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1000文字小説 作者:折坂勇生
82/82

82・密室殺人


「なるほど、これは密室になるな。これほど完璧な状態の密室殺人を見たのは初めてかもしれない」
 探偵が部屋の周囲を見回して、感心したように独り言を呟いた。
「一体犯人はどうやって、この密室を脱出することができるのか。どうやれば、巧妙にアリバイを作りあげて、素知らぬ顔で家の者たちの前に現れていけるのか……」
 頭脳をフル活用させながら、殺人が起きた部屋を見て回っていた。
 床には、鈍器で殴られた男が倒れていた。頭から血が流れていて、俯せになり、横を向いた顔は驚愕の表情を上げたまま、永遠に目覚めることのない眠りについていた。
 被害者は探偵を招いた男だった。
 大富豪の男で「命を狙われているから助けて欲しい」と依頼してきた。そして、探偵が豪邸を訪れて3時間もしないうちに、被害者は寝室で殺されたのだった。
「凶器は、分かっている。拳銃だ」
 殺された男の傍に、拳銃が置かれてあった。撃ったのではない、それを鈍器にして頭を殴ったのだった。
「なんで撃たなかったのか。答えは簡単だ。弾が入ってなかった。では、なんで弾が入ってなかったのか。殺人が目当てなら、周到に準備してあるはずだ、弾が入ってなければおかしい」
 探偵は間を取って、続きを言った。
「つまりは、殺人に使われた拳銃は犯人のものではない。被害者が護身用に置いていた道具だった。犯人が侵入してきたとき、拳銃は被害者の手元にあった。だが、弾が入ってなかったので、撃つことが出来なかった」
 探偵は、被害者を見下ろした。周辺は、死体の他には何かしらの変わった様子は見られない。
「犯人は拳銃を取り上げた。被害者は飛びかかった。格闘の始まりだった。時間は数十秒といった所だろう。激しい物音はしなかったし、物だって飛び散ったりしていない。証拠らしき物は大して残らなかった。格闘に手慣れた犯人は、即座に拳銃で殴った。相手は一撃で死んだ。殺人を犯した犯人は、それからどう動いていけば完璧なのか」
 探偵は窓に近づいた。鍵が掛かってある。格子窓になっており、窓が開かれていても、出入りが不可能な状態になっていた。
「格子が外れるという細工もしていない。虫ぐらいしか出入りすることはできないな。やはり唯一の逃げ道は、あそこだけか」
 被害者、そして探偵が入ってきた、寝室のドアの前に来た。鍵が掛けられてあり、ドアを捻っても全く動かない。
「さて。犯人の私は、どうやってここを密室状態のままで脱出すればいいのやら」

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