒声に、サクラは覚悟を決めたようだ。こういうときの茜の強引さは、汚れ役として必要なのかもしれない。霧矢は、そう思った。
「じ、実は篤穂さんが……」
「篤穂? 篤穂がどうしたの?」
「篤穂さんが……言ってました……Cブロックに……武器庫があるんだって……」
「武器庫!? どこに!?」
 大声で立ち上がった霧矢を、茜が目で咎める。
 少年は、渋々腰を下ろした。
「Cブロックの入り口から……ずっと進んで、3番目の廊下を右……です……」
「……そこは行き止まりでしたよ?」
 サダコが口を挟む。
「い、入り口がカモフラージュされてて……マザーなら開けられるとか……篤穂さん、他にもいろいろと知ってました……」
 サクラの助言によって、事態は好転したかに見えた。
 だが、乗組員たちは、ここからもう一段階飛躍しなければならない。それを最初に指摘したのは、拓郎である。
「危険過ぎますね……。メインエンジンの構造も分からない状態で爆破すれば、どのような二次災害が発生するのか、見当もつきません。下手をすれば、燃料タンクに引火して、大規模な火災が発生する虞も考えられます」
 すぐさま、遠坂が拓郎の意見に同調する。
「そうね。エンジンのみを停止させられる保障がない以上、この案は没にすべきだわ」
 極めて合理的な見解に、その場の誰もが納得しかけていた。だた一人を除いては。
「バカね! 今さらそんな可能性に怯えてどうするの! さっさと爆破するわよ!」
 茜がそう叫んだ。
 あまりにも無謀だと、霧矢は声を失う。
「下手したら全員死ぬわよ?」
 遠坂が、諭すように言った。
「うるさい! 今は私が船長なの! それに、人類滅亡の危険性は無視して、どうして火災の危険性は考慮に入れるのよ! どっちも変わらないでしょう!」
 無茶苦茶な理由付けに、他のメンバーは呆れ返ってしまう。
「詭弁だわ。火災が起こる可能性は、あなたが言うような人類滅亡云々の終末論より、よっぽどありえそうなことじゃない」
「よっぽどありえそう? だったら、どちらが何パーセントくらいの確率で高いのか、正確に言えるんでしょうね?」
 セシャトは、小馬鹿にしたように肩をすくめてみせた。話にならないと言った様子だ。
 突然始まった口論に思考が停止してしまった霧矢だが、遠坂たちが議論を打ち切ったところで、少し冷静になって辺りを見回してみた。なぜ茜は、これほどまでに意地を張っているのだろうか。二度と指揮権を奪われまいとしているのだろうか。
 その可能性は十分にある。だが、もし茜が真のキャプテンだとしたら……。霧矢は、天から降って来たような自分の推理に、軽く身震いした。実は、ゲストユーザーと見せかけて、茜自身が正規ユーザーなのではないだろうか。正規ユーザーとゲストユーザーに二重登録する。他人を欺くには、格好の手口だ。
 少年がそんなことを考えていると、遠坂が議論を再開した。
「つまり……あなたは人命よりも効率性を優先するということね?」
「べ、別に人命を軽視してるわけじゃないわ! あんたたちこそ、普段はそんな大層な志なんか持ってないくせに、こんなときだけ聖人ぶるんじゃないわよ! 日頃は自動車に轢かれる危険性なんかこれっぽちも意識してないのに、燃料タンクに引火する可能性には気を遣うなんて、おかしいでしょ!」
「急ぐ必要はありません。他の方法を探すべきです」
 拓郎が、眼光鋭く言い放った。
「私もそう思います」
 公子がそれに加勢する。
「……いいわ、だったら、多数決で決めましょう。私に賛成の……」
「人命の掛かっている問題に、多数決を持ち込むべきではありません」
 拓郎の異議に、場が静まり返る。
 茜は歯を食いしばって、自分を抑えているようだ。
 彼女の暴走が始まるのは時間の問題か。霧矢がそう危惧した矢先、サダコが口を開いた。
「こうするのはいかがでしょうか。まずメンバーを二手に分け、一方はCブロックで武器庫の調査を行い、もう一方はマザーからできるだけエンジン回りの情報を聞き出す、というのは? そもそも、武器庫のドアをマザーが開けてくれるかどうかさえ、明らかになっていませんし……」
 完璧な提案だ。霧矢の感想は、無言のまま全員に共有されていた。
「素晴らしいアイデアね……採用するわ」
 茜も、まんざらではない様子だ。
「ありがとうございます」
 サダコは、あっけらかんと謝意を示した。
「じゃあ、グループ分けをしましょう……」
 茜は、メンバーを一瞥する。霧矢は、口出しせずに、茜の命令を待った。
「遠坂さんと茜さんがゲストユーザーなのですから、とりあえずそれぞれの組の班長になってはいかがでしょうか?」
 そう提案したのは、公子だった。
「それは却下」
 茜が、一刀のもとに斬り捨てる。
「どうして?」
「遠坂は一人にすると何をしでかすか分からないわ。私と一緒に来なさい」
 茜は、有無を言わさぬ口調でそう命じた。ということは、茜と遠坂が、中央制御室を担当することになる。マザーと交信できるのは、この2人しかいないからである。そう考えた霧矢は、武器庫へ行く組のリーダーを探した。遠坂の次に適任なのは……。
「もうひとつの班長は、私が引き受けましょう」
 霧矢から他薦される前に、サダコは自ら名乗りをあげた。
「では、私はサダコさんのお供を」
「私は、トオサカさんに同行します」
 公子と拓郎が、それぞれ身の振り方を決めた。
「トトさん、ボクらは?」
「うーん……そうですねえ……」
 トトと霧矢の会話に、茜がストップをかける。
「あんたたちは、サクラと一緒に武器庫へ行くのよ」
 霧矢は驚いた。確かに、武器庫側の人数が少ないのだから、自分がそこへ割り振られるのは覚悟していた。しかし、なぜサクラをもそちらに回すのだろうか。彼女はとても戦闘要員には見えないし、火器の使用に手慣れているとも思えない。
 その答えは、すぐに分かった。茜は、気の弱そうな面子を武器庫側へ固めたのである。本当に妙なところで機転が利く女だと、霧矢はあらためて思った。
「キリヤ、あんたの携帯、他の連中と繋がるんでしょ?」
「う、うん」
「どういう仕組みなのか知らないけど、便利なもの持ってるわね。連絡は、それでお互いに取り合いましょう。じゃ、解散」
 茜の言葉を合図に、各人が腰を上げる。
 霧矢は急いで拓郎に駆け寄った。ひとつだけ確認したいことがあったのだ。
「拓郎さん?」
 霧矢の問い掛けに、拓郎が振り返る。
「何でしょうか?」
「篤穂さんは、ほんとに死んだんですよね?」
 霧矢の質問に、拓郎も思うところがあるらしい。真剣な眼差しで、こう答える。
「ええ、間違いありません」
「死体はどうなったんです? あの後、息を吹き返したとかは?」
 拓郎は、残念そうに首を振った。
「ありえません」
「どうしてそう言い切れるんです?」
「アツホさんの死体は、医務室でバラバラに吹き飛んだのです。部屋の隅に転がってた頭部には、シーツを掛けておいたので、お気付きになられなかったようですが……」
 霧矢は、全身から血の気が引くのを感じた。
 まさかバラバラ死体と同居していたとは、夢にも思わなかったのだ。
「ですから、アツホさんが生き返ることは、ゾンビになっても無理な話です」
「でも……変じゃないですか? 重要な情報が、全部篤穂さんから出てるなんて……」
「それについてですが……」
「ちょっと! さっさと来なさい!」
 入り口の方で、茜が叫んだ。それを無視して、拓郎は先を続ける。
「キリヤさん、彼女の件については、慎重に考える必要があります。もしかすると、アツホさん自身が、別の人から情報を仕入れていた可能性も……」
「聞こえないの!?」
 これ以上待ちきれないとばかりに、もう一度茜が叫んだ。
「では、キリヤさん、くれぐれもご用心を……」
 そう言って、拓郎は踵を返した。
「拓郎さんも気をつけてください」
 男の後ろ姿を見送りながら、霧矢はぼんやりと事件の真相に思いを巡らせる。犯人は、この中にいるのだろうか……。それとも、行方不明のアドバイザーがどこかに身を潜めて、霧矢たちを嘲笑っているのだろうか……。あるいは……もっと別の……。
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