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天国に吹く青い風
作:西野そら



第一話 秋が来て、合唱祭の季節に 〜その7〜


 「それで、二人はちゃんと仲直りできたの。」

 食卓を囲んで、まもなくだった。

 私の母は、やっぱりその質問をしてきた。

 「仲直りって。別に喧嘩したわけじゃないし。」

 私は鴨鍋を突付きながら答えると、私の母は意外なことを口にした。

 「どうせ、貴方たち結婚するんでしょ。」

 箸が止まり、私は拓海の顔を見た。

 お互い目を合わせて、また目をそらす。

 「そうか。じゃあ、いつ嫁に行ってもいいぞ。」

 拓海と私が恥ずかしさを隠すのに精一杯なところに、私の父は追い討ちをかける。

 「ちょっと、なにそんな勝手なこと言ってるの。」

 私は慌てて否定してみたけれど、もはや火の車で、何を言ってもこの雰囲気を打ち破ることは難しかった。

 多少お酒が入って、気分がよくなってきた私の父は、若い男と女を捉まえてご機嫌な様子。

 拓海と私が言葉を差し挟む余地はなく、宴は淡々と時を刻んでいった。

 ようやく夕食が終わると、玄関まで拓海を見送って、私はリビングに戻った。

 私の父は、酔い覚ましの風呂に入って、家の中は静けさを取り戻す。

 片付けを終えた私の母が、リビングに入ってくると、そのまま私の隣に座った。


 「ねえ、さっき言ったこと、気にしてる。」

 母は、私の顔色を伺うと、さらに続けた。

 「やっぱり気にしてるの。あれ、本当に嘘じゃないから。何となく私の予感だけど、貴方たちは結婚しそうな気がするの。ずっと子どもの頃から見てきて、きっと思春期にはいろいろあるだろうけど、それを乗り越えたら、きっと結婚するんじゃないかなあって。」

 母の勘に逐一付き合っていたら切りがないので、私はそれを否定した。

 「そんなのただの勘でしょ。これから、いろんな出会いがあるんだから、付き合うとか結婚とか、そういうのはあり得ない。」

 それを聞いていた母は、私をそっと見つめた。

 「私も、昔好きだった男の子がいたんだよね。ずっと保育園のときから一緒で、中学校までは仲良かったんだけど、好きだとか、付き合うとか、そういう愛情表現ができなくて、結局疎遠になっちゃったんだけどね。だから貴方たちには、そうなってほしくない。ただ、私の場合は、ただ近くに居る相手でしかなかったの。ただ近くにいる男でしかなかったから、我侭になって衝突して失敗した。でも貴方たちの場合は違う。ちゃんとお互いを想い合ってる。相手を想い過ぎて、我慢するから自分が傷ついていく。だけど自分が傷ついていたら、どんどん自分が辛くなるでしょ。そんなの楽しくないじゃない。好きなら、誰に何と言われようと、堂々としてなきゃ。」

 私は黙って頷くだけで、母の話に聞き入っていた。


 「わかった。ちゃんと向き合ってみる。それで、その男の人とはどうなったの。」

 私は母との距離を詰めて、体を寄せた。

 「その人とは、結局上手くいかなかったけれど、成人式の日に会ったら、当然だろうけど新しい人がいて、就職したら一年も経たないうちに結婚したみたい。でも、すぐ後の同窓会は来なかったの。」
 「なんで?結婚生活が忙しかったの。」

 初めて聞く母の思い出話に、私は相づちを打つ。

 「その逆。すぐに別れて、手続きやら引越しやらで、同窓会どころではなかったみたい。」

 「それって、チャンスだと思わなかった?」

 意外な展開に、私は黙っていられなかった。

 「でも、そのときは暮葉がお腹に居たからね。この子のいい母親にならなきゃいけないって思ってたから、今度は私がそれどころじゃなかったかも。人間って、一度すれ違ってしまうと、なかなか元には戻れないもんだよね。だから、今を大事にしないと。男の子は、優しくしてあげないと、すぐに逃げて行っちゃうから。暮葉は、私みたいな失敗をしちゃダメだよ。堂々と胸を張って、自分の生き方を貫いてほしいな。」

 そう言うと母は、私の肩をそっと抱いた。

 私がお腹に居なかったら、すれ違ってしまったその人と一緒になった?

 私ができてしまったことは、もしかして重荷だった?

 聞きたいことは山ほどあるけれど、私を抱く母の手は、少し震えているような気がして、それ以上何も言えなかった。

 本当に久しぶりに母の胸に抱かれて、伝わる温もりに体が温まってくると、私は気持ちよく寝息を立てた。













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