挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
1000文字小説 作者:折坂勇生
81/82

81・すっごく怖かった日


 お父さんはお仕事で、おかあさんもお仕事、そしてわたしは一人っ子。
 夜になっても、誰もいない家にいるのはいつものこと。
 なれっこしていた。
 だけど、今日ばかりは、恐くてしょうがない。
 大型の台風がやってきていた。家が壊れるじゃないかっていうほど、すごいカミナリと風と雨のパニック状態だった。
 ピカッと光って、カミナリが凄い音を出した。
 きゃあ! ってわたしは悲鳴を上げた。
 そんな声を上げても、駆けつけてくれる人は一人もいない。だからクッションをぎゅって抱きしめて、震えているだけだった。
 水槽の金魚が、台風なんてお構いなしに呑気に泳いでいて、羨ましくてしょうがなかった。
 携帯がなった。
 お母さんからだ。
「お母さんっ!」
 って泣きつきたかったけど、やってきたのは電話じゃなくてメールだった。
「お父さんと一緒いるの、電車が止まっていて、遅くまで帰れないから、一人でなんとかしてね」
 と言ったそっけない文章だった。
 素早く携帯のボタンを押していって、恐いから早く帰ってきて、と泣き言をたくさん書いてから、送信をした。返事が来るのを待っているのに、30分が過ぎても携帯電話は黙ったままだった。
 またカミナリがきた。
 悲鳴は出さなかったけど、わたしは泣いていた。
 もう、どうしようもなかった。
 赤ん坊のように泣いて、泣いて、泣いて、わんわん泣いてしまって……。


「ミカ。どうしてるかしら?」
 わたしはホテルのバーで、電車が動くのを待っていた。カクテル飲みながら、台風の音を聞いていると、家にいる娘が心配になってくる。
「大丈夫だよ。あいつは結構しっかりしている」
 夫は、そう言って笑った。
「わたしね、ミカぐらいの頃に、似たようなことあったのよ。台風がきて……独りぼっちで……」
「それで?」
「恐くて泣いたわ。あんなに泣いたのって、後にもあの日だけね」
 あの日は本当に恐かった。台風がじゃない。不安でいるのに、すがる人が誰もいなかったのが、本当に恐かった。
 ミカも、いま同じ気持ちでいるのだろう。


 家に帰ると、娘は眠っていた。恐かったのだろう。大きなぬいぐるみを抱きしめて、わたしたちのベッドで眠っていた。シーツは、ミカの涙で濡れていた。
「ごめんね」
 幼い頃、台風が恐くて震えていたあの日のわたしにそっくりだ。
 でも、こうやって、この子は大きくなっていく。
 わたしは、娘のほっぺにキスをした。
 あの日のわたしに、もう怖がらなくて良いんだよ、と優しくキスをするように……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ