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1000文字小説 作者:折坂勇生
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79/82

79・ピアニスト


 ピアノの練習をいくらしても上達しない。
 段々と嫌になり、やけくそにネコふんじゃったを弾いていた。
「ヘタクソだねぇ。こんないい加減に弾いてたら、いつまでも上手くなんないぜ」
 声が聞こえてきて、演奏を中断した。家族が帰ってきたのかと探したが誰もいなかった。
「ここだよ、ここ、ここ。あんたが弾いているピアノ様だよ」
 驚いたことに声の主はピアノだった。
「あんたか下手クソなもんでな。なんだかしんねぇけど俺にピアニストの魂が乗り移ったようなんだ。ちょっくら俺が見本を見せてやるよ」
 そう言ってピアノは、自分から鍵盤を引き始めた。透明人間が叩いているかのように鍵盤がリズム良く鳴っていって、なんとも言えぬよいメロディが聞こえてきた。曲はバッハの平均率クラヴィーア第一番だった。一流のピアニストが弾いているような、感情豊かな美しいメロディを奏でていて、目を瞑ると、コンサートホールの演奏を聴いているかのような夢心地になった。
「どうだ。素晴らしかっただろう?」
 ピアノは満悦な声で演奏の感想を聞いてきた。私は込み上げてくる涙を拭いながらピアノの演奏を絶賛した。
「そうだろう、これが本当の音楽なんだ」
 ピアノは満足そうに、次の曲を弾き出した。今度はモーツァルトのピアノソナタだ。誰でも知っているトルコ行進曲だった。
 私は自分が弾いているような恍惚感となり、その鍵盤のリズムに乗ろうと、十の指を置いてみた。すると驚いたことに、指が鍵盤と同じ動きをするではないか。私は演奏するピアノと同化して、美しいメロディを演奏していった。
 ショパンのエチュード、ノクターン、ドビュッシーの子供の領分、映像、ベートーヴェンのピアノソナタ、ブラームスのバラード、どれも私が好きな曲だ。それが思うように弾けているのだ。
 なんという素晴らしさだ。
 人が集まってきた。私が招待した人々だ。私とピアノの演奏にうっとりと聴き入ってくれた。噂が噂を呼んで、聴衆する人の数がどんどんと増えていった。メディアにも取り上げられた。
 そして私は、コンサートホールでコンサートを開くまでに至ったのだ。
 だが、私はピアノの椅子に座ってから初めて気がついた。
 これはコンサート用のピアノであり、私のピアノでは無いということを。
 そして、ピアノの力が無い限り、私は何も弾けないままであるということも。
 どうしようかと散々迷い、しょうがないのでネコふんじゃったを弾いてみると観衆から大爆笑が起きた。
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