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1000文字小説 作者:折坂勇生
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80・うそつき


「俺とやってたとき、あんた、あいつのこと考えてただろう」
 テレビのスイッチを入れたら、運の悪いことに、男と女がベッドの上で愛し合っているシーンだった。
 父と娘ほど歳の離れた俳優たちだ。そんなドラマなのだろう。
 私はチャンネルを変えた。
 タレントと思われる女が登山していた。真理に似ていると思ったが、錯覚だ、よく見れば似ても似つかない。
「どっちが良かったんだ?」
 テレビの女性に語りかけるように続きを言った。
「そんなこと言うもんじゃない」
 落ち着いてはいるが敵意を向けた口調だった。真理は、ソファーに座った私の後ろで、着替えをしている。
「あいつを思ってたんだろ?」
「思ってたのはあなたの方でしょ。してるあいだずっと、あの人とあたしがやってるところ、想像してたんでしょ。ぎこちなかったわよ」
 山頂に辿りついたタレントが、高みから見渡せる景色の美しさに感動していた。
 その笑顔が、私を嘲笑うかのようだった。
「あの人とは縁を切ったわ」
「上司と部下の関係は続いてるだろ」
「それは仕方ないことじゃないの。辞めるわけにはいかないし」
「社内の噂にしてやろうか。辞めざる得なくなるぜ」
「やめて」
「相手は妻子持ちだ。いいスキャンダルだろうよ」
「だから、やめて」
「なんだったら、相手の妻にバラしてみようか。旦那の残業は、部下の女とセックスに励むことだとよ」
「やめてってば! 別れたんだからいいじゃない!」
「浮気がバレたからだろ。でなければ、続けていたんだ」
「違うわ」
 真理は緊迫感を誘うように少し間だんまりになった。
「妊娠したの。あなたの子よ」
 私は、テレビの電源を切った。
「それは嘘だ」
「嘘じゃないわ」
「俺は子供ができない体なんだ。無精子症だよ」
「…………」
「おめでとう。腹にいるのは上司の子だ。俺の子ではないんだ」
 後ろで動き回っていた真理は、玄関の方に歩きだしていた。普段着でなく、外出用の服を着ていた。
「出掛けるのか?」
「考える時間が欲しくなったわ」
 家から出て行った。
 いつもながら行動は敏速だ。
 俺はテレビのスイッチを付けた。ニュースを見るが、なんの報道なのか頭に入らない。
「子供ねぇ」
 本当に私の子なのだろうか。無精子症というのは、真理をやり返したいと思って、咄嗟についた嘘だった。
 しかし考えてみると、真理が妊娠を告白したのも同じく私をやり返そうとした嘘の言葉だったのかもしれない。
 だからどうしたというんだ。
 全てはどうだっていいことだった。
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